覚醒者達の期待
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〇九八 覚醒者達の期待
四狼が夕食を食べていた頃、桜花は父で国王でもある神紅郎に、今日の出来事を報告していた。
「父上、四狼が能力の隠蔽を解いて鑑定させてくれたのじゃが、能力が多いというのは本当で、実に百四十以上もあったのじゃ」
「ほほう、百四十以上とは確かに凄まじい能力数じゃな。しかもわざわざ隠していた能力を開示するとは、四狼も我らに害意は無いと自ら証明して見せた訳じゃ」
神紅郎は不安要素が少し減ったと、密かに安堵する。
「元より四狼は童とは敵対しないと言っておったのじゃ」
「それでも簡単に信用する事は国を預かる者としてはできぬのじゃ。我らが判断を誤れば多くの民が不幸になる。桜花も王を目指すのならば心しておけ」
「分かっておるのじゃ」
神紅郎は言葉だけでは足りないと返すが、桜花も理解しているとの返事に満足して続ける。
「して、その数多ある能力の中に、注視しておくべき能力は無かったのじゃろうか?」
「流石に能力が百を超えると全部は覚えきれぬのじゃが、特に危険と思える能力は無かった筈じゃ」
「確かに能力が百を越えていては全てを覚えているのは厳しかろうが、逆にそれでも記憶に残った能力等は一つも無かったのか?」
「んー、四狼は武家の者じゃから当然元から戦闘系の能力は幾つか持っておったのじゃが、更に増えておったのう。他にも強化系・魔術系・知覚系・耐性系・生産系、どれもがそこそこの数の能力を持っておったのじゃが、これといった目立った能力は無かった気がするのう。童の鑑定の熟練度では分からぬ能力が有ったかもしれぬが、見えぬものは分らんのじゃ」
桜花は少し考える素振りをして答えるが、やはり自身の持つ優しい世界の様な特別と思える能力は記憶に残っていない。
例え持っていたとしても、桜花の生物鑑定の熟練度では特殊能力は見えないので、その有無すら分からないのだ。
「そうか。覚醒者は珍しい能力を持つ者も多いが、それらを取得するのは代償も大きいと聞く。数が多いという事は代償が少ない能力ばかりを選んだという事なのかもしれぬな」
「四狼は一つの能力を選ぶだけで複数の能力を得られる、お得な能力が有ったと言っておったのじゃ」
「その様な能力は初耳じゃな」
神紅郎は意外な新しい情報に眼光鋭く答える。
「うむ、童も初めて聞いたのじゃが、そもそも百以上の能力を一つずつ選んでおったら途轍もない転生点が必要になるのじゃ。一生に一つしか貰えぬ転生点を一度の生に百以上も使うのは無駄に過ぎるじゃろう。異界倉庫を持たぬ貧乏人が、なけなしの金で食べ切れない食料を買う様なものじゃ。結局腐らせて無駄になるのじゃから普通はしないじゃろう。そしてそれを誤魔化す意味も無いと思うのじゃ」
神紅郎も、そうじゃなと頷き、桜花が覚えておらぬのなら、あからさまに危険な能力は無かったのだと胸を撫で下ろす。
「しかし、勝負を吹っ掛けた翼が一瞬で負ける程に強さ自体は上がっておったのじゃ。もしかしたら強化系の熟練度は相当に髙いのかもしれぬ」
熟練度の上昇は、新たな能力を得るより敷居が低い。あの厳しい八神流の修行なら、能力さえあれば熟練度が上がるのが早い可能性は十分考えられる。
「その話は聞いておる。八神の者というのも大きいのじゃろうが、成人前に近衛に圧勝するか。末恐ろしいな」
「実戦ならば正に瞬殺。翼は秒と掛からずに死んだのじゃ。今の四狼に勝てる者は国内には百と居らぬかもしれん」
「それだけの強者、桜花もさっさと婿に決めてものにすれば良かろうに」
「そ、それとこれとは話が違うのじゃ。こういう話は段取りが大事なのであって……」
急な婚姻の催促に、桜花もしどろもどろに反論する。
「段取りは確かに大事じゃが、慎重に過ぎて好機を逃さぬ事じゃ。只強いだけでなく、能力数百越え等と他には在りえん多才振り、他の者に掻っ攫われては勿体無かろう。それに、森永姉妹の妹の方も四狼を気に入ったそうじゃないか」
