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無能力者

大変長らくお待たせして申し訳ありません。

普段執筆に使っていたノートPCが10年程頑張ってくれていましたが、遂に壊れてしまいました。

今はデスクトップを使って執筆していますが、性能は上でも場所を選べないので慣れないと時間を取り辛いです。

次回は予定内に更新できる様、予定を組みつつ頑張ります。


今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇八二 無能力者


 桜花様達が帰った後、僕は五狼と一緒にお風呂に入り、夕食を食べる。

 最近は肉が多かったせいか、今日の夕食は煮魚だった。

 軟らかく煮込まれた魚の身が口の中でほろほろと崩れ、口の中に魚の旨味が広がる。何方(どちら)にしても秋穂母上の料理は美味しい。

 夕食後は日課の呪力操作の練習を経て、各自明日の準備の最終確認をして今夜は早めに就寝する様に伝える。

 僕の方は今夜からは就寝前の記憶統合はせずに、寝起きの自動統合に任せる事にした。

 意識的に記憶統合しても特に何かする訳でも無く、何か問題が有れば向こうから連絡が有った筈だからだ。


「おやすみなさい」


 翌朝、寝起き後の自動記憶統合も予想通りに目新しい事は特に無く、何時もの様に数ヶ所で魔物や盗賊の撃退を手伝った程度だった。

 戦争等には加担せずに回避している以上、早々変わった事件に遭遇する事も無いのだ。

 アルベール王国も戦闘が終了した後に到着したのだし、やっているのはライルさんを勧誘する為の復興支援だから、戦争には直接加担していないと思う。

 功績を考えるなら、もう少し積極的に色々関わった方が良いのかもしれないが、先ずは国が出来てからの方が良いだろう。自己後ろ盾が有った方が色々便利だとの天照達の入れ知恵だ。

 それに何事も欲張らずに、少しずつ進めた方が失敗は少ない。


 他には桜花様に頼まれた複合調理器の試作品が出来ていた。

 これから細部を詰める予定だが、水回りも統合するべきか、悩む処だ。

 僕が欲しいと考えていた道具も幾つか完成していたので、今日の狩りでも活躍しそうだ。


 特に問題が無い事を確認した僕は着替え等身嗜みを整え、食卓に向かうと何時もの様に一狼兄上夫婦が待っていた。


「おはようございます、一狼兄上、冨月義姉上」

「おはよう、四狼」

「おはようございます、四狼さん」


 朝の挨拶をして定位置の座布団に座ると、程なく皆が揃い朝食を頂く。

 今日はしっかり動く予定だからか、おかずが朝から灼熱熊の角煮だった。

 じっくり軟らかく煮込んだ肉の濃い目の味付けに、ご飯が進む。今日の食事も美味い。


 年少組は食後は食休みも兼ねて日課の呪力操作だが、狩りの前なので何時もの半分程の時間だけで終了する。

 その間に大人組は朝の仕事を終わらせていた。


「予定の時間になりましたので、各自着替えて玄関に集まって下さい。移動には町外用の頑丈な自走車を使いますから、鎧は現地に到着してからで構いません。三琅兄上は此方(こちら)の異界鞄をお貸しします。鎧以外にも必要と思う物が有ったら入れておいて下さい」

