内通者
お待たせいたしました。
ブックマークをしてくださった方々、ありがとうございます。
今回からタイトルが少し変わりましたが、僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。
060 内通者
アルベール城のライルさん達の居る部屋近くの通路に転移した僕は、案内をさせる為に念話で林太を呼び出す。
直接ライルさんの元に転移しなかったのは、ライルさんの居る部屋には未だ僕が会った事のない人達が大勢居た為だ。
その人達を驚かせない為というのもあるが、その中にも共和国との内通者が潜んでいると月読が教えてくれたのが大きい。
転移みたいな強力な道具や能力は、敵対勢力には特に隠さないといけないと考えたからだ。
そうして待つ事暫し、林太がマクシミリアンさんを連れて迎えに来てくれた。
「お待たせ致しました」
「ご苦労さん。マクシミリアンさんも、ありがとうございます」
「いえ、彼だけだと城の中でもまだ顔を知らない者が多いだろうと、グラハイム様の命令ですから、気にしないで下さい」
この二人の案内でライルさんの待つ部屋に向かう。
部屋の前に着くと中の声が聞こえてきた。
「王子はその、何処の馬の骨とも分からぬ小僧の言葉を信じて、我が国を見捨てると仰るのですか!」
「そういう訳では無い。希望者で移住しようと言っているだけだ。付いて来た者の面倒は当面私が引き受ける。嫌な者は残れば良い」
「それでは、残された者はどうすれば良いというのですか?!」
「残されるのではなく、残る者だ。自ら残る事を選んだのだから、後は好きにするが良い。私は彼に助けられなければ、こうして城に戻る事もできずに荒野で野垂れ死んでいたのだ。残る者には私は死んだ者として扱って貰って構わない」
何か揉めている様だが、このまま立ち聞きしている訳にもいかないと部屋に入ると、着飾ったライルさんとシャリエさんの他にも、大勢の豪華な衣装を着た人物達が居た。
「お待たせしました」
「いえ、まだ時間には余裕が有ります。彼方の町の方は上手くいきましたか?」
「ええ、町長は協力してくれるそうです」
「こんなに此方に都合の良い話は普通は有り得ない。当然の判断だろうが、協力者が増えるのは喜ばしい事ですな」
僕の挨拶にライルさんが答え、シャリエさんもサウベルの協力を喜んでくれた。
「その若造が、王子を誑かした者なのじゃな?」
僕達が再開の挨拶を交わしていると、小柄な中年男性が割り込んで来た。
「誑かしたとは無礼な! 彼は私達を助けてくれた恩人です」
「然り! 彼は余命幾ばくもなかった娘の命を助けてくれたのだ。無礼を働くというのなら、ダレル財務卿とて容赦はせぬぞ!」
二人が僕を庇ってくれるのは嬉しいが、こんな詰らない事で争っている場合でも無いので僕も口を出す。
「確かに僕は若造ですが、現在この国に必要なのは年齢の高低ではなく、現状を打開する方法や能力だと思うのです。その方法の一つとして、僕が作る国に引っ越ししませんか? と僕は提案しているに過ぎません。移民を強制する心算はありませんし、貴方達に他の打開策がおありなのでしたら、是非その方法を頑張って下さい」
「くっ」
財務卿と呼ばれた男は、僕の言葉に反論できずに黙り込んでしまう。
「聞けば其方は昨晩の内に我が国内の共和国兵を撤去させたそうではないか。それ程に強いのならば、共和国が再度攻めて来ても撃退するのも容易いのではないか? 攻めて来る度に撃退していれば、いずれ共和国も諦めると思うのだが、如何かな」
今度は財務卿とは別の、太った男が無茶を言い出す。
「それでは主従が逆になり、僕に利点がありません。更に、貴方は一番の問題を理解していない様ですね」
「ダントリク軍務卿、現在我が国の最大の問題は清浄な水が不足している事だ。安全な水が西部にしか無い為、それ以外の地域では飲み水は勿論、食糧の育成すら難しく、既に国の中央は北部から南部に至るまで、食糧の生産が儘ならなくなっている」
