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行方不明

待たせいたしました。

評価して下さった方、有難う御座います。

今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇六四 行方不明


 仮町の見学会が終わった後は、見学した者達からの感想と要望を確認する。

 何人かが真っ先に自分を代官にと陳情してきたが、僕にはその人達の能力も性格も判らないので、その辺りもライルさんに丸投げにする予定だ。

 僕がするのは精々、天照に行動履歴を確認して貰って過去に汚職や犯罪っぽい行動が有った者を候補から外すくらいだ。尤も、犯罪者は元から移民も認める気が無いのだが。

 残った者から数人は選ぶ事になると思うが、今回の見学会に参加したという事は王都だか首都のアベルの町に居たという事で、元から領主や町長をしていた訳じゃない。つまり未経験者なのだから大半の者は通常の職員や上級職員として雇うのが正解だろう。


 最も多かったのが「自分はこの町に住めるのか?」というものだった。

 現在アベルの町に住んでいる移民希望者は、基本的にこの町で住む事になると説明すると安堵してくれた。仮町は僕の予想以上に評価が高かった様だ。


 次に多いのが貴族が平民と同じ質の建物に住むのは嫌だという意見だ。

 意味の無い選民意識は邪魔でしかないが、優秀な者を優遇するのは当然だと思う。

 最低限の仕事すらできない者と、常に高い評価の仕事をする者で待遇が同じでは割に合わないと考えるからだ。

 先ずは市役所横の仮宿を職員用に改修して平民用より若干良い物にしたり、兵舎も騎士の部屋をもっと良い物にするのも有りかもしれない。


 そして意外と多いのが仮宿の部屋数に対して便所が少ないという意見と、一階にしか集まれる部屋が無いという意見だ。

 もしかしたらアルベール王国の人は和富王国の人より、便所を頻繁に使うのかもしれない。

 そう考えた僕は各階の奥の部屋を一つ潰して便所を増やし、更に各階の階段を上がって直ぐの部屋も二つ潰して場所を空け、壁の無い談話室を用意すると説明した。

 これで各階の部屋が減って便所が増えるので、便所の数が足りないという問題は改善するだろう。

 粗方の意見が出そろった処で丁度国民に食事を振る舞う時間が迫っていた。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アルベール王国の各町には其々に対応させる仮町から、仮宿管理用の絡繰りに監獄惑星の仮町とアルベール王国との転移ができる、特別な転移襖を持たせて派遣していた。

 絡繰りには更にライルさんの使いである証の王家の紋章入りのメダルや、反対する領主や貴族に直接指示を出せる様に、通信水晶も持たせている。

 これは対になる水晶同士で、テレビ電話の様に相手を見ながら会話できる魔道具なのだが、一対一でしか使えない為、ライルさんとシャリエさんの前には幾つもの水晶が置かれている。

 その水晶の一つが淡く輝き始め、風太がその水晶を持ってライルさんの前に立つ。

 ライルさんが頷くと風太が呪力を流して水晶を起動し、水晶の上に神経質そうな細めの男性が映し出された。


「おお、ライルハイト様、お久振りで御座います。モナベル領主ケヴィン・アングラードで御座います」

「ああ、久しいなアングラード侯爵、しかし今日はこの後何人も連絡してくるだろうから余り時間を取れん。悪いが挨拶は省いて本題に入ってくれ」

「承知致しました。しかし先ずは先程の空に映った王子が本物なのか、確認させて頂きたく存じます。何せ、あの様な魔術は聞いた事もありません。偽物で無い証拠が欲しいのです」

「アングラード侯爵の心配は了解した。しかし、この会話する魔道具すら偽物と言われては、切りが無いぞ」

「勿論承知しております。ですから我々しか知らぬ質問を致します。本物の王子ならば正解を答えられるでしょう」

「分かった。質問をしてくれ」

「では……」


 そう言って出された質問は、子供なら大半の者がやってしまう様な、極普通のライルさんが幼少の頃の少し不名誉な話だったので、ライルさんの名誉の為に僕は聞かなかった事にする。


