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和富王国は平和だ

お待たせいたしました。

評価して下さった方、有難う御座います。

今回は短めですが、僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇七二 和富王国は平和だ


 夕食を終え、分体二号の記憶を統合した僕は、ライルさんとフランさんがお互いを仲間だと知ってラブラブ度が二割増しになった様に感じていた。

 そうして、より仲が良くなった二人にほっこりしていると、春菜母上が声を掛けて来る。


「四狼さん、今日の午前中、四狼さんが出掛けていた間に立花家の鹿角様がいらっしゃいまして、四狼さんに熊之介さんを助けて頂いたと、お礼の品を預かっています」


 どうやら、熊之介を助けた事に熊之介の母君が、わざわざお礼を持って来てくれたそうだ。


 早速箱の中を確認してみると、初級・中級・上級の赤青の魔道薬が各一本、計六本入った詰め合わせだった。

 魔道薬は初級は二十四文で、中級は三十二分で買えるが、上級は六両にもなる。

 つまり日本円だと全部で百万円近い代物だ。


 本人には誤魔化しておいたが、熊之介の怪我は赤の中級魔道薬が必要な程度だった。

 使った薬に対してお礼が多い様にも見えるが、実際に助けが間に合わなければ熊之介は狼の餌だったのだ。


 これは怪我の治療に対するお礼ではなく、命のお礼なのだろう。

 僕としても人助けは功績になるし、そもそも友人を見捨てる程に薄情でも無い心算(つもり)だ。

 お礼は有り難く貰っておいて、今後の桜花様達の修行に役立てようと思う。


 箱の中身を確認した僕は、アルベール王国の事に考えを戻す。

 予定と多少違ったが、他の覚醒者達も協力的で、犯罪覚醒者の捕縛も行ってくれた。


 女学院の生徒の開放も無事にできそうだし、何よりエステル嬢の治療が問題無く終わったのが大きい。


 本人を無事に治療できた事は勿論、これで他の犠牲者も同じ様に根本的な問題を含めて治せる目途が付いたという事だし、今後も同じ様な犠牲者を発見しても治す事ができるというのは、きっと不幸中の幸いとなるだろう。