「異界鞄だと!? そんな高価な物を、どうして四狼が?」

「最近は色々儲かっていますし、商品のやり取りに必要なので幾つか用意して貰っていたのです。魔道薬も幾つか入っていますので、必要になったら遠慮なく使って下さいね」


 そう言って三琅兄上に異界鞄になっている腰鞄を渡す。


「何だろうな、この、弟に負けた感は……」

「三琅兄上は元から四狼兄上に負けている事も多いのです」

「うぐっ!」


 三刃の率直な感想が三琅兄上に突き刺さるが、何時もの事なので皆は気にせず、準備の為に自室に向かった。

 準備といっても鎧は現地で着るので、今は下に着る服や手足の防具だけだから直ぐに支度が終わる。


 やがて支度を終えた皆が玄関前に集まると、僕は無限倉庫から町外用の魔道車を取り出す。


「おおーっ! 凄い! 格好良いです四狼兄上! この自走車に乗って狩りに行くのですね!」

「確かに、大きくて格好良いです」

「ほほう。よくもまあ、こんな立派な自走車を借りられたものだ」

「本当に、最近の四狼は凄いわね」


 弟妹は素直に喜び、魔道車の周りを走り回って新しい玩具を見る様に(はしゃ)いでいるが、兄姉は若干呆れ顔だ。

 三琅兄上も皆に少し遅れて「確かに、でかくて格好良い!」と喜んでいた。

 町外用なので確かに一般の自走車に比べると大きいが、軍用車や乗合自走車に比べるとまだ小さい。


「さあ、何時までも眺めていないで、そろそろ自走車に乗って、好きな席に座って下さい」

「はーい、一番です」


 魔道車に乗るようにと指示をすると、三刃が真っ先に最前列の扉を開いて乗り込む。


「三刃、前の扉は運転席用だから、中央の扉から乗った方が楽だよ」

「前が見たいので、三刃は一番前の席に座りたいです」

「そうね、確かに最前列は運転手が座るから普段は座れないものね。席が空いている様だし、私も前の席に座っても良いかしら?」


 三刃に感化されたのか、二刃姉上迄が助手席に座りたいと言い出した。


「構いませんが勝手に装置を弄られると危険なので、絶対に余計な事はしないで下さいよ」

「はい! 三刃は余計な事はしません!」

「流石にそこまで馬鹿でも子供でも無いわ」


 僕が許可すると、二人は喜んで運転席の左右、若干後ろに下がった助手席に座る。


「椅子がふかふかです。でも、前の窓からは少し遠いのです」

「運転席の左右が同じ位置だと、誰かが座っていると運転手が座れないからね。後で座席をもう少し前に出してあげるから、それまで待ちなさい」

「分かりました。三刃は待ちます」


 助手席が後ろに下がっている理由を話して三刃に納得して貰う。


「側面中央の扉は取っ手の中の突起を押すと開きます」

「ああ、これだな」


 一狼兄上に扉の開け方を教えると、扉を開けて一狼兄上達も車に乗り込む。


「随分と多くの座席が有るのだな」


 後部座席だけでも十四席。家族の人数よりも多いのだが、機動性を考えて六輪にした結果、車体が長くなったのでその分座席も増やしたのだ。


「座席には通話の機能が有りますから運転席とも普通に会話ができますし、座席を倒すと寝台にもなりますよ」

「なんとも贅沢な造りなのだな」


 街道沿いに宿場町も在るので町外で夜を過ごす事は普段は余り無いのだが、狩りの獲物によっては夜しか狩れない獲物も居る。

 そんな場合に仮眠をとったりする為の設備だ。


「おおっ! 凄く座り心地が良いな」

「本当です」


 車内を眺めて呆れていた一狼兄上を余所に、三琅兄上と五狼は早速席に着いて座席を堪能していた。


「一狼兄上には外門での対応をお願いしたいので、右側の席でお願いします」

「分かった。おお、確かに良い座り心地だ」


 後部席組が全員座った処で安全帯を絞めて貰い、扉を閉じて僕も運転席に座る。


「座席横の操作棒で座席を前後できるから、好きな位置に調整してくれ」

「これですね。動きました」


 三刃が最大迄座席を前に出した処で安全帯を絞めて貰い、出発だ。


「おおっ!」


 魔道車を起動せ、車高を上げると三刃が驚いた声を上げた。

 乗り込む為に車高を下ろしていた旨を説明し、三刃が落ち着いた処で魔道車を発進させる。

 先ずは屋敷の門を潜り公道に出て南側の第一門に向かう。

