見学会
大変お待たせいたしました。
昨日は所用で更新できず、予定より一日遅れてしまいましたが
今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。
〇六三 見学会
僕は思いがけずに入手した新しい魔石代わりの魔血晶も、巧義兄上にお墨付きを貰った事に気分を良くしつつも、逆に何故魔石柱を作った時に一緒に教えてくれなかったのか、疑問に思ったので天照に確認する。
『当時は魔血晶の素材に適切な魔物血液を所持しておりませんでしたので、ご提案しなかったのです』
『お持ちの魔物血液は生体強化薬の素材になる龍血や、万能回復薬の素材になる竜血等の薬になる素材や、塗料や染料の素材になる魔物血液等、素材自体に特別の価値が有ったのですよ』
『魔血晶はそれらの様に他の素材にならない魔物血液に含まれる魔力を無駄にしない為の措置に過ぎません』
つまり、糞からガスを採って利用する、みたいな感じなのかな?
まあ、廃品からでも利用できる物を抽出できるのなら僕には得しかない。
『それらの素材を使う位なら、所持している魔石を直接使った方が早いのですよ』
『しかし、ただ魔石を魔力源に提供しても功績にはなりませんから、通常品質の白魔石の使用をお勧めしました』
成程、色々考えて提案してくれていたのは正直ありがたい。
そして生体強化薬とか少し興味が有るけど、今は必要ないし副作用とか大丈夫なのかな?
国としてちゃんと機能してからの話になるが、問題無いならアルベールの人達の底上げに使えないか、検証してみても良いかもしれない。
『勿体無いといえば、常に満たん状態の主様の呪力の自然回復分も何かに溜めておくと、他にも色々使えて便利なのですよ』
『そうでね、異界に呪力保存空間を作って余剰呪力を保存しておけば、そこから呪力を取り出せる魔道具を用意する事で誰でも余剰呪力を活用できますし、魔石柱の呪力充填等も絡繰りに任せる事ができる様になります』
確かに、将来的にもずっと僕が魔石柱の充填をし続ける訳にもいかないし、無駄になっている呪力が有るなら保存して他にも活用できるのなら一石二鳥だ。
早速分体二号に頼もうとしたら、魔血晶の事が気になっていたらしく、予め記憶同調して此方の状況を知っていたので頼む前に二号から了解と伝えてきた。
同じ記憶を持っていれば記憶統合時の負担も減るので都合が良いのだそうだ。
元々最近は説明を省いて記憶統合で頼み事をしていたし、僕も手間が減って良かったと考えよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
屋敷に帰ると五狼達に加え、二刃姉上まで一緒になって魔道書籍を読んでいた。
タブレットの様な魔道書籍を三人で覗くのは見辛くないのだろうか?
「どうだ、解らない処は無いか?」
「四狼兄上、大丈夫です。この魔術書はとても解り易いので凄く参考になります」
「そうね四狼、これは良い魔術書だわ」
「三刃も解かったのです」
既にそれなりに術が使える二刃姉上が入門書を読んで役に立つのか疑問だったが、二刃姉上も知らない事も書かれていたそうだし、忘れていた事も思い出せたので意味は有ったのだという。
「役に立ったのなら良いのですが、もう直ぐお昼ですけど二刃姉上は台所に行かなくても良かったのですか?」
僕が現在時刻を告げると二刃姉上は「いけない、忘れてた」と言って台所に向かった。秋穂母上に怒られない事を祈ろう。
この分だとお昼は少し遅くなりそうなので、分体二号と記憶統合してアルベール王国の様子を確認する。
僅かな問題は発生していた様だが、仮町の見学は概ね好評だったみたいだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アルベールでは昼食会を終えた後、希望者に仮町の様子を見学させていた。
「此方も懐かしい感じの建物ですね」
「これがシロウ様の国の建物ですか。我が国の建物とはまるで違って、とても綺麗ですね」
