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エネルギー革命

お待たせいたしました。

ブックマークや評価、いいねをしてくれた方々、ありがとうございます。

ご期待に答えられているか分かりませんが、今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇九三 エネルギー革命



 平田自走車でも魔道車の研究・生産を進める事が決定した訳だが、平田自動車では肝心の発電機や電気発動機( )(モーター)等が作れないので、それらの部品は僕が供給する事になる。

 暫くは改良を加えながら錬成空間の複製でその場凌ぎをするしかないが、将来的にはそれらを作る魔道具を開発できれば、後は自動化という名の丸投げができそうだ。

 先ずは協力のお礼の意味も籠めて、解析用として魔道車を一台と主要部品を一束平田さんに渡しておく。


「新型の車を頂いてよろしいのですか?」

「サンプルが有った方が研究も捗るでしょう。部品も乗せてありますので存分に研究してみて下さい」


 四阿から少し離れた場所に無限倉庫から中型の魔道車を出して、鍵を平田さんに渡す。部品類は後部荷台に乗せてある。


「そういえば先程の車も異界から出していましたが、この車には異界防御が施されていないのですか?」

「異界防御、ですか?」

「ええ、異界収納に勝手に収納されるのを阻害する魔術付与です。これが付与されていないと一瞬目を離しただけで盗まれる可能性が有ります」


 確かに異界に物を仕舞うのは一瞬だし、異界持ちなら車程度の大きさの物でも半数以上の者は収納できる筈だ。確かに対策は必要かもしれない。

 かといって緋桜や町外用の試作車みたいに強制帰還の能力を持たせる訳にもいかない。

 あれは異界に収納された状態で発動させると収納している異界を破壊して戻って来る。壊された異界は容量が半分に減ってしまうそうだ。

 まあ、他人の物を盗もうとしたのだから多少痛い目に合っても自業自得なのだが、一般にも普及させるとなると事故が起きかねないし、何より素材費が跳ね上がる。

 安く車を作るのも僕が魔道車を作った理由の一つなので、それでは本末転倒だ。

 自走車と同じ対策をするのが手っ取り早いが、先日、王子達が孤児院周辺に駐車して邪魔になっていたのはこの機能の所為だろう。

 この様に、異界防御では駐車場の問題も出て来る。

 何にしても開発者は僕じゃないって事にしている以上、今直ぐ答えを出す訳にもいかないし、必要も無いだろう。

 今後の課題の一つに加える事にして、平田さんには開発者に伝えておきます、と答えを濁しておいた。


「車は高級魔道具ですからね、盗難対策は必須です」

「此方の国でもナンバーとかで管理はしていたと思いますが?」


 売るのは外国でも無いので、番号で管理してしまえば盗難車は直ぐに分かる筈だ。


「車体を登録されているのは盗人も承知しています。当然、そのままでは売れないので、分解して部品として売ります。絡繰り魂だけでも結構な値が付くんですよ」


 確か絡繰り魂は中型魔物の白魔石と聖銀を使っている為、材料費から高い。それを加工して付与するのだから自走車の部品で最も高くなるのは当然だ。


「魔道車は絡繰り魂を使っていないので、その分安くはなりますが、発電機や発動機は安くてもそれなりに需要は有りそうですね」


 尤も制御系は魔道車専用なので、当面は他の使い方ができないし、覚醒者であっても制御装置の製造は難しいだろう。

 電気の制御装置作るには錬成空間を使うか、その為の機材から作る必要が有る。

 そもそも錬成空間が使えるって事は複数の能力を相応に熟練度を上げなければならない。

 それ程優秀なら犯罪など侵さなくても仕事は幾らでもある。相当に敷居は高い筈だ。