「今、その話をされるとは思わなかったぞ。フランがこの場に居なくて本当に良かったよ」

「申し訳ありませんライルハイト様。しかし、お蔭で本物のライルハイト様だと確信できました。この地を離れるというのは本気なのですね」

「ああ、毒に犯されたこの土地では、全ての国民に行き渡るだけの安全な食糧を用意する事ができない。幸いにも清浄な土地を用意して下さると言う方に出会えたのだ、引っ越してその地の王の下に付く程度で多くの国民が助かるのなら安い物だ。私と一緒にある程度の民がこの地を離れれば、残った者の食糧も何とかなるだろう」

「確かに、現在安全な食糧を用意できる西部に住む者の多くはそのまま残るでしょうが、用意できない我が領地モナベルを含む北部や、王都を中心とする中部の人口が減れば、食糧不足は解消されるでしょうな」


 ライルさんがこの地を去る理由に納得したのか、アングラード侯爵は頷いて答えた。


「それに彼方の国には美味い食事と新しい文化、更に我が国処か共和国より進んだ文明まである。これだけ至れり尽くせりで断るのは勿体無いだろう」

「それ程の国なのですか? それこそ簡単には信じられませんぞ」

「先程これから暫く住む事になる一時待機の町というのを見せて貰ったが、仮の町ですら我が国を遥かに凌駕した住み心地だと確信できたのだ、本当の移住地に期待せずにはおれん。それに移民の話はフランも一緒に聞いている。彼女は嘘を見破る能力を持っているが、移民を否定しなかったのだから嘘ではなかろう」


 ライルさんが侯爵に嘘は無いと説明してくれるのは助かるが、本人である僕が聞いている場所で言うのはどうなんだろう?


「成程、ライルハイト様が移民の話を信じた理由が理解できました。私も移民を前向きに検討致します」

「アングラード侯爵が付いて来てくれると私も心強い。良い返事を期待している」

「ははっ!」


 アングラード侯爵が頭を下げて了承した事で話は終わったと通信を終了しようとしたが、侯爵からもう一つ情報と協力の要請が追加された。


「もう一つ、我が娘エステルの婚約者であったリュシアン第二王子のご遺体ですが、戦死の報を受けた娘がそのまま王都に運ばれては共和国兵にどの様な扱いを受けるか分らないと、学院から戻る際にクラベルを経由して引き取ってくると連絡が有った切り、音信不通になっております。

 王子のご遺体が娘の行動の結果行方不明になってしまい申し訳ない思いもあるのですが、やはり娘の安否も気になるのです。何かエステルの情報をご存じありませんか?」


 アングラード侯爵は王子の遺体が行方不明になった責任を感じて恐縮しつつも、娘の事が心配なのだろう、切実そうな顔でライルさんに協力を頼んでいる。


「悪いがリュシアン兄さんの遺体がアベルに届いていないという事自体初耳だ。私はクラベルも経由していないし、数時間前に城に戻ったばかりだから未だ知らない事も多いなのだ。エステル嬢の情報は此方でも確認してみるが、リュシアン兄さんの遺体については気にしなく良い。

 リュシアン兄さんは先陣に居た為に真っ先に戦死なされたが、早い時期に戦死したからこそ遺体を回収できたに過ぎない。陛下やレオポルド兄さんの遺体は今だ戦場跡の何処かに放置されたままで、回収の予定すら無い。今は死者の事よりも生者の事の方が優先なのだ」


 ライルさんも亡くなった家族の事を思い出したのか、少し悔しげにしながらも助けられなかった家族より、助けられる国民を、エステル嬢を優先するとアングラード侯爵に伝えた。


