解体
お待たせいたしました。
ブックマークをして下さった方々、そして感想を下さった方、有難う御座います。
今回は抑えてはいますが流血シーンが有ります。
苦手な方は後半の和富王国部分は読み飛ばす事をお勧めします。
今回も僅かでも気に入って頂けたら幸いです。
〇六六 解体
フランシーヌさんへの一番重要な要件を済ますと、僕は続けてもう一つの提案をする。
「今日の夕食の後、この国の覚醒者を集めたお茶会の様な物を予定しているのですが、フランシーヌさんも参加して頂けますか?」
「この国の覚醒者!?」
「ええ、今朝言っていた僕の知人ではなく、この国の者なので僕も直接会った事はありませんから、まだ信用できる者とはまでは言えませんが、悪人で無い事は確認してあります」
「悪人で無いと確認ですか?」
「ええ、犯罪的な称号を持っていませんでしたから多分大丈夫ですし、問題があればそれこそ僕達の記憶を消してしまえば問題も消えますしね」
「ふふっ、確かにそれなら問題も消えますね。私も参加させて頂きます」
冗談ぽく先程の話を混ぜて答えると、フランシーヌさんもクスリと笑って納得してくれたのか、参加を承諾してくれた。
「それでは準備ができ次第、絡繰りに指示して頂ければ今朝食事をした旅館別荘に送らせます」
「はい、よろしくお願いします」
僕は食後の再会を約束してアベルに戻る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アルベール城に戻った僕は、一仕事を終えたライルさん達と共に、城に残っている貴族達と夕食を取っていた。
夕食の主菜の三つに仕切られた皿に乗せられた三種の肉を見たライルさんが、嬉しそうに尋ねて来る。
「これは、もしかしてハンバーグですか?」
「ええ、僕の故郷では挽肉の小判焼と言われていますが、略ハンバーグと同じ物で、羽豚と羽牛の挽肉におから等も混ぜたて焼いた物になります」
「羽豚に羽牛ですか?」
「ええ、ペガサスの豚版と牛版と考えて貰えれば、分かり易いと思います」
「その様な生き物まで居るのですね」
羽豚は二メートル越えの、羽牛は六メートル超えの魔物だがその分栄養もたっぷりだし、塊肉よりは消化し易くて胃に負担が少ないだろうと、挽肉料理にしてみたのだ。
今回用意した小判焼は黒垂れ(中濃ソース)、茶垂れ(中濃ソース+ケチャップ)、おろし垂れの三種類だが、当然大根も生では食べられない為、垂れで煮込んである。
それにご飯と具沢山味噌汁か、麦餅(パン)と野菜炒めと玉蜀黍汁(コーンスープ)で和風か洋風も選べる様にした。
味噌汁と麦餅の組み合わせもどうかと思ったからだが、当然ライルさんはご飯を選んでいた為、釣られてご飯を選んだ者の内何人かは初めは食べるのに少し苦労していた様だが、慣れない箸よりはましかと用意した先割れ匙に慣れてくると、問題無く食べられた様だ。
「肉料理とは珍しい」
「それになんと柔らかい肉なのだ」
「これも美味いな」
「ああ、昼食より更に味が濃くて美味い」
貴族達からは好評の様だが、ハンバーグくらいは何処でもありそうだし、肉料理が珍しいとはアルベール王国では肉料理はあまり食べないのだろうかと、ライルさんに確認してみる。
「食べないというより肉を獲れる動物自体が少ないので、主な蛋白源は川魚や大豆になるのです」
詳しく聞くと、元から大した動物も居ないこの地では、昔輸入した動物を繁殖させて細々と暮らしていたらしく、乳を取れなくなった牛や山羊、毛を刈れなくなった羊、卵を産まなくなった鶏等、齢を取った動物を潰す以外では肉は殆ど取れなかったそうだ。
貴族でも珍しいというのも、仮に獲れても腐る前に輸送する手段が無いので、そのまま現地で消費される為らしい。
正直、よくこんな土地で人口を増やしながら生活できたものだと感心してしまう。
しかし、少し未来の話になるが、ライルさん達から言わせると、多くの魔物が蔓延る和富王国もよくこんな危険な土地で暮らせるものだ、と感心される事になるのでお互い様なのだった。