「そ、それはそうじゃが、紅葉のは只の打算じゃから、四狼も本気にはしない筈なのじゃ」
神紅郎に新しい恋敵を指摘されるが、桜花は紅葉の気持ちに恋心は無いと否定する。
「そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。それに今は恋心なぞ無くとも、婚姻後に育てれば良いだけの話じゃ。実際、そういった夫婦は多い。何にしても時機を見過ぎて手遅れになって後悔せぬ事じゃな」
「わ、分っておるのじゃ」
神紅郎の当然の指摘には、桜花も頷くしか無かった。
「は、話は変わるのじゃが、今度、四狼と幻奉に藤邑商会を巻き込んで、新しい商売を始める事にしたのじゃ」
「桜花が商売?」
婚姻の話は不利と考えた桜花は、無理矢理にでも話題を変える為に、今日話し合った魔力屋についての詳細を語った。
「なんと、魔石ではなく、魔力を直接売るとは、四狼を始め、覚醒者は面白い事を考えるものじゃな。して、その商売の利点はなんじゃ?」
神紅郎は本気で感心し、楽しそうに桜花に詳細を催促する。
「今までは技術的にできなかったそうじゃが、前世では似た様な商売が有ったからのう。しかし、これで魔力が安定供給できる様になれば魔石不足も解消に向かい、自走車の様な乗り物の普及も更に進むじゃろう。摩れば物流は加速し、経済も潤うというもの。他の魔道具も使い易くなるし、ならばと更に新しい魔道具も増えるじゃろう。正に良い事尽くめなのじゃ」
「ほほう、実現できれば凄い波及効果じゃな。今後も異世界の知識を国の為に活用する事を期待する」
桜花の大風呂敷に、神紅郎も実現すると良いなと楽しそうに答える。
「土地は童が用意する事で永続的な利益も望める様にしたのじゃが、本命は経営に関与する事で魔石の相場を崩さぬ様に、価格にも口を出せる様にする為じゃ。これで魔力が適性価格を逸脱する事も防げるじゃろう」
「意図的に魔石を高騰させたり、暴落されては様々な処で不具合が出るじゃろうからな。良くやった」
「尤も、四狼が市場を混乱させる理由も無いのじゃから、実際には要らぬ心配なのじゃがな」
桜花は神紅郎に手放しに褒められたが、四狼が悪事を働くと言った様な気がしたので、後ろめたさから訂正もしておく。
「何はともあれ魔力が安く自由に使える様になるのは良い事じゃ。それに、桜花達は他にも活用方法を考えておるのじゃろう?」
「当然じゃ。自走車以外でも動力が確保できるのじゃから、加工・製造の魔道具も発展して様々な工作機械も作られる事で製造業も活発化するじゃろう。つまり、大量生産が可能になり、今までより商品の価格も抑えられる様になる筈じゃ。金の流れが活発化して多くの者が潤うじゃろう」
「実現すれば素晴らしい効果じゃが、魔力が手軽に使えて魔道具が増えたら、今度は素材の魔導金属の取り合いにならんか?」
神紅郎は今の緩い魔石の取り合いから解放されても、次は魔導金属の激しい取り合いになるのではと懸念する。
「それは問題無いのじゃ。この計画の肝は魔力を直接使うのではなく、魔力から電気を生成して動力にする事にあるのじゃ」
「成程、つまり魔力で直接動作させるのではなく、別の力に変換する事で希少で高価な魔導金属を使わずに目的の効果が得られる様にするという事じゃな」
「流石父上、その通りなのじゃ。しかも電気を動力にした道具は前世では当たり前に有った技術じゃ。つまり、覚醒者の中にはそれらを作れる者も居るという事になるのじゃ」
家電なら前世知識があれば、製造方法は知らずとも製品と効果は知っているので、この世界としては新しい発想の物でも覚醒者ならば既に知っているのだから、提案程度はする事ができるだろう。
そして中には構造自体を知っている者も居る筈だ。
魔道具の製作には機械製品とは違った知識や、目的の能力そのものが必要だったり、地球とこの世界では世界の法則でも違う部分もある為、前世の知識が直接役に立たない事も稀にある。