「ライルハイト様のお心遣い、感謝致します」


 侯爵が再度頭を下げ、謝意と会談の終了を伝えた処で通信を切る。


「まさかエステル嬢が行方不明とは」


 ライルさんはそう呟くと部下を呼んでクラベル周辺の情報収集を命じ、次の通信を受ける。

 僕も気になったので地図からアルベール国内を検索してみたが、エステル嬢の反応は無かった。

 例え死んでいても遺体を発見できる筈なので、どういう事か天照に確認してみると、第二王子だけでなく国王や第一王子の遺体と共に既に無限倉庫に収納済みだという。

 荒野の死体を纏めて回収した時に王子達や王の遺体も回収できていた様だ。

 そして、どうやら盗賊に捕らわれて、酷い怪我をしていたのがエステル嬢だったらしい。

 身体の損傷は治癒術で問題無く回復できる筈だが、精神的な苦痛を回復するには時間が掛かるだろう。

 そんな事態の対処法を知ら無い僕は、何か良い方法は無いかと天照達に相談する。


『精神的な損耗が著しい場合は、記憶の消去をする事で原因を無かった事にすれば良いのですよ』

『それならば一層、肉体の時間を戻して本当に無かった事にした方が宜しいでしょう』


 記憶の改ざんは分るが、肉体の時間を戻す事さえできるというのには流石に驚いた。

 若返りし放題なのかと思ったが、戻せる時間もそれ程多くは無いし、記憶も戻ってしまうのでそこまで便利に使える訳では無いらしい。


『若返るだけならば、若返りの秘薬を使えば良いだけです。位階によって使用可能な量が変わりますが、記憶が戻る事も有りませんし、長く生きる事でより多く功績を積む事ができます。但し、今のご主人様が使われては幼児に戻ってしまいますし、使い過ぎれば胎児以前に戻ってしまい、死にます。ご注意下さい』

『若返りの秘薬でしたら無限倉庫にいっぱい有るのですよ。これだけあれば一億年でも戦えるのですよ』


 無限倉庫を確認してみると、確かに若返りの秘薬が大樽・小樽だけでなく、大瓶・中瓶・小瓶が其々千六百万以上あった。僕は現実逃避気味に若返りの秘薬って飲み薬なんだなと思った。

 そして月詠、僕は一億年も掛けないと功績を積めないのかと、後で詳細が聞きたい。


 気を取り直して若返り自体、今は必要ないと考えを改め、先ずはこの国の性的倫理観を確認した方が良いだろう。

 勝手に記憶を弄るのは僕の倫理観的に良くないと思うので、記憶の消去や肉体の時間を戻すのは最終手段だ。

 昔の日本の様に遊郭のお勤めが終わったら普通に結婚できたり、一部地域で有ったらしい乱交文化でもある程に性に寛容なら、それ程気にしないだろうから僕の気が楽なのだが、此処は性の専門家であるアニエスさんと、貴族女性の意見としてフランシーヌさんに話を聞いてから判断しよう。

 元から気の重い案件が更に重くなってしまったが、放置できる事でも無いから少しでも前向きに考えよう。


 僕が面倒事の解決策を考えている間もライルさん達は何人かの問い合わせを受けていたが、此方は殆どが先程の発表が本当なのかという問い合わせだけで、すんなり引き下がっている。

 そんな時間が暫く続いたが、中には移民反対の領主も居た。


「王子、お考え直しては頂けないのでしょうか?」

「くどい。元より私はシャリエ侯爵家に婿入りし、クロスベル領主を継ぐ予定だったのだ。国政の指導は受けておらん。私はにできるのは地方領主が関の山なのだ」

「しかし、王子は王族のたった一人の生き残りなのですから、生き残っている王族が国を率いるのは当然ではありませんか。しかも王子はまだお若い、今から国政を学んでも遅くは無いでしょう」


 僕も領主の言い分には一理あるとも思うのだが、それだと仮町を仕切る者が居なくなるので僕が困ってしまう。


「誰が治めようが食糧不足を解消するには口を減らすしかない。ブランシュ公爵は民を殺して間引きせよとでも言うのか?」

「いえ、平民だけを多少移民させるのはこの際致し方ありませんが、王子自ら国を出て行く必要は無いと申しているのです。それに、人数制限をせずに募集をして多くの民が流出してしまっては労働力不足で、今後のアルベール王国が立ち行かなくなるのではと危惧もしております」


 此方の公爵の心配も分る気がするので天照に問題が無いのか確認すると、元から交易が有ったのが共和国だけで、輸出していた鉱石も今までの様に輸出した場合、今ある鉱山では十数年で枯渇する程度しかないそうだ。

 輸入も食糧が中心だったので、人口が減れば輸入の必要がなくなる。

 最終的に国民は四分の一から六割程残れば問題無いらしいが、逆に考えれば半分近く移民させないとアルベール王国の食糧は持たない計算になるらしい。

 更に平民だけを移民させると税収が減るのに対し貴族の人数は減らないので、各貴族の収入は更に減る事になる。

 その事をライルさんから公爵に伝えて反論は後に回して貰い、先ずはこの後の食糧配布を優先させる事を了承させた。


 今更だが一応ライルさんに残りたい気持ちが有るのかと尋ねると、地球の先進国並みに整った町を見せておいてお預けは酷いと抗議された。

 アルベール王国も現代日本から見れば数百年は文明が遅れている様だし、地球でも世界有数の住み心地が良いだろう、平成の日本を知る者にとっては、例え王族でもアルベール王国の住み心地もそれなりに悪く感じたのだろう。町中も衛生的とは言えないしね。

