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お待たせいたしました。
評価やブックマークをしてくださった方々、ありがとうございます。
今回、少し短めですが、僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。
〇六一 告知
『おめでとうございます。今回の行為で「脅迫者」「拷問官」「残酷芸人」「流血好き」の称号を獲得しました』
僕が密かに気合を入れていると、天照から善し悪しの微妙なお知らせが来た。
称号が増えるのは功績らしいから良い事の筈なのだが、この称号は流石に物騒過ぎて、獲得した僕自身もドン引きだ。
一応、称号は昨日桜花様達と一緒に獲得した物以外は全て隠蔽していたけれど、これは他人に知られたら絶対に不味い称号だと思うので、しっかり隠蔽できているか何度も確認してしまった。
今後は僕が開示の指示を出していない称号は自動的に隠蔽する様、天照に頼んでおいたので、安心だ。
そして、僕がそんな事をしている間もライルさん達の話し合いは続き、この部屋に居る物の多くを説得していた。
当然ながら頑なに移民を拒む者や、消極的だが移民に否定的な者もそれなりに居る様だが、何度も言っているけど僕は移民を強制する心算は無いので、好きにすれば良い。
移民すれば身分は一旦平民になるのだから、先祖から受け継いだ貴族の身分に胡坐をかいていただけの無能者はほぼ間違いなく、平民以下の身分になってしまう。
当人もそれが分かっているのだろうし、僕としてもそんな自意識だけが高い無能者を無理に引き込む理由も無いのだ。
月読の予想では平民の七割、貴族の半分弱が移民に参加する最大人数らしいから、実際にはもう少し少なくなるのだろう。
しかし、人口が有る程度まで減れば、この地域での水や食糧の不足は余裕で改善できる筈なので、後は残った者達で頑張れば、そちらの問題も解決するだろう。
そうして移民の話を聞き終えた者の一部が、今後の準備や家族に説明や相談をする為だろうか、部屋を出て行き始めた事で、手の空いたライルさんが話し掛けて来た。
「意外と過激な事をなされるのですね。少し驚きました」
「ライルさん、お疲れ様です。手足を斬られるのは僕も修行中、怪我や痛みに対処する方法を学ぶ為と称して、父上に何度かされましたからね。どの程度の苦痛なのかも知っていますし、確かに過激かもしれませんが、見た目も派手なので効果的だと思ったのです」
僕の答えにライルさんだけでなくグラハイムさんも「過激なのは家風なのか?」と僅かに顔を引き攣らせていた。
僕の家族に変な誤解を持たれない為に、レベル十台後半で大きな痛みに耐えておくと、レベル二十台前半で苦痛耐性を得られると僕の流派では言われているのも、この過激な修行を行う理由なのだと説明しておいたが、効果が有ったかは疑わしい。
「強者になる修行はやはり、私の想像を絶するものなのだな」
「ええ、彼の強さの理由の一端を見た気がします」
一応の納得はして貰えたと思う事にしよう。
そうして話している内に予定の時間になったので、見栄えの良い謁見の間に向かい、ライルさんには玉座に座って貰う。
此処で使うのは分体一号に作って貰った映像と音声を送信する魔道具で、絡繰り人形の目や耳にも使われている視力と聴力の能力を付与した拳大の水晶に、更にそれらを送る為の送信の術も纏めて付与した物だ。
当然、受け手側の水晶には送られて来た情報を受け取る為の受信の術や、音声や映像を発する為の発声の能力や幻術が付与してあり、それらを持たせた通常型絡繰り人形を各町や村の規模に合わせて二体から六十四体ずつ転移させてある。
大きな町に多くの絡繰りを派遣したのは、そのまま待機させて夕方に食事の配布もさせる為だ。
玉座の横にシャリエさんが並び立ち、全ての準備が整う。
「それでは、始めて下さい」
僕の言葉にライルさんが頷くと、僕は玉座に向けて持っていた水晶に呪力を流し、水晶が淡く光り出すと城の東西南北と町の外壁の門を避ける為、北東、北西、南東、南西の内側に玉座に座るライルさんの巨像が映し出される。
