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トイレひとつで一喜一憂ですよ

私の生まれた頃、実家の周辺はちょうど汲み取り式から水洗トイレへの変換期にあった。

小学校への入学時、すでに新校舎の建て替えが進んでおり、一年生の一年間だけ木造の旧校舎で過ごした。

そのトイレはコンクリートむき出しの床に変色した木のすのこ。木造の扉が5つほど並ぶぼっとん便所。トイレはいつでも臭く、木製の扉はギィギィと軋み、和式のトイレの真ん中は、底が見えない黒く大きな穴が開いていた。


トイレの前の教室は理科室。何かの液体の入った瓶や、私の身長よりも大きな人体模型。

トイレはいつでも薄暗く、時々切れかけた蛍光灯がチカチカと点滅し、奥は闇にのまれていくようだった。


便器を跨ぐ時の恐怖も相まって、私の和式汲み取り式への思い出は果てしなく暗い。

トイレは明るいに限る。白熱電球よりも、白くまぶしいLEDが断然いいに決まっているのだ。



異世界のトイレは、まごうことなき陶器の洋式トイレだった。

ヨーロッパとかロシアにありがちな便座のないトイレと違い、ちゃんと座れる仕様だ。

そしてなんとちり紙もついていた。汲み取り式のように底は穴になっており、備え付けの桶から柄杓で水を汲み流す仕組みになっていた。


それらの説明をアガタさんからされている間中、私は心の中で叫び続けた。


ブラボーーーーー!!!!


最高!!!最高です!!!手で局部を洗う仕様じゃなくてよかった!!木の板でお尻を拭うタイプじゃなくてよかった!!誰が考えたの!?天才じゃない!?広めた人天才じゃない!?汲み取り式っぽいのに匂いしないの不思議すぎ!!肥しには再利用しない仕組み!?


室内の光量も申し分なく、薄水色のタイル張りが清潔感を醸し出してる。猫足のバスタブがあるお風呂と一体型で、とにかく綺麗に掃除されている。


私は感動で胸を一杯にさせながら、座るときの冷たさを噛みしめ、1人個室で思うさま用をたした。


「ここが空いててよかったよ。あとは外に出ないとならなかったからね。」


手洗い用の水を出しながら、アガタさんが言う。蛇口の上に先ほどのような青い魔石がはめ込まれていて私が水を出せなかったからだ。いやほんと、お世話かけます。


「手洗いの為にわざわざすみません。」

「まだ魔力の使い方を知らないからね。明日ギルが教えてくれるよ。」


恥じらう私に、嫌な顔もせず笑ってポンと背中を叩いてくれる。


「とても綺麗でほっとしました。」

「ここを使うには宿代とは別に支払いをしないといけないからね。使う人も少ないし、それなりに手をかけて掃除もするのさ。」


なんと有料でした。


「ああ、だから鍵が必要なんですね。」

「そうそう。さっきINの受付に居たのがアルベルトだよ。ギルドの責任者はギルだけど、宿と酒場の切り盛りはアルベルトに一任されているんだ。」


なるほど。ならばきちんとご挨拶せねば。


私はトイレから出て鍵を返却する隙を見計らい、声をかけた。


「トイレをありがとうございました。私は青 立山です。何もわからずご迷惑をおかけしますが、宜しくお願い致します。」


私は深々と頭を下げながら、話し方を崩せと言われていたことを思い出した。でももうしてしまったので何食わぬ顔で頭を上げてにこにこする。


「アルベルトです。ギルド長から酒場と宿を任されています。何かあれば声をかけてください。」


アルベルトさんは私の言葉に戸惑いの雰囲気をみせず、柔和な笑みで答えてくれた。

いい人そうだとほっとして笑み返し、ちらりとアガタさんを見ると私を見て同じようにほほ笑んでいる。

二人は私を酒場からの視線から隠すように立っていて、それもまた私を感動させたのだった。


階段を上って部屋に帰りながら、ちらりと酒場の方を見る。

テーブルは隙間なく埋まり、とても賑わっていた。厨房は忙しく立ち回り、人々は楽しげに笑い声を上げていた。




「わぁ!!」


部屋に戻ると、タライからは湯気が上がっていた。

あったかい!いい温度!43度くらい!


「着替えとタオルはベッドの上に置いてあるよ。今着ている服はあたしが洗っておくからそこのシーツと一緒にしておきな。食事は暫くしたら持ってくるから、ゆっくり湯を使うといい。」


そう言って、アガタさんは笑顔で部屋を出ていった。


ああ。なんてありがたいんだ。


私は焦がれる思いで湯に手を浸す。


あったかい。体丸ごと洗いたい。石鹸で体中を擦り、シャンプーも3回位したい。

自分の家のお風呂が懐かしかった。誰に気を遣うでもなく自由に使えるお風呂。

お気に入りのシャンプーと石鹸。


私はそこで記憶を辿るのを止めた。

目の前のタライに目を移し、いかに効率よくお湯を使うか考える。

体を拭って、頭皮を洗って、下着も是非にも洗いたい。洗う順番は重要だ。たぶん6日は着の身着のままでいたのだから。


ベッドの上を見れば小さい手ぬぐいと大きめのタオル、シフトドレスとドロワーズ。ドロワーズ・・・。

ぐいっと股の部分を開いてみる。


ひゅーー!!よかった!縫われてるーーー!!!


夜会に出る様な高貴な方々はドレスの構造上トイレが大変だったから、お丸でしゃがめば丸出しになる下着を履いてたってなんかの本で読んでいたもので、想像が逞しすぎてた。


ずりおろすタイプで助かりました!!!庶民なので!庶民なので!!秘部は秘めておきたいんです!!!

はぁー。一安心ですよ。


なんかもう慣れない事っていちいち疲れる。頭がぐわぐわしてきた。


よっこいしょとパンツのボタンを外し足首まで引きずり下ろしてしばし、ふと、違和感に襲われる。


なんか・・・。私の足変じゃない?


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