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非日常奇譚/絞殺欲求・十二支編  作者: 柊木 渚
絞殺欲求・十二支編
13/36

【第一章 志向と異常】01【

 通報してから数分もせず警察が駆けつけてきた。

 どうやら僕ら以外に先に警察に通報した人がいたらしく、その時にドアを開けたままここを立ち去ったらしい。

 一通りの事情聴取が終わった後に僕らは一旦現場である住戸の前から離れる事になったので二人して僕の住戸の玄関に居た。

「二人とも大丈夫かい?」

 一応開けたままにしていたドアの横からひょっこりと顔を出してこちらの様子を見にきたのは母さんだった。

「僕は大丈夫だよ」

 霧縫さんの方は現場で死体を見てから身体の震えが止まらない様子でここに来るまでもずっと怯えていて今は玄関の段差に座ってうずくまっていた。

「そっか・・・・・・貴方は大丈夫?」

 母さんは玄関に入り、しゃがみ込んで霧縫さんと同じ目線になる様にし、優しく彼女の震えた手を握りしめて話しかけた。

「あ、あの・・・・・・何が何だか・・・・・・私」

 思考が混乱している様で母さんに顔を向けてはいるが心ここに有らずといった感じだった。

「大丈夫よ、この件は私たちは警察の役目だから貴方は――」

「霧縫さんだよ」

 僕が彼女の名前を言うとありがとうと少し微笑んでから

「霧縫さんは何も気にする事はないのよ」

「で、でも!」

 納得がいかないようで霧縫さんが声を上げようとしたが母さんは頭をポンと優しく叩いて

「霧縫さんが見ていないだけで世の中は今も色々な理由で死者が出ているの、今回の件は偶々霧縫さんが発見者になっただけでしかないのよ。非情な事を言うようで悪いのだけど貴方に出来ることはここまでよ。この件を忘れろとは言わない、この件で命の尊さや大事さを知ったのなら霧縫さんはめいいっぱい生きなさい、貴方の命も等しく一つだけなのだから」

 そう言うと母さんは霧縫さんの手を離してから立ち上がり

「そんじゃ私も現場に行くね、この様子を見るに公園の件は誤解だったらしいわね。しろ、貴方もしっかりしなさいよ!それとこの前置いていったジャケット回収しに警察署に来てよね。後は・・・・・・これで霧縫さんを家まで送っていってあげて」

