瞬殺
大変お待たせいたしました。
ブックマークをして下さった方、有難う御座います。
遂に三桁です。次は四桁目指して頑張ります。
遅くなりましたが、今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。
〇九一 瞬殺
僕達は四阿の隣に隣接している、桜花様専用の演習場に移動する。
其処は約十八メートル四方の空地で、奥の方には流れ弾を防ぐL字の壁が有った。
「勝負は何方かの背か膝が地面に着くか、負けを認めた時点で敗北という事で良いですか?」
「ええ、それで構いません」
終了の条件を決めると、僕と翼さんは中央で二間(約3.6メートル)程の距離を開けて向かい合う。
翼さんは異界収納から小太刀を二振り取り出し、両手に構えた。
僕も無限倉庫から痛撃の不傷太刀を取り出して構える。
「桜花様、開始の合図だけ、お願いします」
「うむ、双方準備は良いな。では、始め!」
桜花様の合図と共に、僕は強度六で翼さんを威圧する。
翼さんが僕の威圧に身体を強張らせた処に瞬動で飛び込み、鳩尾に不傷刀を突き立てると、不傷刀は翼さんの身体を貫通して背中から切っ先が飛び出した。
「つ、翼っ!」
僕は不傷刀を少し下に下ろしながら引き斬る様に抜くと、今度は臍の高さで真横に斬り、一旦後ろに飛び退いた。真剣だったら上半身と下半身に真っ二つだ。
「つ、翼っ! 桜花様、離して下さい! 翼がっ!」
「落ち着け爪太、四狼の武器は特殊な木刀じゃ! そもそも木刀に刃は付いておらぬ!」
見学している者達が騒がしいが、僕は翼さんから目は離さない。未だ敗北宣言は聞いていないからだ。
「翼さん、まだ続けますか?」
「これは? 痛みは有るけど血は出ていない。斬られた筈じゃあ?」
「木刀で人が斬れる訳がないじゃないですか。この木刀は|生物に傷を付けずに、強い痛みだけを与える、訓練用の魔道具です」
「そうですか、普段からそんな魔道具まで使って実戦を模した訓練をしているのなら、覚醒で増えた能力だけじゃない強さにも納得だわ。文字通り手も足も出なかったし、もう十分過ぎるくらいに四狼君が強い事は分かったから、降参するわ」
翼さんが負けを認めた事で試合を終了する。
僕達が武器を異界に収納した事で、試合の終了を知った爪太さんが翼さんに駆け寄る。
「翼、怪我は大丈夫か?」
「まだ少し痛むけど、怪我はしてないわ」
「しかし、木刀とはいえ、身体を貫かれたのだぞ」
「だから言ったでしょ。あの木刀で刺されても怪我はしないって。私も前に刺されたけど何とも無かったって」
若干呆れ顔の桜花様も、此方に来て説明を続ける。
「そう言われても目の前で妻が身体を貫かれて、冷静でなどいられませんよ」
「はいはい、愛情深いのは爪太の美点でもあるけど、戦場ではもっと冷静に行動しなさい」
「そうよ、私の身を案じてくれるのは嬉しいけど、幸いこの世界では生きてさえいれば大抵の怪我は治せるんだから、危険な時程冷静な行動が大事よ」
「そうは言ってもよ……」
爪太さんは心配していた翼さん本人にまで責められて、たじたじになっているのが少し可哀そうだ。
そんな大人達の反応を気にせず森永姉妹もやって来る。
「成人前なのに、武士の中でもエリートの近衛に勝っちゃうなんて、四狼君は凄く強いのね」
「称賛に値する」
楓さんは少し驚きながら、紅葉さんは率直に褒めてくれた。
「ありがとうございます」
「そんな武術の得意な四狼君は魔術の腕も相当なもので、桜花様が魔術を使える様になったのも四狼君の指導のおかげだって聞いたんだけど、私達にも何か助言とか貰えると助かるんだけど、お願いできないかしら」
