術の練習
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〇〇七 術の練習
元世界の部屋に戻った僕は、何故か部屋に姫様が居た事に驚いていた。
分体の方も対応は任せたといった感じで身動き一つしない。
『ご主人様、まずは思考加速をして下さい』
『その加速中に対策を考えるのですよ』
よく分からないけど、その思考加速を念じれば良いんだなっと念じてみるが、何か効果が有ったのかも分からなかった。
『ご主人様、思考加速が発動いたしました。効果を停止するまで思考速度が千六百七十七万倍に加速致します』
『僅かな時間が何日にも感じる位に加速するのですよ』
千六百七十七万倍って、一秒が何日になるんだろう?
『一秒が約百二十八日になります』
それって、一秒が半年になるって事だよね?
途中でお腹が減らないのかなと、あまり意味のない事を考えてしまった。
『これで、じっくり考えても1秒と掛からずに対応出来るのですよ』
『それで、この状況はどういう事なのかな?』
『それは分体と記憶統合をして頂ければ理解出来るのではないかと思います』
なるほど、それもそうだと思い、早速分体一号と記憶統合をしてみる。
何となく分かっていたけど、やっぱり姫様が突然押しかけて来ていたみたいだ。
『しかし、”面白い事が有りそうな予感”とか何で分かるのかな?』
『姫様の好奇心が能力のどれかに作用している可能性は有りますが、ただの勘というのが一番確率が高そうです』
勘だけで当てられたら回避のしようが無いんだけどと思いながら、どんな能力が作用しているのか気になったので一応鑑定してみた。
名前:徳田 桜花 (とくだ おうか)
生年月日:和富歴1039年3月6日 D歳(13歳) 女
身長:4尺7寸3分(約142センチ)
体重:10貫(約37.5キロ)
胸囲:2尺5寸6分(約77センチ)
胴囲:1尺7寸6分(約53センチ)
尻囲:2尺5寸1分(約76センチ)
状態:良好
性交:無
腕力:15
握力:17
脚力:18
知力:20
記憶力:22
体力:23
呪力:26
霊格:h80
位階:h10
固有能力:前世知識
特殊能力:優しい世界1
能力:生物鑑定3、異界倉庫3、直感2、幸運1、算術4、太刀術1
称号:王女、次期女王候補
役職:和富王国第一王女
体重やスリーサイズは見ない様に意識しつつ、能力を確認する。
思っていたより能力の数が多いけど、姫様も前世知識保持者だったんだ。
そしてやっぱり直感なんて能力も持っているから、これが作用していたんだろう。
『ところで、この固有能力と特殊能力と能力って何が違うの?』
『固有能力は魂に刻まれた能力で、取得は難しい代わりに一度取得すると喪失する事は有りません。今後転生しても持ち続けます。特殊の方も喪失する事は有りませんが、来世までは持ち越せません。只の能力は取得が比較的簡単な代わりに、条件次第で劣化したり喪失する場合が有ります』
『つまり、前世知識が固有能力になっているって事は、更に次の転生でも残るって事だよね? それにしては日本では前世なんて知ってる人は見かけなかったんだけど』
『地球の様に魔術等の使えない世界では、無くなりはしませんが封印されるので、前世知識を思い出す事は有りません』
なるほど、能力の仕様は世界毎に色々と条件が変わるみたいだ。
『さて、能力は分かっても、問題は全然解決してないんだけど、どうしたら良いのかな?』
『誤魔化せる可能性は低いですが、幻術の練習中に姫様が来たので、そのまま練習していた、って事にするのですよ』
そうか、分体を幻術の幻って事にして、本体は幻術で隠れていた事にすれば良いのか。
これなら僕が二人いても辻褄は合いそうだ。
『分体、状況は分かったから後は僕が引き継ぐよ』
『了解、本体、僕もそっちの記憶を確認したけど、何か凄く強くなってたみたいだね』
『調子に乗ってこの状況だけどね』
『とりあえず、転移前は転移先を確認しないとこういう事になるって、分かっただけでも良いんじゃない? 今後は気を付けよう』
『そうだね、って自分に慰められるのも変な気分だ』
『じゃ、本体、後は宜しく』
『了解、分体、任された』
