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依頼

お待たせいたしました。

今回少し早く更新できました。

僅かでも楽しんで頂けたら幸いです

 〇七六 依頼


 道場に行くと、丁度、午前の指導を終えて掃除をしている処だった。


「春菜母上、一刃姉上が少し体調が悪い様なので、診てあげて貰えませんか」

「一刃さんが? 珍しいですね。分りました。一狼さん! 先に戻ります」


 春菜母上が一狼兄上に声を掛けると、一狼兄上は手を上げて答え、僕は春菜母上を連れて焼肉会場に戻った。


「一刃さん、具合が悪いそうですが、どの辺りに問題がありますか?」

「春菜母上、わざわざすみません。少し胸焼けがするだけなのに、四狼が大袈裟にしてしまって」

「構いません。本当に病気なら当然、早く判った方が早く治ります」


 春菜母上はそう言って一刃姉上の後ろにしゃがみ込むと、一刃姉上も納得したのか、春菜母上の方に身体を向けた。

 暫く一刃姉上を眺めていた春菜母上が「ふうっ」と息を吐き、立ち上がる。


「確かに病気ではありませんが、何も問題が無いとも言えませんね。一刃さんは妊娠してます」

「「「ええーーっ」」」

「まぁ、おめでとうございます」


 皆が驚く中、一刃姉上の隣に座っていた富月義姉上は冷静に祝福の言葉を贈る。


「わ、私が妊娠……」

「一刃さん、おめでとう。良かったですね」

「は、はい、春菜母上、ありがとうございます」


 春菜母上からも祝福の言葉を贈られ、一刃姉上は目尻の涙を拭いながら礼の言葉を述べた。


 その後、皆からも祝福の声が上がり、焼肉会も盛り上がる。

 折角なので油の少ない熊の肉も追加しようと考え、桜花様に訊ねる。


「桜花様、熊は持って来ていますか?」

「おお、そうじゃった。勿論持って来ておるのじゃ」


 桜花様が答え、熊を二頭を取り出すのに十分な場所まで移動すると、異界倉庫から赤熊と灼熱熊を取り出した。


「これが四狼達が狩って来たっていう熊なのね。流石に大きいわね」

「はい、大きいですね」


 一刃姉上と富月義姉上が灼熱熊を見て感心している。


「これは、料理のし甲斐が有りますね」

「はい、何の料理にしましょう?」


 料理組の秋穂母上と二刃姉上は早速、如何にして食べようかと相談し始めた。


「早速、魔石を取る序でに、肉も一部だけ採ってきます」

「今から血抜きや解体をしていたら、四狼の食べている時間が無くなるのじゃ。無理をせずとも良いのじゃ」


 僕を気遣ってくれる桜花様に吸血器を見せ、簡単に血抜きが出来るのでそう時間は掛からないと言ったら、吸血器に興味津々になってしまった。

 先に灼熱熊の魔石と肉を採って来ると誤魔化して詳細は後にして貰い、僕は熊を無限倉庫に回収する。


 序でにと、焼けている鹿肉を使って手早く弁当を作り、猪汁を椀を準備して、解体小屋に向かう途中で、勢多さんと、今日は浴衣姿で桜花様の護衛をできない伊吹さんの代わりの護衛の人に、桜花様の狩った獲物で作った料理です、と渡したら、代わりの護衛の人に大喜びされた。

