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 国会の前に作られた演台、その前にはテレビカメラやカメラを備えた報道陣100人ほどが集まり、その外側は警察が幾重にも取り囲んでいて、押し寄せたデモ群衆は、その外側に続々と集結し始めた。演台の頭上には、演台上を映した大型テレビがあり、そこにはボセニカ首相の顔が大写しになっていた。

「お集まりの皆様、そして、すべての国民の皆様、この度は、第50回衆議院選挙を間近に控える中、与党スシブオホ党におきまして、皆様に不信を与えるような事実が公表されたことを、党首として深くお詫び申し上げます」

 この場で首相が何を語るのか、その時、辺りは静まり返った。

「この場で私は敢えて言いますが、トヤ氏はスパイではありません。トヤ氏が願ったのは、我が国と隣国フズユハ国との健全な友好関係であり、その願いがある組織によって悪意を持って利用された。それが真相であります。ただし、トヤ氏には、それを見抜けなかった軽率さという、責任があります」

 その時、群衆の後ろの方から声が飛んだ。

「首相、あんたの責任はないのかよ」

 呼応する声が、いくつか聞こえた。

「もちろん、私にも、第50回衆議院選挙を間近に控える中、皆様に不信を与えるような事実が公表されたことへの責任があります。そして私には、皆様の有権者としての期待に応え、これからの我が国の政治のかじ取りを行う政治家を、皆様が納得できる選択肢をお示しした上て、選んでいただく責任がございます。そこで、私は、今回の選挙を延期し、改めて各党の立候補者を吟味し選び直した上での切り直しを、臨時国会で提案したいと考えております」

 選挙を延期し、仕切り直しをする。その案を臨時国会で成立させること、それに、ボセニカ首相は自信を持っていた。何故なら、首相は持てる力をフル動員し、野党のスキャンダル記事を仕掛けたからだ。このままでは与党も野党も敗北し、既存野党ではない無名政党が多数の議席を得ることも考えられる。野党もそれは避けたいだろう。

 また、さらに首相にはメリットがあった。今回の騒動のトヤは、与党内の対抗勢力でもある。今回の出直し選挙が実現できれば、立候補者からトヤ派の勢力を一掃することも可能なのだ。

「第50回衆議院選挙を一旦延期し、国民の皆様にご納得いただける形にして、速やかに実施する。政治生命をかけ、これを行います」

 ボセニカ首相がそう語り、満足気に群衆を見渡すと、群衆の中から声が飛んだ。

「首相、俺らにいつまで、訳の分からない候補者に投票させるんだ。俺は、あんたになら投票するが、大して政治力もない、下っ端候補者に投票などしたくないぞ」

 別の場所からも続々と声が飛ぶ。

「俺らは、マスコミが垂れ流す、立候補者の当落に関わる人間ドラマなどに興味はないんだ。ちゃんとした選択肢を示せ」

「若者でも、投票したくなるような選挙をやるのが、責任だろ」

「何故、俺らに首相を選ばせない。俺らに首相を選ばせろ」

 この反応が意外だったのか、ボセニカ首相は、いつまでも続く群衆の声を、しばらく、たじろぐような表情を見せ聞いていたが、突如、何かを思いついたように、毅然として言い放った。

「分かりました。ならば、有権者の皆様にご納得いただける、選挙制度の抜本的改革案を、臨時国会へ提出しましょう。それをここでお約束します」


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