結局、住んでる者には気付かない事ってあるよね、というお話でしかないのだ。
そんな夕食が終わると、貴族達も感謝の言葉を残して去って行く。
彼らの何割が移民して来るかは判らないが、彼らに仕事を振るのは彼らの能力を知らない僕ではなく、能力を知るライルさん達にお任せだ。
適材適所って大事だよね。
食事を終えたグラハイムさん達にも、護衛は絡繰りに任せて明日の準備をして休む様に指示を出して貰い、ライルさんもお茶会に誘う。
「何時の間にそんな準備を!?」
「食事の配布の序でに、参加者を募っておきました。ライルさんも参加者しますか?」
「当然です! そんな大事な催しに参加しない理由が有りません」
ライルさんなら参加するだろうと思っていたが、会場に行く前にフランシーヌさんと会わせておかないと、二人がどんな反応を見せるか楽しみな反面、何を口走るか判らないので他の人の目は無い方が良いだろう。
そう考えながら、僕達は旅館別荘に転移する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所は戻って和富王国の本体。
とまあ、現在のアルベール王国の様子はこんな感じだったけど、遂にライルさんにフランシーヌさんも前世仲間だと伝える様だ。
二人がどんな反応をするか、僕も楽しみだと考えていると、二刃姉上がお昼を持って来てくれた。
「ごめんなさい。遅くなったから有り合わせで悪いんだけど」
そう言って二刃姉上はおにぎりと味噌汁を皆に配る。
「いえ、食事を準備してくれるだけで有り難いです」
「はい、二刃姉上の料理は美味しいです」
「三刃も二刃姉上のご飯好きです」
「あら、珍しくべた褒めね。でも、三刃はそろそろ料理の修行も始める年頃よ」
「が、頑張ります」
三刃が若干顔を引き攣らせながら返事をすると、皆で昼食を食べ始める。
つい先程アルベール王国で夕食を食べた記憶を統合したばかりなのに、こっちの僕はお腹が減っているからとおにぎりを食べている事に違和感を感じつつ、食事を進める。
ちなみにおにぎりの具材は梅干しと昆布とそぼろだった。
遅くなった為に初めからある食材で済ませた様だ。
少し慌ただしい昼食が終わると、昨日狩った獲物の解体を始める為、汚れても良い服に着替えて厨房裏にある解体小屋に向かうと、解体小屋では秋穂母上が準備を終えて待っていた。
「今から解体の仕方を説明しますが、今更言うまでも無く刃物を扱うので慎重に行動しなさい」
「「はい」」
五狼と三刃が元気よく返事をすると、僕は無限倉庫から取り出して二人に灰色狼の遺体を配り、僕も自分の分の灰色狼を血抜きの為に吊下げる作業を始める。
五狼は二刃姉上と、三刃は秋穂母上と組んで、直接指示を受けながらの作業だ。
「お、重い……」
「何を言っているのです。本来これは狩った直後にする作業ですよ。小屋にある設備を使える分、負担は減っているのですから頑張りなさい」
「……はい…」
三刃は秋穂母上と一緒に吊下げる為の縄を巻き上げ機を回して巻き上げていたが、身体の小さい三刃には負担が大きい様だ。
やがて吊下げ作業が終わると、下に樽を設置して首を切り取り、本格的に血を抜き始める。
血が抜け終わるまでの時間を利用して、頭の解体も始める。
本来僕ら程の家格になると、牙くらいしか素材にならない灰色狼の頭を解体しても利益は殆ど無いのだが、今回は解体の説明の為に秋穂母上が実践してくれた。
まず怪我をしない様に顎を外してから、布を巻いた金挟みで牙を丁寧に抜き取ると、見本を見た三刃達も実践し、牙を抜いていく。
牙を抜き終わった頭は廃棄用の樽に纏めて入れておく。
廃棄物は後日専門業者に渡せば只で引き取って貰え、業者は廃棄物を肥料等に加工して利益を得る事ができる。
そうしている間に血抜きの終わった身体を解体していく。
腹を裂いて内臓を取り出して別の廃棄用の樽に詰め、毛皮を剥いで肉は各部位に切り分ける。
秋穂母上と二刃姉上が見本を見せると、二匹目の解体を二人が指示を出しながら五狼と三刃に直接やらせる。
灰色狼が終わると次は槍猪だが、血抜きに時間が掛かるので此処で分体二号に頼んでいた血抜きの魔道具の出番だ。
