誤解と陰謀
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〇八八 誤解と陰謀
四狼達が夕食を楽しんでいた頃、草薙商会の会長室では、部下の報告がなされていた。
「今回も作戦を実行した小鬼共が行方不明だと!」
「は、はい。今回は本隊を囲む様にして、数匹ずつの小隊を複数配置して本隊を見張らせていましたが、本隊だけでなく、見張っていた目標から近い小隊も含めて、突然消えたそうです」
突然消えたとはどういう事だ? まさか奴らも転移陣を使えるというのだろうか?
「小鬼共が消えた時、何か兆候は無かったのか?」
「はい、何の前触れもなく、突然消えたそうです」
転移陣は発動すると地面に描かれた魔術陣が光る。そういった現象が無いという事は、転移陣を使ったのではないのだろう。
そもそも転移陣は前もって魔術陣を作って設置しておかなければならない。
その魔術陣に入っている者を対になる魔術陣に送るという、設置型の魔術なのだから、初めから小鬼共の来る場所を特定して設置しなければ、小鬼共を転移させ事はできない。
大規模な術だけに、発動には相応の魔石が必要になる。それだけの魔石を持っているとも思えない。
更に転移陣は我らが発掘した古代の魔術だ。当然我らが秘匿している為、和富王国の者は誰も知らない筈だ。
もしかすると、八神家はより高度な魔術を秘匿しているのかもしれない。
又は広域の殲滅型の魔術も否定できないが、攻撃型の魔術なら何らかの痕跡が残るものだ。それ程の大規模な魔術を使った痕跡が無いのも不自然だ。
それに広域型魔術は複数人で長時間を掛けるか、やはり前もって準備しないと使えない。奴らにそんな人員や時間が有れば、流石に小鬼でも気付く筈だ。
糞が! まるで訳が分からん。
今回は桜花が参加していない事を確認して病魔を嗾けて、暫く町に戻れなくするか、あわよくばそのままくたばってくれる可能性を考えて作戦を実行したのに、又しても何の成果も出せないとは。所詮は小鬼共か。
「それで、他に情報は無いのか?」
「当然彼方の方が小鬼よりも強いので余り近づけず、直接狩りの現場は確認できませんでしたが、組合に紛れ込ませた者によって売却された獲物は把握できています」
部下に渡された名簿を確認すると、そこには灼熱熊が二頭と記述されていた。
通常、灼熱熊は番で行動する。二頭狩ったという事は、その二頭は番だったという事だ。
当然、二頭を同時に相手をする為には此方の人員も多く必要で、大抵は支援を含めると三十人以上での狩りになる。
そんな中型の魔物の番を、奴らは十にも満たない少人数で達成できる戦力が有った事になる。
道場を営んでいる分、戦力が高い事は想定していたが、これは予想以上だ。
八神の長兄は若さに似合わぬ武力を持つ、との評判は嘘ではなかった訳だ。それが判明した事を今回の成果としよう。
今後は長兄の居ない時を狙わなくてはいけない。
「それと、朝に門を出た時は六人でしたが、帰りは七人に増えていました。その者が強力な助っ人だった可能性もあります」
「そうだな。一人で門を出て、外で合流できるのなら、相応の強者である可能性は高いだろう。そいつの身元を探れ」
「はい、既に監視を付けてあります」
八神の家は第二位士族、財力なら兎も角、権力では此方が負ける。
武力も個々では我らが劣るだろうが、総数では我らが圧倒的に多い。正面からぶつかっても最終的には数で押し切れるだろう。
しかし、それは高い確率で此方の正体が露見してしまう可能性が有るので、最終手段だ。
今は外部から人を雇って、戦力分析と弱点探しを急がせるとしよう。
俺も忙しい身だ。八神にばかりに構ってもおれん。八神対策は以上で良いとして、此処からは本業の商売だ。金も力だからな。
各種販売は良好、子会社の複数の猟団も其々順調な様で、特に大きな問題も発生していない。
主力商品の魔石は供給を絞っているが、販売額を上げているので利益の減りは許容範囲だ。
寧ろ生産量は絞っていないので、余りはそのまま備蓄に回せる。一石二鳥だ。
更に各部署の報告を聞き、必要なら指示を出す。
草薙商会会長の夜は長い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
四狼達が報酬を山分けしていた頃、郷の町のとある屋敷にて、二人少女が語り合っていた。
「楓、明日の朝食会には新しい仲間として、例の彼が参加する」
「ええ、私も聞いてるわ。桜花様の婚約者候補の一人が覚醒者だったなんて、偶然だったらロマンチックよね」
「楓は偶然じゃないと思っているの?」
「当然でしょ。桜花様には三十人を超える婚約者候補が居たのに、その内の一人が覚醒者と判ると他の候補の大半を候補から外したじゃない。偶然にしては出来過ぎている気がするのよ」