この国の最大の問題を、ライルさんが軍務卿と呼んだ男に詳しく説明する。
「それはそうじゃが……お主なら何とかできるのだろう? ならばなんとかして見せろ!」
しかし、自分からは何の案も出せないのか、軍務卿は僕に丸投げしてくる。
「ええ、ですから移住しませんか? とお誘いしているのです」
「ええい、そういう事では無い! 食糧を用意できるというのなら、この城に持って来いと言っておるのだ!」
本当に無茶苦茶だなと思いながら、僕は更に反論する。
「それでは僕に利点がありません。貴方は誰かに、貴方の持っている食糧をただで寄こせと言われて、素直に差し出しますか? 何らかの対価を求めませんか? それで、貴方に僕に何を対価に支払えるのでしょう?」
僕の指摘に軍務巨は、顔を真っ赤にして怒鳴るように答える。
「対価など必要ない! 侯爵である儂が、生意気な平民の若造に命令しているのだっ!」
「ダントリク卿、流石にそれは…」
軍務卿の余りの身勝手な言い分に、財務卿も困り顔だ。そして僕はこの馬鹿どうする? とライルさんに視線で合図するが、ライルさんは頭を押さえて呆れていた。
「ダントリク軍務卿、其方正気か!? 今、其方自身が言った様に、彼は我々が手も足も出なかった国内の共和国兵を一晩で退去させられる程の強者だ。実際に見た儂が、彼がどれだけの強者なのかも先程儂が説明した通りだ。それに、黙って物資を寄越せと言うのは、まるで盗賊の所業ではないか! 何時から我が国の軍部は盗賊になり下がったのだ!? そして、盗賊は原則死罪だぞ。其方、自殺願望でもあるのか?」
シャリエさんが軍務卿を非難し、僕の事を擁護をしてくれた様だが、僕はその程度の事で暴れたり殺したりはしないと、心の中で弁解する。
「いくら強かろうと平民は平民だ!」
「いや、彼は新しい王なのだから、平民ではない!」
今度はライルさんまで加わって僕の身分で揉め始めたので、僕も一つ情報を開示する事にした。
「僕の身分で揉めている様なので一つ言っておきますが、僕の祖父の祖父の父辺りが故郷の王様だったので、一応僕は王家の直系になりますから、平民ではありませんし、準王位継承権も持っています」
準王位継承権とは、女王の伴侶になれる権利てあって直接王になれる権利ではないのだが、子供が成人前に女王が他界した時等は一時的に王位に就く事もあるという、和富王国独特の制度だと思うので、詳細は黙っておく。
「つまり、ダントリク軍務卿は他国の王族を平民扱いした挙句、物資を強請ったという事だな」
「その様な事、それこそこの若造が言っているだけで、何処にも証拠がないではないか! そもそも銃弾を素手で受け止めるなど、話を盛り過ぎだ。そんな簡単な嘘ばかりを言う者を信じる筈も無かろう」
銃弾云々を言ったのは僕ではなくてシャリエさんなのだが、軍務卿はそんな事も忘れて全て嘘だと否定する。丁度良いので、その言葉を利用させて貰おう。
「ならば、その懐に隠し持っている拳銃で銃弾を受け止められるか、試してみてますか?」
「なっ」
「何? 銃とは共和国兵の持つ武器の名前だった筈だが、何故にダントリク軍務卿が共和国の武器を持っておるのだ?!」
隠し持っている銃を指摘すると軍務卿は狼狽え、シャリエさんに問い詰められる。
シャリエさんの疑問は尤もだが、その理由は単純に軍務卿が共和国と繋がりがあるからだ。
そして、僕が軍務卿が銃を持っている事を知っていた理由は今朝、共和国の者を排除した後に共和国の武器も検索して回収した時に見つけた、アルベール王国の者で銃器を所持している者の一人だったからだ。