 次に分体一号の成果だが、此方も無事に自走車を完成させた様だ。

 若干無骨な気もするが、魔物が闊歩する町の外を走るならこんな物だろう。


 他にも分体二号に頼まれた物を色々作っていた。

 三号も同じ様に移民の準備に忙しい様で、幾つか新しい島に町を増やしていた。


 他の番号を振っていない分体も、こっそり人助けを続けている。

 中でも和富王国から東に千万キロ以上離れた場所にある、標高四万メ-トルを超える火山の噴火に遭遇した分体は大事(おおごと)になってる様だ。


 吹き出る岩石や溶岩を、地上に落ちる前に何度か無限倉庫に回収していたが、切りが無いので不可視の手を火口から入れて直接マグマを回収した。

 更に冷却魔術で冷やした後、大量の水で火口を塞いだ事で噴火を抑える事ができた様だ。

 お蔭で『大地の怒りを喰らう者』なんて称号を得ていた。


 但し、有効な噴火の抑え方なんて僕は知らないので、この方法が正しいのかは分らない。

 もしかしたら別の場所から再度噴火する可能性があるかもしれない。

 暫くは様子見が必要だが、どうせ周辺の町で怪我人の治療をするのだから、そのついでに見守る事にした様だ。


 後の分体は特別な事は無く、何時(いつ)もの様に盗賊や魔物に襲われている人にこっそり助力したり、見掛けた怪我人や病人をこっそり治しただけだ。

 そうそう大事件ばかりに遭遇していては、僕も身が持たない。


 最後に魔術書組の成果も確かめるが、今回は特に面白そうな魔術は増えていない様だ。

 普通に戦闘用や生活用の術が増えたが、効果が以前に覚えた物と被っている術も多い。


 一通り分体の状況確認を終えると、今日やる事は終わってしまった。

 この世界、テレビもネットも無いので、夕食と風呂が終われば夏の日は未だ落ちていなくても、できる事は少ない。

 後は日が沈むまで家族の団欒を楽しむか、次の日の仕事の準備をするかくらいだ。


 一狼兄上が五狼の頑張りを称えながら、二人で一緒に飲んでいる。

 和富王国に飲酒の年齢制限は無く、家長が許せば飲んでも良い事になっている。

 八神家では苦痛の行を終えるのが条件なので、五狼は初めての飲酒になる。


「飲み物なのに辛みが有って、不思議な味ですね」


 五狼が飲んでいるのは和酒という、日本酒に似た米から作るお酒だ。

 五狼は初めての飲酒という事で、冷酒だが御猪口で少しずつ、確かめる様に飲んでいる。


「ははっ、酒の味が分かる様になれば、五狼も一人前という事だ」


 一狼兄上は既に僅かだが酔った様子で、上機嫌に酒を空けている。


「苦痛の行は四狼も早かったが、五狼もそれ以上に早かった。そしてこの分だと更に早く、三刃も数日中に受ける事になる」

「三刃があの修行を? 大丈夫なのでしょうか?」


 五狼も先程受けた修行の大変さを実感したばかりなので、三刃の事を心配している様だ。


「三刃は女にしておくのが勿体無いくらいに根性が有る。きっと大丈夫だろう。それに三刃の修行は四狼に任せる事にした」

「四狼兄上にですか? 確かにそれなら大丈夫ですね」


 何故か五狼も、三刃の修行を僕がすると言う事で安心した様子だ。

 どうやら僕は、思っていた以上に兄弟達に信頼されていた様だ。

 ならば、その信用には答えたいと思う。


 ちなみに三刃は、早速夕食の片付けを手伝わされているので此処には居ない。

 なので、苦痛の行の話を問題無くできている。

 苦痛の行はその内容の性もあって、直前まで本人には秘密なのだ。


 手持ち無沙汰になった僕は二人に混ざり、一緒に飲む事にする。


「五狼、改めてお疲れ」

「あ、ありがとうございます。四狼兄上」


 僕が無限倉庫から取り出したお酒を五狼の御猪口に注いで労う。

 更に一狼兄上と僕のぐい呑みにも注ぎ、乾杯する。


「これは、乙女の囁きか? 良い酒だが、そこそこの値段だったと思うが」

「五狼のお祝いですからね」


 一狼兄上が銘柄を当て、値段が少し高めのお酒を僕が出した事に少し戸惑っている。

 高いといっても一升瓶一本で十六分(約二万円)だし、初期配布で大量に持っていただけでなく、複製世界でも万単位で回収済みだ。


 実際には有り余っているのだし、もっと良いお酒も腐る程持っているので、比較的無難だと思っての選択だったのだが、まだ少し高かった様だ。


「少し甘くて、美味しいです」


 しかし、五狼はお酒の事を分っていない為、気にせず喜んでくれている。


「おっ、美味そうな物を飲んでるじゃないか」

「五狼の苦痛の行達成のお祝いです。三狼兄上も如何ですか?」

「勿論、頂く。五狼もお疲れ」

「あ、ありがとうございます。三狼兄上」


 風呂から上がって来た三狼兄上も加わり、兄弟で酒盛りが始まった。

 僕は値段を落としたお酒を更に二本追加し、乾燥果実や燻製肉、豆類等の摘みも用意する。


「狩りが大成功だったというが、今日の四狼は大盤振る舞いだな」