「四狼君、魔力で電気が作れるなら、他にも電化製品ってないの?」


 楓さんは車の話に飽きたのか、他の電気式魔道具が気になる様だ。


「既に販売している物では焜炉や焼鍋、炊飯器でしょうか。今後は掃除機や洗濯機も予定しているそうです」

「新しい洗濯機も有るの?」

「洗濯機は大変だから私も欲しい。でも、魔道具は高いから無理」


 紅葉さんの言う様に、この国の機械的な魔道具は動力に絡繰り魂を使っている場合が多く、その為かなり高価だ。


「絡繰り魂は高いですからね。自走車に使っている絡繰り魂も仕入れ値で四十両以上しますから仕方がありません」


 平田さんの補足によると、本来の目的である絡繰り製造以外に回せる数には限りがある。

 他の製造業では相応に数が絞られているとの事だ。

 絡繰り魂は材料的にも元から数が出せない物だし、国からの補助で優先購入している平田自動車ですらこの値段だ。


 更に、部品に絡繰り魂を使わなくても、付与には魔導金属か宝石が必要なので、魔道具が基本的に高くなるのは仕方が無い。

 例外として水晶は日本より遥かに安いので、水晶を使った明かりの魔道具の様に安い物は僅かだが存在する。しかし、これは明かりの魔術が単純な魔術だからだ付与の手間賃も安く抑えられる為だ。

 高度な魔術を付与するには相応の熟練度か、やはり高価な宝石が必要になる分、高くなる。

 魔道車の制御系も水晶を複数使う事で効果の割に、かなり安価に作れているが、それは僕の熟練度が高いからに他ならない。


 そして本題の洗濯機も手動の物なら魔道具ではないので比較的安いが、手回しなので手洗いよりましとはいえ、結構な重労働だ。

 絡繰り人形に回させている者も居る様だが、魔道具の洗濯機よりも絡繰り人形の方が高いので、初めから絡繰り人形を持って居る事が前提になる。

 僕の用意する発電機と発動機の組み合わせはそんな業界にとって良い推進剤になってくれる筈だ。


「試作機で良ければ差し上げます。その代わりに使い勝手など、感想や要望を聞かせて下さい。製品版の参考にするそうです」

「洗濯は大変だもの、試作機でも洗濯機が貰えるなら感想くらい幾らでも言ってあげるわよ」

「感謝」

「翼さんも良かったらお渡ししますので、感想をお願いします」

「あら、私も良いの? 有難う。今は良いけど冬場は水が冷たくて大変なのよ、助かるわ」

「翼が喜ぶなら俺も嬉しいが、魔道具なんて高価な物を貰っても良いのか?」

「試作機なので、今は知人に配って試験を頼んでいるんですよ。製品版はより良い物で出したいそうです」


 嬉しそうに答える楓さんと翼さんに、無限倉庫から取り出した日本の家電に近付けた洗濯機を渡した。


「私が貰った物とは違うのね」

「ええ、桜花様に渡した物は厳密には洗濯機じゃありませんし、犯罪の証拠隠滅にも使えそうだったので販売は中止して、従来の洗濯機を用意したそうです」

「そっかー、一瞬で終わって便利だったのに、悪用される可能性があるんじゃ仕方ないわね」

「そういう部分も含めて、試験が必要なのだそうです」

「そうね、危険な物を広められても困るものね。試験は大事だわ」

「一瞬で洗濯が終わる? 悪用? 危険? いえ、何にしてもこれで大変な洗濯から解放されるのね」


 楓さんは桜花様の自分の物と違うという言葉に一瞬反応したが、犯罪とか危険と聞いて話を逸らした。知らなくて良い事には関わらない方が良いと判断したのだろう。賢明な判断だ。


「しかし、こうして電化製品が増えて来ると、先程四狼殿が言っていた魔力スタンドが早々に必要になりますね」

「そうね、後から仕様の変更をするより、初めから対応させた方が効率も良いわ」

「確かに、家電は兎も角、車の動力源を後から変更するのは面倒ですね。四狼殿、魔力スタンドを作るには何が必要になるのでしょう? 僕にできる事があるのなら協力しますので、早急に進めましょう」


