表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/103

魔血晶

お待たせいたしました。

今日は七夕ですね。

少しでも多くの方に読んで頂ける事を願います。

今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 〇六二 魔血晶


 場所は変わって和富王国の八神家。

 僕は今日も何時もとほぼ同じ時間に起きたのだが、ここ数日は寝起き後の記憶統合のせいか、少し気分が落ち着かない気がする。

 今は常時二十体近い数の分体が行動しているので、その情報量に僅かに困惑しているのだ。

 更に何時の間にか、やたらと過激な称号まで獲得してるのも勘弁して欲しい。

 他の分体も色々やっている様で、事故にあった怪我人や火事から逃げ遅れた人を助けたり、人を襲っている魔物を落とし穴に落として助けてあげたりと、此方は相変わらず陰に隠れて頑張っている。

 お蔭で「姿なき救世主」「見えない癒し手」等の称号も得ていた。


 そんな中、姿を晒して大勢の孤児を保護した分体も居たのだが、この子達にはアルベール用に作った仮町に孤児院を作って対処する心算の様だ。

 どうも相当治安が悪い国だったらしく、本当に小さな孤児だけを救出してさっさと撤退したのだ。

 子供でもある程度大きくなると、それまでの価値観を変えられない様で、善悪の基準が僕の許容範囲を大きく逸脱してしまっていたのだから仕方がない。

 子供だからといっても犯罪者予備軍をわざわざ国に招く気はないし、和富王国のにも少年法なんて物は存在しないのだ。

 そして孤児といえば、抉られた様に消えたイクスの町の姉妹だが、僕より先に起きた向こうの分体がこの事を記憶統合で知って、この子達も一緒に孤児院に入れる事にした様だ。

 自分より更に小さな子供が頑張っているのを見れば、少しは前向きになってくれるかもしれないという、希望も込めているらしい。

 一応、一緒に保護して残っていた漁師達大人も、同じ様に仮町に行く事にしたそうだ。

 彼方(あちら)には海に面した町もあるので、海を知らないアルベールの人達に海での漁を教えて貰う事もできそうだし、一石二鳥だろう。


 それにしてもライルさんを始め、アルベールの人達は何故か妙に簡単に移民を決めていたのが、僕には少し不思議だったのだが、その疑問には天照が答えてくれた。


「ご主人様はフランシーヌさんも持っておられた話術の能力以外にも、説得や交渉等の此方が有利に話を進める能力を複数お持ちですから、多少強引な話でも好意的に受け止めて貰えるのです」

「今回は皆の自由意思を尊重する為、扇動や洗脳の能力は使われていない分、此方の提案に乗らない方も一定数出ているのですよ」


 まぁ、洗脳までしたら反対する者も出ないだろうけど、そんな操られた人だらけの国を作る位なら、初めから絡繰り人形の国を作った方が手っ取り早いし楽だろう。

 但し、それでは建国の功績が相当低い物になるそうなので、国造りに掛かる労力や費用には見合わなくなるそうだ。

 結局、楽して大きな功績を積む事はできないって事なのだ。


 後は、複製世界の分体二号だが、昨日決まった次の狩りの移動に使う自走車の開発に、先ず和富王国の自走車を解析した様なのだが、車体に絡繰り人形を寝そべらせて、両手両足で前後左右の車輪を自転車を漕ぐ様にして進む構造というか、寧ろ車輪に直結している為、一輪車や三輪車の様な構造になっていた。

 そもそも簡易型絡繰り人形の構造は、中身の無い中空では強度が下がるので、中に十字の補強を入れて、その中心を太めの筒にして中の穴に金糸や銀糸を神経の様に全身に張り巡らせて念動で動かしているのだ。

 動力が絡繰り魂が作り出す念動なので、魔力効率は意外と低いし、人を模せる程の知能のある絡繰り魂を動力に使うなら、せめて自動運転くらいは実現しないと勿体無い。

 そこで、別の動力から作る事にしたのだが、共和国の車は地球とほぼ同じガソリン車なので、ガソリンの無い和富王国では使えないし、そもそも環境にも悪いので作る予定は無い。