「私達も直接戦えれば良いけど、翼さんを瞬殺できる相手では勝負にならない」
「一応訂正しておきますが、翼さんは死んでいませんからね! あそこで元気に爪太さんと言い合ってますからっ!」
僕は、しつこいと爪太さんが翼さんに殴られているのを差して説明する。
「夫婦漫才はほっといて、私達も強くなりたいから、足りないものを教えて欲しいの」
この世界の者は魔物蔓延る世界とはいえ、本当に強さを得るのに積極的だ。
強さも功績になるうえ、安全や生活水準の向上にと、有って困るものじゃないから当然なのかもしれない。
勿論、同じ覚醒者として協力するのも吝かではない。
「今は時間が限られてますから、少しだけなら構いません。先ずはお二人の実力を見せて下さい」
現在の実力が分からないと、助言も何もない。
僕は奥の壁の手前に術で土壁を作り、更にその前に身長四十センチ程の小鬼の像を、土・石・鉄で三つ作り出す。
「こんなに簡単に像を!?」
「壁の生成も早い!」
驚く二人を促して反対側の端に移動する。
「此処からあの像を魔術で攻撃してみて下さい」
「分かったけど、小鬼ってあんなに小さかったかしら?」
「実際の小鬼はあれより三~四倍大きいですが、距離が近いので小さめに作ってあります。実戦ではこんなに近くから魔術を使うのは、近接もできる武士くらいですからね」
「確かに近いわね」
十メートル強程度の距離では、近付きながら呪力の刃を飛ばしたり伸ばしたりすれば一瞬だ。
納得した楓さんは、石礫の術で直径三センチ程の礫を射出して小鬼像を攻撃する。
少し時間を掛けて狙った成果か全弾命中し、土像は当たった部分が大きく崩れ、石像は少し砕けたが、鉄像は少し傷が付いただけだ。
像を作り直して今度は紅葉さんにも挑戦して貰うが、紅葉さんは一度に八発の礫を飛ばす、昨日三琅兄上が灰色狼に使った八咲と同系統の、文字通り八発という術で像を攻撃していた。
礫の大きさが小さくなる分、一発の威力は単発の石礫に劣るが、八発同時に打ち込む為、当たった数だけ標的の損傷は増える。
今回も各像で二~三発ずつ外しているが、土像も石像もバラバラで、鉄像も一部が拉げている。
「言われた通りに攻撃してみたけど、どうかしら?」
「若干速度が遅いですが、威力そのものは悪くありません。命中率も一見高そうに見えますが、術の発動に時間が掛かり過ぎです。あれでは動いている標的に当てるのは厳しいかもしれません」
「う、四狼君も先輩達と同じ意見なのね」
「先輩達はとにかく数を熟せとしか言ってくれない。もっと具体的な改善策を求む」
その先輩方の言っている事は間違ってはいない。武術も魔術も基本は反復練習だ。
但し、課題が見えているのなら、そこを集中的に鍛えるのもありだと思う。
「そうですね、術の発動速度を上げるのに解り易い方法としては呪力操作を鍛える事ですが、最も効果が有るのは使う術への理解を深める事です」
「理解?」
「ええ、その術がどんな過程で発生しているかの仕組みや効果を把握する事で、術の精度が上がるそうです」
「何だか難しそうね」
楓さんは顔を顰めて考え込む。
「難しく考える必要はありません。例えば、火が何故燃えるのかは前世の知識で僕達は知っています。それだけでも火が燃える仕組みを知らない人より理解が深まっているので、術の精度も上がっているそうです」
「興味深い。続けて欲しい」
紅葉さんは更に詳しい方法をと望んだので、燃焼の要素を話してから続ける。
「しかし、燃焼の仕組みを知らない人でも火、そのものは知っているので火を出現させる事ができますが、実は無理やり現象を起こしているので過程が無い分、呪力効率が下がっているそうです。つまり、結果さえ知っていれば、呪力で無理矢理再現できるという事にもなります」