 桜花様と平田さんが魔力スタンドに乗り気になっている。

 必要な物はそれ程多くは無い。要は充填機さえあれば、後は設置する土地や店舗、従業員くらいだろう。


「店舗が必要なら、僕の店に設置して頂いても構いませんよ」

「待て幻奉、土地は私が用意するから私にも一枚噛ませなさい」

「桜花様にも分かりましたか?」

「当然じゃ」

「はい、これはお金になります」

「お主も悪よのう」

「いえいえ、桜花様にはかないません」

「あはははっ」

「ふふふっ」


 何やら二人が小芝居を始めて笑い出した。


「桜花様達、なんか楽しそうよね」

「うん、お金が儲かるのが楽しいのは分かる」


 森永姉妹は若干呆れ顔だ。


「この台詞、一度は言ってみたかったのよね」

「はい、小芝居と分かっているから余計に楽しいですね」


 僕も森永姉妹の様に若干呆れているが、楽しそうな二人が少し羨ましかったので突っ込んでおく。


「一応、突っ込みますが、悪い事をする予定は有りませんよ」

「分かってるって。只の乗りよ」


 桜花様は悪びれる事も無く話す。


「それにしても、只のスタンドが桜花様が喜ぶ程の儲けになるの?」


 楓さんには、桜花様達が話す利益が分からなかったらしい。


「この世界の動力は地球と同じ物だと風力と水力が単純で作り易いのもあって、それなりに利用されているのだけど、電気を作るのは勿論、溜めておくのもこの世界では地球より難しいから、殆ど使われていなかったのよ」

「桜花様の仰る通り、電気の扱いには専門知識が必要ですが、魔道具の製作には付与の魔道具が有れば自分の能力や魔術を付与するだけで簡単に作れてしまいます。自分の使える能力や魔術にどんな効果が有るかは、使えている時点で分かっていますからね」

「魔道具の動力にも、魔物を倒すだけで手に入る魔石は天然の電池の様に使えたし、明かりの様な簡単な魔道具なら魔石を使わなくても自分の呪力だけで使えるから、電池そのものの需要は無かったのよ」

「しかし、魔道具で電気を作って動作させた方が効率が良いと成れば話が変わってきます。その場で電気を作れれば溜める必要が無いのですから、敷居もかなり下がるでしょう」

「それって、家電が今後は増えるって事?」


 桜花様と平田さん、二人が狩りの説明に楓さんも状況が分かってきた様なので、僕の予想する将来像も説明する。


「一般にも電気に対する理解が深まれば、個々の魔道具から発電機を外して一台の発電機を共有する事ができます。そうなれば電気式の魔道具の大半は只の電化製品になります」

「発電機を共有できるのなら、其々の機器の価格も抑える事ができそうね」

「発電機自体はそれ程高くありませんし、地球の様な大量生産もしないので個々の値段は地球より割高になりますが、今よりは安くできると思います」

「電化製品は付与に頼らずに作れますから、能力や魔術を使えない者でも電気の仕組みを理解する事で作れる様になります。新しい技術者が増えれば楓さんの仰る通り、新たな電化製品も増えるでしょう」


 桜花様と平田さんも更に追随してくれる。


「凄い大事になってる気がする」

「間違いなくこれは大事よ。私達が聞いてて良いのかしら」


 紅葉さんや翼さんも事態が飲み込めて来た様だ。


「当然よ。今までの魔道具の一部でも家電に置き換えられれば高価な魔道素材を使わずに済むし、絡繰り魂も従来通り絡繰りに使えるわ。絡繰りが増えれば単純作業を任せられるし、魔力の効率が上がればできる事も増えるもの、これはエネルギー革命と産業革命が一度に来た様な事なのよ」