そう言って分体は黙って状況を見守る事にした様だ。
なんか、自分同士で会話というのも変な話だったが、話が纏まったので思考加速を解除すると、姫様が驚いていた。
「なんじゃ、四狼が二人になったぞ」
「あー限界が来たのか術が解けてしまいました」
「術じゃと?」
「はい、幻術の練習をしていた所に姫様が来られたので、そのまま術を維持していたのですが、限界が来たので術が解けてしまいました」
そう言いながら、分体を戻したので、今まで部屋にいた方の僕が消える。
「ほう、童を謀ったというのか?」
「いえ、僕が術の練習中に姫様がいきなり来られたので、狙っていた訳では有りませんよ」
「そう言えば、確かにそうじゃな」
どうやら姫様は納得してくれた様だ。
実際、突然来たのだから狙える訳が無いし、誰かが来ても良い様に分体を用意していたのに、戻る時に確認しなかった為に起きた事故みたいなものだからね。
「突然でしたので術を解く間がなかったので、そのまま術を維持していたのです」
「言いたいことは分かったが、四狼、お主幻術なんぞ使えたのか?」
「使えるように練習していたのです」
一応、元から言霊術は持っていたし、今も開示能力に入れているから問題は無いだろう。
「そうか、四狼は術も使えるのだったな」
姫様は少し悲しそうにそう言った。
「姫様は使えないのですか?」
「四狼には説明しておらんかったかもしれんが、ここに来る前に一年程修行したのじゃが、全く術が使えんかったのじゃ。指導してくれた王国術師には適性が無いのかもしれないと言われたのじゃ」
あれ、姫様の身体能力の呪力は他に比べて高いのに術が使えない?
『天照、姫様の呪力は高いのに何で術が使えないの?』
『はい、修行方法が間違っているか、合っていなかったのではないでしょうか?』
練習方法か、姫様はどんな修行をしたんだろう。
「姫様はどの様な修行をしたのですか?」
「うむ、普通に指先に呪力を籠めて術印を書く練習じゃな」
「術印は間違いなく書けていましたか?」
「勿論じゃよ。失敗が続いたのじゃから、凄く丁寧に書いたのじゃ」
「それでも術は発動しなかったという事ですか?」
「そうじゃ」
少し、しつこく聞き過ぎたのか姫様が落ち込んできたので天照に対策が無いか聞いてみる。
『天照、どう思う?』
『はい、練習方法が合っていないのだと思われます』
『それじゃあ、姫様にはどういう練習が合うと思う?』
『直接、術の練習では成果が出なかったとの事ですので、術の仕組みから説明して、どの様に発動するのかが理解出来れば使える様になる可能性は有ります』
『仕組みが分かれば使える様になるの?』
『この世界の術には主に、詠唱型、象徴型、儀式型が有りますが、実質は全て同じものです。術とは想像力で方向性を決め、呪力を燃料にして魔素を作り換える事を言います。ご主人様も知っての通り、この国の術は呪力を籠めて空中に文字を書く事で発動致しますが、この文字は想像に指向性を持たせて想像し易くするのが目的なのです。姫様の場合は術印の文字を書く事に集中し過ぎて、術の結果を上手く想像出来ていないのだと思われます』
『つまり姫様は結果じゃなくて、方法に集中し過ぎて結果が出ないって事?』
『その認識で問題ありません』
『それで、対策はどうしたら良いの?』
『一度でも術の発動に成功出来ればコツは掴めると思われます』
『一時的に呪力を上げてやれば良いのですよ』
つまり燃料を増やして燃え易くする感じか。
『でも、どうやって呪力を増やすの?』
『ご主人様が分けてあげるのが一番早いと思います』
『姫様の胸か背中に直接触れて呪力を流すのですよ』
『いや、姫様の胸に直接触れるのは無理だよ!』
『でしたら、手を繋いで循環させながら少しずつ増やして、そのまま術を発動させるのが宜しいかと思います』
うん、手位だったら触れても多分大丈夫だよね?
『折角ですので想像力も強化致しましょう』
『そっちは如何するの?』
『お主人様が幻術で姫様の精神に直接映像を送れば良いのですよ』
『精神に直接って危なくない?』
『頭にぼんやり映像が浮かぶ程度なら問題無いのですよ』
つまり、僕が呪力を送って力の底上げをしつつ、幻術で方向を指示するって感じなのかな?