 よって、色々試作してみる事にした処で就寝したので未だ完成していないが、狩りまで日も有るし、天照達からも幾つか案が出ているので、それまでには満足できる物を作れるだろう。


 そんな、面倒事が多い中で、少し楽しいのが魔術書組が新しい術を覚えてくれる事だろうか。

 和富王国には無い、変わった術等も多数あり、面白い術や便利そうな術を覚えるのは、今後の活動も有利にしてくれそうで嬉しい。

 但し、昨日覚えた呪い系の呪術は犯罪者に対する罰則等、使い道を限定する必要がありそうだ。

 呪いとか、普通に怖いからね。


 そうして朝の記憶統合で得た情報の心の整理を終えると、僕は朝の身支度を整え、朝食の為に食堂に向かう。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 食堂では既に兄上達と冨月義姉上が揃っていた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「おはようございます、四狼さん」

「おはよう、四狼」


 僕が朝の挨拶をすると、兄上達が挨拶を返してくれる。


「珍しく三刃は未だの様ですね」


 意外かもしれないが三刃は朝が早い。


「確かに少し遅いですね。私が見てきましょう」


 僕の呟きに、朝食の準備を終えてやって来た二刃姉上が答え、気になったのかそのまま直ぐに食堂を後にした。

 都合よく本人達が居なかったので、五狼達の事を一狼兄上に相談する。


「一狼兄上、五狼の事なのですが、位階が既に十七まで上がってしまいました。苦痛の行は誰がするのでしょうか?」

「そういえば一足飛びに位階が十六を超えてしまったのだったな。しかもこの分だと次の狩りで二十を超えてしまいかねん」


 苦痛の行は僅かだが当然危険も伴うので父上が直接行っているのだが、遠征に出掛けている父上は当分戻って来ない。

 更に次も同じ様に狩りをすれば、一狼兄上が言う通り、位階が二十を超えてしまう可能性があるし、そうなれば間違いなく三刃も位階が十六を超えるだろう。


「分った、今日の夕方に俺がやろう」

「僕も見学させて貰っても良いですか?」

「構わんが、見ていても気分の良い物ではないぞ」

「はい、十分承知しています。しかし、おそらく桜花様も苦痛の行を希望なされると思うので、対象の反応も一目見ておきたいのです」


 アルベールの件は修行じゃなくて、罰だからあまり参考にはならないし、僕も受けた事はあるが、される側の状態も客観的に見ておきたかったのだ。


「待て四狼、お前は姫様にまで苦痛の行を行うと言うのか?!」

「桜花様も昨日の狩りで位階が十九に達しました。本人が希望されるなら今やっておかないと、耐性を得るのが遅くなってしまいます」

「確かに、姫様なら耐性を得る修行と聞けば希望するだろう」


 三狼兄上の詰問に、僕は桜花様の意思に従うと説明すると、一狼兄上は納得してくれた。


「それは、そうかもしれんが……」


 それでも三狼兄上は理解はできても納得はできなさそうだ。


「その場には当然、春菜母上や伊吹さんも同席しますから問題ありませんし、もしかしたら桜花様も痛いのは嫌だと仰るかもしれませんよ」


「そうだな、春菜母上が同席するのなら、間違いは無いか」


 何とか三狼兄上も納得してくれた様だ。


「折角だ、次の狩りで三刃の位階が上がったら、三刃で先に試すが良い」

「それは、流石に三刃が可哀想ではありませんか?」

「そうですよ、三刃はまだ十歳なのです。もう少し歳を重ねた後の方が良くありませんか?」


 桜花様の前に三刃で試し切りしろと言う一狼兄上に、僕が若干引きつつ答えると、富月義姉上も年齢を気にして先延ばしを訴える。


「しかし、予想より早く位階が上がっている以上、余り先延ばしにも出来ん。位階が上がるとより強い苦痛を必要とするからな」

「それは、そうですが……」


 位階が上がると位階での耐性も上がる為、能力の耐性を得るのにより強い刺激を必要としてしまい、更に激しい痛みが必要になってしまう。三刃の為を想うなら、多少若くても位階に合わせた方が楽なのだ。