 そんな事情もあってか、ライルさんからは改めて付いて行きます、と強く言われた。

 僕としてもありがたいので、素直にそう伝えておく。


 やがて通信も収まって来た頃になって、複数の絡繰りから同じ様な内容の念話が僕に入った。


『主様、此方の領主が得体の知れない者とは会えないと面会を拒んでいて、食糧配布も許可できないと拒絶されています。如何致しましょうか?』


 どうやら先程の魔道具を使った宣言を信じていない様だ。

 アングラード侯爵も言っていたが、中世の人にいきなり空に浮かぶ人の映像を見せても信じて貰えず、寧ろ神様や悪魔の仕業に見えても仕方が無いのかもしれない。

 まあ、それなら同じ事を繰り返せば済む話なので、ライルさんにもう一度宣言して貰おう。

 そうして協力を拒んだ七つの町の上空に、再びライルさんの幻影が浮かぶ。


「この地の領主は我が勅命に背き、我が使者を拒んだと聞く。今一度使者を送る故、速やかに食事の配布に協力するよう命ずる。逆らうならば反逆の罪をもって断罪する事になるだろう」


 ライルさんが強めの口調で命令しているのは、領主が王子は領民に食事を用意しなかったとか、空に映った王子は偽物だった、等の嘘を拡散される前に、此方から事実を告げる事で矛先を此方に向けない為だ。

 これでこのまま食事が配布されなければ、領民はやはり領主が邪魔をしていると考えるだろうし、配布が開始されても、やっぱり領主が邪魔をしていたんだと知る事になる。

 どちらに転んでも領民の中にはこんな町出てってやる、と考える者も増えるだろう。つまり領主は墓穴を掘っただけなのだ。

 しかし、そんな事にすら気づかなかったのか、再宣言した七つの町の内三つは最後まで協力を拒んだので邪魔されない様、僕が領主の館の敷地を結界で覆って外に干渉できなくしてから、絡繰りを多めに派遣して食事の配布をする事にした。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 此処でも栄養や消化を考えて配布するのは雑炊と乾燥果実、そして清浄な水で当然水はおかわりできる様に各卓に飲み水の入った薬缶(やかん)も置いておく。

 雑炊には僕が治癒の術を付与しておいたので、ほんの数時間限定だが軽い癒し効果が期待できる。

 食事をして体調も良くなるなら此方の評判は更に上がり、移民への期待も一緒に上がるだろう。


 一般の人達の食事会場は広場に八人掛けの卓を大量に並べて、屋外だが学校給食や社食の様にお盆に乗った食事を各自が自分で運ぶ形式だ。

 お盆には食器が滑らない様に食器が嵌まる窪みを付けてあるが、小さな子供には簡易型絡繰り人形に運ばせる事にする。間違って引っ繰り返しでもしたら火傷しちゃうからね。

 会場に来られない程に体調が悪い家族が居る場合は、その事を伝えて貰えれば医療用絡繰り人形を派遣する事も会場の入り口で伝えておく。

 尚、貴族は領主の屋敷の広間での食事になるので、細かな部分は其々の領主にお任せした。


 良い機会なので、僕がこの国を検索して見付けたライルさん達以外の覚醒者の内、犯罪系の称号を持っていない三人の平民と、二人の貴族に手紙を渡す事にした。

 渡す相手を間違えない様に、鑑定を強化して覚醒者を判別できる絡繰りに配らせる。

 内容は単純に覚醒者である事を知っているという事と、夜のお茶会への招待だ。

 返事は食事が終わったら手紙を渡した絡繰りに伝えて貰えれば、参加者にはこの国の時間で午後七時に迎えを家に出す事と、勿論強制はしないので断っても構わないとも記しておいた。

 前世知識を持っていて雑炊を食べたならば、手紙の差出人の僕も同類だと分るだろう。

 何人かは仲間に加わってくれると嬉しいな。



読んで下さった方々、有難う御座います。

次も2~3週間後に更新出来る様、頑張りますので読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになります。

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