 自走車の中で食べる訳にもいかないので、二人掛けの卓と椅子を無限倉庫から出して用意してからその場を後にする。


 その後、歩きながら無限倉庫内で灼熱熊を解体したので、解体小屋に着く前に手持ち無沙汰になってしまった。

 折角なので、灼熱熊の肉をより美味しく食べる為に、昨日他の肉にもした様に、天照に最適な熟成時間を確認すると四日程らしい。

 灼熱熊の肉の最適な熟成時間が他の肉より随分時間が短いのは、灼熱熊が熱の属性を持っている所為らしい。

 しかし、逆に言えば、それだけ傷むのも早いという事だ。


 早速錬成空間で灼熱熊の胸肉の時間を加速させて、一番美味しい状態に高速熟成させる。

 出来た肉を鑑定で調べてみると、昨日こっそり熟成させた大鹿と草原蜥蜴と同じく、最高の熟成状態に出来た。

 しかし、此方は大鹿と草原蜥蜴とは違い、瘴気も僅かに残っていた。

 精神耐性が低い者が瘴気の残っている肉を食べると、精神に損傷を受ける事があり、少し鬱っぽくなったりもするので、瘴気払いの術で瘴気を払っておいた。これで安全に美味しく食べられる。


 未だ戻るには時間が早いので、折角だからと開示能力に自走車操車・治癒術を熟練度1で追加しておいた。

 治癒術は言霊術でも使えるが、元々は別系統で専用の此方の方が効果も高く、春菜母上の様に両方持っていると重複して効果が更に上がるのだ。


 準備を終え、十分に時間を潰した処で会場に戻ったが、桜花様には随分早く終わったと軽く驚かれたので、魔石を取る序でに切らなければいけない部位を採っただけだからと説明する。


