緊急避難
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〇八四 緊急避難
林を進む僕達の隊列は索敵をしつつ先行する三刃を先頭に、その後ろに遅れて三琅兄上と五狼が左右に間を空けて続き、その後方に僕、二刃姉上と続く。
一狼兄上は今回は人数外なので、更に後ろから若干離れて追って来て貰う。
林に入って暫く進むと、先行していた三刃が掌を突き出して止まれの合図を出す。
僕達を狙って迫って来ていた灰色狼に気付いた様だ。
皆が三刃に追いつくと、状況が説明される。
「多分、灰色狼が数匹近付いてきてます」
「何だ、狼の数匹程度、俺一人で十分だ」
確かに三琅兄上なら一桁程度の灰色狼は余裕だろう。
なので僕達は久し振りの三琅兄上の戦闘を見学する事にした。
前に出た三琅兄上は力を溜める様に穂先を後ろに回し、槍に呪力を流し込んでいく。
穂先に集まった呪力は刃となって穂先から分離し、次々と穂先の周りを回り出した。
やがて目視できる様になっていた灰色狼との距離が十分に縮まると三琅兄上が槍を振るい、穂先に展開していた呪力の刃が一斉に灰色狼に向かって飛んで行く。これは呪力の刃を八つ同時に飛ばす八咲という範囲攻撃用の八神流の業だ。
振るった槍を逆に戻しながら振るってもう一度八咲を放つと、此方に向かって来ていた六匹の灰色狼が全て倒れる。
「狼程度ならこんなものだろう」
三琅兄上はどや顔で成果を誇るが、狩りとしては失敗だ。
「三琅兄上、討伐戦としてなら此方に被害も無く満点ですが、今回は狩りなので略零点です」
「何っ!」
三琅兄上は驚いているが、他の者は全員頷いている。
「三刃、何処が悪かったのか分かるか?」
「はい。毛皮に傷が多くなると高く売れなくなります。あと、お腹を斬るとお肉に糞が付いて食べられなくなるのです」
「正解だ。毛皮にしろ肉にしろ、質が落ちれば値も下がります。三琅兄上は糞塗れの肉を食べたいと思いますか?」
「ぐっ、たっ、確かに、余り食いたくはないないな。悪かった。今後は気を付けるから、もう勘弁してくれ」
一応納得はしてくれた様だが何時まで持つのか。この辺りの大雑把な性格が三琅兄上が狩りで儲からない理由なのだろう。
肉は売り物にならないが放置する訳にもいかないし、無限倉庫内で解体すれば汚れも分離できて肉も食べられる様になるので、倒した灰色狼を回収する。
そういえば三琅兄上だけ最近は鑑定していなかったと思い出し、一応鑑定してみる。
名前:八神 三琅
生年月日:和富歴1036年7月7日 h0F歳(15歳)
種族:人族
身長:5尺8寸(約174センチ)
体重:18貫13両(約68キロ)
状態:良好
性交:無
霊格:h80
位階:h1D(29)
平均筋力:34
平均知力:25
平均呪力:23
能力:算術3、太刀術4、槍術4、鎚術2、柔術3、盾術2、筋力上昇2、身体強化1、狩猟2、苦痛耐性1、挑発1、捕縛術1
称号:一途な漢
職業・役職:見習い警邏隊員
やはりというか予想通り、腕力特化型だった。
せめてもう少しは知力系を上げて欲しい処だ。
僕達は気を取り直して目的地に向けて更に進む。
時折遭遇する足狩り兎や一角鼠を、今度は余計な傷を付けない様に気を付けて狩りつつ進むと、やがて「どーん」という何かが落ちる音が近付いて来た。
「何か近付いて来るのです」
三刃と五狼の二人は音の正体を知らない様だが、兄上達は気付いている。
当然僕も地図で確認しているので音の正体は正確に分かっている。
近付いて来るのは地球の牛より大きな身体に、一見役に立つのか分からない程に小さな羽が背中に生えた豚、跳ね豚だ。
それらが三頭、軽い地響きを立てながら飛び跳ねつつ、此方に向かって来ていた。
「三琅兄上と二刃姉上で一頭ずつお願いします。残りの一頭は五狼と三刃の二人で対処しろ!」
「「はい!」」「おう!」
三刃達に釣られたのか、三琅兄上も返事をして其々の標的と定めた跳ね豚に向かって行った。
その後を苦笑しながら二刃姉上も続く。
二刃姉上は走りながら軽い呪力斬を飛ばして一頭の跳ね豚を牽制しつつ注意を引き付けると、その豚に向かって行く。
三琅兄上も狙いを定めた豚に向かって石突で殴り掛かり、相手の意識を自分に向けさせる事に成功する。
残った豚には予定通りに五狼と三刃が二人で挑む。
