焼肉会
大変お待たせいたしました。
評価やブックマークをして下さった方々、有難う御座います。
少し遅れましたが、今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです
〇七五 焼肉会
女生徒達を全員家に送った序でに、フランさんもエステルさんの父上にエステルさんの状態を報告する為、エステルさんに付いて行って貰った。
エステルさんの受けた被害を、本人も含めて僕の次に詳しく知っているからだ。
何処まで話すかも、フランさんに一任してある。
なので旅館別荘には現在人は僕しかおらず、近場には隔離していたキンス達が居るくらいだ。
未だ水も食糧も余裕が有る様だが、流石に監禁状態には堪え始めている様だ。
ライルさんが罰を与える前に死なれても困ると考え、車ごと全員無限倉庫に回収しておいた。
序でにキンスを捉えていた空間の壁と、馬達が居た空間の壁を元に戻し、旅館別荘に繋がる穴も塞いでおく。
誰も通らないとは思うが、これで道を塞いでいた壁は無くなったので、普通に通れる様になった。
無限倉庫といえば、共和国兵や盗賊に捕らわれていた人達もそろそろ解放した方が良いかと考え、分体三号に用意して貰っていた監獄惑星の病院島に転移する。
八階建ての病院にはベッドが千程在り、下の階から八人部屋、四人部屋、個室と用意してある。
八人部屋には怪我人の多い男性陣を、四人部屋には怪我をしていた女性を、個室には性暴行を受けた女性を入れる。
人数も多い為、僕は十六の分体に分かれて其々の治療を行う。
先ずは其々のベッドに麻酔状態にした患者を無限倉庫から解放して周る。
そして只の怪我人は医療用の絡繰りに任せて、僕は性暴行を受けていた女性の治療に専念した。
性暴行を受けていた女性には、天照の言っていた時間を戻す方法で全てを無かった事にした。
この方法が一番確実なのと、エステルさんの状態を見ていたので、例え正気を保っていても覚えていない方が良いかと思ったからだ。
中には家族や恋人、同行者や知人、他の被害者の前で暴行された者も数人いた様だが、それらの目撃者も時間を戻して記憶を無かった事にする。
そして全員、殴られて気を失ったという記憶を捏造しておいた。
これで今までの記憶が無い事をそれ程不自然には思わないだろう。
そして、わざわざ見世物にした暴行犯達には、エステルさんを暴行した者と同じ様に厳罰を与えようと考え、印を付与しておいた。
やがて全ての治療を終えると分体を統合し、気付いた者から食事を与え、戻りたい場所を確認して送る様、絡繰り達に指示を出して僕は旅館別荘に戻った。
内容が気分の良いもので無かったせいか、治療には一時間程しか掛かっていない割に妙に疲れた気がする。
気分を切り替える為、少し早めだが昼食を食べる事にした。
「いただきます」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
和富王国の朝、僕はここ最近の習慣になった統合した記憶を反芻していた。
アルベール王国の状況は順調に進んでいて、遂に移民も始まった。
更に分体二号が盗賊や共和国兵の被害者を、他の分体も火山災害の被害者の治療で多くの怪我人を治したり、病気が流行っている地域で病気の治療をしていた分体もいたおかげか『治癒術師』『心痛を覆す者』『病魔を払う者』『這い寄る聖人』なんて称号が増えていた。
しかし治癒術師とか今更だし、相変わらず少し突っ込みたい名前の称号もあるものの、天照の話によると、どれも治療効果が高まるという有益な称号の様だし、功績が増えるのも良い事なので諦める事にした。
魔術書組も多くの魔術書を読んだおかげで『魔術司書』『魔術博士』『魔術の王』『魔術の深淵を覗く者』等の称号を得ていた。
最後の称号は間違って禁呪の書物を読んでしまったせいだろう。
大陸が吹っ飛ぶ様な凶悪な魔術なんて怖いし、当然使う予定は無いので封印しておいた。
そして複製世界の分体一号は、僕用の自走車を魔改造していた。
とはいっても安全性能を向上させた、衝突した対象にも結界を張って怪我や破損を抑えるという機能だ。
更に派生品の無限軌道の装甲車を複製世界用に作ったり、一般にも市販できる様に廉価版の自走車も開発中だった。
僕用の自走車は沢山有るからと、素材の金額を気にせずに魔導金属を大量に使って作ってしまったので、とんでもなく原価が高くなってしまったのだ。
恐らく地球の価値だと、原価だけで最高額の戦闘機よりも高くなっていそうだ。