電気が普及すれば、そんな前世の進んだ科学知識が有っても役立てる事ができなかった者も、活躍の場を得られる可能性が出て来る。
そのまま同じ物を作っても効果を再現できるかは分からないが、どういった道具が有用かという情報の方が今は大事なのだ。
日本でも電気が一般家庭でも普通に使われる様になったのは、戦後十年以上経ってからだと聞く。
其処から僅か半世紀で様々な電化製品が生まれたのだから、和富王国でも同じ様に発展させる事は不可能では無い筈だ。
「今後も覚醒者の動向にはより一層の注意が必要になるが、平田以外にもそういった物を作れそうな者は判明しておるのか?」
「この国でも電気を使える様になる事を知っているのは、未だ今日集まった者達だけじゃからな。その情報が広まらないと判断はできんじゃろう」
今日集まった者達からは新しい提案は無かったが、突然の事に幻奉以外は未だ新しい事ができるという発想にも至っていないのだ。
実際に家電が浸透し始めれば、これも欲しいという欲求も出て来るだろう。
「既に藤邑商会で幾つか売り出されておるし、魔力屋が開店して魔道車が普及すれば走行距離も伸びるのじゃ。直ぐに話題になって広まるじゃろう」
桜花は少し楽観的ともいえる展望を語るが、自走車で魔石柱を使える様に改造するには、魔石を入れておく魔石溜を魔石柱設置装置に交換するだけなので、それ程難しくは無いと聞いていたからだ。
実際に焜炉の実験では、従来の焜炉に魔石柱を接続した処、持続時間が十倍近く伸びたそうだ。
新型では更に時間を掛けてやっと魔力の容量表示が減ったというから、本当に百倍くらい長持ちするのだろう。
つまり自走車でも魔石柱が使えれば、それだけで魔力の効率は数倍上がり、走行距離は伸びる筈だ。
但し、魔石柱は魔石以外の素材も使って加工される為、それらの料金分価格は上がってしまう。
自走車に使った場合は逆に高くつく可能性もあるが、それでも安定供給されるのなら確実に需要はあるだろうし、自分の自走車も早速換装して貰う予定だ。
暫く後には魔道車に買い替える予定なのだから、多少の不具合が有っても問題は無い。
「それだけ有用な魔道具、本当に四狼の知人の発明だと思うか?」
「父上は四狼本人が魔道具を開発したと、そう考えておるのじゃな?」
「四狼が覚醒したのと略同時に新しい魔道具を幾つも出してくれば、そう考えるのが普通ではないか」
神紅郎は溜息交じりに、当たり前の予想だと答える。
「確かに四狼の隠されていた能力の中には毒耐性も魔道具作成も有ったのじゃから童もそれは否定できぬが、魔道具を作るにも材料は要る。しかし今度はその材料が何処から出て来たのかという問題が発生するのじゃ」
「確かこれの素材は略魔導金属じゃというが、魔導金属は希少じゃから大量に買えば直ぐに足が付く。魔導金属の大量購入できる商会は限られておるからな。しかし何処からも買った形跡がないし、そもそも此れだけの量の魔道金属を買うには相応の金が要るが、此れも大商会でもなければ払えぬ程の莫大な金を、成人前の子供に払える筈がないのじゃ。更に魔導金属は魔術で作り出す事も出来ぬのじゃから、四狼に用意できる可能性は無いに等しいのう」
四狼から贈られた耐毒の腕輪を示しながら神紅郎が答えるが、結局の処、完成品だろうが元の素材だろうが、何方にしても無から作り出す事はできないと、二人は頭を抱える。
「能力が本当に多いのかという謎は解けたが、やはり魔道具は謎のままじゃな」
「此れはもう、教えて貰えれば儲けものと、童が直接本人に確認した方が早いのではないか?」
「正直に答えてくれるじゃろうか?」
「誤魔化されても現状のまま。何か進展が有れば儲けものと、割り切って考えるしか無いのじゃ」
其れも有りかと神紅郎もそうじゃなと頷く。
「さて、話は以上じゃ。明日は特別な修行をすると聞いておるので、童は早めに休む事にするのじゃ」
「儂も伊吹から内容は聞いておる。確かに厳しい修行じゃから無理に受けずとも良いとも聞いておる。桜花はそれでも受けるのじゃろう。許可は出すが無理はするなよ」
