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魔道車

大変お待たせいたしました。

年末年始からトラブル続きでして……。

今更ですが本年もよろしくお願いいたします。

遅くなりましたが、今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇九二 魔道車



「皆さん、僕だけ置いてきぼりなんて酷いですよ」

「一応、声は掛けたぞ。図面に夢中になってて気付かなかったのは幻奉の方だ」


 平田さんの苦情に、爪太さんが反論する。


「それは仕方が有りません。誰だって新しい図面を見せられたら周りが気にならなくなりますよ」

「それは幻奉だけよ」


 桜花様の指摘に皆が頷く。


「と、処で皆さんは此方(こちら)で何をしていたのでしょう?」


 味方が居ない事に気付いた平田さんが話題を変えたので、経緯を説明する。


「成程、魔術の話でしたら僕にもできます。僕のお勧めは予め弾を用意しておく事です」


 そう言って平田さんは魔術で奥の壁前に土杭を作り、異界収納から石製の短い投擲矢を取り出して念動で飛ばし、杭に当てて見せる。


「その場で弾を作らない分、呪力を節約できますし、弾の形にも拘れるので威力や精度も上がります。加速門を通せば小型の魔物になら十分使える筈です」


 自信ありげに話すだけあって、平田さんの飛ばした矢は森永姉妹の礫の五割増しの速度で飛び、矢の重量や形状の効果で二倍以上の威力がありそうだ。


「幻奉が攻撃魔術を使うなんて以外ね」

「桜花様、僕が使ったのは只の念動の術で、実は攻撃魔術ではないのですよ」


 通常の攻撃魔術は弾の生成後、弾の属性に合わせた属性操作と念動によって自動射出するが、平田さんは念動だけで矢を投擲したに過ぎない。

 森永姉妹より威力があるのは単純に、位階と言霊術の熟練度が高いからだ。


「形式など実戦には関係ない。素早い攻撃には弾の事前準備は有効だ」


 平田さんの謙遜を爪太さんが否定する。

 森永姉妹も有効性を見出したのか平田さんに投擲矢を見せて貰い、矢の形状を確認している。


「ダーツの矢より少し大きいわね」

「前と後ろで重さも違う」

「矢を作る時も素材を用意しておくと、必要な呪力が抑えられますよ」


 平田さんが森永姉妹に矢作りのコツを教えている。

 その間に僕は土壁や壊れた像の痕跡を崩して元に戻しておいた。


「幻奉、話し込むなら四阿(あずまや)に戻って座ってからにしないか?」

「ええ、ですがその前に、四狼殿、この設計図の車の現物は持って来ていないのですか? 丁度広い場所に居るので、できれば試乗をお願いしたいのです」

「今日はその車に乗って来たので勿論ありますが、桜花様が練習場で走らせて良いというなら、僕は構いません」

「構わんぞ。私も見てみたい」


 桜花様に練習場で車を走らせる許可を貰うと、無限倉庫から小型魔道車を取り出し、操縦方法を教える。


「やはり設計図の通り、アクセルとブレーキが逆で随分離れているのですね」

「踏み間違い防止の為に離して両足操作にしたそうですが、効果の程は今後の情報収集待ちになるそうです」


 平田さんは自走車との違いが気になる様だ。


「これが新しい車?」

「自走車より小さいな」

「軽四みたいね」


 翼さん、爪太さん、楓さんと一言感想を口にすると、平田さんが魔道車に乗って練習場をぐるぐる回り出した。


「私も運転してみたい」

「紅葉が運転するなら私も!」

「二人が運転するのなら、私が遠慮する理由は無いわね」

「皆が試乗するなら私達もやっておきましょう」

「え、俺も運転するのか?」


 それを見ていた皆も運転してみたいという事なので順番に練習場を一人四周ずつすると試乗会を終え、四阿に戻りながら感想を口にする。


「車の運転なんて前世以来だったけど、やってみると何とかなるものね」

「いや、俺は前世で車の免許は持って居なかった筈だから、今日が初めてだ」

「その割にはちゃんと運転できてたけど、オートマなんて足が届けば子供でも運転できそうだしね」


 桜花様は懐かしそうに語り、爪太さんは意外にも免許を持って居なかったそうだ。

 しかし、翼さんの言う通りオートマに近く、クラッチが無いのでゲーム感覚で操縦はできる。


「しかし、オートマ仕様の割に今回は使いませんでしたが、しっかり変速はあるんですよね」

「あれは変速というより、其々の段階で最高速度が制限される仕組みなので、何方かというと速度制限装置になるそうです」


 平田さんの疑問に答え、一速から五速で其々最高速度を八・十六・三十二・六十四キロ・無制限に設定させていると詳細を説明する。

