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雷鳥

お待たせいたしました。

ブックマークや評価、いいねをして下さった方々、有難う御座います。

特にいいねは初めてだったので、とても嬉しいです。

今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇八六 雷鳥



 そう、これだけの速度で移動する魔物はあれしか考えられない。

 僕は皆にこっそりと、特定属性だけ通さない属性結界を張って安全を確保すると、身構えながら空を見る。

 皆も釣られて空を見上げると、僕達の真上を明るめの橙色っぽい大きな鳥が、もの凄い速度で岩山の方向へ飛び去って行った。

 雷鳥、空では龍種に次ぐ強者で、相性的には一狼兄上でも一人では勝てない強者(つわもの)だ。

 そもそも近接戦闘型の一狼兄上には、空を飛ぶ魔物を倒す手段が少ないのだから、致し方ない。


「雷鳥……だと……。四狼、もう一度土壁で囲って籠もる事はできるか?」

「一狼兄上、できなくは有りませんが雷鳥は執拗です。籠もれば数日は出られなくなります」


 獲物を決して逃がさない雷鳥は、逃げている虫の様に通り過ぎてはくれない。

 なのでこっそり監獄惑星に送っても、不自然さが残ってしまう。

 土山を作って籠った後、地面を掘って脱出するにも、雷鳥は現在の僕の地図範囲外から僕達を補足していた位に索敵能力は高い。

 その範囲外までの距離を掘って進むのは、流石に僕の呪力量を誤魔化せる範囲から逸脱してしまうだろう。

 これは早くも僕の能力を一部開示しないといけないのかな、と考えていると。


『主様、困った時こそ月詠達を頼って欲しいのですよ』

『ご主人様には私達が付いております。遠慮なくお申し付け下さい』


 この状態で頼ってくれと言う事は、二人には打開策が有るのだろう。

 流石案内人だと、今更ながらも感心する。


『ありがとう。それじゃあ頼むけど、どうすればこの状況から抜け出せるんだ?』

『単純に、皆で倒してしまえば良いのですよ』


 単純に倒せるなら困っていない。


『皆の相性的に難しくない?』


 只の鳥ならまだしも、空の魔物を倒すには強力な魔術師が居ないと厳しい。文字通りに手も足も届かないからだ。

 特に重力干渉で体重を軽減し、気体操作で空気を切り裂き、更に特性の電気を使った電磁加速迄できる雷鳥は、音速の数倍の速度で飛ぶ。

 極超音速ミサイルを迎撃する様なものだから、長距離攻撃のできる術師か、超高速射撃のできる術師か飛び道具使いが居ないと話にもならない。

 しかし、当然僕達の中には純粋な術師すら居ない。


『先程主様も仰っていた様に、空を飛ぶ魔物も地上に落としてしまえば只の的なのですよ』


 月詠の言う通りではあるのだが、力づくでやるなら簡単だ。不可視の手で掴んで引きずり落としても良いし、雷鳥だけ通さない結界で包んで地上に運んでも良い。他にも方法は幾つか思い浮かぶ。

 しかし、その方法を使うと僕の能力を誤魔化すのが難しい。

 覚醒後に増えた能力を上手く隠しながら実行するのが難しいから悩んでいたのだが、月詠が今の僕でも余り不自然にならない方法を教えてくれた。

 必要な呪力は若干多めだが、ある程度の術師なら使える。

 そんな普通の魔術で雷鳥を落とせるとは、僕も思っていなかった。

 しかし、答えが分かれば後は単純だ。


「僕に作戦が有ります。折角なので雷鳥も狩ってしまいましょう」

「四狼、流石に私達では雷鳥を倒すのは無理よ」

「そうだな。第一俺達の攻撃は空の魔物には届かない」

「大丈夫です三琅兄上。攻撃が届かなければ、届く距離まで近付ければ良いんです。僕が魔術で雷鳥を地面に落とします。三狼兄上と五狼はこの槍で雷鳥の羽を狙って下さい」


 僕は無限倉庫から投擲槍を取り出して二人に渡す。


「結構ごつい槍だが、五狼には重すぎないか?」

「この投擲槍は目標に当たると返しが飛び出て抜け難くなくなる機構が有るので、その分大きくなっています。加速門も使いますから、五狼でも大丈夫でしょう。これで雷鳥を彼方(あちら)の岩壁に縫い付けます。飛べなくなった処で一狼兄上、二刃姉上、三刃の順に攻撃して止めをお願いします。三刃にもこれを貸すから、もう少し頑張ってくれ」

