魔力屋
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〇九四 魔力屋
「鯨、前世では食べた事無かったけど、こんなに美味しかったのなら、地球の鯨も食べてみたかった」
「そう? 地球の鯨は特別に美味しかったって記憶は無いし、こっちの方が美味しいんじゃないかしら」
紅葉さんが少し残念そうに呟くと、日本でも食べた事があるらしい翼さんが答えた。
「確かに美味しいけど、こっちの鯨って地球のより更に大きいんでしょ? よくそんな大きな魔物が狩れるわね」
「確かにこっちの鯨は地球の鯨に比べても百倍以上は大きくて、体長が二キロ近くあるからな。でも逆に大き過ぎて小回りが利かない分、北の群島域に入り込むと移動に制限が掛かって、返って狩り易いんだ」
「狭い場所に入ってしまうと方向転換もできないからね。そのまま浅瀬に追い込んだり、海水毎凍らせてしまえば自重で動けなくなるのよ。後は止めを刺すだけだから、大きさの割には簡単に狩れてしまうらしいわ」
楓さんの疑問には、爪太さんと桜花様が答える。
「海の漁なら鯨より鮪の方が厄介よ。なんてったってこっちの鮪はあの巨体で飛び魚みたいに飛ぶんだから」
翼さんが言う様に、飛び鮪は体長百メートルを軽く超える巨体で海面を滑空する。その様は近くで見ればかなりの迫力だろう。
「鮪も専門の漁師が狩ってるから問題無いわ。確か、飛んだ処を巨大な刀で鰭を切り落とすと飛べなくなるだけじゃなくて、真面に泳ぐ事もできなくなるから、後は巻き込まれない様に距離を取って鰓を狙って遠距離攻撃を繰り返していれば、やがて呼吸ができなくなって力尽きるのよ」
桜花様は簡単に言っているが、最初に鰓を切り落とすのが熟練の技だ。巨大な鮪に正面から挑む鮪漁師は海の英雄とも呼ばれる勇ましい者達で、漁師の憧れでもあるらしい。
少し補足をすると、船に固定された巨大な刀、鮪斬りで上手く鰓の四分の三以上を切り取れれば、鰓の重力制御で泳いだり飛んだりしている鮪は左右の釣り合いが取れずに真っ直ぐに泳げなくなり、その場で回転する事しか出来なくなる。
後は放置しておいても餌を食べられない鮪は何時か死ぬだろうが、相当に時間が掛かるし状態も悪くなるので、桜花様の言う様に呼吸を止めるのが手っ取り早い。
「狩りも漁も残酷。美味しいけど」
「紅葉、生きる事は殺す事でもあるもの、生存競争だと割り切るしかないわ。そして、そんな勇ましい者達のおかげで私達は美味しい鮪が食べられるんだから、彼らには感謝しないといけないわ」
「食事中に難しい事は考えずに、今は素直に美味い料理を楽しんだ方が良いぞ」
桜花様と爪太さんの言葉に皆で漁師を称え、鮪を堪能する。
他にも鯛や河豚、海老に蟹も頂くが、どれも中型以上の魔物だ。そんな、庶民には少し贅沢な昼食を、僕達は腹いっぱい楽しんだ。
「ご馳走様でした」
「ん、満腹」
「僕も、もう十分です。ご馳走様でした」
森永姉妹が最初に食事を終えると、少し間を開けて平田さんも終了宣言をする。
その後は翼さん、僕、桜花様、爪太さんと順に箸を置き、皆が食事を終えた。
「桜花様、毎回美味しい食事を有難う御座います」
「私達は同じ能力を持った仲間だもの、情報交換も兼ねてるから気にしないで良いわよ。同じ世界を知っている人と話せるのは私にとっても良い気分転換にもなっているし、料理くらい幾らでもご馳走するから、今後もお互い協力していきましょう」
「はい」
「では、その今後の協力について、具体的な話を進めましょう」
翼さんが礼を言い、桜花様が答えると、平田さんが食事前の話を蒸し返してきた。
「今後の国の行く末に関わって来る重大事だもの、当然ね」
ギラリと目を輝かせて平田さんと桜花様が僕を見る。お手柔らかにお願いします。
「其々の役割分担だけど、先程も言っていた様に土地に関しては私に任せて。候補地の選定や土地買収も城の専門家に確認すれば直ぐに分かるから相談しておくわ。初めは一店舗で良いとして、今後は必要に応じて増やすけど、なるべく町に分散させたいしね」
「商品の性質上、近くにある必要は在りませんし、分散させないと遠くの人が面倒ですからね」
確かに、土地関係は管理省庁に確認し易い桜花様が適任だろう。そして、平田さんの言う様に、仮に町の北や東にしかないと、南や西に住む人は魔力の充填に遠くまで行く事になる。初めの目標は東西南北に作る事かな。
「だから、一号店は中央区の北に作って、二号店は市街区の西か、農業区の南が良いと思うの」