「心配は無用なのじゃ。どれだけ厳しかろうと、四狼は童の事を考えての事じゃから問題は無いのじゃ」
そう言い切って桜花は笑って部屋を出て行く。
「其処迄信用しておるのなら、さっさと婚約を決めてしまえば良いものを」
「姫様と四狼殿は距離が近過ぎて、逆に安易に決断できないので御座るよ」
「近過ぎとは?」
「断られたら今までの距離で接する事ができなくなるからで御座る」
「桜花も意外と臆病な処もあるのじゃな」
「恋する乙女とは、そういうもので御座るよ」
神紅郎の言葉に端で控えていた伊吹が答えると、伊吹は一旦部屋を出て数分で次の者を連れて戻って来る。
「失礼いたします」
鷹野夫妻が伊吹に連れられて入室する。
「余り固くならずに良い。して翼よ、実際に四狼と立ち合ってどうじゃった?」
「はっ、開始と同時の強烈な威圧に飲まれている間に仕留められたので、本当に手も足も出せずに負けてしまいました」
「俺も一瞬で勝負が付いたので詳しくは分かりませんが、その威圧も標的の翼以外には漏れていなかった辺り、相当な熟練度なのだと思います」
「王族警護の近衛が二人揃って四狼を強者と申すか。流石は八神と褒めるべきなのじゃろうな」
試合時間が短過ぎて鷹野夫妻でも四狼の正確な強さは量り切れなかったと言う。
しかし平均的な近衛よりも強い翼を圧倒できるというだけでも、相当な強者であるという証明になる。
「八神将軍とは直接の面識が無いのですが、話を聞く限り、八神流とは相当に厳しい修行を行っている様です」
「ああ、儂も先程聞いたが、流派の秘儀と言うから詳細は話せんが、桜花が明日行う修行というのが正気を疑う厳しいものじゃった」
「王が正気を疑う様な修行を、桜花様が行っても宜しいのでしょうか?」
「桜花も修行を楽しんでいる様じゃし、強くなるのは良い事じゃ。本人の判断に任せる事にした」
町の外には魔物が蔓延る世界なのだ。王族とて強者である事に越した事はない。王族としての責務に問題が無いのなら、強くなる事の利点は多い。
それに初代国王も強さは功績だからと、王族にも可能なら修行を勧めている。
「我々も一層の努力を惜しまぬ事を誓います」
鷹野夫妻は桜花に負けない様に、自らも修行に励む事を王に改めて宣言する。
神紅郎は頷きで返すと、話題を変える。
「処で桜花が言っておったが、覚醒者なら電気で動く道具は知っておるそうじゃが、お主達も何か知っておるか?」
「はい、我々の前世の世界では、どの家庭にも普通に有る道具でしたから、幾つかは知ってます」
「一言で家電と言っても種類は豊富で、私が知らない物も数多くあったと思います」
二人は、同じ機能でも大きさや容量が違ったり、毎年の様に複数の会社から新製品が販売されていたりするので、専門家でも全部を把握できているかは疑問だと説明する。
「そんなに多くの道具が有ったのか。流石は異世界と言った処じゃのう。して、お主達のよく使っていた道具にはどんな物があったのじゃ?」
神紅郎は感心て答え、好奇心を隠そうともせずに更に詳細を尋ねる。
「一番使ったのは照明ですね。夜は此れを使わないと何も見えなくなりますから」
「明かりは今も魔道具があるじゃない。私はテレビとかドライヤーかしら。テレビはこの世界じゃ無用だけど、ドライヤーは欲しいわね」
「良く使っていた道具なのに無用とは、どういう事なのじゃ?」
二人は神紅郎にテレビの仕組みを説明しようとするが、二人も放送や番組制作に関わっていた訳でも無いので、簡単な事しか言えなかった結果。
「うむ、確かに片方の姿や声を一方的に伝えるだけでは、使い道は限られそうじゃな」
神紅郎の感想も微妙なものにならざるを得なかった。
「お互いに会話できる電話も有ったけど、この世界だと配線が難しいわよね」
「町の中だけなら問題無いと思うけど、他の町と繋ぐには魔物の居る外での工事になるし、配線が切られる可能性も有るからな」
「携帯なら直接の配線は要らないけど、結局中継点が必要だから、もっと難易度が上がるわよね」