「これは、先日四狼兄上が姫様にお貸ししていた刀です。三刃が使っても良いのですか?」

「勿論だ。三刃の呪力刃は未だ少し不安定だから、これで補って止めは三刃が刺すんだ」

「分かったのです。三刃が止めを刺します」


 三刃はこの中では一番位階が低い。多少の底上げは必要だろう。序でとばかりに三刃には幸運の能力も付与しておいた。長時間は持たないが、雷鳥との戦闘中位は効果が有る筈だ。


 作戦を伝え終えると僕達は戦闘予定の場所に向けて駆け出し、岩壁から数十メートルの処で立ち止まる。

 そこに岩壁の向こうから再び雷鳥が飛び出して来て、先程迄僕達が居た辺りに雷撃を放って飛び去って行った。


「あの場所にそのまま留まっていたら危なかったわね」


 二刃姉上の心配も尤もだ。

 僕は雷鳥が飛び去った方角の地面に、金術で金属の棒を数本地面から生やして避雷針代わりにする。

 続けて降雨の術で雷鳥の飛び去った方向に雨雲を作り出し、雷鳥が戻るのを待ち構えた。


 やがて旋回して戻って来た雷鳥は僕達を狙い易い様にか、随分と速度を落としている。僕としても都合が良い。

 雷鳥が雨雲の下に入る少し前から雨を降らせ、雷鳥の身体を濡らす。

 雷鳥がまた雷撃を放つが、こっそりと不可視化した障壁を使って避雷針に誘導する。

 お返しとばかりに僕は水操作の術も使って、周囲の雨を全て雷鳥に集中させて雷鳥の身体を水で包み込む。

 身体の首以外を水で覆われてしまった雷鳥は水の分重量が増え、翼の重力軽減も、気体操作の能力も効果を減らして徐々に高度を下げ、やがて地面に墜落する。

 しかし、身体を覆っていた水が緩衝材になったお陰か、雷鳥に目立った損傷は無さそうだ。

 雷鳥は翼を数回羽ばたかせると翼に残っていた水分を払い、空に戻ろうとするが、落ちた水に更に電解質を加えてアースに代わりして足に絡ませていたので上手く飛び上がれない。


「ぴぎぃぃ!?」


 そんな地上で翼を広げた雷鳥は格好の的だ。

 僕は三琅兄上と五狼の前に加速門の術を複数展開させて叫ぶ。


「今です!」


 僕の合図と共に二人は加速門に向かって投擲槍を投げる。

 投擲槍の先端が加速門に触れると、加速門に付いている両開きの扉が開き、扉はくるりと一回転して通り過ぎる投擲槍の尻を叩く。

 すると投擲槍は速度を倍化させて進み、次の加速門を通過すると更に速度を上げて行く。

 数回加速門を抜けた投擲槍は音速を越え、衝撃波と共に雷鳥の翼に突き刺さり、その衝撃で雷鳥を後ろに飛ばして岩壁に貼り付けにした。

 雷鳥は逃げようとするが、槍の中の機構が働いて返しが出ているので槍はそう簡単には抜けない。

 透かさず一狼兄上が弧を描く様に走り、飛び上がってすれ違い様に雷鳥の首を切り付ける。

 反対側からも二刃姉上が弧を描いて走り、同じ様に飛び上がって一狼兄上が切った傷を逆からなぞり、更に傷を深くする。

 僕が雷鳥の前に傾斜のある土壁を作ると、柄を伸縮させて刀に呪力を強制的に流しながら三刃が土壁の坂を駆け上がり、その勢いのまま三刃が雷鳥の傷に向かって跳ぶと、僕は三刃の前にも加速門を展開し、速度を倍化させた三刃の握る刀が雷鳥の首の傷を貫いた。

