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移民開始

大変お待たせいたしました。

本年も宜しくお願いいたします。

評価して下さった方、有難う御座います。

予定より少し遅れてしまいましたが、今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです

 〇七三 移民開始


 アルベール王国現地時間で午前六時頃、各町の外門の外には幾つもの卓と椅子が並べられていた。

 移民に関する説明と、昨日の夕方に続いて朝食を振る舞う為だ。


 大きな町の外門の外にはちらほらと、小さな町の外門の外にはぽつぽつと住民が現れる。


 アベルの東門の外に注目してみると、既に背負い袋を被いて早速移民に参加する心算でいる者、手ぶらで様子を見に来ただけの者、元から財産等の無いホームレスや孤児等、様々な人達が集まって来ていた。


「本日も食事を配布いたします。ご希望の方は此方にお並び下さい」


 食事配布の絡繰り達が声を上げると、孤児達が大慌てで指示された場所に並び、更に他の大人達も並び始める。


 今回の食事は醤油味と味噌味の肉麦餅(むぎもち)(パン)にした。

 狼の挽肉に豆や刻んだ野菜等を混ぜた物に味を付けて麦餅の生地で包んで焼いた食べ物で、和富王国の下級から中級家庭向けのお店で売られている、人気食の一つでもある。

 多少の違いはあるが、簡単に言うとあんぱんの中身が肉まんの中身になった様な物だ。


 これを体格に合わせて大中小のどれか二個と、乳酸菌飲料を今日の朝食に提供する。


「子供だけの者は此方へ、纏めて運びます」


 子供用に用意した若干低めの卓へと子供達を案内し、皆が椅子に座った処でおしぼりを配って手を拭いて貰う。


「こうして、指を包む様に一本一本丁寧に拭いて下さい」

「こ、こう?」「あったかーい」「きもちいいねー」


 子供達は絡繰り達の指示に素直に従い手を拭うと、おしぼりは直ぐに黒っぽく変色してしまう。

 余程手が汚れていたのだろう。

 口周りの汚れも落としておいた方が良いだろうと、汚れたおしぼりを回収し、新しいおしぼりを渡して顔も拭いて貰う。


 完全には程遠いが一通りの汚れが取れた処で食事を配ると、子供達は早速食べ始める。


「おいしいーね」

「ねー」

「「うまっ」」

「「「……」」」


 子供達は美味しいと言い合いながら食べるか、無言で夢中になって食べるかの違いはあるが、肉麦餅は概ね好評の様だ。

 しかし乳酸菌飲料の方は「あまいけど、すっぱい?」「くさってる?」と不評だった。


「問題ありません。身体を強く、綺麗にしてくれる飲み物です。残さず飲む事を推奨します」


 絡繰りの説明に、男の子は強くに、女の子は綺麗にの部分に反応し、ちびちびと飲み始める。

 強く綺麗になるのは主に腸なのだが、腸の健康は身体全体の健康と精神の健康にも繋がるので、問題無いだろう。


「慌てず、ゆっくり、よく噛んで食べて下さい。そして食事をしながらで良いので、話を聞いて下さい。ですがその前に、貴方方には大人の同行者がいませんが、一緒に生活している大人はいないのでしょうか?」

「母さんは冬に死んじゃったし、父さんは戦争に行ったまま帰ってこなかった」

「お父さんは初めからいない。お母さんは去年いなくなった」

「わかんない」


 絡繰りの質問に子供たちは其々答えるが、やはり全員大人の同居人は居ないそうだ。

 そして半数近くの子供達は路上生活をしている事も分った。


「昨日の空に映った王子の言葉の意味は分かりましたか?」

「えっと、王子様が引っ越すから、ついて来たら食べ物が貰えるって話? 本当なの?」

「はい、食べ物だけでなく、新しい服と新しい孤児院もご用意します。参加して下さいますか?」


 絡繰りの答えに子供達は「食べ物が貰えるの?」「行くっ!」「孤児院に入れるの?」「新しい服!」「行きたいっ!」「ぼくもっ!」「!?」と理解できた子供は参加を表明する。

 小さな子供の中には理解できていない者も居た様だが、年長の子供が一緒に来れば住む場所や食べ物が貰えると説明すると、行くと言ってくれる。


「ご参加ありがとうございます。但し、今回は王子の発言なので身元が確りした人物の提案になりますから問題御座いませんが、知らない人に食べ物をあげるから追いて来いと言われても、絶対に追いて行かないで下さい。逆に食べられてしまうかもしれませんよ」