同時に、他の各町村の空にも同じ映像が映し出され、ライルさんの演説が始まった。
「聞け! アルベールの民達よ! 我が名はライルハイト・アルベール。アルベール王国第三王子である!」
突然空から降り注ぐ音声に、外に出ていた者は空を見上げ、建物の中に居た者も声の出所を探る為に外に飛び出て来る。
「これより重大な発表をする! 皆の命にも係わる事ゆえ、心して聞くが良い」
町の反応をライルさん達にも見せる為に、同じ様に水晶の魔道具を使って此方でも数ヵ所だけだが町の様子を確認できる様にしている。全ての場所を映しても確認し切れないからだ。
その映像から、突然王子を名乗る巨像が現れた事で一部の者が跪いていたりもするが、大半の者は困惑している様子が見られた。
「先日、我が国に侵攻して来た共和国軍を撃退する為に出撃した我が国の騎士・兵士達は、強力な武器を持った共和国軍に一矢報いる事無く、壊滅した!! 私も父王や兄王子達と共に出陣したが、生き残ったのは私だけだ。元より王妃や姉妹姫も流行り病に倒れていた為、王族は私一人を残し全員が死亡したという事になる」
ライルさんの発表に、アルベール王国西側の町の住民を中心に驚きの声を上げている。
中には出兵した兵士の家族だろうか、泣き崩れる者も居たが、アベルやクロスベルの様に既に共和国兵に占拠されていた町の住人は、今更何をと不振顔の者も多いが、構わずライルさんの話は続いている。
「……命辛々戦場を撤退した我らの食料が尽き、流行り病に衰弱も始まっていては命運も尽きたと思っていた処に救世主が現れたのだ。弱った我らに武器を持って侵攻して来た共和国とは逆に、彼は手を差し伸べてくれたのだ。我らの毒を取り除き病を治して温かい食事をも与えてくれた。そして、土地が毒され安全な水が無いのなら我が国に来ないかと、更なる手を差し出してくれたのだ」
ライルさんは少し間を空け、皆に言葉が浸透するのを待つが、町の人々の大半は何を言っているのか分ら無い様で、精々が「救世主?」「病が治る!」「安全な水!」といった反応くらいだ。
「私はこの手を取ろうと思う。新しい国に行きたい者は基本、誰でも受け入れられるし、生活が軌道に乗るまでの衣食住も保証してくれるそうだ。アルベールの民達よ、強制はせぬ。私と共に新たな地に行きたい者は、明日の朝から各町の外門の外に用意される移動手段によって、簡単に行く事が出来るそうだ。但し、帰るのは容易では無い。良く考えて行動する事を願う」
やはり町の人々は皆、理解が追い付いていないのだろう、困惑している様だ。
「参考までに本日の午後五時より各地域毎の集会場にて、身分に関係なく希望者にはその国の食事が振る舞われる予定だ。係りの者の指示に従って、騒動を起こさず食事を楽しんでくれ。私からは以上だ」
食事がただで食えると、一部では盛り上がっている者も出た様だが、多くの者は騎士達の全滅に王家の消失、突然の引っ越し案の提示と、情報過多でどうして良いか分らなくなっている様にしか見えない。食事の配布時にも追加の情報を発信をしないと駄目そうだ。
「儂からも少し話をさせて貰おう。儂はクリストフ・シャリエ侯爵、クロスベルの領主をしておる。儂らの家族も王子と同じ様に、救世主様に助けられた身だ」
続けてシャリエさんを映し出し追加の情報を発するが、救世主という呼び方は決定なのだろうかと、僕は少しげんなりする。
「共和国だろうと救世主様の国だろうと、この地を離れるのは嫌だと思う者も居るだろう。しかしだ、救世主様は流行り病に命尽きる寸前の我が娘を治療し、序にと儂を含めた家族全員の毒も取り除いて下さっただけでなく、健康を取り戻した妻や娘を連れ去ろうとした共和国兵を含め、全ての共和国兵を町から追い出して、クロスベルをも救って下さったのだ」
シャリエさんの言葉に「そうだ! 俺も助けて貰ったんだ!」「俺も怪我を治して貰ったぞ!」と叫んでいる者達が居た。その反応にシャリエさんは頷いて続ける。