「私を抜きに、何だか面白そうな話をしているじゃない。私にも聞かせなさい」
どうやら翼さんと共に爪太さんを宥めていた桜花様も話に加わるそうだ。後ろには鷹野夫妻も付いてきている。
「要は上級術者の術を良く見て、再現を試みるのも上達の早道になるかもしれない、という話です」
「つまり、上手い術者の真似をするのが良いの?」
「結局反復練習」
紅葉さんは残念そうだが、流石に練習は必要だ。発動速度や精度は結局は慣れの部分が大きいのだから。但し、最初の水準を上げる事は可能だ。
「そうですね、無理矢理な方法も無くは無いです」
「教えて」
「位階を上げましょう。位階が上がれば呪力も上がりますから、必然的に速度や精度も上がります」
「結局、繰り返し練習じゃない」
「もう少し、変化が欲しい」
「二人共我儘ねぇ。修行って、そういうものよ」
「そうだ、少しずつ成長していくのが楽しいんじゃないか!」
鷹野夫妻は武闘派なのもあってか、どうやら体育会系らしい。
「脳筋夫婦はほっといて、何か無いの?」
「誰が脳筋夫婦よ!」
「こら、詰らない事で言い争わない!」
言い合う楓さんと翼さんを止めようと、桜花様迄混じって声を上げる。
「楓は何時も一言多い。四狼君、楽に位階を上げる方法は無いの?」
騒がしい中、紅葉さんはマイペースを崩さない。
「楽ではありませんが、早く位階を上げるには実戦を経験する事が一番ですね。勿論、命の危険がありますから、相応の覚悟が必要ですが」
「危ないのは嫌。この世界にパワーレベリングとかは無いの?」
紅葉さんは、とことん楽がしたい様だ。
「できなくは有りませんが、普通は相当にお金が掛かります。それならより良い装備に回した方が、長く使えてお得ですよ」
パワーレベリングには優秀な護衛が必要だ。雇うには当然、一回だけでも相応のお金も掛かるが、効果は僅かで金額に釣り合うとは思えない。余程お金に余裕がある富豪でもないと割に合わないだろう。一般人なら装備を整えた方が長く使える分お得だ。
「お金は余り無い」
「でしたら集団狩猟の採取に参加すると良いです。術師なら直ぐに仲間も集められるでしょうし、仲間が揃えば狩りにも参加できるので、協力して位階を上げつつ、お金も稼げます」
僕は田中さんに薦めたのと同じ様に、正当路線の提案を紅葉さんにもしてみた。
「四狼君は仲間になってくれないの?」
確かに、今の僕が仲間に入れば早々危険な事にはならないだろう。
しかし、今の僕達の狩りは桜花様を中心に考えている。
「そうですね、最近の僕の狩りには桜花様も連れて行っていますから、桜花様の許可が得られれば、お二人でも活躍できる狩り限定で、同行しても構いません」
「活躍できる狩り?」
「桜花様でもぎりぎりの強い獲物を狩る場合は、お二人ではお荷物にしかなりません」
「それは仕方ない。当然の判断」
どうせ次の狩りは小鬼を標的にする心算だったのだし、小鬼なら森永姉妹でも問題無いだろう。
騒いでいた楓さん達の騒動も収まり、話に加わった桜花様にも許可を取った。
「え、私達も狩りに行くの?」
「今決まった」
楓さんは知らない内に狩りに同行する事が勝手に決められ、困惑している。
「それなりに危険が伴いますから、嫌なら断っても構いませんよ」
「いえ、折角の機会だもの、参加するわよ。それに、私だけ除者の方が嫌よ」
こうして次の狩りに森永姉妹が加わる事が決まった。
二人は僕が見るとして、桜花様には伊吹さんが付いているし、五狼達の為に二刃姉上も来れないか、確認してみよう。