記憶統合して使い方を確認すると、どうやら二種類作っていた様だ。
一つ目は槍型の魔道具で、獲物を刺して起動させると血を吸い取る物だったのだが、魔物を生きたまま血抜きすると魔石の生成を阻害してしまい魔石が出来なかったり、出来ても極端に小さくなる為、魔石が採れないという本末転倒な代物になってしまった様だ。
また、武器としても使える為、強度的に使う素材も高価になるので一般の普及は難しくなる。
最悪なのが、普通の動物にも使える事で、小型の動物なら一度刺せば一~二秒で血を抜き取って殺す事が出来る。つまり、人でも一刺しで殺せるのだ。
流石に物騒過ぎて市場に流せない為、お蔵入り決定にする。
二つ目の魔道具は片手で持てる掃除機を短くした様な形状の物だ。
丸くなっている先端を傷口に当てて起動する事で対象の血を吸収する機能に、無生物鑑定も付与してあり、対象の血液量を測定して収納すると共に、鑑定に失敗すると起動できない仕様にしておいた。
これで間違ってまだ生きている生物に使っても起動しないという、安全装置にもなる筈だ。
内蔵されている異界倉庫も材料費を下げる為に日緋色金を使わずに聖銀で代用したので、容量は少なめだが、これでも足狩り兎なら三十羽程の血を溜められるので問題無いだろう。
そんな魔道具を使い方の説明と共に皆に渡すと、三刃が最初から出してくれと文句を言ってきたが、初めから使っていたら解体の勉強にならないし、容量に制限が有る以上、一杯になればそれ以降は手作業になるので、正規の血抜き作業を知っていて損は無いのだと僕が言うと、秋穂母上も同意してくれた。
そこからは血抜きの時間が略無くなった為、次々と獲物の解体が進む。
足狩り兎や一角鼠の様な小型の中でも更に小さな獲物は一人で、槍猪や草原蜥蜴、大鹿等の大きめの獲物は二人がかりで解体をしながら、秋穂母上の魔石の綺麗な採り方や、素材や食材になる部位の説明を聞きながらの作業だ。
「四狼さん、随分と解体の腕が上がっていますね」
「本当ね、私より上手に解体できているわ」
暫く僕が黙々と解体を続けていると、秋穂母上が僕の解体を褒めてくれ、それに二刃姉上も追随する。
「上手く出来ているのなら、秋穂母上の指導のお蔭ですよ」
今の僕は当然の様に解体の能力も高いので、普通にやっても最高の出来になってしまうのをすっかり忘れていた。
直接の指導のお蔭と誤魔化すが、それにしても綺麗に出来ているわと、二人が感心して僕の剥いだ毛皮を眺めている。
そんな一幕を挟みながらも、やがて灰色狼と一角鼠と足狩り兎が各六匹、槍猪と草原蜥蜴と大鹿を各三頭の解体が終わる頃には夕方近くになっていた。
夕食の準備が有る秋穂母上と二刃姉上、序でに三刃も含めた女性陣に先にお風呂に入って貰い、その間に残った僕と五狼の二人は解体小屋の後片付けを始める。
魔石や素材、廃棄物の入った樽、血抜きの魔道具は回収して僕の無限倉庫に収納し、肉類は隣の冷蔵倉庫に入れるておく。
そうして小屋の掃除をしている間に女性陣のお風呂が終わり、入れ替わりで僕達もお風呂に入って汚れと匂いを落とす。
お風呂を上がった五狼には何時もと違う、白い袖の無い上着と膝上の短袴に着替えさる。
「この服は何なのでしょう?」
「この後の特別な修行に必要なんだ」
「そうなのですか」
五狼に適当な説明すると、僕達は屋敷を出て小道場に行く。
そこには既に一狼兄上と春菜母上が話をしながら僕達を待っていた。
「一狼兄上、お待たせしました」
「いや、俺達もつい先程来たばかりだ」
「はい、準備は万全にできております。五狼の覚悟は、未だ詳細を説明していませんでしたね」
そう言って一狼兄上達は五狼の方を見る。
「五狼、これより行うのは苦痛の行と言って、大きな痛みを受けるものだ。気合を入れて乗り越える事を期待する」
「え? 痛み?」
「五狼さんはこれから一狼さんと真剣を使った試合をして貰います。全力で抗って見せなさい」
「ええっ! 僕と一狼兄上では実力が違い過ぎます! 勝負になりませんよ!」