「なんと洗練された町並みなのだ、悪臭も全くしないではないか」
ライルさんには現代日本風の建物はやはり思う処が有るのだろう。
アルベールの町並みは僕の感覚的には中世的な石造りの家なのだが、その町に慣れているアルベールの者達には、日本の集合住宅風の建物は洗練されて見える様で皆が驚いていた。
建物の外壁も石じゃなくてコンクリートに似た見た目の樹脂だからね。
そしてアベルの町の悪臭の原因は下水が側溝を流れているからなので、下水を地下に埋めてあるこの町で臭わないのは当然だ。未だ人も住んでいないしね。
仮宿の中の説明は見学の人数が多いので数人ずつに分かれて貰い、管理用の通常型絡繰り人形に大半を任せ、僕はライルさんやシャリエさん、お付きのグラハイムさん達の班を担当する。
「此方でも部屋の中は履き物を変えるのですな」
「ええ、その方が部屋の中も汚れ難いですからね」
「私はトイレが個々の部屋に付いていないのが気になりますが、人数的にも数が少なくありませんか?」
「正式な住処には各部屋や家にも便所は付ける予定ですし、僕の故郷の農村等では便所は共同の物を使っている村は多いですから、問題は無いと思いますよ」
シャリエさんは内履きを、ライルさんは便所が気になった様で僕に聞いて来た。
家の中で靴を脱ぐ理由は畳文化辺りなのかもしれないけど、畳を使っていないこの部屋の説明には合っていないので適当に誤魔化す。
便所も日本の明治以前は公共の物が大半で、余程の金持ちで無い限り個人の家に便所は無かったと聞いた事が有る。
海外ではどうか知らないし、アルベール王国では各家に付いていたみたいだが、所詮仮宿なので各部屋に下水の配管をするのは面倒だから採用しなかったのだ。便利過ぎて此処に残りたいとか言われても困るしね。
それに皆で掃除をする事で掃除の仕方も覚えて貰ったり、ごみ捨ての概念や各階の協力体制を築いて貰うという理由もある。要は日本の学校の清掃みたいなものかな。
こっそりライルさんにそう説明すると納得してくれた。
台所についても竈じゃ無いから一階である必要は無いのだが、電磁式魔道焜炉の使い方や、米の炊き方等、アルベール王国には無い料理の説明も必要なので、大きな物を一か所にしか用意していないと説明する。
「シロウ様の用意しくて下さった宿舎の調理場には魔道具の焜炉まで有る様ですが、平民が魔道具を使用するには魔力が足りないと思うのですが、シロウ様には何か考えがおありなのでしょうか?」
ライルさんは平民の魔力量を心配している様だが、魔石を使うので問題無いと説明すると、今度は平民全員に魔石を使わせたらお金がいくらあって足り無いと言い出した。
どうやらアルベール王国では魔物が少ない分、魔石がとても高価なのだそうだ。
「僕の故郷では魔石はそこまで高価ではありませんし、この魔道焜炉は最新型の電磁式なので、とても省魔力なんですよ」
「電磁式!」
「でんじしきとは、いったいどういった物なのでしょう?」
電磁式の意味が分かったライルさんは驚き、分らなかったシャリエさんは素直に質問して来た。
詳しく説明するのは時間が掛かるので、雷の力を利用して火を出さずに加熱調理できると説明するが、やはり良く分っていない様だ。
気になるなら時間が有る時に詳しく説明する、と言ったのだが詳しい仕組みを知る必要が無いと気付いたシャリエさんが断った事で焜炉の説明は終り、仮宿を出て次は公衆浴場に向かう。
一階は複数の屋台が入れる食事処、つまりはフードコートになっていて、今後希望する者には使用料を貰って貸し出す予定だ。
方側の壁の中央に在る二階への階段前に番台を設置し、男女別に階段を上がった先に脱衣所を用意して、番台からも着替えが見えない様に配慮してある。まあ、番台に座るのは絡繰り人形だから配慮も必要無いかもしれないのだが一応だ。
脱衣所の奥には洗い場や浴槽等が有るが、男湯と女湯の間にもう一つ混浴の浴室も用意しておいた。
当然だが入口手前には仕切りを設置して、仕切りを超えないと中は見えない様にしてあるし、間違って入らない様に大きく案内板も設置してあるし、暫くは案内の絡繰りも配置する予定だ。