「電話とは何じゃ?」
二人は離れた場所で会話できる道具だと神紅郎に簡潔に説明し、問題点も噛み砕いて解説する。
「便利な道具でも欠点はあるのじゃな」
「日本には魔物処か、危険な野生動物も殆ど居ませんでしたからね」
「熊くらいかしら? それでも被害は数える程だもの、億越えの人口からしたら微々たる数だし、人の犯す犯罪の方が余程被害が多かった筈だわ」
「安全な世界だったのじゃな。羨ましい事じゃ」
魔物が居なければ町間の移動も楽になるし、町や田畑の拡張も容易だと、神紅郎は心底羨ましそうに話す。
「後は娯楽用の道具も多かったな」
「そうね、でも、ゲームとかはこの世界じゃ魔術も狩りも実体験できるし、必要無いでしょ。技術的にも厳しいと思うわ」
「娯楽の道具か、面白そうじゃないか」
「作るには物凄く高度な知識と技術が必要です。買う者が多くないと利益にならないので、人口的にも難しいと思います」
地球の顧客は世界人口七十億を超えているからと付け加えると、神紅郎は残念そうに、そうかと答えて更に異世界の道具の話を聞こうとする。
こうして鷹野夫妻は神紅郎に、家電の種類や機能の説明等を更に一時間近く続ける事になるのだった。
やがて鷹野夫妻は神紅郎との話を終え、退出するとそのまま城を出る。
「電化製品もこうして話してみると色々あるもんなんだなって、改めて思ったよ」
「幾つかはこっちでも使えると便利なんだけど、四狼君に魔道具を提供している方が作ってくれないかしら」
「確か藤邑商会で既に幾つか扱っているって言ってたよな。今度見に行ってみよう」
「良いわね。序でにこんな道具は無いのかって、要望を出してみるのも良いかもしれないわ」
「そうだな、もしかしたら作ってくれるかもしれないしな」
「洗濯機みたいな便利な家電が他にも有れば、此処の生活も楽になるし、期待しかないわ」
こうして夫婦は仲良く新しい家電に期待を込めて、楽しそうに語りながら帰路に着く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
桜花が神紅郎の部屋を出た頃、森永姉妹も今日の出来事を話し合っていた。
「紅葉、貴女本気で四狼君との結婚を望んでいるの?」
「できれば良いと思ってる」
「今日、初めて会った人なのに?」
「私が知る、一番の優良物件には違いない」
「確かに強かったし商売の方も上手く行きそうだったけど、それって桜花様を敵に回す事にならない?」
楓は折角仲良く出来ている王族に嫌われるのではないかと、少し心配だと尋ねる。
「私が言ったのは、桜花様に他の婚約者が決まった後、つまり四狼君が桜花様に振られた後の話だから問題無い」
「そうね、それなら桜花様も四狼君に執着はしなくなってる筈よね」
紅葉の説明に、楓もそれもそうかと安堵して続ける。
「結婚云々は置いといても、四狼君、強かったわよね」
「うん、始まったと思ったら、次の瞬間には翼さんが負けてたのには、私も驚いた」
「早過ぎて、何時動いたのかも分からなかったわ」
二人は今日の立ち合いを思い出しながら話す。
「あれだけ強い人にパワーレベリングして貰えるんだから、私達も強くなれる筈」
「パワレベってイカサマ臭くて好きじゃなかったけど、自分の命が掛かってるとなると小さな拘りに思えて来るわね」
「ゲームと現実は違う。無理せず経験者に習った方が安全」
「そうね、折角の新しい人生、十代で終わらせたら勿体ないわ」
二人は魔術師団に所属している以上、魔物との戦いからは逃れられないし、功績にもなるのだから初めからその気も無かった。
しかし、だからといって怪我をしたい訳でも死にたい訳でもない。怖いのも痛いのできれば遠慮したい。
魔物との戦闘には単純に物語やゲームでの憧れもあるが、士族の家に生まれた以上、他に選択肢が無かったのだ。
魔術師を目指したのは魔術に対する憧れと、武士や兵士の様に直接刃物を持って魔物と相対しなくて済む分、多少はマシだと思ったからだ。