 付与した幸運が利いたのか、狙い通りに武神の一撃も発動した様だ。

 喉を刃が貫通した雷鳥は、声も出せずに数回痙攣すると、そのまま動かなくなった。


「三刃、お疲れ様。汚れを落として少し休んでいなさい」


 僕は抜けなくなった刀を残して降りて来た血まみれの三刃に声を掛けると、無限倉庫から浄化装置を取り出して汚れを落とす事を薦める。

 三刃は頷いて浄化装置を使うと、休憩の為に卓や椅子を準備している二刃姉上の方へと歩いて行った。

 僕が突き刺さった刀や投擲槍を抜いて雷鳥を無限倉庫に回収し、皆も浄化装置で汚れを落とすと、暫しの休憩に入る。


「しかし、我らだけで雷鳥を倒せるとは、これも四狼が雷鳥を地に落としてくれたおかげだ。良くやった」

「そうね、空を飛ぶ魔物は只でさえ攻撃が届きにくいものね。雷鳥は特に速度も速くて飛び道具や魔術も当たり難いのに、四狼は点じゃなくて面で攻撃して落として雷鳥を無力化したんだから凄いわ。正直地面に落とせなかったら私じゃ手も足も出なかったもの」

「なあ四狼、水で雷鳥を覆えるなら、そのまま全体を覆って窒息させればもっと簡単だったんじゃないのか?」


 一狼兄上と二刃姉上は僕の作戦をべた褒めしてくれたが、三琅兄上はそのまま倒してしまわなかった事が不思議な様だ。


「いえ、雷鳥の顔まで水で覆ってしまうと、雷撃の息吹で水を吹き飛ばされてしまうので、身体の水の多くも飛ばされてしまいます。それよりも身体の水を増やした方が重量が増えて雷鳥も飛べなくなりますから」