「分かった。母さんも頑張り過ぎないでよね」

「お?子供の声援程頑張れるものはないから頑張っちゃうぞ!お~!」

 現状を見て以前の件が誤解であると理解した母さんはそう冗談を交えながら言い、財布から一万円を取り出して僕に渡してから現場に向かった。

「そんじゃ、タクシー呼ぶか」

 この時間帯でしかも精神が不安定な状態の霧縫さんを一人で帰らせるのはまずい気がするしどうしたものかな・・・・・・・

「そうだ!」

 以前タクシーに乗った時にもらった名刺を思い出し、ポケットに入っている財布を取り出して飯塚いいづかと書かれた名刺を取り出した。

「ちょっと待ってて」

 また俯いたていたままの霧縫さんに一応声を掛けてから自室に行きスマホで電話をかけた。

『もしもし、こちらミスタータクシーの飯塚です。ご要件は何でしょうか?』

 スリーコールしてから電話は繋がり少し疲れた声色の飯塚さんがでた。

「以前乗せてもらった者でして、あのビニール袋の中漁ってた――」

 何かこれ言ってて恥ずかしいな・・・・・・

『あぁ!あの学生さんか!それで、今日はどうして電話を?』

 分かってくれた様で良かった。

 僕がタクシーを呼びたいという旨を伝えると

『おぉ、それなら丁度良かった。今空車だからすぐに行けるよ、場所は?』

 僕はスマホの位置情報で場所を見ながら伝える

『おぉこれまた偶然!今その近くでタクシー走らせてたところ何ですよ。大体二分ぐらいでつくと思います』

「そうですか、ありがとうございます。後一応名前、大城 白野って言います」

『白野君か!良い名前だね。それとお礼を言われる筋合いはないよ。こっちは仕事なんだから、それじゃあ着いたらタクシーの外で待ってますのでまた』

 電話が切れてからスマホをしまって玄関に戻り霧縫さんに声を掛けた。

「霧縫さん、タクシー呼んだから下に行こう」

 返事は・・・・・・無しですか・・・・・・

「・・・・・・大城君は何でそんなに平然として居られるの?」

 少し間が空いてから霧縫さんは聞いてきた。

「それは・・・・・・何でだろうね」

 僕にもよく分からなかった。なぜこんなにも平然として居られるのか、あの現場に遭遇して僕は何も思わなかったのか。まあ、思い当たる節が無いわけでもないのだけど・・・・・・

「私怖いのよ、あんな光景を目にして自分がどれだけ能天気だったか思い知らされた。大城君に仕掛けたあのドッキリ、面白そうだからやっただけなの、命の重さや死の恐怖なんて考えずにただ単純な面白そうって言う理由だけで大城君のお父さんの依頼を受けたのよ・・・・・・こんなかたちで本物の死体を目にして私は恐怖で動けなかった。貴方も昨日の夜、私を見た時にそう感じたんだと思ったら突然今になって本当に悪いことをしたって反省してるの・・・・・・あの時の私の姿は殺人鬼そのもの、冗談でもやるべきでなかったと思っているわ、本当にごめんなさい」

 僕に掛けたドッキリと今回の件で彼女は色々と思うことがあったようで今こうして自分の愚かさを霧縫さんは僕を通して自傷的な言葉を吐いているんだろう。

 知ったこっちゃない

 僕は後ろから彼女の左腕を持ち上げて強引に立たせた。

 顔はそっぽを向いていてどんな表情をしているか分からなかった。

「怖かったさ、だけどそれはそれだ。これは僕らの責任じゃない、死の恐怖?命の尊さ?知ったこっちゃない!僕らには僕らなりの人生があるんだ。死者に思いを回す時間があるなら少しでも自分の人生が良くなるように変わる努力をしろってんだ」

 僕らは他者を思い、少しは協力が出来るがそれしか出来ないんだ。

 なら自分の人生を考えてひたむきに生きていくのが僕らが他者に死者にできる最高の贈り物なんじゃないかと僕は思う。

「そんなのただの横暴じゃない」

「横暴だよ。人間なんてそんなもんだ。横暴だから人間は生きてこれたんだ。お前が僕の思うことが理解できないなら自分なりの意思でその事を示せよ、それがどんな形であれ聞いてやる。だから今は前を向いてろ、ここでうじうじと自傷の言葉を連ねたって何にもならないんだから」

 僕が言える言葉ではないが今は彼女の為に言葉を借りて話すしかなかった。

「――痛い」

 喋っているうちに彼女の左腕に力がこもってしまったのか霧縫さんはそう言って左腕を強引に離した。

「ごめん・・・・・・」

 正直いって最低だと自分でも思うよこれは・・・・・・

 離した左手で顔を拭ってからこちらに振り向いて霧縫さんは力強く言った。

「大城君の暴論には理解できない。だけど今は私が示せる意思は見つからないの、だから貴方に示せる自分の意思をこの高校生活のうちに見つけ出して貴方に突きつけてあげる!大城君が納得できる様な意思を私なりに示してあげる」