「その点、桜花様はお姫様なのに普通に近距離で直接戦っているんだから、凄い勇気よね」
「同感。刃物で斬られるとか、マジ勘弁」
「私も早く良さそうな人を見付けて、結婚するのが無難なんだろうなぁ」
楓はいきなり四狼に求婚した紅葉を思い出しながら、そんな選択肢も有りなんじゃないかと考え始める。
「ん、それが一番安全で安泰。専業主婦最高」
「でも、そうすると戦いでの功績が積めないのよね」
「代わりに子供をいっぱい産めば良い」
「子供とか未だ早いし、それはそれで恥ずかしい気がする」
紅葉の代案に、楓は少し頬を染めて返した。
「前世で経験してる筈なのに、初心な反応」
「経験してても恥ずかしいものは恥ずかしいわよ」
「精神は肉体に依存するとも言う。今の若い身体は性に敏感」
「更に恥ずかしい事を淡々と言わないでよ!」
紅葉の煽り文句に楓は益々顔を赤くして返す。
「楓は前世で子供は居なかったの?」
「うう、居たとは思うけど、正確には覚えてないのよね」
「女神様が未練になる記憶は消したって言ってたから、楓は小さい子供を残して死んだのかもしれない」
楓は紅葉の指摘に、少し考えて答える。
「そうかもしれないけど覚えてないし、覚えてても何もできないもの、どっちでも良いわ」
前世の人生は既に終了しているのだ。考えても答えは出ないし、考えるだけ無駄だ。
「そう言う紅葉は前世で子供は居たの?」
「私は子供だけじゃなく孫もいっぱい居た。大往生だったと思う」
紅葉は自慢げに答えるが、続けて顔も名前も覚えてないけど、と付け加えた。
結局、前世の自分の情報は物凄く断片的にしか覚えていないのだ。
「今は前世より今生よ」
「こっちの女性の婚期は短い。のんびりしてると手遅れになる」
「でも十代で結婚は早いと思うんだけどね」
「日本でも百年前は十代で結婚は当たり前だった。三十年前でも二十五で売れ残りクリスマスケーキ扱いだったのに、今は三十越えもいっぱい。百年前なら孫が居る歳」
「そういえば、今生の家の御婆様も、未だ四十代だったわよね」
「ん、私達が生まれた時は三十代だった」
二人はこの世界では十代で結婚処か、出産が当たり前だと再確認する。
「頑張って相手を探さないといけないわね」
「私は桜花様の決定待ち」
「それこそ手遅れにならない?」
「桜花様も残り時間は少ない。年内か、遅くても来年には決まる筈」
紅葉が意外なくらい淡々と婚活を進めている事に、楓も少しだけ頑張った方が良いかと、本気で思える様になって来た。
「でも、どうやって相手を探せば良いのよ」
「四狼君みたいに目立つ相手に声を掛けるか、自分が目立って声を掛けて貰う?」
「目立つって、どうするのよ?」
「派手な魔術とか、強力な魔術を使える様になる」
「確かに目立ちそうだけど、何か違わない?」
「この世界で強い事は良い事。強力な魔術師は強い遺伝子の証にもなる、結婚にも有利になるかも?」
「何で疑問形なのよ! でも、強ければ金銭的には有利になるし、出世もできるかもしれないから、案外悪い手じゃないかもしれないわね」
「ん、強くなる為にも、先ずは初めての狩りを頑張る」
「そうね」
紅葉は三日後のパワーレベリングに改めて期待する。
楓もそれが有ったかと、気を取り直した様だ。
「それじゃあ、明日は今日教えて貰った魔術の復習ね」
「その為にも今日は早く寝よう」
「もう、直ぐそうやって楽しようとするんだから」
楓は紅葉に文句を言うが、今日の出来事は刺激が多過ぎて気疲れしているのも事実だ。
手早く寝床と準備する紅葉に倣って、楓も寝床を準備する。
「「おやすみなさい」」
こうして四狼の知らぬ間に、四狼には覚醒者達の期待が密かに向けられていたのだった。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次回は三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、今後も宜しくお願い致します。