「此方が灼熱熊の魔石です」


 桜花様に採って来た直径二十ミリ強の魔石を渡す。


「中型の魔物にしては小さいのじゃな」

「成り上がったばかりでしたからね」

「成程、それもそうじゃな」


 桜花様が納得した処で、採って来た灼熱熊の肉を調理する。

 とはいっても下準備は熟成させた時に一緒に錬成空間で済ませたので、後は焼肉用焜炉の横に設置してある簡易調理台で適当な大きさに切って、塩胡椒を振って焼くだけだ。

 数が多いので手伝うと言う二刃姉上に、焼くだけだから大丈夫だと断って、配膳の時に手伝いを頼んだ。


 折角の大きな肉なので、厚さ三センチ程の厚焼きにする。

 しかし、このままでは中に火を通すのに時間が掛かってしまい、下手をすると表面が焦げてしまう。

 なので術で肉全体に圧力を掛けつつ、更に肉内部に加熱の術を使う。

 後は解析の能力で状態を確認しながら、調理の能力に任せて焼き上がりを待つだけだ。

 丁度良い焼き加減になった処で裏返し、反対側も焼いていく。

 両面が程良く焼けたら半分に切り、視覚的にも焼けている事を確認し、二刃姉上に手伝って貰って皆に灼熱熊の厚焼き肉を配った。


「随分厚いですが、中もしっかり焼けているのでしょうか?」


 秋穂母上が心配そうに厚焼き肉に食事包丁を入れる。

 この世界の肉は生や半生では食べられないから、心配する気持ちも分かる。


「倍の大きさで焼いて、半分に切って配ったので大丈夫ですよ」

「そう? 確かに火は通っている様ですね」


 秋穂母上が安全を確認した処で、皆にも好みの垂で食べて貰う。


「……」

「お、美味しい……」

「それに、凄く柔らかいわね」

「四狼殿、凄く美味いで御座る!」

「……確かに美味しいのじゃ。しかし、灼熱熊はこんなに美味しかったかのう?」

「そうですね、不思議なくらい美味しいです」

「「「…………」」」


 皆が喜ぶ通り、確かに美味しい。

 前に食べたもっと上の肉よりも美味しく感じる。

 流石、最高の熟成状態を再現しただけある。


『いえ、ご主人様、それだけが理由ではなく、解析で状態を完全把握しながら最高熟練度の調理能力を駆使いたしましたから、最高の料理が出来て当然です』

『寧ろやり過ぎなのですよ』


 皆に美味しく食べて貰おうと思っての行動だったのだが、確かに月詠の言う通り、やり過ぎてしまった様だ。

 反省しつつ、大鹿や草原蜥蜴の肉を串焼きにして調理能力を抑えて焼いたが、此方も先程食べた同じ肉より美味しいと不思議がられた。

 しかし、今度は二刃姉上が焼いても十分に美味しかったので、皆には初めての狩りの成果という調味料が効いているのだろう、と誤魔化しておいた。


 その後は複数用意した焼肉用焜炉や焼鍋で、各自、好きな肉や野菜を自分で焼いて食べる。

 玉葱や南瓜等、大半の野菜は日本の物と形は略同じだが、二~三倍大きい。

 中には今回用意した玉蜀黍(とうもろこし)の様に、太さは日本の物と同じなのに、長さが一メートル近くある野菜もあったりする。

 それらの野菜を食べ易い大きさに切って二刃姉上達が準備してくれていたので、皆も肉の合間に適当に焼いて食べた。

 醤油を塗って焼いた焼玉蜀黍美味(うま)し。


 皆の腹が膨れてきた処で一刃姉上が、これだけの獲物を如何にして狩ったのか疑問だという話になり、桜花様が自慢げに「大鹿は呆気なかった」「狼は切りが無かった」「熊は危なかった」といった話を披露し、時折三刃が身振りを交えて楽しそうに追随する。


「それだけの狼に襲われて、良くご無事でしたね」

「やはり流石に熊は無謀だったのではないでしょうか?」


 一刃姉上と春菜母上が心配顔だったので、今後は気を付けると答えておいた。


 そんな焼肉会も、僕と五狼以外は女性という事もあって、二時間と経たずに皆が腹いっぱいになった処でお開きになる。


「少し食べ過ぎたのじゃ」

「はい、今日のお肉は美味しかったで御座るから」

「もう、入んないです」


 狩り参加の女性陣は食べ過ぎて動けないという。


「でも本当に、今日のお肉は美味しかったですね」

「ええ、でも途中でお酒が禁止されたのが残念でした」


 富月義姉上も肉の美味しさに同意し、お酒の飲めなくなった一刃姉上が少し羨ましそうに空の酒瓶を大量生産した五狼を妬む。

 もしかしたら五狼は、肉そっちのけでお酒を飲んでいたのかもしれない。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 秋穂母上と二刃姉上が片付けを始めた処で、桜花様に話が有ると誘われたので、僕達は焼肉会場から少し離れた場所に移動し、無限倉庫から卓と椅子を出して座って話を聞く。