上手くいくかは分からないけど、試すだけなら問題ないかなっと思い、姫様に提案してみる。
「姫様、僕が補助しますので、他の術の練習法を試してみませんか?」
「しばらく何か考え込んでおると思ったら突然何を言い出すのじゃ。術の修行なら一年やって何の成果も出んかったのじゃぞ。今更何をした所で童には才能が無いのじゃから無駄なのじゃよ」
「いえ、その修行方法が姫様に合っていなかったのではないかと思いまして、他の方法を試してみてはと思ったのです」
「他にも方法が有るのか?」
「はい、あります。まず今までの修行で姫様は呪印を書く事に集中し過ぎて、術そのものに意識がいっていなかったのではないかと思います」
「そうなのか?」
「術の発動に重要なのは呪印の正確さよりも、結果を想像する事なのです。その想像を助けるのが呪印なので、姫様の方法は本末転倒しているのです」
「なんと!」
「なので、呪力を上げつつ方向性を補助すれば姫様も術が使えるかもしれません」
「どうすれば良いのじゃ?」
どうやら姫様も乗り気になってきた様なので続きを説明する。
「まず、室内で試すので危険の無い光の術を試してみましょう」
「そうじゃな、室内で火など出しても危険なのじゃ」
「では姫様、まず僕の手に手を重ねて下さい。姫様の左手から呪力を流しますので、右手から僕に返すように流して下さい」
僕が両手を出すと、姫様は説明に従って僕の手に手を重ねたので、少しずつ呪力を流してみる。
呪力が僕の右手から姫様の左手、左肩、右肩、右手へと流れ、僕の左手に戻ってくる。
上手く呪力が流れている様なので、少しずつ呪力を増やしていく。
「んっ」
「姫様、大丈夫ですか?」
「問題無いのじゃ」
大丈夫そうなので暫くそのまま続けて呪力を流し、姫様に残る呪力を増やしていく。
十分呪力が溜まった所で姫様の右手を離し、呪印を書いて貰う。
同時に僕は幻術で姫様の意識に光の玉が浮かぶように誘導する。
呪印を書き終わった処で姫様が手を翳し、空中に書かれた呪印に最後の後押しにと呪力を流すと、呪印が光りの玉に包まれた。
「おお~~!成功したのじゃ!!」
「おめでとう御座います、姫様」
「今まで一度も成功しなかったのに、四狼は凄いのじゃ」
「修行方法が分かりましたので、少しお待ち下さい」
そう言って僕は部屋を出て便所へ入り、鍵をかける。
この家で鍵の掛かる部屋は蔵と便所位だからだ。
そこで小さな錬成空間を展開し聖銀の板に神金で文字を書き、強化と幻術を付与して術の練習用魔道具が完成した。
本来この程度の魔道具に聖銀や神金は勿体ないのだが、呪力の通りを良くする時間が無かったので、素材の力で強引に済ますことにした。
出来た魔道具は仮に術札としよう。
術札を持って部屋に戻り、姫様に渡す。
「これは術の練習にも使える術札という魔道具です。お貸ししますのでお役立てて下さい」
「魔道具など借りて良いのか?」
「他に使う者も居ないので気にしないで下さい」
「それでは有難く借りるとしよう。感謝するのじゃ」
「使い方はその札に呪力を籠めながら、この札の文字をなぞるだけです。術の発動に慣れてきたら札を使わずに普通に術の練習をすると良いと思います」
「分かったのじゃ」
姫様が嬉しそうだ。
美少女が嬉しそうにしているのは何処か絵になるなと僕は思った。
「これで童も魔法少女になれるのじゃ」
「確かに姫様程の美少女なら、魔法少女も似合うかもしれませんね」
そう答えた時、一瞬姫様が笑った気がした。
「なるほど、やはり四狼も前世の記憶を持っておるのじゃな?」
あれ? 何処でばれた??
『ご主人様、これはただの自爆です』
『やっぱり誤魔化せなかったのですよ。それにしても主様、姫様に見惚れていたとはいえ、簡単な引っ掛けに掛かり過ぎなのですよ』
どうやら僕の努力はたった一言で無に帰してしまったようだ。