「当たり前だ。これは痛みに耐える修行だからな。抵抗せねば問答無用で切り刻む事になるぞ!」
一狼兄上はそう言いながら五狼に威圧を放ち、刀を構えた。
僕と春菜母上は道場の隅によって座り、五狼の修行を見守る。
一狼兄上の威圧に条件反射したのか、五狼も異界収納から槍を取り出して構えた。
「悪くない反応だ。では、行くぞ!」
一狼兄上は五狼の実力を確かめる様に手加減をしながら、刀を振るう。
その攻撃を五狼は必死になって受けたり躱したりしながら抗う。
しかし元から位階が三倍近く違うのだから、勝負になる筈が無い。
徐々に加減を減らしてきた一狼兄上の攻撃に、五狼は次第に捌き切れなくなる。
そして遂に決定的な一撃が五狼の左腕を切り飛ばす。
「…うっ、があぁぁっ!」
ぼとりと腕が床に落ちた処で五狼が苦痛に叫ぶ。
「何を呆けている。敵は未だ健在だぞっ!」
一狼兄上は五狼の正面から更に刀を振り下ろすが、五狼は後ろに下がってその攻撃を躱し、涙の浮かぶ目で一狼兄上を見上げる。
「良し、良いだろう。腕を拾って春菜母上に繋げて貰え」
一狼兄上は刀を下ろすと後ろに下がり、追撃しない事を態度で示す。
それでも五狼は一狼兄上から目を逸らさずに、ゆっくりと落ちた腕に向かい、拾って春菜母上の元に向かった。
五狼の出血が地球では考えられない程に少ないのは、この世界の人類は太古から魔物と戦い続けている為か、手足程度なら千切れても簡単には出血多量にならない様、勝手に筋肉を絞めて出血を抑えてくれるお陰だが、だからこそ、こんな厳しい修行もできるのだ。
「良く頑張りました。最後まで一狼さんから目を逸らさなかったのも良かったですよ」
そう言って春菜母上は治癒術を使って五狼の腕を繋げてゆく。
「ありがとうございます、春菜母上。でも、凄く痛いです」
五狼は半泣きで答えるが、春菜母上は厳しく応える。
「それに耐える為の修行です。狩りの途中に痛いから待てと獲物に言って、聞いて貰えると思いますか?」
「無理、ですね…」
五狼は春菜母上の治療を受けながら、何やら考えている様だ。
やがて治療が終わると、もう一度二人は武器を振るい合い、今度は五狼の右足を脛から切断されて、修行を終了した。
五狼は又も半泣きで耐えながら治療を受けると、もう一度血や汗を流す為にお風呂に向かった。
後で聞いたのだが、お風呂で一狼兄上と一緒になった五狼が初めは少し脅えていたそうだが、成長の速さや修行の成果を褒めて貰って機嫌を直したのか、お風呂から上がる頃には何時もの調子に戻っていたそうだ。
春菜母上には先に食堂に行って貰い、僕は他に人が居ないのを確認して、手早く道場の片付けを浄化の術を使って済ませる。
五狼の修行中に僕は何もしていなかったのだから、片付けくらいはと引き受けたのだ。
僕が片づけを終えて食堂に向かうと、三琅兄上達が夕食を食べていた。
「お、無事に五狼の修行は終わった様だな」
「はい、特に問題も無く、終了しました」
「三刃も頑張るのです」
「次は三刃で更に姫様か…」
三刃は良く分かっていないせいか乗り気だが、三琅兄上は未だ桜花様の修行に反対なのだろうか?
聞いて蒸し返されても面倒なので、気にしないで僕も夕食にしようと考えていると、二刃姉上がやって来て僕の夕食を並べてくれる。
今日の夕食の献立は先程解体した大鹿の心臓や肝臓等の内臓の炒め物だった。
内臓は痛みが早いし、血を流した五狼には丁度良いだろう。
何より秋穂母上の料理は美味しいしね。
やがて二度目のお風呂から上がって来た五狼と一狼兄上も食堂に顔を出す。
「五狼、お疲れさん」
「五狼、頑張りましたね」
「あ、ありがとうございます」
皆が五狼を労うと、五狼も満更では無いのかお礼を言って夕食を食べ始めた。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次は10日から20日後に更新出来る様に頑張りますので、また読んで頂けると嬉しいです。
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