「成程、そんな理由が有ったのか、流石四狼だな」


 三琅兄上も頷き、五狼と三刃は兄達の称賛を真に受けて、僕を輝く目で見て来る。

 作戦を考えたのは月詠なので、少し居た堪れない。


「いえ、皆が格上相手に怯まずに戦えた成果です」


 なので皆で倒したんだと強調すると、皆も嬉しそうに頷いた。


「それにしても、どうして雷鳥はあんなに遠くから私達に敵意を持って襲って来たのかしら?」

「二刃姉上、その答えなら簡単に推測できます。恐らくこの岩山の上に雷鳥の卵が有るのでしょう」

「成程、魔物といえど我が子は護るか。意外と慈悲もあるのだな」

「そこは慈悲というより種の保存本能だと思います」


 大抵の動物は子に危険が迫った時の親の行動が種族にも由るが、同種族だと能力が近い分、同じ様な行動に出る場合が多い。

 弱い種族は一匹を囮に他の子を逃がす種も居る。単純に雷鳥は強者だから襲ってきただけだろう。


「そうかもしれないけど、四狼には浪漫が足りないわ。そんなんじゃ何時(いつ)か姫様に愛想を尽れちゃうわよ」

「大変なのです! 四狼兄上、もっと浪漫を溜めないと駄目なのです」

「うーん、浪漫か……俺も頑張らないと……」


 二刃姉上が変な事を言うものだから、三刃と三琅兄上が本気にしてしまったじゃないか。

 それに三刃、浪漫は溜められる物じゃ無いんじゃないかと思うぞ。


「折角なので、卵も回収してきます」


 面倒な話になる前に、僕は席を外す事にした。


「三刃も雷鳥の卵が見たいです」

「あ、僕も見たい」


 僕が立ち上がって告げると、三刃と五狼も付いて来たいという。


「三刃、休んでなくて良いのか?」

「もう大丈夫です。それより雷鳥の卵が気になります」


 三刃を鑑定して見るが、状態は健康になっているので問題無いだろう。


「軽装の三刃は構わないけど、重い鎧を着て崖を登るのは危険だから、五狼は駄目だ」


 岩壁は若干傾斜が有るとはいえ、三百メートル程有る。鎧を着たままでは危険だ。


「残念です」

「採ってきたら見せるから、それで我慢しなさい」

「はい」


 五郎を宥めると、僕は三刃と命綱で繋ぎ、僅かに傾いた岩壁を登る。


「四狼兄上、競争です」


 三刃が一方的に告げると、速度を上げて岩壁を登り出す。

 お互いを縄で繋いでいるのだから、一定以上に距離は離れないのだが、三刃は気付いていない様だ。

 僕は三刃に合わせて少し下を付いて行く。

 一応説明するが、三刃は胸鎧を付けた忍者服姿なので、下から見上げても下着が見えるという事は無い。

 やがて岩壁の終わりが見えた処で僕は登る速度を上げ、三刃を抜いて先に岩山を登り切る。


「三刃、ファイト―!」


 岩山の上から手を伸ばし、三刃に向けて声を掛けるが、三刃は意味が分からないので、そのまま自力で上がって来た。


「負けたのです」


 三刃は本気で勝負していた様で、少し残念そうだ。

 僕達はその場で少し休んでから奥に向かうと、数分で雷鳥の巣を発見する。

 巣には雷鳥の卵が十五個有ったが、鑑定によると内四個が有精卵の様だ。

 親鳥を殺してしまった以上、残しておいても他の動物に食べられるか、例え孵化できても餌を貰えず餓死する未来しかないので、全部纏めて無限倉庫に回収した。

 今度、親の居る巣を探して、そこの無精卵と交換してあげようと思う。


 卵の回収を終えると、今度は岩壁を降りる訳だが、壁や崖は登るより降りる方が難しく危険だ。

 そこで僕は岩壁の崖の下を覗き込み、三メートル程下に崖に対して垂直になる様に土術で岩壁を作って足場にする。

 岩壁の足場に降りると、三刃もついて来た。

 更に三メートル程下に足場を作って降りるを左右交互に繰り返し、皆の元に戻る。


「ただいま戻りました。問題無く雷鳥の卵も回収できました」

「おかえりなさい。随分簡単そうに崖を降りて来たけど、登りの時にその術を使わなかったなんて、四狼は本当に修行が好きよね」


 僕としてはそんな趣味はない心算なのだが、この危険な世界で好奇心旺盛で、時々無茶もする三刃の安全を考えると、僅かでも強くなって置いた方が、生存確率が上がるだろうとの考えが無い事も無い。

 尤も、三刃の目標を考えると強さは必要だしね。


「ああーーーっ!、四狼兄上、酷いのです」


 そこで二刃姉上の言葉の意味を理解した三刃が声を上げる。


「いや、勝負を持ち掛けて来たのは三刃の方だろう? 僕だけ術を使って登っても良かったのか?」

「むむむーーっ」


 三刃が自業自得で言い返せなくなった処で、五狼に約束の雷鳥の卵を無限倉庫から取り出して見せる。


「大きいですね」

「これは食べ応えが有りそうだ」


 五狼は大きさそのものに喜んでいるが、三琅兄上は既に食べる事まで考えている様だ。


「四狼、この卵を明日の朝食に使いたいんだけど、貰っても良いかしら?」

「はい、未だ十個以上有りますし、構いませんよ」


 二刃姉上は「ありがとう」と答えながら自分の異界倉庫に卵を仕舞った。

 その後も少し休憩を続け、十分休んだ処で僕達は帰路に就く。




読んで下さった方々、有難う御座います。

次も三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、次回も読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになりますので宜しくお願いします。

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