「成程、市街区の東には藤邑商会が在りますから、わざわざ東に急いで作る必要はありませんからね」
「ええ、需要が増えれば分からないけど、当面、東は急がなくて良いと思うわ」
「桜花様、藤邑商会のお店にも魔力スタンドの設備を設置する予定なのですか?」
二人の会話に藤邑商会の名が出たので、僕は藤邑商会の取り扱いを確認する。
「藤邑のお店に私達は関与していないもの、藤邑の店舗で魔力を売るか売らないかは藤邑に任せるわ。尤も、これだけ利益の出易い商材を売らないって判断はしないと思うわよ」
「魔力スタンドの方は僕達の共同出資の商会という態になりますからね。勿論、藤邑商会にも参加して貰う事になります」
「藤邑商会もですか?」
「元は藤邑商会が始めた事が発端だもの。寧ろこの相談自体、私達が藤邑の商売に横槍を入れようとしている状態なのよ。そんな事業から除外なんかしたら、王家が商会が始めた商売を奪った事になってしまうわ。だから、私達は初期費用の提供をする協力者の位置に立って、利益の一部を分けて貰う程度で丁度良いのよ。一番の目的は魔力スタンドの早期開始だもの」
「ええ、魔力を安く供給出来る様になれば車も売れますし、移動費用が下がれば物流も加速します。つまり、経済が発展するという事です。その影響は、より大きな利益を生む事になります」
「そういう事よ。魔力スタンドは私達の利益だけに留まらない、大きな可能性を秘めているのよ」
桜花様が計画に加わった事で、なんだか僕の考えより大事になってしまっている気がする。
「勿論、藤邑商会が参加をしたくないというのであれば、僕が代わりになれば良いだけなので、強制する心算はありません。尤も、これだけの儲け話を断る様では、藤邑商会もその程度だという事になるのですが」
「そうね、この話を断る様なら、それが藤邑の限界なんでしょう。無理に巻き込む必要はないわ」
一応、藤邑商会にも拒否権は認められる様だ。巧義兄上が最適な判断をする事を祈ろう。
「藤邑商会を巻き込む理由は分かりましたが、藤邑が独自でスタンドを作った場合はどうするのですか?」
「今の店舗で売る分には問題無いけど、新店舗でも売るのなら要相談になるわね」
「魔力スタンドは今後の商売に大きな影響を与えますからね。十分世間が認識した後なら兎も角、早々に中堅の一商会に任せるには危険です。僕が真っ先に自走車をお城でお披露目したのも、大手商会からの妨害や、技術や知財の盗難を防ぎ、安全を確保する為でした。今回は共同出資の合同新商会という方法が安全の為にも望ましいのです」
「藤邑商会は未だ中堅に入ったばかりの新しい商会だから、単独でこれだけの大事業を展開すると本物の横槍が入りかねないのよ。でも、私が関与していれば王族の事業の一環にできるから、横槍も防げるって訳よ」
桜花様達は単純な利益だけでなく、藤邑商会の安全も考えてくれていた事に、僕は驚くと共に感謝の気持ちが沸き上がる。
「お二人のご配慮に感謝します」
「良いのよ、私達にも十分な利益が有るんだから、お互い様よ」
「はい、寧ろ一番面倒な処を押し付ける予定ですので、お気になさらないでください」
僕の礼の言葉にも二人は相変わらず、わざと悪ぶった口調で返したくれたが、平田さんが若干気になる言葉を発する。
「面倒な処というと?」
「単純に運営と経営を丸投げする心算よ」
「桜花様が土地を用意するのですから、僕は初期費用というか、店舗の建築費を出資し、実際の営業は藤邑商会にお任せという事になります」
「それって、初期投資が略無しでお店を貰えるという事になりませんか?」
破格の待遇に、思わず確認してしまった。
「利益の一部は徴収する予定だし、私達は最初だけ手伝えば後はずっと利益を得られるんだから損はしないのよ」
「全額回収には相応に時間が掛かると思いますが、逆に時間さえ掛ければ確実に投資を上回るので、問題ありません」
桜花様達は随分と先を考えている様だ。僕も見習わないといけない。
「後は建物の形状だけど、日本のスタンドと同じ形になるのかしら?」
「どんな店舗が必要か分からないと、建築費の試算もできませんからね」
「多分、そうだと思いますが、僕も現物は見ていないので断言はできません」
現物は未だ出来ていないので、当然僕も見た事は無い。
「だったら四狼は早めに形状を確認して、どんな建物が必要か、報告をお願い」
「できれば簡単な整備ができる場所も付けたいですね。車輪等の消耗品も売れると助かります」
関連商品も販売できればお店だけでなく、お客も面倒がなくて良いかもしれない。
折角だから魔道車自体も販売できないかな?