二刃姉上が近付くと跳ね豚は更に高く飛び上がり、圧し潰そうと急降下してくるが、二刃姉上は難なく横に飛び退いて躱すと直ぐ様反転、再度近付くと同時に呪力刃を伸ばして跳ね豚の首を半ば以上切り裂いてあっさり倒してしまう。
三琅兄上も引き付けた跳ね豚が落下した直後に頭を石突で真上から殴り落とし、顕わになった首元に広く拡張した呪力刃を突き込み、此方も呆気なく肩が付く。
最後の五狼達は初対戦という事も有って若干攻め倦ねている様だ。
「直接倒せないなら羽を狙うんだ! 羽を使えなくすれば跳べなくなる」
この世界の魔物の豚は跳んだり飛んだりするが羽の重力制御で跳んでいるので、羽を失うと跳べなくなり、機動力が略無くなる。つまり、飛べない豚は只の的だ。
僕の助言が聞こえたのか、数度目の攻撃で三刃が地面に落ちた豚に急接近しながら若干呪力刃で伸ばした刃を羽に掠らせる事に成功した。
左右の羽の釣り合いを無くした豚は上手く跳べなくなり、其処に五狼と三刃が左右から首元に刃を振るい、二人で数度斬った処で跳ね豚も力尽きて倒れる。
「皆お疲れ様」
「四狼は何もしないのだな」
「三琅兄上なら跳ね豚程度は問題無いでしょ。僕は五狼達が危なくなったら加勢する心算でしたから」
僕の指摘に三琅兄上も「確かに問題無い」と力強く答える。
「でも本当に五狼も三刃も強くなったわね。私が三刃の歳の頃には二狼兄上と組んでも跳ね豚を倒せた自信が無いわ」
「確かに二人とも成長している様だな。その調子で励むと良いが、慢心は危険だぞ」
「あ、ありがとうございます、一狼兄上。勿論危険は承知しております」
「はい、ありがとうございます。三刃ももっと強くなります」
兄姉に褒められた二人は若干照れながらお礼を言う。
僕はそんな二人を横目に倒した獲物を回収する。
褒められて更にやる気の増した三刃を先頭に、僕達は先に進む。
時々遭遇する一角鼠や槍猪の様な突進しか能の無い突進系の獲物は、既に対処に慣れてきている五狼や三刃達ですら何ら脅威にはならない。
其処に三琅兄上も加わる事で、僕と二刃姉上は見ているだけで危なげなく倒されていく。
僕は狩った獲物を回収する係に徹する事ができて楽だなと思っていたら、突然地図上に敵対的魔物を示す赤い四角が増え始める。
どうした物かと考えていると、赤い反応の周囲に居る、未だ僕達を認識していない橙色の準敵性反応が一斉に動き出し、その一部の集団が此方に向かって来た。
しかし一部といってもその数は千を越えている。こんなに群れるのは間違いなく数が多く、魔石しか採れないから避けていた虫系の魔物だろう。
「三刃!」
僕は三刃を呼び止めて腰を落とし、両手を組む事で意図を察した三刃が駆け寄り、僕の手に足を掛けた三刃を放り投げ、僕を踏み台に連携して三刃は空高く飛び上がる。
「紫っぽい煙が見えます! 黒いのもいっぱいこっちに向かって来ます!」
僕が指した方向を三刃が上空から確認すると、大声で状況を知らせてくれた。
僕も三刃を上空に送った後に千里眼で確認したが、黒い集団の正体は黒病虫、若しくは病魔とも呼ばれる体長一メートル越えのゴキブリだった。
それが千匹以上、僕はその気持ち悪さに直接見た事を少し後悔した。
「三琅兄上、三刃を頼みます! 皆はその場を動かないで下さい」
皆の位置を確かめ、自分を中心に半径十二メートル程の距離で分厚い土壁で囲み、三琅兄上が三刃を受け止めたのを確認すると、壁の上部を湾曲させながら伸ばしてドーム状に完全に覆ってしまう。
「四狼兄上、真っ暗なのです」
三刃の苦情を聞く迄も無く。僕は陽の術で太陽光を八つ生み出し空中に均等に浮かべる。
更に木の術で内側を植物で覆い、酸素不足にならない様に準備を終えた処で皆に黒病虫が大量に迫って来ていた事を説明した。
「そうか、黒病虫が近寄って来ていたのなら緊急避難として、土の中に籠るのは悪くない。しかし、良くそんな距離で気付いたな」
「一応時々探査の術を使っていましたので、その術で多数の反応が近付いて来るのを感知したので、三刃に上空から確かめて貰ったのです」
「四狼は随分と術の腕を上げた様だな」
一狼兄上は感心したという顔で頷く。
「一狼兄上、黒病虫って一狼兄上が隠れないといけない程に強いのですか?」