 絡繰りの脅しに年長の子は「分ってる」と答え、年少の子は「食べられちゃうの?」と怯えてしまったので、今回は大丈夫だと宥める。


「時間になりましたら移動を始めますので、食べ終わったら持って行きたい物をこの袋に入れて戻って来て下さい」


 孤児達に対応した絡繰りはそう告げて其々に背負い袋を渡すと、新たに訪れた子供の集団に向かい、同様の世話を焼く。

 王都は人口が多い分、孤児も多い様だ。



 暫く問題無く続いていた食事の配布だが、やがてその平和を脅かす者が現れた。


「たった二つじゃ足りねえんだよっ!」

「原則一人二つまでです。納得できないのでしたら立ち去りなさい」

「ああっ! お前、女のくせに生意気だぞっ!」

「成程、わざわざ女性型の私の列に並んでいたのはその為ですか。男性型の列に並べなかった小物が偉そうですね」

「うるせえっ! 綺麗な仮面を付けてるからって偉そうにしてんじゃねぇ! どうせ素顔はぶっさいくなんだろうっ!」


 男には瞬きはするものの、口を動かさずに話す通常型の絡繰りが、仮面を付けた人に見えていた様だ。


「痛い目を見る前にもっと寄越しやがれっ!」


 男は続けて怒鳴ると絡繰りの右肩を押さえ、右腕を振りかぶる。

 そんな男の行動を見ていた隣の男も「俺も……」と便乗しようとした矢先。


「明確な敵対行動を確認。排除致します」


 絡繰りはそう呟くと左腕を伸ばし、男の顔が近付いた処で衝撃が一点集中しない様に手加減する為、親指以外の指を揃えてデコピンの要領で男の顎を弾いた。

 すると男の身体は十センチ近く浮き上がり、地面に着地するとたたらを踏んで後ろに下がっていき、やがてドスンと尻餅を付く。


「あがっ?」


 男は何が起きたか、理解出来なかった様だ。


「代わり、ますか?」

「いえ、私の力を証明する為にも、このまま私が対処した方が良いでしょう」

「了解」


 騎士鎧の絡繰りが女性型の絡繰りに交代を確認するが、女性型の強さを見せ付ける為と説明され、騎士鎧型は素直に引き下がる。

 女性型の絡繰りは配布の机を回り込むと、座り込んでいる男の両足を掴み、ずりずりと配布所の端へと男を引きずって行く。


「痛てぇ、止めろっ! 止まりやがれっ!」


 男は暴れて抵抗しようとするが、文字通り通常型の絡繰りとアルベール国民ではレベルの桁が違うので、男の抵抗は無意味に終わる。

 男の制止を無視した絡繰りは配布所の端まで来ると持ち手を返し、振りかぶってそのまま男を放り投げる。


「う、うわああぁぁぁぁぁーーーっ!!」


 男は放物線を描いて四十メートル程飛んで行き、地面に落ちる寸前に絡繰りの張った衝撃を吸収する障壁に由って受け止められる。

 絡繰りが障壁を解除すると、男はそのまま地面に落ちて大人しくなった。

 その光景を見ていた住民の大半は、身長が百五十センチ程の女性型が、身長百七十センチ程の男を何十メートルと投げ飛ばした事に驚いていたが、子供達には「つえぇー」「かっこいい」と喜ばれた。


「皆様お騒がせ致しました」


 男を投げ飛ばした絡繰りが頭を下げて謝罪し、元の場所に戻って行く。そこでは。


「俺も、何で御座いましょう?」


 男を投げ飛ばした絡繰りの隣の列で便乗しようとしていた男に、対応していた絡繰りが質問する。


「えっと……」

「俺も、何で御座いましょう?」


 追加を強請った隣の男が投げ飛ばされた処を見ている為、男はどう答えるか返答に焦る。


「お、俺は意外と小食なんだ。だから、俺も(・・)っと小さいパンで良いんだが、中くらいのを頼んでも、良いかな?」

「勿論、食べきれない量を強要致しません。より小さい物への変更は可能です」

「そ、それじゃあ、中くらいので頼む」

「畏まりました」


 男は中の大きさの肉麦餅を二つと乳酸菌飲料、おしぼりの乗ったお盆を受け取ると、足早に絡繰りから離れた席に向かい、椅子に座ると卓に突っ伏して己の無事を喜んだ。


「た、助かったーっ」



 その後も些細な問題を挟みつつ、大きな混乱は無く食事の配布が終わり、移民の説明が始まる。


「昨日の説明にもありました通り、移民に参加される方が持って行ける荷物は背負い袋一つ分だけです。残していく財産は一時預かりを了承された物については後日、返却可能な物は返却致します。