「いや、三刃の修行を見せるのは良い。先に三刃の状態を見せてやれば、姫様も心変わりするかもしれん」


 そして、三刃より桜花様の方が優先順位の高い三狼兄上は、逆にそれを利用しようと企んだ様だ。

 三刃、強く生きろ。


「おはよう、ございます」


 そんな事を話していると当人がやって来たので、この話は決定されてしまう。

 ちなみに、寝坊したせいか三刃は何時もとは違って髪を三つ編みにしておらず、首元で縛っているだけだった。

 皆が挨拶を返していると、やがて五狼や母上達もやって来て、ようやく家に居る家族全員が揃い、朝食が始まった。

 今日の朝食のおかずは、納豆と出し巻き卵だったが二刃姉上も腕を上げたのか、前回より美味しく感じた。二姉上も順調に成長している様だ。


 朝食を終えた僕達は隣の居間に移動し、五狼に前に作っておいたタブレットの様な魔道具、魔道書籍を渡し、使い方を説明する。


「四狼兄上、これは凄く便利です」


 五狼が珍しく喰い気味に喜んでくれた。


「うー、五狼兄上だけ狡いのです。三刃には無いのですか?」


 三刃がこう言う事は想像できていたが、三刃には専用を用意するよりも五狼と共用にした方が希少性で興味を引きそうだと思い、あえて専用を用意しなかったのだが、その目論見は成功した様だ。


「貴重な物だから一つしか借りられなかったんだ。二人で相談しながら一緒に読んでみると良い」

「魔道具はどれも高価だから仕方がないよ。三刃、一緒に読もう」

「五狼兄上、分りました」


 二人が納得した処で、二人に今日の予定も伝えておく。


「今日の午前はこのまま読書で、午後からは昨日狩った獲物の解体を秋穂母上に習う予定だ。五狼は夕方に一狼兄上との特別修行があるから覚えておいてくれ」

「僕だけですか?」

「僕は既に済ませたし、これは一定の位階に達したら受ける特別な修行だから、五狼も頑張ってくれ」

「三刃はしなくて良いのですか?」

「三刃は次の狩りの後に、位階が上がったら僕がする事になる」

「分りました」


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 屋敷での要件を終えた僕は、昨日狩った獲物の残りを狩人組合に売却する為に出掛ける。

 折角なので、売却分の獲物の血抜きを無限倉庫内で検索分離してみたら、一瞬で全ての血抜きが終わってしまった。

 試しに残す狼の一頭も血液や毛皮、加食部位等を検索分離してみたが、やはり全て一瞬で終わった。この能力、便利過ぎる。


『ご主人様、魔物の血液をそのまま処分するのも勿体無いので、魔血晶(まけっしょう)に加工する事をお勧めします』

『魔血晶?』

『魔力源用の魔石代わりになるので、魔血晶を作れば魔石不足の解消の足しにもなるのですよ』


 二人に詳しく話を聞くと、魔物の血液に残っている魔力を結晶化させる事で、魔血晶という物が出来るそうだ。

 これは魔石と違って魔力の増幅等には使えないし、体積比で五割から七割程度にしかならないが魔力源としては使えるそうなので、確かに魔石不足の足しにはなりそうだし、二人の言う通り捨てるのは勿体無い。

 丁度良さそうなので分体二号に連絡し、更に普通の狩人でも魔物の血液を回収できる魔道具の開発を頼んでおいた。

 僕一人の収穫量では町全体で使う魔石の代わりには到底足りないのだから、他の狩人でも回収できる様にしようと考えたのだ。


 そうしている間に僕は狩人組合に到着した。

 昨日の予定では更に二回に分けて売却する事になっていたが、血抜きも終わっていたので売却予定の獲物を全て売却すると、一晩で全ての血抜きが終わった事に驚かれた。

 確かに一晩で二百頭の血抜きは多過ぎたかもしれない。


 狩人組合に来た序でに、今度の狩りの前に買取の相場も見ておいたのだが、全体的に昨日より僅かに安くなっていて、狼は特に値下がりしていた。

 昨日今日で僕達が大量に売却したせいなのだろう。

 しかし、赤熊や灼熱熊等は滅多に入荷しない為か、寧ろ買取額が上がっていた。

 他にも入荷が少ない雷鳥や飾り鳥等の飛行系の獲物は何時も通り高めだし、極稀に狩られる走竜や飛竜等の亜竜種は兎も角、入荷した事が有るのか疑わしい正竜種に至っては、ただでさえ高価な飛竜より更に二桁も買取額が高い。

