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臨時国会でのボセニカ首相の演説が終わるや否や、ミス国の至る所で、様々な人物が声を上げた。テレビメディア、ネットメディアが、こぞって、それらを取り上げ、国全体が騒然とした雰囲気に包まれた。焦点は、次回衆院選の名簿式全国一律比例代表制度だけでなく、参院改革にも向けられた。
「我々は、せっかく参院の比例区で足場を固め、これから勢力を拡大しようとしているのに、参院改革とは何ですか。今の議席を保証してくるのですか?ふざけんじゃないですよ」
と訴えたのは、新興政党「オンリーパフォーマンス組」の代表ミワンブだ。同党では支持者が集まり「打倒ボセニカ」を訴えた。
「衆院と異なり、自由な選挙ができるところが参院の魅力だ。そこをボセニカ首相は理解していない。はなはだしい暴挙だ」
と言ったのは、ワンイシュー政党「ゾモ国との国交断絶を実現する党」の党首ゾキスコだ。
主に参議院からは、「参議院改革反対」の声が沸き上がった。
臨時国会の2日目、最大野党コフデ党の党首ロタン・ペブケノイらの反撃も始まった。
「名簿式全国一律比例代表制度などを採用すると、今でも大都市圏優先のミス国政治で、さらに地方を無視した、数の論理たけの血も涙もない政治が横行してしまう。その上、名簿式などにしたら、選挙を経ることもない、党首に逆らえない、駒のような議員ばかりが誕生することになる。そんな議員にまともな政治ができるのか」
「ただでさえ風に流されやすいミス国民だ。ポピュリズムの波で、取り返しのつかない独裁政治になることも懸念される」
第2野党ユダ党チエ・ネヤスピは、そう語った。
一方、意外なところで「参議院改革反対」の声が盛り上がった。それはネットの世界で、ボセニカ首相が参院の構成メンバーに「首相経験者、各党の代表経験者」と述べたことに関する反発だ。
「ミス国最南端のニフハイ県のアメパライ国の基地に対して、最低でも県外と言い、ミス国を大混乱に陥れたユダ党政権の時の首相ポケ、そんな奴まで新たな参院では無条件に議員になるのか」
首相や党首が失脚し、権力を失う場合には、何らかの不備が伴う場合が一般的だ。そうした人物をご意見番として新たな参院に迎えることが、果たしてミス国政治を正しい道に導くことになるのか、といった指摘が、ネットの世界では過度に感情的に語られ出した。
ただ、次の衆院選を名簿式全国一律比例代表制度にして、首相公選制的な選挙にすることに賛成の意見も、任意で集まる国民集会などでは聞かれるようになった。
名簿式全国一律比例代表制度であれば、1票の格差はない。選挙区のしがらみがないので、議員定数の削減なども容易になる。政権交代だって、一度波が訪れれば、現在の制度よりも、ずっと可能性が高い、という声が日増しに大きくなった。
参院改革は、あくまで現在のボセニカ首相が掲げる政策で、次の衆院選の結果を経てのものである。野党の間でも、名簿式全国一律比例代表制度でボセニカ首相と勝負しようという機運が高まった。
その2日後、ボセニカ首相が提唱する名簿式全国一律比例代表制度を取り入れた「衆議院選挙改正法」は、与野党協議の上で、いくつかの修正案が盛り込まれた末に、衆参両議員で可決された。立候補届=名簿提出は、二週間後が締め切りで、一カ月後には新制度初の選挙が実施されることになった。