「例え婚約者候補が百人以上居たとしても、覚醒者は十数万人に一人しか居ない。半分は同姓だし、更に適性年齢も考えると、とても狙えるものじゃ無い。それは当たりがないかもしれない、くじ引きをする様なもの」
「それはそうかもしれないけど……」
「楓は狙っていたと思っているの?」
「何かの裏が有る気がしないでもない、って感じかしら」
楓は確かに確率が低すぎると分かっているものの、何処か腑に落ちないでいる。
「それなら寧ろあの桜花様なんだから、逆に狙っていた彼に実績が無くて決定できなかったけど、覚醒者だったら強い後押しになる、と考えて他を切ったと考えた方が自然」
「確かに紅葉の言う通りね。彼は桜花様の戦闘指南をしている位に戦える人だっていうもの。それだけの戦闘力が有るのなら、後は近衛に入れてしまえば士族位も得られる。反対する要素が殆ど無くなるわ」
楓は紅葉の言葉を補足し、納得のできる答えに辿り着いた。
「つまり、二人が結婚したら、初代国王様以来の覚醒者夫婦の王が誕生する。こっちの方が浪漫」
「それは本人より、見てる側の浪漫な気がするわ。でも、私も浪漫溢れる出会いがしたいなー」
楓は何やら妄想を始めた様だ。
「でも、前世知識を知っていると、それなりに良い男でも知ってる知識の差から、何処か田舎臭さを感じてしまう」
「それって前世の、学歴の高い女性は婚期が遅れがちって説と同じじゃない。紅葉は理想が高すぎるのよ」
「でも、この国の男って、使える術の種類とか威力の自慢とか、狩った獲物の自慢とかしかしないから、子供っぽくて余り興味が持てない」
前世での大人の遊びを多少は知っている紅葉にとって、この国の男は何処か子供っぽさを感じるらしい。
「それは知ってる文化の程度が違うんだから、しょうがないじゃない。それに、この国の士族の最大の仕事と娯楽は狩りだもの。狩りの成果を自慢するのはこの国の男の性よ」
「それはそうだけど、せめて術の使い方まで教えてくれれば良いのに」
「それこそ自慢の種を教えちゃったら、自慢できなくなるじゃない」
楓の言い分は尤もだ。自慢するって事は、自分の優位性を見せたいのだから、同じ事ができる相手には自慢にならなくなる。自ら自慢の種を教える訳がない。
「新人君は桜花様に戦い方を教えているそうだから、仕事と割り切っているのか、自分には追い付けないという自信なのか、はたまた追い付かれても追い返す覚悟なのか、少し気になる」
紅葉は新人君に対する興味が増すのを感じていた。
「桜花様が新人君を気に入っているのなら、私達も新人君が桜花様に相応しいか、見定めさせて貰わないと」
「何で紅葉が見定めるのよ。でも、それも面白そうね」
「でしょ」
その後も好奇心旺盛な少女二人は、どうやって見定めるのか、日を跨ぐ迄、無駄に語り続けるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
四狼がそろそろ眠ろうとしていた頃、此方の屋敷でも密談が行われていた。
「明日の昼食会、新しい仲間が紹介されるそうだが、翼は何か情報を持っていないか?」
「私が知っている事は爪太も知っていると思うけど、桜花様の婚約者候補の中でも有力な候補と聞いているわ」
「そうだ、しかも八神将軍の子息の一人だ」
「相応に使えるという訳ね」
「ああ、年齢の割に優秀だと聞いている」
「だったら、特に問題無いんじゃないの?」
「いや、あれだけ頻繁に会っていた桜花様に、今まで前世知識を隠せていたのだ、他にも何か隠している気がする」
「心配のし過ぎだと思うけど」
「我らの仕事上、心配をし過ぎるという事は無い。甘い考えで失敗していては、取り返しがつかないのだから、問題は起こると想定して掛かるべきだ」
「爪太は本当に真面目ね。ま、そこが爪太の良い処なんだけど」
翼と呼ばれた女は嬉しそうに答えた。
「俺は翼の楽観的な処が少し心配だ」
そう言いながらも、爪太と呼ばれた男は然程心配している様には見えない。お互いに信頼し合っているのだろう。
「でも、前世知識を隠すのは当然の事よ。私達も隠してたし、今でも極一部の者しか知らないじゃない」
「しかし、俺は桜花様には数回顔を合わせただけでバレてしまった。そんな相手に彼は何年も隠し通してきた、という事になる」
「いえ、爪太は結構分かり易かったわよ。私も直ぐに分かったし」
翼の突っ込みに、爪太は肩を落として答える。
「そういう翼も、桜花様にはあっさり見抜かれてたじゃないか」
「桜花様の直感って、隠し事をしている者にとっては厄介な能力だものね」
翼は言葉とは裏腹に、微笑みながら答えた。
「今は私達の事より、桜花様の事を考えましょ。もし新しい子が良い子なら、桜花様と是非一緒になって貰いたいじゃない」