「いや、一匹一匹は然程でもないが数がやたらと多いのと、奴らの体液に触れると病気になる可能性が有る。黒病虫との戦闘後は町に入る前に検査が必要になり、感染が確認されれば暫く隔離入院になるし、最悪病気で死ぬ」
黒病虫の持つ病原菌やウィルスは多岐に渡る。そのどれに感染するかで状態にも幅が出る為、症状を一概に判断はできないのだ。
「病気が相手では直接戦うのは無理そうですね」
「そもそも弱くても人に近い大きさの虫とは戦いたくないですからね」
「四狼の意見に私も賛成するわ。普通の虫でも気持ち悪いのに、人と同じ大きさの虫なんて絶対に嫌だわ。やるなら近付く前に遠くから魔術で吹き飛ばすしかないけど、数が多いから術師が大勢いないとそれも無理なのよね」
三刃の質問に一狼兄上が答え、五狼も病気には勝てないと納得する。
そして僕の虫とは直接戦いたくないという意見に、術で攻撃できるのが僕と二刃姉上だけなので二刃姉上も同意してくれる。
実際は今の僕なら余裕でできない事は無い筈だが、未だ覚醒後の能力は隠している。
開示する時が何時か来るかもしれないが、それは今じゃない。
「さて、これで暫くは外に出られませんから、少し早いですがお昼にしましょう」
土壁の中に籠った僕達は、このまま何もせずに時間を無駄にするのも勿体ない。
待ち時間を有効に使う為に昼食を食べる事にした。
端の方に移動式の厠を再び取り出し、その隣には浄化装置も出して食事前に汚れを落として貰う。
「持ち運べる厠も便利だけど、この浄化装置も大概ね。四狼、この二つは幾ら位で買えるのかしら?」
何方も自分で使う為に作ったので、値段までは考えていなかった。
大した機能でもないので素材に高価な物は然程使わなくても作れる筈だし、機能も重複しているので合体させれば更に安く作れるだろう。
「正確な値段は分かりませんが、それ程高くはなかったと思います。今度確認してみますね」
「お願いするわ」
二刃姉上と卓や椅子を並べて準備をしながら話していると、他の皆が身綺麗になったので僕達も汚れを落として昼食にする。
「お昼は外でも食べ易い様に押し寿司と熊汁にしてみたわ」
二刃姉上が説明しながら皆に熊汁の入った椀を渡してくれる。
熊汁は豚汁の肉を豚から熊に変えただけの料理だが、日本では熊肉を食べた記憶が無いけど此方の熊は美味い。
そして此方の押し寿司は日本の物より間の具が多く、寿司飯を使ったサンドイッチの様だ。更に両面に海苔が貼られているので手で持ってもご飯が付かず、食べ易い。
押し寿司を一口齧ると寿司飯の酸味が口の中に広がり、僅かに疲れた身体に染み渡る。やはり二刃姉上の料理も美味い。
三刃達も喜んで食べている。
食事の合間に僕は地上の様子を地図で確認する。勿論食事中に虫は見たくないので目視しない為だ。
虫達は丁度僕達の籠る土山の間近まで迫っていた。このまま通り過ぎるのを待っても良いのだが所詮は害虫、このまま放置しても良い事は無いのだから今の内に処分したい。
困った時の処分先に監獄惑星を用意したのだし、折角なので黒病虫にも監獄惑星の執行役になって貰おうと、地図の範囲で検索に掛かった黒病虫を監獄惑星の孤島に纏めて全部転移させる。これで外は安全だ。
次に三刃の見た煙の正体だが、答えは天照達が教えてくれた。
『あの煙は魔煙草を燃やすと発生する魔煙毒です。大概の生物にとっては猛毒なので、黒病虫も危険を察知して逃げ出したのでしょう』
『そんな草がこの辺りに育っていて偶然燃えた、って訳じゃないよね?』
『当然自然に育っていても突然燃える筈が無いのですよ。原因は地図に現れた敵性反応の正体、小鬼達が魔煙草を燃やして虫を追いやっていたのですよ』
『小鬼には魔煙毒に一定の耐性があり、彼らにとっては麻薬の様な酩酊効果すら有るので、喜んで燃やします』
小鬼はつくづく迷惑な生き物だった。
そんな迷惑な奴らは魔毒煙と一緒に纏めて監獄惑星にご招待だ。廃棄ともいう。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次も三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、次回も読んで頂けると嬉しいです。
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