「最近は何かと実入りも良いですから、お祝いに還元くらいはしますよ」


 ちらりと防毒の腕輪を見た一狼兄上が頷く。

 実際は覚醒による恩恵なのだが説明できないし、(あなが)ち間違いでも無いので便乗する。


「三日後の狩りの移動手段も、新型の自走車の走行試験を兼ねて借りられる事になりました」

「新しい自走車に乗れるのですか?」

「早くも移動手段を確保したのか、流石だな」


 五狼は新型の自走車に興味が有る様だが、一狼兄上は「そんな物まで」と驚いている。

 三狼兄上は深く考えていないのか、普通に褒めてくれた。


 折角なので、このまま次の狩りの場所を郷の町から南南西の林にする事と、出発を朝の十時にすると伝える。


「随分とゆっくりした出発なのだな」

「そうだな、集団狩猟と比べると随分と遅いが、問題無いのか?」

「ええ、集団狩猟の荷車と違い今回は自走車を使いますので、移動速度が段違いなので問題になりません」


 僕の説明に「今回の指揮も計画も四狼に一任している。手並みを見せて貰うぞ」と一狼兄上は肯定し、三狼兄上も「問題無いならそれで良い」と納得してくれた。


 計画といっても地図上で熊を検索して目的地を決めただけだし、当日も近場まで自走車で行って、地図を確認しながら接近するだけだ。計画という程の物でも無い。


 寧ろ上手く行き過ぎると、到着直後に終わってしまい兼ねない。そちらの調節は必要だろう。

 適度に他の獲物に誘導しながら、最終的に熊を目指そうと思う。

 今の僕なら勿論、一狼兄上にも対処できない事態はそうそう起こり得ないので、気楽なものだ。


「姫様に続いて熊を狩って、順位を上げるぞーっ!」


 僕が計画を見直している間にも酒杯を重ねていた三狼兄上が既に出来上がっていた。

 順位とは婿候補の事だと思うが、熊を狩っても順位は上がらないと思う。

 三狼兄上は既に相当酔っている様だ。

 三狼兄上が更に数回叫ぶと、そのままひっくり返ってしまった。


「あら、三狼はまた潰れちゃったの? しょうがないわね。四狼、お布団は私が引くから、三狼を連れて来て頂戴」

「分りました、二刃姉上」


 三狼兄上の叫び声に様子を見に来た二刃姉上に頼まれ、三狼兄上の身体を肩に被いて後に続く。


「三狼はお酒が弱い割に好きだから、困ったものね」

「まあ、今回はお祝いですから」

「四狼は自分以外には甘いんだから」


 いや、桜花様達には結構厳しく修行を付けているから、その評価は間違っていると思う。

 そう伝えたのだが。


「修行で手を抜いても、姫様の為にはならないでしょう」


 と簡単に論破された。

 強くなった気持ちだけで強敵に立ち向かっては、ただ無駄死にする未来しかない。

 魔物蔓延るこの世界で、強さは生存戦略の最重要要素だ。


 勿論、その身分を使って強者を従える方が楽なのだろうが、わざわざ危険な世界を選んで転生したのだし、僕達の様に日本の創作文化に毒された者が武術や魔術の存在を知ったら、自分でも使ってみたいと思うのは至極当然だ。


 僕は覚醒前に術を使える様になっていたが、使えなかったらきっと使える様に努力しただろう。

 そんな気持ちも分るので、僕なりに応援したいと思うのだ。


 三狼兄上を部屋に運び、布団に寝かせると僕は食堂に戻った。


「あ、四狼兄上、お疲れ様です」

「おう、四狼、戻ったか」


 何時の間にか五狼は御猪口からぐい呑みに変えていて、元から飲んでいたお酒だけでなく、僕が用意した三本も略空になっていた。

 僕は自分で用意したお酒を一杯ずつしか飲んでいない。

 しかも三狼兄上は早々に退場した事を考えると、二人で三升以上も飲んだ事になる。


 しかし、一狼兄上は顔が真っ赤だが、五狼はほんのり赤いだけだ。

 五狼の意外な強さを知ってしまった。


「流石に飲み過ぎです。そろそろお開きにしましょう」

「そうだな、今日はここまでにして、狩りの後にまた飲もう」

「はい、お酒って美味しい物だったんですね。また飲みたいです」


 ああ、五狼が酒豪の道に進んでしまった。


 僕は酔った二人を部屋に送り出すと、ぐい呑みや酒瓶、お摘みの乗っていた皿を無限倉庫に収納し、綺麗にしてから僕も自室に戻る。


 明日の午前中は出掛けて、午後は焼肉会だ。

 和富王国は平和だなーと思いながら就寝の準備を終え、布団に入る。


『おやすみなさい』



読んで下さった方々、有難う御座います。

恐らく今年最後の更新になると思うので先に言っておきます。

本年もお付き合い頂き、有難う御座いました。

次も一週間~三週間位でに更新出来る様に頑張りますので、来年も読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになりますので宜しくお願いします。


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