折角絡繰り魂を使わない自走車を作ったのに、一般販売できないのは勿体無いので研究してみたのだ。
おかげで『研究者』『乗物博士』の称号も得ていたが、珍しく普通の称号だと思った。
他の分体も何時も通りに、魔物や盗賊に襲われている商隊や旅人を助けたり、路上生活児童を保護したりもしていたので『旅人の救い手』『幼子の護り手』という称号も得ていた。
こうして新しい称号が幾つも増えた事にホクホクしながら朝の身支度を終え、食堂に向かう。
暫く待つと皆が揃い、朝食が始まった。
朝食の献立は一狼兄上と三狼兄上は焼き魚も食べていたが、他の者のおかずは味噌汁と冷奴のみにした。
これは昼食の焼肉会で肉をたっぷり食べる予定なので、朝は控えめにした為だ。
朝食の後は五狼達の修行だが、先ずは最近の日課にしている呪力操作の練習をさせる。
五狼はそろそろ呪力操作の能力を身に付けそうだし、僕の開示能力にも呪力操作を加えた方が良いのかもしれない。
その後は何時もの型稽古をするように言いつけ、終わった後は自由とした。
恐らく五狼は魔術書を読み耽り、三刃は焼肉会の準備に駆り出されるだろう。
その間に僕は次の狩りの準備と称して出掛ける事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
先ずは藤邑商会に行って血抜きの魔道具、仮に吸血器という名前を付けた物の販売を相談する。
回収した血がいっぱいなると使えなくなるので、当面は半分だけ売って貰い、残りはいっぱいになった物を持ってきたら交換するという形にして貰った。
後日、更に僕が新しい物と交換し、回収した魔物の血を魔血晶に加工するのだが、正直面倒だ。
早急に藤邑商会で魔血晶を作れる様な魔道具を用意しないといけない。
その辺りも含めて巧義兄上に説明する。
「うちとしては直接魔血晶を扱えるのは助かるけど、その方法では今後の需要によっては魔血晶を生成する魔道具や、店自体を増やさなければいけないかもしれない」
巧義兄上は今後かなり需要が出る事を前提に話をしている様だが、確かに血抜きの手間が省けて、更にその血液が売れるとなれば、狩人の大半が吸血器を欲するだろう。
しかし吸血器も魔道具だし、異界倉庫を付与する為に聖銀も使用しているので相応に高額になる。
一応、僕達基準で作った初期の吸血器より、保存できる血の量を減らす事で素材費を下げた物も用意したのだが、暫くは中堅以上の狩人か猟団の者しか買えないかもしれない。
そう僕の考えを話したのだが、巧義兄上はそうはならないという。
「確かに普通に販売すれば初めはお金に余裕の有る者しか買わないだろう。でも、狩りの効率が上がれば収益も増える。そんな同業者を見ていれば自分達もと、多少無理をしても買いに来るだろう。収益が増えれば、将来的には吸血器を買った代金もいつかは回収できるんだから、買わない理由は無いよ」
確かに巧義兄上の言う通りかもしれない。流石、本物の商人といった処だ。
「それにね、この手の道具は最も使いそうな処に直接売ってやれば良いんだよ。今回の場合は狩人組合だね」
ここまで説明されれば僕でも理由は分かる。
組合に売れば組合の解体で使うのは勿論、狩りの時に優秀な狩人に貸し出す事で狩りの効率を上げて貰い、更に魔物の血液も手に入るので一石二鳥になるからだ。
そうして詳細を詰めながら容量の少ない吸血器を二百五十六個、容量の大きい方を六十四個、巧義兄上に預ける。
更に電磁式魔道調理機の実験も問題無いとの事で、此方も本格販売を始める為に、其々三十二台ずつ預けた。
此方は士族や商候向けの超高額商品になるので早々売れないだろうけど、僕にとっては利益率が半端ないので、一台売れれば利益が出てしまう美味しい商品だ。
魔道調理機用の魔石柱も補充分を渡し、これらの代金は月末に全部纏めて支払われる予定だ。
こうして商売の話を済ませた僕は、一刃姉上に昼から焼肉会をする事を伝えて一刃姉上の参加の返事を貰い、藤邑商会を後にした。
その後は移動用の自走車を借りる口実の為、散歩がてら寄り道をしながら時間を潰して屋敷に帰った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
屋敷に戻ると、焼肉会の準備が概ね終わっていた。
「四狼兄上、おかえりなさい。焼肉会の準備はできています」
「四狼兄上、おかえりなさい。三刃も準備を手伝ったのです」
どうやら、五狼も焼肉用の焜炉や炭を運んだりして、準備を手伝っていたそうだ。
「そうか、二人共お疲れ様」
僕が二人を労うと、二人も嬉しそうにしている。
