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非日常奇譚/絞殺欲求・十二支編  作者: 柊木 渚
始まり始まり
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【始まり始まり】04【

               ◇◇◇

 なんて都合のいい事が起きる筈もなくどちらかと言うと堕ちるところまで堕ちて一層清々しい程に絶望的な状況に立たされていた。

「改めて自己紹介を!霧縫きりぬい 夜靄よもやって言います。何か聞きたい事とかがあったらじゃんじゃん聞いてくださいね!」

 朝のホームルーム後に彼女は物珍しそうな素振りで僕の肩を二度叩いてから自己紹介もかねてと話しかけてきた。

 セーラー服を身にまとい天使みたいな笑顔を振りまく霧縫さん。

 人殺しじゃなきゃ青春の神様に土下座をしてこれから始まる青春に胸をキュンキュンさせていたところだ。

「こちらこそよろしく、大城おおしろ 白野はくのです」

 ぎこちない笑みを浮かべながら返事をする。

「それにしても中間テスト前に転校してくるなんて珍しいね!」

「親の転勤に合わせて引っ越してきたから・・・・・・」

「そうなんだ!親の仕事ってどんなの?」

 自棄にグイグイとこちらの事情を食い気味に聞いてくるな・・・・・・

「―――自営業だよ」

 面倒に絡まれても仕方ないので濁すようにそう答えた。(一応噓はついてない)

「自営業なのに引っ越し?」

「ま、まあね、霧縫さんの親は何してるの?」

 一方的に聞かれるだけじゃこっちも癪だ。相手の両親の仕事によっては昨日の事件についても何か繋がってくるものがあるかもしれない。

「え~~、言わないといけない?」

「別に言いたくなければ言わなくてもいいけど」

「なら言わな~い」

 何なんだこの女!段々吐き気も引いてきて逆に苛立ちがこみ上げてくる。

 あぁもういい!やってられるか!何でこっちが防戦一方なんだよ、こうなったら素直に聞いてやる!

「霧縫さん昨日の夜、公園に居なかった?」

 僕から吐き出されたその言葉に対して霧縫さんはポカンとした表情をしてから

「昨日は塾が終わってから家に帰った後、眠くてすぐに寝ちゃったけど?どうして?」

 え?

「いやね、昨日霧縫さんに似た人を公園で見かけたからさ、まあ街灯も少なくて暗かったし僕の見間違いかな・・・・・・」

「そうかもね、私一人っ子だしたしか友達も私に似た人を見かけたことがあるって言ってたし見間違いかもね」

 隠してる?って訳じゃないよな。

 その表情を見る限り霧縫さんは本当に知らない様だった。

 改めて霧縫さんを見てみると目はツリ目だけどボーイッシュって感じはせず。どちらかと言えばおっとりとした感じで髪もポニーテールじゃなくて下ろしている。

 体型以外昨日の夜の少女と合致しない。

 改めてみると本当に他人の空似なのかもしれない。

「ごめん、昨日引っ越しとかであくせくしていたから僕疲れてるんだと思う。不快な思いをしてたら謝るよ、ごめん」

 そうだ空似だ。見る限り霧縫さんが人殺しなんかできるわけがない、僕の勘違いに違いないさ、それよりも今は学生生活を謳歌する事に勤しんでいこうじゃないか。

 こめかみを手でつまんで目をしぼめてから目を開き気持ちを切り替えた。

「別に謝らなくても良いよ、それよりも疲れてるなら保健室行く?案内するよ?」

 不安げな表情でこちらを見てくる霧縫さんに僕は

「授業を受けられない程ではないから大丈夫。霧縫さんは優しいね、変な時期に転校生してきた僕に気兼ねなく話してくれるなんて」

 他の子は少し距離を置いて徒党を組み、霧縫さんと僕の様子を横目で見ているぐらいで話しかけてはこなかった。

 これが普通だ。以前の引っ越しでもこんな感じに腫れものを見るような感じに距離を置かれていて友人を作るのに苦労したもんだ。

「そうかな?だってさ、こんな時期に転校してくる生徒ってどこか面白そうじゃない?そう言う事で大城君には話しかけてみたかったんだよ!」

 なんとも好奇心旺盛な少女なのだろう・・・・・・僕よりも彼女の方が珍しいんじゃないか?