「父上から四狼にって依頼を頼まれたんだけど、できたら受けて欲しいの」

「王様からですか? 少し怖いですが、僕にできる事ならお受けしますよ」

「そんな身構える程の事じゃないわ。これの提供者から、魔術付与や能力付与の魔道具が手に入るなら、幾つか売って欲しいってだけよ」


 桜花様は防毒の腕輪を見せながら依頼内容を説明する。

 王様からの依頼という事で桜花様の言う通り、少し身構えてしまったが、思ったより単純な事だった。

 確認してみたが、無限倉庫内にも和富王国式の物や、他の国で使われているらしい物も何種類か、大量にあったので、売るのは問題は無い。


「そんな事で良ければ、売って貰えるか確認してみます」

「ありがとう。古い付与の魔道具の中には壊れた物もあって、徐々に付与できる強度が下がってきているから、できればある程度、強い付与ができると助かるわ」


 今、使われている付与の魔道具で付与強度が足りないというのなら、無限倉庫内の物も同じなので弱いかもしれない。

 持っている物を解析すれば構造は分かるし、後は多めに付与するだけだからそんなに難しくもないだろうと、分体一号に連絡しておく。


「後、四狼は三日後のお昼は空いてる?」

「明後日以外は今の処予定はありませんが」

「そう、良かったわ。前に言っていた、国内の覚醒者の集会が有るんだけど、四狼も参加しない? 勿論、全員参加する訳でも無いから、無理強いはしないわよ」


 それは少し面白そうだ。


「いえ、断る理由がありませんし、僕も興味が有るので、是非参加させて頂きます」

「それじゃあ、三日後のお昼前に、城に来てくれるかしら」

「分かりました」


 こうして僕は和富王国の覚醒者とも会える事になった。

 アルベール王国では完全に説明役になってしまったが、和富王国は昔から覚醒者との付き合いも有った様だし、僕が知らない話も聞けるだろう。今から楽しみだ。


 その後暫く会話を楽しんだ桜花様が帰る時間になった。


「四狼殿、ありがとうございました。とても美味しかったです」

「ありがとうございました」

「どういたしまして」


 勢多さん達から、お礼の言葉と食べ終えた弁当箱を受け取る。


「では四狼、また明日なのじゃ」

「はい、また明日」


 別れの挨拶を済ますと、桜花様を乗せた自走車が帰って行った。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 玄関に戻ると、一刃姉上も春菜母上に連れられて帰る処だった。

 巧義兄上に妊娠の説明と、初めての子供なので注意点の説明をしに行くという。

 折角なので、狩りに使う自走車で送る事にした。


「これが四狼さんが借りて来た自走車なの? 随分大きいわね」

「四狼、本当に運転できるの?」

「大きいのは危険な町の外を走る為です。運転も習ってきましたから問題ありません」


 無限倉庫から取り出した自走車を見た二人が、その大きさに驚いている。

 今回使う自走車は分体一号が開発した、車幅八十五尺(約二メートル五十五センチ)、車長二十二尺二寸(約六メートル六十六センチ)の軍用車両に次ぐ大きさの自走車だ。

 車輪も六輪有り、其々に独立した動力と衝撃吸収機構を持った六輪駆動で六輪操舵になっている為、相当な悪路も余裕で走破できる筈だ。

 動力は電気発動機モーターを使用し、魔道焜炉でも使った魔力効率の良い、発電の魔道具を大型化した物を搭載している為、魔力を使った燃料電池車の様な形だ。

 制御にも絡繰り魂を使わず、複数の水晶球を使用した事で素材費を抑えられる様にしたのだが、今回は実験用に構造材の大半を魔導金属で作った為、全く意味を成していない。


「さあ、三刃に見付からない内に出発しましょう」


 僕はそう言い、車体左中央の扉の取っ手を引くと、扉が少し飛び出して後方に開いていく。

 一刃姉上達が恐る恐るといった感じで乗り込むと、車内の右には四列の、左は扉を挟んで、前方一後方二の三列の座席が有り、どれも二人座れる大きさで一寸したバスの様な形だ。


「うっわ、何この椅子。すっごく柔らかいんだけど」

「本当に、座り心地が良いですね」


 座席に座った一刃姉上達が驚いているが、この椅子は分体一号が色々頑張った力作だ。

 鎧を着て座る事も想定して、表面は正竜の内皮を使った頑丈な物にし、中は複数の衝撃吸収素材を組み合わせて安全性を高めた結果、日本にも無い様な座り心地を実現したのだ。

 僕も乗り込み、前方に移動して中央の運転席に座る。


「それじゃあ、発進します」


 僕は後ろの二人に声を掛け、自走車を起動させる。

 車輪の固定を外し、乗り易い様に下げていた車高を上げ、車を発進させる。

 視界が上がった事に一刃姉上が少し驚いていた様だが気にしない。

 そして殆ど音も無く、車は走って行く。


「凄く静かですね」

「うん、柔らかい椅子のおかげか、全然揺れないしね」


 二人に好評のまま第一門を潜り、商業区に出て藤邑商会に辿り着く。


「一刃姉上、着きましたよ」

「ありがとう四狼。やっぱり自走車で来るとあっと言う間ね」

「私達が話している間、四狼さんは如何しますか?」

「僕は一旦狩人組合に行って、赤熊を売却して戻って来ます」

「分かりました。その間に話を付けておきます」


 そう言って二人が自走車から降りると、僕は言葉通りに狩人組合に行って赤熊を売却して来る。

 戻ると、予定通りに春菜母上の説明も終わっていたので、春菜母上を乗せて屋敷に帰った。



読んで下さった方々、有難う御座います。

次も三週間以内に更新出来る様に頑張りますので、次回も読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになりますので宜しくお願いします。


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