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目標達成

お待たせいたしました。

誤字報告をして下さった方、有難う御座います。

今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇八五 目標達成


 外は安全になったが、それを上手く説明ができないので、もう暫くは外に出られない。

 昼食を終えた五狼と三刃は、持て余した時間を魔道書籍を読んで潰す事にした様だ。

 折角だし、知力を鍛えて欲しい三狼兄上にも魔道書籍を渡し読んでいて貰う。


「俺は文字とか見てると眠くなのだが」

「三狼兄上が今より強くなるには必要な事です。より強くなりたいのなら、我慢して読んで、少しでも頭に入れて下さい」

「俺も一緒に見て良いか? 眠ったら俺が起こしてやろう」

「勿論、構いません。寧ろ、お願いします」


 三狼兄上にはこれも修行だと言い聞かせて、眠らない様に一狼兄上が監視する事になった。

 此処(ここ)に籠るのは長くても後一時間程度だ。三狼兄上もその位の時間は苦手でも座学を頑張って欲しい。

 僕は残っている二刃姉上を誘って、桜花様に頼まれていた統合型台所一式の試作品の使い勝手を見て貰う。

 焼窯(やきがま)(オーブン)付きの三口焜炉(みつくちこんろ)と、下は収納になっている流し付きの調理台だが、収納の代わりに冷蔵庫や食洗器にしても良かったかもしれない。

 今度、別製品として用意しておこう。


「前の魔道焜炉は持ち運べて便利だったけど、これは焜炉が三つも有って、台所で普段使うには此方(こちら)の方が良さそうね。それに焜炉の下に逃鶏(とうけい)が丸ごと入りそうな焼窯が付いているのも良いわ。今度、試しに何か焼いてみたいわね」