「そうね、整備もするなら待ち時間を潰せる様、上の階を作ってそのまま商店にしても面白いわね」
「だったら車の本体の展示もしてしまいましょう。既に持っている富裕層なら、買い替えや追加購入も見込めます」
どうやら二人も同じ方向に考えていた様だ。
だったら店舗の形状は、車用品店とスタンドを足した感じが良いのかもしれない。
「では、そういう方向で話を持って行ってみます」
「四狼殿にはそのまま皆の中継ぎをお願いします。勿論配当は四狼殿にも分配しますから安心して下さい」
「僕は直接何も出していないのですが、配当まで貰っても良いのですか?」
「何を言っているのよ。そもそも肝心な機材提供者と繋がっているのが四狼だけだもの、責任重大よ」
成程、直接紹介しろと言わない辺りが桜花様らしい。
「後は魔力の供給元になる魔石を、如何にかして安定的に手に入れるかよね」
「魔石は草薙商会が圧倒的に強いですからね」
そう言えば二人には魔力源を説明していなかった。
「魔力源には此方の魔血晶を使用しますから、問題ありません」
そう説明しながら、僕は無限倉庫から魔血晶を取り出して見せる。
「まだ新しい魔道具があるの?」
「魔道具ではありませんが、関連品ではありますね。これは魔物の血液から抽出した魔力を結晶化した物だそうです。魔石より体積比で劣りますが、一匹の魔物から複数個作れるので、魔物一匹辺りの魔力量を数倍に増やす事ができます」
「それって、更に魔力効率が上がるって事じゃない!」
「寧ろ魔石の価値まで変わってしまうかもしれません。此処迄も大事でしたが、最後に更に大きな爆弾を持ってきましたね」
二人は魔血晶を眺めながら、唸り始めた。
「一応補足しますが、既に藤邑商会で魔物の血液、略して魔血の買取を始める算段は付いていますので、新たに魔石を用意する必要は無いと思います」
「展開が早いわね。それで、魔血晶の事は藤邑商会長以外に知ってる人は居るの?」
「今は使用感を試して貰っている段階なので、恐らく何人かは知っていると思います」
「つまり、未だ販売はしてないのね。だったら暫く販売は控えて頂戴」
魔血晶の販売は何か問題が有るらしい。
「ここ数日、魔石の卸値が上がっていて、今は商業組合でその差額を埋めている状態なのよ」
「この状態で直接、魔石の代わりになる物が大量に販売されてしまうと、魔石の卸値が逆に下がり過ぎる可能性があります。そうなると魔石商が黙っていません」
「魔力スタンドや魔石柱なら問題無いのにですか?」
「魔力スタンドや魔石柱なら充填する入れ物扱いにできるし、普通は元になる魔力源は魔石だと考えるわ。だから魔石商もスタンドは魔石を買ってくれてる客という認識になるのよ。でも、そのまま代替え可能な魔血晶が大量に市場に流れると、スタンドや魔石柱の魔力源が魔石でない事が魔石商にも知られてしまうし、需要の減った魔石の価値が下がる可能性が高いわ」
どうやら桜花様達は、魔血晶の販売によって魔石の価値が変わる可能性を問題視している様だ。
しかし、魔力スタンドのおかげで既に此方の状況も変わっている。
「いえ、確かに当初は普通に販売する予定でしたが、スタンドの早期開店が突然決まった事で、暫く魔血晶はそちらの魔力源に回すので手一杯になりそうです。当面は直接販売する余裕は無さそうなので安心して下さい」
「そうですか、そいう事ならスタンド建設が違った方向でも役に立った様で。助かりました」
「魔石商は資金力がある分、何かと力を持った商会も多いから、例え王家といえど注意が必要なのよ」
「しかし、魔血晶のおかげで魔石商の顔色を見ずにスタンドが始められるのなら、最高の始業になりますね」
二人の懸念も払しょくされた様だ。
そして、帰りに藤邑商会に寄ってスタンドの事を伝える序でに、当面の魔血晶の販売停止も伝える様にと念を押された。
懸念事項が解決し、その後の話し合いで利益の配分を藤邑商会が五割、桜花様と平田さんと僕が一割、機材提供元が二割になりかけたが、直接何も出していない僕が桜花様達と同じだけ貰う訳にはいかないと、僕の分は二分にして貰い、余りは皆の配分に加算して貰った。
表向き、僕は只の連絡係なので、正直、これでも貰い過ぎなのだ。実際は裏では機材提供元の分も貰う事になるしね。
「思わず良い儲け話になったわね」