 一速から運転すればロケット発進もしない筈だし、速度超過も故意でなければできない仕組みだ。


「面白い発想ですね」

「効果が有ると良いのだけど」


 楽観的な平田さんに対し、桜花様は現実的だ。

 四阿に着き、各自が席に座ると具体的な魔道車の感想を聞く。


「自走車よりも加速が滑らかで、随分と乗り心地が良かったわね」

「うん、前世の車より座り心地が良かった気がするわ」

「良い車だった。次はもっと早く走らせてみたい」

「私も少し欲しくなったけど、自走車って確か魔石を馬鹿食いするのよね。本体も高いし、お金が掛かり過ぎて私には無理だわ」


 十代組は素直に魔道車を気に入った様だが、翼さんは車体の値段や維持費も考えて答える。


「翼の言う通り、自走車は魔石消費が激しくて、私のだと小鬼の魔石一つで四里(十六キロ)走れば良い所かしら」

「車が有ると便利そうだけど、それって燃費? が悪いの?」

「楓さん、桜花様の自走車は多機能高防御の高級車です。その分、多くの魔力を消費してしまうのです。魔力消費軽減を重視した乗合だと倍は走ります」


 平田さんが桜花様の自走車の魔石費が悪い理由を語る。


「小鬼の魔石の市場価格は一つ一分ぐらいですから、一文二十円で計算すると千二百八十円。ガソリン一リットル百六十円で考えると、桜花様の自走車は一リットル分の料金で二キロしか走れない計算になりますね」

「リッター二キロ!?」

「それは最悪」

「やっぱり私には無理だわ」


 僕の試算に皆が高過ぎると声を上げる。


「そこまで悪いと多少の距離なら走った方が良いな」


 爪太さんの感想に僕と翼さんだけが頷く。どうやら術師組は走るのも嫌らしい。


「そこで僕の乗って来た車です。これを作った方の言い分では、自走車は魔力効率が悪いから作ってみた。だそうです」

「これは耳に痛い話ですね。確かに僕には日本製の様な高性能なエンジンは作れませんし、そもそもガソリンが有りません。あっても地球程の値段に下がる保証も有りません」


 ガソリン価格は採れる原油量次第だが、和富王国では原油が見付かっていない以上、価格の想定もできない。


「それで、四狼君の車はどの位走れるの?」

「今は未だ試作段階なので魔石柱を使っている為、四千キロ以上走れますが、魔石柱は一つ一両で販売していますから、そのままガソリン価格で換算するとリッター八キロといった処です。魔石柱は魔力を充填して繰り返し使えるので次からはもう少し改善します。小型の魔石柱を車体埋め込み型にして、魔力を直接充填する形にできれば価格は一気に抑えられるのですが、当然、充填するスタンドの様な設備が必要になるので時間が掛かります」


 魔石柱は素材に少量だが聖銀を使っている為、どうしても材料費が高くなってしまう。実際、こんなに走行距離も要らないし、容量を抑えて車体に埋め込めれば魔力の充填だけで済み、費用も抑えられる筈だ。


「まあまあの効果ね。同じ魔石費で私の自走車の四倍以上走れるなら上出来じゃない」

「魔石柱は素材費以外にも、他の魔道具との折り合いもある為、若干高めの設定にしているんです。魔力充填が簡単にできる様になれば充填費用だけで済むので、長く使えばどんどんお得になる予定です」

「金額で見れば乗合の倍程度ですから、効率を考えて作った割に差が少ないですね。もしかして魔力量で比べると違うのではないですか?」


 流石、平田さんは技術的な事が分かっている。効率改善の為に作りながら然程変わっていない筈が無いと指摘する。


「平田さんの仰るです。魔石柱の魔力量は小鬼の魔石とほぼ同じなので、魔力量で比べると、二百五十倍程走れる事になります」

「二百五十倍!?」

「それは凄すぎだろ」

「今後、直接充填で更に価格も抑えられるのなら、将来的には有りかもしれないわね」


 どこまで本気か分からないが、翼さんも乗り気になってきている。


「それだけの効率を出せる秘密は、動力を電気にした事と関係があるのですか?」

「ええ、魔力や呪力で物質を生成する時の難易度は何が原因で変わるか、ご存じですか?」

「勿論です。生成する物質の質量が大きい程、難易度や消費呪力が増えるとされています。ああ、成程、だから電気なのですね」

「えー平田さん、理由が分かったのなら私にも教えて下さいよ」

「詳細を求む」


 平田さんは自己解決してしまったが、魔術の話だからと興味深く聞いていた森永姉妹は分からなかった様だ。


「そうですね、簡単に説明すると魔術で物質を生成する場合、単純に重い物程必要な熟練度や消費呪力が増えるのですが、電子は原子より軽いので、呪力や魔力の消費を抑える事ができるという事です」