 逃鶏とは、この世界の鶏の事だが、文字通り逃げ足が速く、子供の初期の武術訓練にも良く使われれる。

 また、日本の物より若干大きく、多分地球の七面鳥程は有ると思う。


「今から試してみますか? 逃鶏は時間的に無理ですが、椀菓子(わんがし)(カップケーキ)程度だったら時間的にも問題無いと思います」

「そうね、確かに椀菓子なら半時間程で出来るわね。でも、材料があったかしら」


 二刃姉上は自分の異界倉庫を確認している様だ。


「椀菓子なら、材料も道具も僕が持っています」

「最近の四狼は本当に準備が良いわね」


 若干呆れ交じりに笑いながら答える二刃姉上に、早速と僕は無限倉庫から材料と道具を取り出して調理台の上に並べる。

 無生物鑑定を持っている二刃姉上は、量りを使わずに正確に分量が分かる為、手際良く調理を始めた。

 僕は二刃姉上の進行を見ながら焼窯を予熱させ、二刃姉上の準備が終わると使い方を説明しながら焼き始める。


「火加減を一々確認しなくても自動で温度調節ができるなんて、本当に便利ね。これも(いく)らなのか、確認しておいて欲しいわ」


 統合型台所一式の使い勝手に問題は無く、二刃姉上にも好評の様で、僕も嬉しい。


「何か、甘い匂いがするのです」


 暫くすると、お菓子の焼ける匂いに三刃が反応する。


「もう少しで焼き上がるから、これを食べたら狩りを再開しましょう」

「どっちも楽しみです」


 二刃姉上が完成時間を告げると、三刃が嬉しそうに答える。

 そして、どうやら三刃は本気で狩りを楽しんでいたらしい。

 女の子がこれで良いのかという気もするが、きっと武家の娘としては正しいのだろう。

 やがて「チーン」という音が焼き上がりを告げる。


「うん、ちゃんと焼けてるわね」


 串を刺して焼き上がりを確認した二刃姉上が、皆に椀菓子とお茶を配る。


「まだ熱いから、気を付けて食べてね」

「この位なら問題無いだろう」


 三狼兄上は熱さを物ともせずに、あっさりと椀菓子を食べ切ってしまった。


「熱っ、でも美味しいです」


 三刃は息を吹きかけ、冷ましつつ美味しそうに食べ始める。

 一狼兄上も何時の間にか食べ切っていた。

 我が家の男性陣は甘い物も好きだし、兄達二人は身体が大きい事も有ってか、食事は早い。

 二刃姉上は片付けを先に済ませながら、少し冷えるのを待つ心算の様だ。


「あ、熱っ」

「五狼、慌てなくて良い。落ち着いて食べなさい」


 一狼兄上に注意された五狼は、扇子を取り出して扇ぎながら少しずつ食べ始めた。


「うん、しっかり焼けているわ。この窯、火を見続けなくても良いから、その間に他の事もできて凄く便利ね。本気で欲しくなるわ」

「置き場所さえ用意できれば暫く借りれるので、屋敷に帰ったら秋穂母上に相談してみて下さい」

「分かったわ」


 二刃姉上が本気に気に入った様なので、これで統合型台所一式は完成で良いだろう。

 やがて待ち組も少し冷えた椀菓子を食べ切り、昼食と休憩は終了だ。

 二刃姉上が(ごみ)や卓を片付け、僕は誰も使わない事を確認すると、移動式(かわや)を無限倉庫に仕舞う。

 そして皆の準備が終わった処で地図で周囲に敵が居ない事を確認すると、土壁に手を当てて壁に穴を開け、外を確かめる振りをしながら外に出る。


「外は意外と荒れていないな」


 僕に続いて出て来た一狼兄上が、周囲を確認しながら不思議そうに呟く。


「全ての虫が此処を通った訳じゃありませんからね」

「それもそうか」


 実際は殆ど通っていないが、一狼兄上はその説明で納得してくれた様だ。

 全員が土山から出ると、僕は土山を崩して元の地面に戻し、目標地点に向けて皆で進みだした。


 やがて土が剥き出しの地面や岩が増え始め、前方に高い岩壁も見えて来る。

 進行方向を少し変えて岩壁に沿って進むと、虫の大移動が有った影響か、殆ど他の魔物と遭遇する事無く、目的の灼熱熊に辿り着いた。


「運が良い。思ったよりも早く発見できたな」


 一狼兄上は運が良いと言うが、僕には生息場所は屋敷を出る前から地図検索で分かっていたので、寧ろ探す振りの方が少し面倒だったのは内緒だ。

 一応、相手も動いているので、上手く岩壁に沿っての探索を演出できたと考えよう。


「それで、やはり(つが)いの様だが、どう対処する心算だ?」


 一狼兄上が危惧していた様に灼熱熊は番いで行動する事が多く、場合によっては更に子熊も二~三頭連れている事も珍しくはない。

 流石に一頭だけで単独行動している灼熱熊は地図検索でも発見できなかったので、今回は子熊を連れていない灼熱熊を狙う事にした。

 しかし、先日の成り上がりと違い、今日の灼熱熊は位階5と6と若干高めだ。

 皆の位階的には一頭なら何とかなるかもといった、厳しめの強敵だ。

 尤も、結界で守ってあるので死ぬ事は無いが、それでも二頭同時では無理がある。

 勝負が付かず戦闘が長引く事で、何時か確実に誰も致命傷を負わない事に気付くだろう。なので。


「一頭は僕が引き付けます。その間に皆でもう片方の灼熱熊を倒して下さい」

「四狼一人でなんて無茶よ!」

「大丈夫ですよ、二刃姉上。直接戦わずに、昨日の土熊に相手をさせますから、寧ろ僕は安全です」


 二刃姉上が心配そうに反対するが、一頭に対してこれ以上戦力を減らす訳にはいかないから、一番適切な振り分けだ。


「危ないと判断したら俺が出る。二刃は先ず自分の相手だけに集中しろ」


 更に一狼兄上が自分の事を優先しろと、二刃姉上に注意する。

 二刃姉上達も安全からは程遠い戦いになる。そんな中で意識を集中できない者が居れば、それこそ本来なら全滅しかねない。


「何、俺達がさっさと倒して合流すれば良いだけだ」

「三狼は考えが足りな過ぎよ! 四狼、本当に無茶はしないでね」


 こういう時は三狼兄上の能天気さが助かる。


 話が纏まった処で、二刃姉上は片方の灼熱熊に向かって駆けながら呪力斬を飛ばして注意を引き、皆もそれに続いた。

 僕は二刃姉上達の反対側に土熊を作り出して、二頭の灼熱熊を挟んでもう片方の灼熱熊を誘い出す。

 徐々に二頭を引き離し、戦闘を二ヶ所に分断させる事に成功した。

 一狼兄上が此方にも注意を向けているので、気を付けて土熊にはやり過ぎない様に回避を優先させ、攻撃は気を引く為の最小限に抑える。

 僕は呪力で作られた糸、呪力糸や土穴の術を使って灼熱熊の攻撃の阻害に徹するが、灼熱熊と力比べをする訳にもいかないので、灼熱熊が攻撃態勢に入ると足に呪力糸を絡ませ、糸の反対側を地面に打ち込んで固定する。