「今朝方、共和国兵に捕らわれて居た者達が解放された事を知っている者なら分るだろう。そう、此処でも救世主様が助けて下さったのだ。そんな手間を掛けた挙句、困っているなら住む場所をも与えようという者と、住処を奪い、無理やり他国に連れて行こうとする者、皆は何方が良いだろうか?」
その言い方で人攫いの方が良いと思う者は、基本的に居ないと思う。
「このままこの地に残っても、今度こそ共和国に連れ去られるか、毒に汚染された水や食糧を口にして病に倒れるかの何方かだろう。残された選択肢は辛うじて無事な西に逃げるか、救世主様の国に移民するしかないと、儂は考えておる」
シャリエさんの言葉に町の人達も「確かに」と頷く者「西も水は大丈夫でも、共和国は攻めて来るんじゃないか?」と疑問視する者「どっちにしても中央はもう駄目だろう」と状況を正確に把握する者まで現れ、シャリエさんの考えに納得し始めている様だ。
「但し、移民を望む者には幾つかの簡単な規則を受け入れて貰う必要がある。何分急な話故、移民者が持って行ける荷物は、自分の胴体と同じ大きさの背負い袋程度までだ。当然、家も土地も捨てねばならんが、当面の生活は保障される故、現金や貴金属等の貴重品や、替えの効かない物や思い出の品だけあれば十分だろう」
「現金だけ有っても商品が無いんじゃ、商売ができないじゃないか!」
「酒が無ければ酒場もできねぇな」
「土地を手放すと畑もできないんだが、如何すりゃ良いんだ?」
「いや、食い物が貰えるだけでも俺は行くぞ!」
手荷物の制限をすれば、金持ち程損をするのは分っている。なので対策も一応考えてあるのだ。
「商人等は別途申請する事で禁止物で無い商品の大半は後で返還されるし、農家も申請すれば畑を優先して貰えるそうだ。更に新しく農業を始めたい者も、空いている畑があれば与えられる可能性も有るそうだ」
「禁止商品って何だ?」
「畑が貰えるのか?」
疑問は残っている様だが、少し前向きに検討し始める住民も出始めた様だ。
「そして、移民の受け入れは暫く続くが、徐々に混雑してくると予想される。住む場所の希望も早い者の方が多少は有利になるだろう。皆の速やかな判断と行動を期待する。なお、移民先での身分は能力次第だそうだ。今は平民でも、能力さえ認められれば貴族に準じた身分を得る事も不可能では無い、との事だ」
最後の発言は皆の期待感を煽ったのか「おおーっ!」「え、俺でも貴族に成れるの?」「お前みたいな馬鹿が貴族様に成れる訳がないだろ」といった声が溢れだした。
実際は貴族というよりも公務員なのだが、多少の優遇措置はする心算だ。
「先ずは夕方、我が国とは一味違った移民先の料理を楽しんでくれ」
「一味違った料理!」
「食べられるなら何でも良いよ」
食事には皆興味を示している様だ。
「この後、各領主や代官の元に料理を持った我らの使いを出す。その者の料理の提供に協力する事が我が国からの最後の勅命になるだろう。心して掛かってくれ。以上で本日の告知は終了だ。皆の移民への参加を期待する」
こうして僕達の移民計画の告知は終了した。
その後も暫く町の様子を確認していたが、そこら中で移民案を受け入れるかどうかという議論が始まっている。
中には西の町の親戚を頼るという者も居るが、それでは共和国の脅威からは逃げられないので、西に逃げるというのは少数派の様だ。
まだ時間は有るので、しっかり考えて結論を出して欲しい。
僕達は全ての映像を終了させ、少し遅くなった昼食にする。
城に居る他の人達にも振る舞った為、ライルさん達には昨日に引き続いて雑炊になって申し訳なかったが、昨日とは違い、初期配布の品なので味の違いにシャリエさんは驚いていた。
当然、初めて食べた人達にも好評だったのは言うまでもない。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次も2~3週間後に更新出来る様、頑張りますので、読んで頂けると嬉しいです。
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