【ヨクボウニオボレル】Ⅰ【
満月の夜。
黒い影の様な者が私の顔に手を添えてきた。
影の視線が私の瞳孔を超えて脳に注がれていく感覚に襲われる。
「ねえ、貴方の欲望を見せて――」
脳髄にまで響き渡る雑音交じりのその声に全身が震え上がる。
先程までの怒りが嘘の様に消え、代わりに抑えきれない程の欲望が沸々と湧きあがって来る。
「欲望・・・・・・あぁそうだ。私はこれがしたかったんだよ!そうだ殺さなきゃ、彼奴のせいで狂わされたんだ。なら私にだって狂わせる権利があってもいい筈だろ、なあ!」
今まで私がどれほど苦しんできたか彼女らは知らない、いや、知ろうともしないだろうな、毎日毎日毎日毎日、身勝手な言動をしては私の首を絞めるだけ絞めてそれを悪いとも思わない彼奴らの首を絞めてやりたい。
思うだけで留めてきた。
想うだけで抑制していた。
だがもう我慢できない。
欲望のままに彼女を、いや、彼女じゃなくても別に良い、同じ様に私にする者達を絞め殺してやりたい。
今これほどまでに人生を謳歌する事が思いついた事があるだろうか?いやないな、欲望を抑えて生きるには私はもう疲れてしまった。
これからは自らの欲望のままに生きてやるさ。
麻縄と鼠と牛のマスクをスポーツバッグに詰め込んで満月が射し照らす夜に私は繰り出す。
そうして私は自らの欲望に溺れる。
「惨めな欲望。せめてあの方を楽しませてあげるくらいには役に立ってくださいね」