 糸の強度は最弱にしているので、灼熱熊の邪魔ができるのは精々二秒前後でしかないが、それだけあれば土熊が回避したり、牽制の反撃も可能になる。

 後はこれを繰り返すだけなので、予定通りの時間稼ぎができそうだ。


 此方の方は問題がなさそうなので、後は多重思考に任せて三狼兄上達を確認するが、彼方は若干苦戦している様だ。


「これだけ大きいと、呪力斬も爪で防がれて効果が薄いわね」

「流石に攻撃が届かないんじゃ、倒しようが無いな」

「仕方が有りません。多少傷が増えるけど攻撃が届く足を狙いましょう。立てなくなれば頭も下がるでしょう」

「はいっ、三刃は右後ろ足を狙います」

「じゃあ、僕は左後ろ足を」

「二人とも、後足は任せたから、左右に拘らず、二人で協力しなさい」

「「はい」」


 二刃姉上はまだ若い二人に、灼熱熊の視界に入り難い後足を任せる様だ。


「三狼、私達は前足を狙いながら灼熱熊の意識を引き付けるのよ」

「おう! 囮は任せろ」


 三狼兄上は答えると、異界鞄から障壁の盾を取り出して装備した。

 この盾は名前通り、呪力を流す事で障壁を張れる魔道具でもある。


「おら! 俺が相手だ!」


 三狼兄上が挑発を発動させながら叫び、灼熱熊の攻撃を誘うと障壁を張って灼熱熊の攻撃を受け止める。

 一瞬動きの止まった灼熱熊の前足を、二刃姉上が呪力刃で斬り付ける。


「ゴアァァ!」


 痛みに怯んだ隙に五狼が後足を槍で突き、三刃は走り抜けながら斬り付け、三狼兄上も槍を振るう。

 灼熱熊は四方からの攻撃にも、時々挑発してくる三狼兄上から意識を上手く外せずに翻弄される。

 やがて四肢を傷つけられ、頭の下がった灼熱熊の喉から首側面を二刃姉上が伸長した呪力刃で斬り上げ、反対側からは三狼兄上が巨大化させた呪力刃で叩きつけると灼熱熊は倒れ、動かなくなった。


「お、終わったの、です?」


 走り回っていた三刃が、息を切らせながら尋ねる。


「いえ、三刃、まだ終わっていません。もう一頭残っています」


 二刃姉上の指摘に皆が此方を見るが、僕が相手をしていた灼熱熊は既に若干お疲れだった。

 無理もない。散々攻撃を邪魔され、余り威力も無い攻撃を何度もされ、更に時々転ばされる。

 身体的損傷は殆どなくても、精神的な疲れは十分溜まっているだろう。

 倒してしまわない為とはいえ、我ながら少しやり過ぎたかもしれない。


「なんか、四狼の方が余裕が有るんじゃないか?」

「そうね、そんな気もするわ」

「三狼兄上、二刃姉上、冗談を言っている余裕が有るのなら、早く此方もお願いします!」

「ああ、悪い」


 僕のお願いに、三狼兄上が謝罪の言葉を言いながら駆け付けてくれる。

 皆も続いて僕の側に集まると、灼熱熊の相手を土熊に任せて作戦を説明する。


「土熊に灼熱熊を押し倒させますから、二刃姉上は呪力球で頭を叩き落として下さい。他の皆は止めをお願いします」

「分かったわ」

「おう!」

「「はい!」」


 皆が作戦を理解した処で、二刃姉上が前に出て土熊を一旦下がらせる。

 灼熱熊が前に出て来た二刃姉上に向かって突進して来るが、数メートル手前に僕が作った落とし穴に前足を取られ、突っ伏して突進が止まった。

 透かさず灼熱熊に覆い被さる様に土熊を飛び乗らせると、灼熱熊は起き上がろうと頭を上げるが、二刃姉上呪力籠めながら駆け寄り、飛び上がって呪力球で灼熱熊の頭を上から叩き付ける。

 頭を地面と呪力球で挟まれ、軽く固定された灼熱熊の首に左右から三狼兄上と五狼の広げた呪力刃が突き刺さり、更に土熊を足場に飛び上がった三刃が縦回転して勢いを付けながら首後ろの中央に呪力刃を突き立てると、三方から首に刃を埋めた灼熱熊はそのまま動かなくなった。


「お疲れ様。今度こそ終わりよ」

「ふう、疲れましたー」


 二刃姉上の終了宣言に、三刃は灼熱熊の上で大の字になって、如何に疲れたかを主張する。


「三刃、疲れてる処を悪いけど、灼熱熊の収納ができないから降りてくれ」


 僕が注意すると、三刃は転がる様に灼熱熊から降りて来て、地面に座る。どうやら本当に疲れているらしい。

 僕は三刃に疲労回復薬を渡して土熊を消し、灼熱熊を無限倉庫に収納すると、移動して先に倒した灼熱熊も収納する。


「三狼兄上、目標達成しましたが、この後はどうしますか?」

「そうだな、未だ時間も早いし、少し遠回りをして狩りを続けながら帰ろうか」


 昼食を早めに摂った為、未だ正午から二時間程しか過ぎていない。

 このまま帰っても、おやつの時間辺りには屋敷に着いてしまうので、妥当な判断だろう。

 皆も三狼兄上の提案に頷いた処で、地図の範囲外から物凄い速度で此方に敵性反応が向かって来る。

 この速度の相手は皆には相当不味いかもしれない。




読んで下さった方々、有難う御座います。

次も三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、次回も読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになりますので宜しくお願いします。

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