お茶を飲みつつ、五狼に頼まれた魔術書の解説をしながら待っていると、一刃姉上がやって来て真面目に勉学に励む五狼を激励してくれた。
更に少し待った処で、桜花様と伊吹さんがやって来た。
「待たせたのじゃ」
「いえ、時間通りですよ、桜花様」
今日の桜花様はいつもの羽織袴ではなく、薄い桜色の生地に花が咲き乱れた浴衣だった。
合わせたのか伊吹さんも薄い水色の浴衣だ。
「いつもと服装が違うと新鮮ですね。よく似合っています」
「そ、そう。ありがと」
今日は髪も結い上げている為、普段見えない首筋が少し艶っぽく感じる。
「姫様、綺麗なのです。伊吹さんも凄いです。それに姫様とおそろい……三刃もっ!」
三刃も普段と違う桜花様に若干興奮気味で、恐らく自分も着替える為だろう、部屋に駆けて行った。
そして、確かに伊吹さんは普段の袴姿より生地の薄い浴衣だと、身体の線の強弱が凄い。
「浴衣も嫌いではないで御座るが、若干動き難いので少し苦手で御座るよ」
太いズボンの様だ構造の袴と違い、大きく足を広げると下着が見えそうな浴衣は、確かに足の可動域が狭そうだ。
「ほほう、随分弛んだ事を仰いますね、伊吹さん」
その言葉を聞きとめた秋穂母上が、伊吹さんに声を掛ける。
「護衛が苦手等を公言してどうするのです! 苦手なら克服しなさい。後日、浴衣での戦闘を指導いたしましょう」
「は、はい、よろしく、お願いするで御座る」
浴衣ではないにしろ、普段から和服の秋穂母上なら袴以外での戦闘も難なくこなす。
伊吹さんも良い戦闘訓練ができるだろう。
今回の主役の一人の三刃が居ないが、肉が焼けるまでには戻って来るだろうと、炭に火を入れる。
序でに卓に電磁式魔道焼鍋も置いて、此方でも肉でも野菜でも、好きな物を焼ける様にした。
飲み物もお酒を始め、飲めない者用に炭酸水やお茶、酒精の無い甘酒等も並べておく。
やがて着替え終えた三刃が戻って来た処で丁度肉も焼けた。
「それでは、桜花様と五狼・三刃の始めての狩りの大成功を祝って、初狩りの成果を存分に味わって下さい。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
さあ、焼肉会の始まりだ。
今回食べるのは先日狩った獲物全種だが、灰色狼と一角鼠は低所得者向けの安い肉なので、初めに軽く味見程度で済まし、一般層向けの槍猪や足狩り兎を間に挟みつつ、大鹿や草原蜥蜴を主役にする予定だ。
「狼肉は初めて食べるのじゃが、歯応えが有って結構固めの肉なのじゃな」
「姫様、下町の方では普通に肉串も売られていますが、町の此方側になると煮物や挽肉にして使う事が多い肉です」
料理の事ならと二刃姉上が桜花様に解説すると、桜花様も成程と頷いていた。
続けて猪肉や兎肉を食べる。
「此方は何時もと同じ筈じゃが、若干美味しい気がするの」
それは昨日、保存する前にこっそり天照の調整で、今日食べる最高の状態に熟成させておいたというのもあるだろう。それに。
「それは、自分で狩った獲物という調味料が、美味しさを引き上げているですよ」
「そうじゃな、自分の成果じゃからな」
僕の答えに桜花様も上機嫌で肉を口に運ぶ。
その口元はとても緩んで見えた。
「やはり猪肉には麦酒が合うで御座るなっ!」
桜花様の隣では伊吹さんが既に出来上がっていた。
いや、気持ちは分るよ。
バーベキューにビールは最高に合うからね。
三刃も「姫様、美味しいですね」と喜んで食べているし、五狼は黙々と肉と和酒を口に運んでいた。
そんな中、一刃姉上は箸が進んでいない様だ。
「一刃姉上、如何かなされましたか?」
「ええ、もう歳なのか、最近は猪肉の油が辛いのよね」
いや、一刃姉上はまだ二十歳だ。歳という程ではないだろう。
何処か体調が悪いのかと鑑定してみると、状態が妊娠二十四日と出た。
おおーーっ、そういう事なのか。
道理であの一刃姉上が昨日、洗濯程度で嫌がっていた訳だ。
「取り敢えず油が辛いなら、油の少ない蜥蜴肉はどうですか? ぽん酢で食べると美味しいですよ。あと、お酒は止めて下さい」
「蜥蜴肉は分るけど、お酒も駄目なの?」
一刃姉上は飲みたそうな顔をするが「体調の悪い時にお酒は駄目です」と言って、同じく今はお酒の飲めない富月義姉上に見張りを頼み、春菜母上を呼んで来ますと席を立つ。
原因は分っているが、僕が説明する訳にもいかないし、本人や他の者に説明するのは専門家に任せた方が良いだろう。
読んで下さった方々、有難う御座います。
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