 第一門を潜り商業区を抜けて南西の第二門も抜ければ農業区だ。


「四狼兄上、この自走車は全然揺れないのです。前の絡繰り荷車とは大違いです」

「本当に凄く静かね、いったい幾らするのかしら」


 農業区に入ると流石に道の質も落ちるが、この魔道車は色々と頑張って全輪個別の衝撃吸収機能も付けて作ったのだから当然だ。

 狩人組合の多少頑丈なだけの絡繰り人形の引く荷車と一緒にされても困る。

 そして二刃姉上は魔道車の値段が気になる様だが、高価過ぎて正直に答えられないので、借り物だから値段は分からないと誤魔化した。


「俺も何時かこんな自走車が欲しいぜ」

「ああ、良い自走車だ。三琅が欲しがる気持ちも分かるが、相当頑張らないと買えそうにないぞ」


 手放しで褒めてくれるのは嬉しいが、申し訳ないけど多少頑張った程度では買えないくらいにこの魔道車は本当に高価なのだ。

 市販用に開発した魔道車で我慢して欲しい。


 そんな事を考えながら魔道車を走らせていると、やがて外門に辿り着いた処で門兵に止められる。


「凄い自走車だが、町の外に何の用だ?」

「一狼兄上、お願いします」

「分かった」


 後部座席の一狼兄上に声を掛け、一狼兄上の席の窓を開けてあげると、一狼兄上は門兵に声を掛ける。


「山下、俺だ」

「こ、これは八神師範の自走車でしたか。本日は何用で?」

「これは俺の自走車ではないのだが細かい事は良い。今日は弟達と狩りに出る。通して貰えるか?」

「勿論です。八神師範とそのご兄弟なら何の問題もありません。お通り下さい」


 一狼兄上の事を師範と呼ぶという事は、この門兵はうちの門下生なのだろう。

 対応してくれた門兵が手を振ると、門前に陣取っていた門兵達が横に逸れ、門を通してくれた。

 一狼兄上に任せたおかげもあって、外門をあっさり通り抜けた僕は、魔道車を南に向かって更に加速させる。


「凄く早いです」


 三刃は魔道車の速度に大喜びだ。

 僕は三刃に構わず、町を出たので拡張視覚の地図の範囲を半径二里(約八キロメートル)に広げて周囲を警戒しながら進む。

 一里(約四キロメートル)程進むと地図に南に抜ける街道を囲む森が現れるが、その入り口近くに一つだけ人の反応が有る事に気付く。

 町の外なのに一人で出歩くなんて、熊之助みたいに無茶をしているのではと詳細を確認してみると、一応知っている人だった。

 覚醒初日に検索で見付けた、一人で狩りをしているという和富王国の覚醒者だ。

 前世知識以外には何も能力を持っていないから無能力者といっても差し支えないだろう。

 しかも位階が十一と低いのに一人で町の外に出ているなんて、自殺行為にも等しい危なっかしい行動だ。

 面識はないが、変な称号も持っていないし同じ前世知識仲間だ。お節介かもしれないが声を掛けてみようと考えて森の手前に着いた処で街道を少し逸れ、魔道車を一旦止める。


「すみません、少し知っている人が居たので挨拶して来ます」

「こんな場所でか?」

「こんな場所だからです」

「成程、それもそうだな」


 一狼兄上が不思議そうに訊ねて来たが、僕も同じ気持ちだと答えると納得してくれた。

 三刃に席を下げて貰い、魔道車から降りて反応の有った場所まで駆け足で進み、脅かせない様にある程度離れた場所から声を掛ける。


「おはようございます、町の外に一人で出るのは危険ですよ」

「うわっ! だっ、誰だっ?」


 警戒させない様に距離を取って話し掛けたのだが、向こうはまるで気付いていなかった様で結局驚かせてしまった。


「僕の名は四狼、貴方と同じく日本の方から来ました」

「え、日本って? ええっ!?」

「つまり、僕も貴方と同じく前世知識を持っている、という事です」


 僕の説明に、男は更に(いぶか)しむ様に僕を眺める。


「ぜ、前世とか、何の事か分からないな。宗教活動なら町の中で勝手にやってくれ」


 漢は突然現れた僕を警戒しているのだろう。目を逸らしながら答える。


「突然なので不審に思う気持ちは分かりますが、鑑定能力で前世知識を持っている事は判明していますし、前世知識を持っていない人には前世の意味すら分からない筈です。意味が分からないと言いながら、宗教に結び付けている時点で意味が分かってますよね? それに危害を加える心算なら、初めから声を掛けずにやっています」