「はい、自走車の課題も解決し、魔力でも利益が得られる、正に一石二鳥の結果になりました」
「僕はこんなに頂いて良かったのでしょうか?」
「未だ言っているの? 私達に話を持って来たのは四狼なんだから、諦めなさい」
「四狼殿、最後にもう一つ、正式な店名を決めて下さい。この国ではスタンドと言っても、我々以外には通じませんから」
「そうね、四狼、気付いていると思うけど和富王国では片仮名を使用していないわ。理由は初代様が今の日本は外来語が多過ぎるってのを嫌がったのと、覚醒者の識別の為ね」
桜花様の説明によると、初代国王様は何でも横文字にする最近の日本の風潮に嫌気が差していたのと、覚醒者の炙り出しの為に、敢て片仮名を広めなかったのだそうだ。
確かに最近のテレビでは、やたらと片仮名言葉を使っていた気がする。
僕も、日本語じゃないから初めて聞いた時は、どういう意味が分からないと思った言葉が幾つかあったのを思い出す。
そして、片仮名を広めない事で逆に片仮名を使う者は日本語を知っている事になり、覚醒者だと判別する材料にしたそうだ。
覚醒者は国にとっては毒にも薬にもなるから、為政者として把握しておきたい気持ちも分かる。
「はは、僕も自走車の説明の時にタイヤとかハンドルって言ってしまったんですよね」
平田さんという実例が目の前に居たが、魔法少女に引っかかった僕も似た様なものだろう。
「それで、店名は何にするの?」
「そうですね、分かり易くするなら魔力供給所とか、魔力屋でしょうか?」
「その二つなら、お店なんだから魔力屋の方が分かり易いわね」
「ええ、魔石じゃなくて魔力にするのは分かり易いかもしれません」
「単純過ぎませんか?」
「誤解されるよりは良いわ。民衆には分かり易い位で丁度良いのよ」
こうして単純な名だが、魔力スタンド改め、魔力屋の開店が決定した。
「お、どうやら難しい商売の話が終わった様だぞ」
「桜花様や平田さんだけじゃなく、四狼君迄お金持ちになるなんて、羨ましいわ」
僕達が新事業の話で盛り上がっていて置いてきぼりだった楓さんは、翼さんに実戦魔術について聞いたりしていたのだが、爪太さんが話が着いたと判断したのを聞いて、愚痴って来る。
「強くて、格好良くて、お金持ちで、お姫様の婚約者、完璧な主人公?」
紅葉さんも、僕が貸した魔術書から顔を上げて僕を見て言う。
「いや、紅葉、その、婚約は未だ決定じゃなくて、四狼は未だ婚約者候補の一人だから!」
「決定でない? 四狼君の何処に不満が?」
「身分が高いと、逆に決まり事とか、制約とか、色々あるのよ!」
桜花様が焦った様に言うが、色々だけでは婚約が決定していない事以外、何も伝わらない。
「つまり、桜花様は四狼君以外の人との結婚も有り得る?」
「そ、そうね、未だ決定じゃないしね。四狼がどうしてもって言うなら、考えなくも無いけど」
桜花様も紅葉さんに乗せられてか、可笑しな事を口走っている事に気付いていない様だ。
「そう? だったら四狼君、もし桜花様に振られたら、私を四狼君のお嫁さんにして」
「なっ!? 何を言っているの!? 紅葉!」
「紅葉、本気なの?」
「桜花様の婚約者が四狼君以外に決まれば、四狼君はフリー、これだけの優良物件は早々居ないから、今から唾を付けておこうかと」
「確かに、正式な成人前にも関わらず近衛に勝てる武力と、魔力屋の今後の収入を考えると、結婚相手としては中々に優良ですね」
平田さんも何故か紅葉さんの言葉に納得して頷いている。
「二人共、ぶっちゃけ過ぎよ!」
あはは、行き成りの嫁候補宣言に驚いたが、確かに桜花様の言う通り、紅葉さんは少しぶっちゃけ過ぎだと思う。
それに、淡々と話す口調も相まって、何処まで本気なのかすら分からない。
「四狼君、私の事、考えておいてね」
「えっと、桜花様の婚約者が正式に決まってからでも遅くないでしょう?」
「うん、考えてくれるなら、それで良い」
「持てる男は辛いわね」
翼さんが面白そうに茶化してくるが、どうやら、最後の爆弾は紅葉さんだったらしい。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次は三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、今後も宜しくお願い致します。