 先ず仮町の中央に移動して頂き、そこで仮の住民登録をし、住処を割り振ります。

 その町で我が国の法、規則等を学び、合意した者が本国に移民。合意できない者は此方に戻る事も可能ですが、戻った者の我が国からの援助は終了します」


 その後も細々とした説明をし、全ての説明が終わると配布所の端に巨大な扉の付いた鳥居が現れる。

 転移門を鳥居の形にしたのは、表面に使った日緋色金の緋色のイメージが鳥居に重なったのと、今後も使うと思うので、覚醒者なら何かを感じて貰えるかもと考えたからだ。


 やがて準備を終えて来ていた住民が恐る恐る転移門に近付くと扉が開き、中に真っ黒な壁が現れる。


「それでは移民開始致します。黒い部分は通り抜けられますので、そのままお進み下さい」


 絡繰りがそう説明し、中に入って行く。

 この場に居る半数の絡繰りが転移門を通り抜けても、住民は中に入ろうとしない。


 やがて準備に戻った孤児達が帰ってくると、その内の年長の子が「大人の癖に怖がりだな!」と叫んで転移門に飛び込んで行った。

 暫くすると子供が門から顔を出して「凄いぞ、皆も来いよ」と言って顔を引っ込める。

 それを見た他の孤児達も転移門に入って行き、大人達も代表が入って安全を確認して残っていた者に報告すると、住民達も移動を始めた。



「何だか体が軽くなった気がするなぁ」


 転移門を抜けた男が肩を回しながらそう呟くが、転移門には検索の能力も付加されており、通過と同時に身体の内外に有る有害物を検出し、廃棄用の島に分けて転送される仕組みも組み込まれている為だ。

 この機能によって、わざわざ個別に身体の有害物質を取り除く手間を省いたのだ。


 門を抜けた先は大きな広場になっており、正面にはライルさんが住む予定の県庁庁舎が建っている。

 その広場には幾つものATMが前後に二つ繋がった様な、立って行う対戦ゲーム機の様な物が幾つも並んでいる。


「大人と一緒でない子供達は此方に集まって、同じ孤児院に入りたい者で一緒になって待っていて下さい」

「ご家族単位で住民登録を致します。此方にお並び下さい」


 絡繰りの説明に、一組の家族が従って住民登録の魔道具の前に立つ。

 絡繰りが反対側に回り、魔道具を操作しながら指示を出す。


「此方に手を乗せて下さい。住民証を発行致します。また、希望される職種が御座いましたら仰って下さい。無ければ未定で構いません」


 家族の父親らしき男が絡繰りの指示に従って操作盤の位置にある水晶板に手を置くと、水晶板が一瞬光り、水晶板の下の受け取り口から一枚の金属板が出て来る。


「そちらが仮の住民証になります。家の鍵にもなっていますので、無くさない様にお願い致します」


 住民証は軽銀で出来ている六センチ×四センチ程のカードで、一つの角には穴が開いていて紐を通して首に掛けられる様にしてある。

 反対側の短編の角には其々小さな水晶球が埋め込まれており、これに個人毎に違う指紋代わりになる魔力紋が登録され事で、本人が特定できる様にしてある。


 住民証の表には顔写真と、名前・性別・生年月日・年齢・レベル・住所・職業等が記載されており、誰でも確認できる。

 裏には能力が記載されているが、此方は本人か、専用の魔道具を使った時だけ見れる仕様だ。

 住民証の構想は、桜花様との冒険者云々の話を元に、戸籍管理にも便利そうだと考えて作った。


 やがて家族全員の住民登録を終えた家族には、住居毎の管理人の元に移動して貰う。

 町の中央になるこの場所から離れた区画に住む者は、少し距離が有るのでもう一度転移門で移動して貰い、近くの者はそのまま徒歩で移動する。


「これが俺達の家?」

「大きいね」

「集合住宅ですからね。此方は皆さん共同で複数の家族で使います」


 広場の周辺は明らかに店舗用の建物だった為に気にしていなかった様だが、新居に到着するとそれらの建物と遜色の無い、綺麗な建物が皆の目の前にあった。


「お母さん、凄く綺麗だね」

「そうね」

「皆さん一階の食堂に集まって下さい。使用に関する注意と説明を致します」


 この建物に住む事になる者全員が食堂に集まると、絡繰りは便所の使い方、掃除は交代で行う事、玄関で履き物を脱ぐ事、住民証を扉に翳す事で鍵が開く事等を説明していく。

 更に暫くはこの場所で直接食事が提供され、その後は現金の支給に変わる事も説明する。


「お金が貰えるのか?」

「はい、何時までになるかは未定ですが、少なくとも本国への移民を開始するまでは、最低限生活可能な金額が全員に支払われます。台所は何時でも使用可能ですので、食材を買って来て自分で調理するのも、食事処で出来た料理を買うのも自由です。所持金と相談して行動して下さい」


 今日はこのまま自由行動にし、昼食の時間と夕食の時間には遅れない様に注意する。

 できれば浴場で風呂に入って綺麗にして貰える様にと、お願いもしておく。


 そして明日からは午前は座学、午後は自由だが、今後希望する職業に就く為の学習や訓練も受けられる事を説明する。


 こうして穏やかに移民が始まった。








読んで下さった方々、有難う御座います。

次は下限を設けず三週間以内に更新出来る様に頑張りますので、次回も読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになりますので宜しくお願いします。


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