 そんなこんなで時間を忘れて話していると一時限目の始まりを告げるチャイムが教室内に響き渡った。

 霧縫さんは惜しみながらも会話をやめて机の中に入っている教材を取り出し姿勢を僕の方から黒板の方へ向け最後に片手を僕に振りながら「また後で」と微笑んできた。

 青春ってこういうのを言うのかもしれないな―――

 昨日の事など忘れて、今まで訪れる事のなかった青春っぽい事ができて何とも言えない高揚感に浸りながら僕は一時限目の準備をし始めた。

【放課後】

「前の高校よりも授業の内容進んでいる上に改めて思うがなんだこの時間割!」

 一日の授業を通してこの学校が自称でない進学校である事が分かり僕は愕然としていた。

 先生の話と板書をするだけで一苦労な程に進むスピードと学ぶ量が以前の学校とは段違いなものだった。

「あはは、二年生は進むの早いってよく言われてるね、この学校三年生になると時間割のほとんどが試験対策になってくるから早いんだと思うよ」

「うわ、凄いな・・・・・・・」

「それに時間割が特殊なおかげなのかこの学校進学率も良いらしいよ」

 僕が転向したこの学校、市立霧結高校は一時限三十分を十時限分で中休みは五分の昼休みは五限を終えてからと他校ととことん違う構成でできた学校である。因みに集中力の持続を目的として短時間の時間割で組み立てているらしい。

「それにしても一日に同じ教科が重なる時間割ってなんか違和感があるな・・・・・・」

 今日の授業の場合は数学が一限と七限にあった。

「まあそのうち慣れるよ、それに三年になると選択科目もあるからもっと濃密な時間割になるしね」

 考えただけで疲れる・・・・・・

「なんでこの学校にしちゃったんだろうな・・・・・・」

 昨日の準備の時から嫌な予感がしていたがもっと普通の高校に通っておけばよかったと今日の授業を通してつくづく思う。

「まあまあ、後悔先に立たずって言うし頑張っていこうよ」

「まあそうだよね、ありがとう霧縫さん。今日は楽しかったよ」

 今日一日、僕に話しかけてくれて嬉しかったのも含めて感謝の言葉を述べると若干恥ずかしがりながら

「いえいえ、こちらこそ大城君が話し相手になってくれて有難い限りですよ」

 と言ってから霧縫さんはふと何か閃いたのかポンと両手を軽く叩いてから尋ねてきた。

「大城君、今から時間あるかな?」

 帰る以外予定ないし

「大丈夫だけど?」

「そっか!なら私の部活来てみませんか?」

 部活か、今のところ入る予定はなかったけど霧縫さんへのお礼も兼ねて見学ぐらいはしようかな。

「うん良いよ」

「それじゃあ案内しますので着いて来てください!」

 すぐさま霧縫さんは席を立って横のフックに掛けていたリュックサックを背中にしょってからウキウキと子供のように楽しそうにしながらそう言ってきた。

 鞄に教材を詰め込んでから僕も席を立って、歩き出した霧縫さんの後ろを歩いて行く。

「部活ってどんなの?」

 霧縫さんを見る限りインドア系なら吹奏楽とかだろうか?アウトドアなら卓球あたりかな?

 僕の質問に対して霧縫さんは振り向いて

「着いてからのお楽しみです!」

 と無邪気な顔で言ってきた。

「は、はあ」

 言動といい行動といいすっごいあざといな・・・・・・

 階段を下りていき、僕等がいた第一校舎から離れて第二校舎近くにある木造の小さな建物に霧縫さんはずんずんと歩いて行く。

「ここは旧校舎です。取り壊し工事も考えられていたようですが歴史的に古い建物なんで残しておきたいという校長のご意向で今もこうして残されているらしいです」

 そんなに古い建物なのか、でもここに何の用が―――ん?

「着きましたよ、ここが私の所属する部活です!」

 目的地のドアの前に立ち霧縫さんはそう言ってから

「ようこそミステリー研究部へ!」

 と言いドアノブを捻って開いた途端。

「ふははは僕は神だ!よく来たなミスト!今日も語り合―――」

 僕はすぐさま霧縫さんの開けたドアを閉めて一度考える。

《あいつはなんだ!》 

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