「「おおーっ」」


 桜花様が革命とか、大仰すぎる言い分で宣言する様に答え、森永姉妹も大袈裟に反応する。

 皆、乗りが良いなと思いながらも、そんな桜花様を見て僕の作る国の形が見えてきた様な気がした。


 そんな不思議な盛り上がりを見せていると、三人の女中がやって来て桜花様に告げる。


「姫様、食事の準備が整いました。何時でもお申し付け下さい」

「丁度良いのじゃ。話が興に乗り過ぎて皆も興奮しておる。此処で食事を挟んで気分を落ち着かせるのじゃ」


 桜花様の直ぐに食事をとの指示に、声を掛けた女中が異界から作業台を出し、料理も次々と取り出す。

 その料理を他の二人の女中が皆の前に配膳する。

 どうやら昼食の献立はお寿司の様だ。

 配膳を終えた女中達は四阿の隣の控えに待機する。


「足りなければ女中を呼んで追加を頼むと良い。遠慮は無用じゃ」

「「「頂きます」」」


 皆が配られたお寿司を味わう。日本のお寿司とは違うが、これはこれで美味い。


「何時もお寿司を食べる度に、私の知ってるお寿司とは違うって思うんだけど、これはこれで美味しいのが、なんか負けた気分になるわ」

「仕方がありませんよ。この世界では生の肉は魚であっても食べられませんからね」


 楓さんも僕と似た事を考えていた様だが、楓さんは何と勝負をしているのだろう? そして、平田さんの言う様に、この世界では野菜ですら危険な菌が居るので火を通さないと食べられない。

 当然、獣肉や魚肉にも多くの菌だけでなく、更に寄生虫まで居たりするので、生肉は当然食べられない。よって、寿司に乗っているのは火を通した魚や肉が基本になる。

 日本と同じお寿司といえば稲荷寿司や納豆巻、そして卵のにぎりくらいだろうか。


「お城の料理なんてこんな時しか食べられない。文句を言わずに味わうのが良。それに、これはこれで新感覚」

「気持ちは分かる。確かに美味いんだけど前世で本物を知っていると、外国でお寿司を喰ってる気がして、コレジャナイ感が半端ないんだよな」


 紅葉さんは自己を崩さず素直に料理を味わっているが、爪太さんも上手いと言いつつ表情は微妙だ。


「確かに気持ちは分かるけど、美味しければ良いじゃない」


 翼さんは目玉の様な卵が乗った軍艦巻きを口に運びつつ言うが、あれはいくらの様な物だ。

 直径二センチ程の魚卵を茹でてあるのだが、一点を除いて白くなった姿は小さな目玉にしか見えず、僕は少し苦手だったりする。


「あら、四狼が好き嫌いなんて珍しいわね」

「どうも前世からいくらは苦手だった様なのですが、此方の物は更に見た目も苦手でして」

「食べれないなら私が貰ってあげるわ」


 代わりに食べてくれるという桜花様に皿を差し出し、いくらを譲った。

 前世の苦手を引きずる事も有るのだろうか?


「この程度、気にしなければ美味しく食べられるわよ。地球にだって酢飯にバナナを乗せてチョコレートを掛けた寿司があるらしいし、甘い寿司よりは全然真面と思うわ」


 確かにチョコバナナだけなら美味しそうだが、ご飯に合うとは思えない。

 尤もこの国ではカカオは未だ見付かっていないし、正確な調理法も分からないから試す事もできないと思っていたのだが。


『お試しならできるのですよ。無限倉庫には地球の料理も大半は有るので、当然チョコバナナ寿司もあるのですよ』


 僕は月詠の言葉を正確に理解し、分体一号に『無限倉庫に日本の寿司が有る』と念話を送ると、短く『了』とだけ返事が返って来た。

 後は任せれば良い。明日の朝には自動的に統合された記憶で僕も堪能できるのだから。

 今は目の前に並ぶ焼鮪や焼鮭、蒸し海老に焼鯨など、前世とは違っていても折角の異世界だ、此方の国の色々な美味しい料理を楽しもう。




読んで下さった方々、有難う御座います。

次も三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、今後も宜しくお願い致します。

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