更に其々の入口には男性だけ、女性だけが通れる障壁も張ってあるので、別の浴室に入る事はできない仕様だ。
「一階のフードコートは便利そうですが、混浴は必要なのでしょうか?」
「混浴、シロウ様の国には変わった文化が有るのですな」
「元々(日本)の銭湯は混浴だったと聞いた事が有ったので、一応用意してみたのです。男女交流の場としても使われていたそうですし、使用を強制する物じゃないですから希望者だけが利用する分には問題無いと思います」
警備の絡繰りも配置するので問題を起こした者は即退場させる事も可能だと説明する。
この町は一時的な物だし、色々な実験的意味も有るので実際に誰も使わなくても問題無い。利用率が低い様なら正式な町では採用しなければ良いだけだ。
色々試して良い物を取り入れ、駄目な物は排除してより住み易い国にできれば、皆が幸福に近づけると思う。成功すれば功績にもなるので、ライルさんも試したい事があるなら遠慮なく言って欲しいと伝えた。
「幸福実験都市ですか? 普通はこんな規模で行うのは無茶苦茶ですが、面白い発想ですね」
一応ライルさんも僕の考えに賛同してくれた様だ。
公衆浴場の中の説明を終わらせた僕達は、その横に設置してある広場を案内する。
ここは主に運動に利用できる様に平らに整地してあり、周囲には木を植えてあるので木陰で休む事もできる。
見学や本格的に休める屋根付きの休憩所や、手足も洗える水場等も複数用意しておいた。
ライルさん達には、普段は自由に使って貰い、希望者がいれば各種武術等を教える事もできる場所として用意した、と説明する。
「公園の中に運動場が有るのですね」
「個々の訓練には使えそうですが、大規模な軍事訓練に使える程には広くないのですな」
「ライルさんの言う通り、この場所は民間用の運動場を兼ねた公園です。軍事訓練は町の外に行けばいくらでも広い場所が使えますから、わざわざ町の中に広い場所を用意する必要が無いんです」
この島には魔物も居ませんしね、と続けると魔物が居ないならこのまま此処に国を作らないのか、とライルさんに質問されたが、魔物が居ないと功績を積むのが難しいと答える。
そもそも安全に暮らしたいのなら、それこそ地球に転生すれば良いだけの話だし、わざわざ危険な此方の世界に生まれた意味が無くなってしまうのだ。
それに二人には言っていないが今居るのは僕の作った監獄世界だから魔物が居ないだけで、正式な国は元の世界に作る予定だし、皆が生まれた世界は功績を積む為の試練の星らしいからね。
功績を積む機会が減ると僕みたいに万年地獄に落とされる可能性も発生してしまう。他人に許可も無くその可能性を強要するのは気が引けるのだ。
理想はある程度の安全を確保しつつ、功績を積める場を用意するって処かな。
位階を上げつつ子供を作り、できれば称号を得る、というのが此方の世界での一般的な功績の積み方らしいけど、一番手早いのは他者を殺し捲くる事らしい。
人殺しを絶対悪とは思わないが、できれば避けたいとも思っている。先ずはできる事を頑張ろう。
運動公園を通り抜けながら広場の説明を終えると、次は市役所兼代官の住処だ。
建物正面の大きな出入り口以外にも、非常口を兼ねた小さめの出入り口を左右の端にも設置してある。
正面入り口から入ると案内のカウンターが在り、その左右にも広いカウンターが並ぶ、そのまんま日本の市役所を再現してある。
「これも懐かしい光景ですね」
ライルさんはさっきから懐かしいしか言っていない気がする。
「ここも新しい建物だけあって綺麗ですな」
この建物はライルさん用だが、シャリエさん用の建物も全く同じ構造なので、気に入って貰えた様で何よりだ。
カウンターの奥には職員が休憩できる部屋も用意してあるし、横には給湯室や個別の相談等ができる小部屋も幾つか設置しておいた。
左右の奥には便所や階段と十六人乗りの昇降機が設置してあり、中にはエレベーターガールの様に簡易型絡繰り人形を待機させておいた。これは警備も兼ねての配置だ。