 表示額は一貫(約三.七五キロ)辺りだから、総額はとんでもない金額になるので、正竜一頭狩れれば一生食べていけそうだ。

 最も正竜に出会う事すら難しく、例え出会えてもほぼ間違い無くそこで一生が終わるのだから、もう食にも困らないというか、美味しく食された後だろう。

 僕達が今度狩るのは熊なので、これは関係ないかと相場表を後にする。

 残念ながら熊関係の依頼は出ていなかったので、売却は相場通りになりそうだ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 狩人組合を後にした僕は、魔石柱の使用感を確認する為に藤邑商会に向かった。


「四狼! 一寸来なさい!」


 藤邑商会に着くと直ぐに一刃姉上に捕まり、そのまま藤邑家の居間に連れ込まれた。


「富月義姉さんに聞いたわよ。洗濯の魔道具が有るんですってね? 私の分も無いのかしら?」


 どうやら一刃姉上は洗濯機をご所望の様だ。

 一応三十台ほど複製していたが複製世界の別荘等、僕が直接使う分しか設置していないので在庫はまだある。

 仮町の宿等に設置しなかったのは、血痕とかも完全に消せるので事件とかの痕跡も消せてしまう為、市場に出すか迷っていたのだ。

 一刃姉上が犯罪行為をするとは思わないが、そういう使い方もできるので桜花様の許可が出てから市場に流す予定だと説明しながら、一刃姉上に洗濯機と食洗器や掃除機等も無限倉庫から取り出して渡すと、一刃姉上は小躍りしそうな雰囲気で受け取った物を自分の異界に収納した。

 やはり位階が高くても手洗いの洗濯は時間も掛かるし、結構な重労働なのだそうだ。


「凄く助かるわ。これを作った人は主婦の救世主ね」


 確かにその称号は持っているから少し焦ったが、一刃姉上が知っている筈もないので、救世主というのは最近よく聞くし、流行りなのだろう。


 そうこうしていると巧義兄上もやって来て、商売の話になる。


「先日持って来てくれた魔石柱、とても良い物だね。あの小ささで全然魔力が尽きないのだから、他の魔道具の小型化にも役に立ちそうだよ」

「活用できそうなら何よりです。今日は他の魔石代わりになる物も持ってきました」


 そう言って早速分体二号に用意して貰った、一辺が半寸(約十五ミリ)程の立方体をした魔血晶を無限倉庫から取り出して巧義兄上に渡す。


「魔石に似ているけど魔石と違って少し透明度が有って、宝石みたいだね」

「それ一つで小鬼の魔石より少し多い位の魔力が含まれているそうです」


 小鬼の魔石は魔物の中で最も小さく、小豆位の大きさしかないため、最小を表現するのにも良く使われる。


「成程、こっちの方は大きさの割に魔力は少ないんだね」

「ええ、巧義兄上の仰る通り、魔力源として魔石より効率が悪いですし、魔石の様に魔力増幅にも使えないそうですが、魔物の血液から生成出来るので今まで捨てていた血液の分、一匹の魔物から採れる魔力が増えるそうです」

「本当かい? それなら多少効率が悪くても利用価値は有りそうだね」


 後は魔物の血液の安定供給ができれば、魔血晶も一般に普及できるかもしれない。

 此方も使用感を試して貰う為に百個渡しておいた。

 結局魔石柱も次回からは値段が上がる事も表記しての期間限定の超特価で百個売ってみて、様子を見る事になった。

 特価でも十分高いので早々売れないだろうけど、これ以下にすると価値が知れた後に通常の魔石の値段に影響が出るので致し方ない。


 そうして商売の話を終えた僕は岐路に着く。



読んで下さった方々、有難う御座います。

次も2~3週間後に更新出来る様、頑張りますので、読んで頂けると嬉しいです。

また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