狩りの事は決まったので、話を魔術の事に戻し、魔術の連続使用の方法も教える。
「呪力を一部残して術を発動させるなんて、初めて聞いたわ」
「これができれば、呪力次第で一人で弾幕も可能なので、是非、練習してみて下さい」
楓さんは難しい顔で、紅葉さんは期待の籠った顔で頷く。
「後、直接攻撃ではないけど、狩りに有効な術をお見せます。お二人は像の有った辺りで、離れて立って下さい」
森永姉妹は僕に言われた通りに壁の前に立つ。
「それでは、いきます」
「え、これって、私達が標的になるの!?」
楓さんが今更慌てるがもう遅い、僕が使った草縛りで手足に草が絡まり、動きが制限されている間に次々と草が増え、最後には首から上以外が草に覆われてしまう。見た目は首の生えた緑のラグビーボールだ。
「う、動けない……」
「これはまた、がっちりと拘束したものね」
「桜花様が以前、触手とか言ってましたからね。中途半端な拘束だと楓さんでは三刃以上に見た目が大変な事になりますから」
「それもそうね」
桜花様達は気付かなかった様だが、実際、拘束途中の僅かな時間だが、若干如何わしい感じになっていた。
「処で紅葉さん、逃げないで下さい」
こっそり逃げようとしていた紅葉さんの前に土壁を作って脱出路を塞ぐ。
「拘束の術は十分理解した。これ以上は無用」
「いえ、遠慮なく。他にも幾つかお見せします」
前方を塞いだ土壁の反対側にも高さ低めの土壁を作り、その土壁の下に土津波の術を使って紅葉さんに向かって前進させる。
「嘘、壁が動いた」
紅葉さんが驚いている間に土壁は紅葉さんに到達し、紅葉さんは壁に埋まってしまう。
当然、土壁の形は紅葉さんの身体に合わせて変形させているので、中の紅葉さんが潰された訳じゃなく、身動きできないだけだ。
「あはは、これが本当の壁の中に居る、って状態ね」
不思議と桜花様に受けているが、壁の中の当人はややお疲れ顔だ。
「こうして拘束してしまえば、後は首を斬るだけで他の外傷を付けずに狩れるので、状態の良い素材が採れます」
「獲物の気分なんて、知らなくて良いわよ!」
「気持ちは分かります。僕も父上に技を教えられる時は、実際に受けてみろと何度も斬られました」
「ひぃっ!」
楓さんが声を上げて怖がるが、斬られ慣れていない術師には少し刺激が強かっただろうか?
「成程、その歳でその強さ、流石八神将軍だな」
「そうね、四狼君の強さはとんでもない修行から来ているのね」
とんでもないのは明日の三刃の修行だと思うが、果たして実際に見た後でも桜花様はあの苦行を受けるのだろうか?
思った以上に疲れている森永姉妹の拘束を解き、今度は小鬼像を使って落とし穴の術もみせる。
「落とし穴は簡単な術の割に使い勝手が良いので、早めに習得する事をお勧めします」
「これ以上変な術を体験させられない様に頑張るわ」
楓さんの言葉に紅葉さんも頷いて答える。
「最後にこれをお貸しします」
桜花様にも貸した術札を安く改良した物を楓さんに渡す。
「この札は土人形の術の発動を補助してくれます。お二人で使い廻して下さい」
二人に使い方を教え、作った土人形でお互いに攻守に分かれて模擬戦する様に指示する。
「良い修行方法ね」
「ああ、受け手が怪我をしないし、魔術制御の修行にもなる」
鷹野夫妻が効果を説明していると、設計図を見終わったのか、平田さんがやって来た。
読んで下さった方々、有難う御座います。
本年最後の更新になりましたが、来年も三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、今後も宜しくお願い致します。
皆様、良いお年を。