「先ずは三階に」
「三階、に、参り、ます」
僕の指示を受けた絡繰り人形が復唱し、昇降機が上昇する。
昇降機の入口反対側の壁は透過素材を使用しているので、外の景色が良く見える構造だ。
「ここまで再現しているとは」
ライルさんもこの景色を見て、前世のエレベーターを思い出しているのだろう。
「これは、良い景色ですが、高い場所が苦手な者には少々厳しそうですな」
シャリエさんは現実的な感想だが、確かに平屋の多い平民は高所の景色に慣れていないかもしれない。
その場合は悪いけど階段を使って貰うしかないのだが、所詮この建物も此処に居る間しか使わないので、その位は我慢して貰おう。平民が上の階を訪れる事もそれ程無いだろうしね。
二階から四階は大小様々な部屋が有り、如何使うかは代官任せという事になっている。
市役所の業務を僕は知らないからね。
なので三階は特に説明す事も少ないので、通り過ぎて反対側の昇降機で五階に上がる。
五階も中央の奥に設置した代官執務室や専用の台所と食堂等、専用の設備が必要な部屋以外は自由に使って貰う為、説明できる事は少ない。
「隣には専用の給湯室と手洗いも用意してあります」
「これはまた、立派な執務室ですね」
「ええ、家具も良い品を使っておりますな」
広めの部屋に重厚な執務机や椅子に加え、その横には天井まで届く本棚等、前世の漫画で見た執務室を再現してみただけなので、実際の使用感は判らなかったりするのだが、どうやら二人は気に入ってくれた様だ。
最後に奥の扉の先に在る階段から六階に上がると通路の先に一階から直通の昇降機が有り、その中間に仮宿の個室に比べ数倍広い玄関が有る。
玄関の先が代官の家になるのだが、此方は本人の好みに合わせる為に家具等は未だ用意していない。元の家で使っていた物をそのまま使っても良いしね。
僕達は玄関で靴を脱ぎ、中に入る。
「今後は此処に住む事になるのか。綺麗で良い住処だが、一人で住むにはかなり広過ぎるな」
ライルさんが少し寂しそうに言うが、今まで身の回りの事をしていた者達は連れて来ないんだろうか?
一応ライルさんには秘書兼護衛として、風太達を付けようと思っている。
彼らなら睡眠も必要無いので護衛として最適だろう。
「我々も護衛を兼ねて何人か滞在させて頂くのです。一人ではありませんよ」
グラハイムさんがライルさんを気遣って声を掛ける。
「そうだな、私には多くの部下、いや、仲間がいるのだったな。それに、フランも生き残ってくれている」
「そうですぞライルハイト様、フランシーヌの事を忘れて貰っては困りますぞ」
ライルさんは共に戦場を生き抜いた仲間を、そして奇跡的に助かった婚約者を想い、一人では無いと考え直した様だ。
何とも言えない雰囲気の中、市役所を後にし、最後に隣の兵士宿舎に向かう。
此方は一般用の仮宿とほぼ同じ構造なのだが倍程広く、二階は執務室や会議室等の部屋が並び、三階から上に各員の個室が並ぶ。
最上階だけは区画を完全に二つに分けて、女性用の区画も用意しておいた。
「一般兵にまで個室とは、少し贅沢ではありませんか?」
グラハイムさんの話によると、アルベール王国では兵士達は四人部屋が普通なのだそうだ。
「人数的に部屋数が足りない様でしたら寝具を追加する事で対応できる広さにしてありますから、実際の運用はお任せします」
知らない事は知ってる人に丸投げするに限る。
兵舎の横には周囲の安全の為、高めの壁に囲まれた練兵場も用意してある事を伝え、見学できる場所の案内が終了した。
概ね気に入って貰えたと思うが僕は素人なのだから、後で問題が無いか確認しないといけないと気を引き締める。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次は2~3週間後に更新出来る様、頑張りますので、読んで頂けると嬉しいです。
また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになります。