「ああ、覚醒者は覚醒者同士で結婚した方が、お互いの価値観や倫理観が近く、上手く行く可能性が高いからな」
「あの桜花様と肩を並べなきゃいけないんだから、普通の人じゃ付いて行けないだろうしね」
「術師長の指導ですら一年しか持たなかったのに、彼は既に数年に渡って武道を教えている。並の者では桜花様の相手を此処迄長くは続かなかっただろう。その点だけでも評価は高い」
「つまり、元から相性は良いのよ。多分、変な邪魔さえ入らなければ、自然にくっつくと思うわ」
「其処迄俺達が出しゃばる事でもないしな。二人の仲は成り行きに任せた方が良い」
「そうね。後はどの程度戦えるのか、よね」
「お前も好きだなぁ」
爪太は溜息交じりに答えた。
「折角、魔物蔓延る剣と魔術の世界に転生したんだもの、彼もきっと戦いが好きなのよ」
「俺は翼のそういう処が時々怖いよ」
「良いじゃない。荒事は私が、家庭的な事は真那子に任せるわ」
「妻達の仲が良くて、俺は助かっているよ」
爪太はもう一人の妻を思い浮かべながら答えた。
「さあ、真那子と子供達が待っているわ。明日に備えてそろそろ寝ましょう」
「そうだな。さて、明日はどんな奴と会えるのか、俺も楽しみだ」
二人は密談を終え、もう一人の妻と、三人の幼子の眠る寝室に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時を同じくして、お城でも密談が交わされていた。
「明日、四狼を他の覚醒者と会わせるそうだが、問題は無いのか?」
「何も無いのじゃ。四狼も他の覚醒者には興味があったそうじゃし、問題の無い覚醒者を此方に取り込むのは何時もの事じゃろ?」
「そうじゃが、八神家から覚醒者が出た事が問題だ。間違いなく既に中隊長以上の武力を持っているだろうからな」
父上は心配し過ぎだと思うのだが、過去の王は油断から絡繰り王の出現も許している。
尤も当時の将軍達の活躍と、絡繰りの魔力切れが早かった為、被害の大半が第二門の外だった。
お陰で町の被害は然程でもなかったのだが、第二門の外に住む多くの農民が犠牲になってしまった。
父上はそんな過去の被害の再来を恐れているのだろう。
四狼が幾ら強かったとしても、一人でそんな被害を出せるとも思えないし、四狼が仲の良い兄弟姉妹と争うとも思えない。
第一、四狼は私とは敵対しないと誓ってくれた。その誓いを疑いたくはない。
「何、いざとなれば、刺し違えてでも童が止めて見せるのじゃ」
「いや、桜花では勝てぬじゃろう。無理な事を言うで無い」
「でも、油断している処を、あれを使えば……」
「あれはその様な事には向かぬ。余計な事は考えず、先ずは己の身を護る事を優先してくれ」
父上が少し悲しそうに話す。私は父上に安心して欲しいだけで、悲しませたい訳じゃない。
「分かったのじゃ。童は状況に応じて、最善を尽くすのじゃ」
「うむ、今はそれで良い。して、明日の参加者は誰が予定されておるのじゃ?」
「平田と森永姉妹に鷹野夫婦じゃ」
「成程、森永姉妹は若手有望株じゃし、近衛の鷹野がおれば、問題も起きぬじゃろう」
父上は本気で安心したのか、身体から余分な力が抜ける。
四狼は元から私の婚約者候補の一人なんだから、其処迄警戒しなくても良いじゃない、とも思うが、過去に覚醒と同時に性格まで豹変した者も少なくない。
覚醒と共に増えた知識と能力に、欲望が抑え切れなかったのだ。
ならば、覚醒で数多くの能力を得たという四狼に警戒するのも分からなくはない。
でも、この数日の間、四狼の様子を窺ったが、特に変わった処は見当たらなかった。
強いて言えば、若干修行が厳しくなった気がする位だ。
しかし、厳しくなった割に怪我は減っているのだから、増えた能力を私達の為に活用してくれているのだろう。
更に成果も出ているのだから、善意での行動だと思う。好意だったらもっと嬉しい。
「大丈夫じゃよ。四狼は私と敵対しないと誓ってくれたし、童の直感がその言葉を信じても良いと訴えておる」
「そうか、ならば後はどう取り込むかじゃ。桜花が己の伴侶に臨むのなら、桜花が頑張るのじゃ」
「そ、それはその、臨機応変に、頑張るのじゃ……」
「普段は無駄に大胆なのに、何故か色恋だけは奥手なのじゃから、不思議なものよ」
「だ、誰にだって得手不得手はあるのじゃ!」
「手遅れにならぬ様に、忠告だけはしておくのじゃ」
「むーーー!」
こうして、其々の誤解と陰謀が混ざり合った、一見複雑怪奇な様で単純な郷の夜が更けて行くのだった。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次も三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、今後も宜しくお願い致します。




