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prologue
愛されなくてもいいと、思っている。
いずれ終わる命を少しずつ大地に還すことも苦ではない。
ただ、心臓よりももっと深いところが、しんしんと冷えるだけ───
◇ ◇ ◇
けほり、乾いた咳が出て眉を寄せる。
枕元に置いている水差しは空になっていて、仕方なく重い身体をゆっとり起こした。
吐く息が白い。
今の季節にこの寒さなら、冬本番を迎えた時にはどうなるのか……そもそも冬を迎えられるのか。
暗い考えが頭をもたげてゆるりとかぶりを振る。
卑屈になってはいけない。闇に囚われてはいけない。
自分に言い聞かせながら顔を上げて───否が応でも目に入る室内の様子に、それでも嘆息せずにはいられなかった。
冷たい石造りの部屋。
人気のない塔の最上階に据えられた、隙間風が入り放題のそこに、申し訳程度に置かれた机と椅子と、硬い寝台。
埃とカビの饐えた匂いで満たされた、まるで牢獄のようなその場所が、
───一国の王妃に宛てがわれたものなのだから、とんだお笑い種だ。