 目を腫らし、ひらりとワンピースを揺らめかせながら突き付けられた人差し指は僕の心臓に向けられていた。

「あぁそうしてくれ」

 軽く受け流して僕は霧縫さんの横で靴を履いて外へ出た。

「何よその態度!私が心を入れ替えて頑張るって決めたのに」

 先程までの悲傷していた彼女の姿は消え去っていた。

「まあ頑張れよ、後二年もないけどな」

 僕なりに応援していると遠まわしに言うと少しはにかんでから霧縫さんは「うん」と言った。


「飯塚さんですか?」

 僕らは一階に降りて正面に停車していたタクシーの前で時間を確認していた中年の白髪交じりの男性に声を掛けた。

「お!白野君か、飯塚であってますよ。それじゃあどうぞ乗ってください」

 待ちかねた様に声音を上げて僕に言うと左の後部座席のドアを開けてから運転席に戻っていった。

 僕も乗った方が良いよな、霧縫さんだけ乗って行けば片道運賃で済むだろうけどこいつ見てると何処か心配だし。

 少し悩んでから霧縫さんが先に乗ってから僕も乗車した。

「別に大城君はついてこなくてもいいのに・・・・・・」

 いやまあそうなんだけど・・・・・・

「お金は僕が持ってるわけだし一応ね」

「あ、そう・・・・・・」

 僕が何となくそう言うと霧縫さんは申し訳なさそうに納得した様子で次に飯塚さんに住所を教えた。

「それじゃあ出発しますね」

 そう言って飯塚さんはタクシーを走らせた。

 走行中霧縫さんは疲れたのかドアにもたれ掛かって目を閉じていた。

「白野君、昨日は大丈夫だったかい」

 飯塚さんは世間話程度に昨日の夜の事を聞いてきた。

「えぇまあ、大丈夫でしたね」

 元凶が横で気持ちよく眠っているのを少し睨みながら飯塚さんに言うと

「そりゃあ良かった。最近は物騒だからね、心配したんだよ」

「物騒ですか・・・・・・」

 確かにあんな事もあったし物騒ではあるよな・・・・・・

「それで?その子彼女さんかい?」

「ブッ!ち、違いますよ!ただの部活メイトですよ」

 いきなりの突拍子もない言葉に部活動仲間とクラスメイトを混合していってしまった。

「はは、それは失敬。いい雰囲気だったもんでね、てっきり彼女さんかと」

 男女二人が乗車したらそう思われても仕方が無いっちゃあ仕方がないか・・・・・・

 そんなこんなで僕は飯塚さんと世間話をしながら霧縫さんの家に着くまで時間を潰していた。

 因みにその間霧縫さんは起きることなくそれはそれはぐっすりと眠っていた。

「おっと、そろそろ着きますよ」

 会話にひと段落着いた辺りで飯塚さんが僕に言ってきたので横でぐっすりと眠っている霧縫さんをゆすって起こす。

「もうそろそろ着くってよ」

 寝ぼけまなこでこちらを見てから大きな欠伸と伸びをしてから「ありがとう」と言ってきた。

 このありがとうはいったいどのことを示しているのだろうか?

「着きましたよ」

 路肩にタクシーを止めて飯塚さんは霧縫さんの方のドアを開けた。

 少しぐったりとした様子で霧縫さんはタクシーを出ると一言だけ

「今日は色々と迷惑かけてごめんなさい。それとありがとう、また明日ね」

 少しかがみ霧縫さんはもう一度お礼を述べてから手を振ってドアを閉めた。

「飯塚さん、出発地点のマンションまでお願いできますか?」

 僕が申し訳なさそうに飯塚さんに言うと嫌を言う訳でもなく

「分かりました」

 と承諾してナビの設定をしてから元来た道をタクシーで引き返していく。

 後部の窓から霧縫さんがこちらに手を振っているのを見送ってから元の姿勢に戻った。

 昨日から気を張り詰め過ぎたのか一時的な安堵で急に眠気が襲ってきた。

「見るからにお疲れでしょうから眠っていても大丈夫ですよ、着いたら起こしますので」

「すみません。お言葉に甘えさせてもらいます――」

 飯塚さんの言葉で気が緩み切った僕は瞼を閉じ、少しの間だけ眠りに着くことにした。

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