「ちっ! 俺に前世知識が有ったら何だって言うんだよ?」


 男は僕の指摘に誤魔化すのを諦めたのか、不承不承といった顔で答える。


「いえ、町の外に特に戦えそうな能力も無いのに一人で居たので気になっただけです。前世知識に引きずられて、日本と同じ感覚で町の外に出ていたのだとしたら、此方は魔物も居て危険ですからね」

「はっ、魔物が居る事くらいは知ってるっつーの。俺はその魔物を狩りに来てんだ。そっちこそ随分と余裕な台詞だな」

「まぁ、僕は一人じゃありませんし、僕達も魔物を狩る為に町の外に出たのですから、十分な準備はしてあります」


 僕の後方、街道の横に停めてある魔道車を示す。


「ちっ、車持ちの金持ち自慢かよ。しかも鑑定も持ってるつーし、くそっ、何が異世界転生だよ。普通の異世界転生なら何かしらのチートが有って当たり前の筈なのに、俺は基本の鑑定とかアイテムボックスすら貰えてねぇ」


 お金がある事を自慢する心算は無いし、チートが当たり前と言われると、実際に僕はチートと言われても反論がし辛いので困る。但し。


「鑑定や異界収納は転生前に選択していれば得られた筈ですよ。欲しかったのなら貰えば良かったのでは?」

「ちっ、ポイントが足りなかったんだからしょうがねぇだろ! それに、異世界に転生するならチートとかは貰えて当たり前だとおもってたし、そのチートで困ってるお姫様や令嬢を助けてハーレムとか、異世界転生つったら常識の話だ。それなのにこの世界はチート所かお姫様との遭遇イベントもねぇ。期待外れもいい所だ」


 なんて都合の良い妄想に凝り固まった常識だろう。


『でも、主様は大体当て嵌まるのですよ』

『彼の言う常識は、ご主人様の現状そのものがあります』

『つまり主様は常識人という事なのですよ。安心してお嫁さんをいっぱい貰うのですよ』


 いや、太刀術や言霊術等は覚醒前に自力習得した能力だし、お姫様との遭遇も果たしているが、これも覚醒前に向こうからやって来ただけだ。僕の所為じゃない。

 そして月詠は直ぐ僕に重婚を進めて来るので困ったものだ。


 僕の事よりも彼の事だが、彼は桜花様よりも遥かに弱い。彼では何の助けにもならないだろうが、それを教える義理も無いだろう。お姫様と面識があると知られると返って面倒そうだ。


「此方の世界では、努力次第で後から能力を得る事も可能ですよ」

「ばっかだなぁ、努力せずに貰えるから特別なんだよ」


 彼の言う事にも一理ある気がしてきたが。


「今更転生し直す事もできませんし、転生するには一度死ぬしか有りませんが、一遍、死んでみる?」

「何さらっと殺害予告してんだよ! 危害咥える気満々じゃねぇかっ!」

「いえ、僕が直接手を下さなくても、魔物を数匹誘き寄せるだけで終わりそうですが?」

「魔物を連れてくんじゃねえぞ! 振りじゃなくてマジで連れてくんなよ! 俺はまだ死にたくねぇ!」

「だったら過ぎた事より、今後の為に能力を増やす事を僕はお勧めしますよ」


 男は舌打ちして「そうだな」と呟いた。

 自己中心的な性格の様だが、真面な部分もありそうだ。犯罪的なものも含めて称号も一つも無いしね。


『犯罪的称号を持っていないのは、それ以上に小心者なのだと思います』

『只のへたれなのですよ』


 案内人達の彼への評価が、何故かやたらと低い。



読んで下さった方々、有難う御座います。

次は三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、次回も読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになりますので宜しくお願いします。

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