「それって逆に考えると、重い物も熟練度が上がれば作れるって事よね? 言霊術の熟練度を上げると何時かは金とかも作れるの?」

「不可能とは言いませんが、成功例は無かった筈です。仮に出来るとしても、どれだけの熟練度と呪力を必要とするか。一般的に魔術で作り出せる最高質量物は鉄とされています」

「それは残念」


 通常の物質の生成については問題無いが、金には更に補足が必要だ。


「質量以外にも、魔導金属は難易度が跳ね上がるそうです。つまり、金も魔導金属なので、通常物質より更に高位の熟練度が必要な筈です。恐らく消費呪力も通常の人類には不可能に近いと思います。更にもう一つ付け加えると、周囲に多い物質程、生成難易度が下がるというのが、比較的簡単に水を生成できる理由だそうです」

「成程、魔術を使える者は水程度でしたら大抵の者が作り出せますが、それより軽い筈のリチウムを作ったという話は聞きません。その理由は水が周囲に大量に存在しているからだったのですね」

「それで、結局金は作れないの?」

「そうですね、出来たとしても膨大な呪力や魔力を消費するので、小片一つで魔石を大量に消費する事になります。百万両使って一両を作る様なものですね」

「大損じゃない!」

「無意味」


 平田さんの説明に楓さんは大きな声で、紅葉さんは興味を無くした様に答えた。


「とても為になるお話でしたが、何処からそんな情報を?」


 平田さんの疑問に、僕は無限倉庫から中級の魔導書を一冊取り出して渡す。


「魔道車を作った方から借りた本です。自走車を作った平田さんになら貸しても問題無いでしょう。後で読んでみて下さい」

「おお、見た事の無い魔導書ですか、有難うございます」

「四狼君、私達には無いの?」


 森永姉妹も魔導書に興味がある様だ。


「お二人には未だ早い本です。此方で我慢して下さい」


 森永姉妹には初級の魔導書を渡しておく。


「やったー、言ってみるものね」

「ありがと」


 楓さんに続いて紅葉さんも礼を言ってくれた。


「車の事に話を戻しますが、僕に設計図を渡したという事は、僕にもこの電気自動車を作れという事なのでしょうか?」

「勿論、作れと命令する心算は有りませんが、良かったら平田さんにも作って貰えると助かります。一応、補足しますが、電気そのものを溜めている訳じゃないので、この場合は燃料電池車に近い、魔道電池車になります。僕達は分かり易く電気魔道車、略して魔道車と呼んでいます」


 僕一人で魔道車を普及させるのは大変だ。動力以外に類似点の多い自走車を既に開発している平田さんに協力を頼んだ方が手っ取り早いだろう。

 そして電気に馴染みのないこの国の人には、魔力で動くとした方が理解が早い。


「正直、設計図の車が発売されれば走行距離の差で自走車の価値は落ちるでしょう。商売を考えるなら、僕に知らせずに販売してしまえば自動的に市場が手に入った筈です。僕が作って四狼殿が助かる理屈が分かりません」


 商売だけを考えれば平田さんの言い分は正しいのだろう。だけど、僕の目的は自分でも自由に乗れる車が欲しいだけだ。同じ覚醒者でもある平田さんの商売を邪魔する事じゃない。魔道車だけに構っても居られないからね。それに。


「独占販売は確かに相応の利益を得る事ができますが、競争が無いと進化も遅くなります。魂の功績を上げる為にも競走した方が良いとの事です。それに、平田さんが作れない部品を納入するだけでも十分な利益が見込めるそうです」


 車にも色々選択肢が有った方が購入者も選び易いし、僕の特別仕様車も目立ち難くなる。

 それに車全体を作らなくても部品だけ売っても儲かるのだし、平田さんが作った車が売れても特許料が入るので僕に損は無い。

 そもそも元から利益は余り考えていないから、それでも十分なのだ。


「確かに、僕達には発電の魔道具やモータは未だ作れませんね。それに魂の功績ですか、覚醒者が尤も重視するべき事も考えられているのなら、僕に拒否する理由もありません。ご協力させて下さい」


 こうして平田さんも魔道車を作ってくれる事が決まった。



読んで下さった方々、有難う御座います。

今年の目標は更新速度を上げる事です(宣言して追い込む作戦)

次は三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、本年も宜しくお願い致します。

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