これが戦場から生還した者ならば共和国兵から奪ったり、戦場で回収した可能性も有ったかもしれないが、戦場から無事に生還した者はライルさんと一緒に僕が保護した者と、盗賊に成り下がって僕の無限倉庫に隔離された者、もっと戦場に近い町で療養している者が僅かにしか生き残って居らず、当然この王都にはライルさん達以外は一人も居ない。
なので、戦場で回収した物を部下から譲って貰った、という事も有り得ないのだ。
という事を月詠に指摘され、鑑定で軍務卿の行動履歴を天照に調べて貰うと案の定、やはり共和国との裏取引があった事が分かった。つまり、彼が月詠の言っていた内通者なのだ。
「共和国との裏取引があったのは分かっています。大人しく捕まればこの場では余り痛くしませんよ」
「くうっ、いや、それこそ何の証拠が有って言っておるのだ!」
「本当に銃を持っているのなら、それこそが証拠となろう。持っていなければこの場での潔白は証明される。軍務卿、おとなしく所持品検査を受けるがよい」
「王子は儂よりも、この様な得体の知れぬ小僧を信じるというのですか!」
得体が知れないという気持ちも分からないでは無いが、軍務卿が共和国と繋がっているのも確かなのだ。時間も押して来ているのでさっさと終わらせよう。
「既に証拠の隠蔽はできないのですから、諦めて捕らわれて下さい。貴方に関わっている時間も勿体無いですからね」
「小僧! 貴様さえ居なければ! 望み通りに殺してやろう! 皆、この小僧を殺せっ!!」
軍務卿は僕の挑発に誘導され、そう叫ぶと懐から拳銃を取り出して此方に向ける。更に軍務卿の仲間から三人も銃を取り出し僕に狙いをつけてきた。
【【【【パン、パン、パン、パン、パン、パン】】】】
軍務卿の仲間が一斉に僕に向かって拳銃を撃ってくる。そんな中、軍務卿本人はどさくさに紛れてライルさんとシャリエさんに向かって撃っていたので、その場を動かずに掴める弾丸は掴み取っておいた。
残りは風太や林太が防いでくれるし、此処に来る前に予め全員に結界を張っているので、例え当たってもかすり傷以上の怪我はしない。
そして、軍務卿の仲間が撃った弾も僕には効果が無いので、そのまま僕の身体に当たるが気にせず当たるがままに受け続ける。
「気が済みましたか?」
僕は右手を開いて掴み取った弾を床に落とすと服を払い、服にへばり付いた弾も床に落とす。
「ば、馬鹿な! 何故、身体に当たった弾すら効かぬのだ!」
「それは銃火器という武器が元から弱者の為の武器だからです。筋力も低く、爪や牙も退化した人族は弱く、そのままでは野生動物にすら勝てません。そこで武具を使う様になった処までは良かったのですが、銃火器は本人の筋力や魔力に関わらず、ある程度の攻撃力を出せる反面、本人の能力を介していないので大した経験には成らないのです。つまり、銃火器で敵を倒しても得られる経験は微々たる物になってしまうのでレベルも上がらない。しかし、通常の武器で戦っていればレベルも上がり、それに従って耐久力も上がるので、今度は銃火器の攻撃力に耐えられる肉体強度を得る事も出来るという訳です」
「つまり、レベルが上がれば人族でも耐久力が銃火器の攻撃力を上回るという事ですか」
「結局は攻撃力と防御力の対比でしかないのだな」
僕の説明にライルさんとシャリエさんは一応の納得を得たのか、頷いている。
「序でに言っておくと、僕の服は森林蜘蛛の糸が織り込まれているので、魔力の籠っていない武器では傷つける事も難しい程に丈夫ですから、ただの拳銃弾程度では貫けません」
逆にいうと、坂本さんの様にある程度以上の強者が魔力を込めた武器を使えば切ったりもできるのだが、この国や共和国にはそこまでの強者処か、その半分の位階の者すら居ない。
「さて、抵抗したので実験がてら少し痛い思いをして貰いましょうか」
「待ってくれ、俺達は軍務卿に命令されて仕方なく従っただけだ」
軍務卿の仲間の一人がそう言って銃を手放し、両手を突き出して嘆願してくる。
「待ちませんよ。僕に銃撃が効いていたら普通に死んでいたかもしれないのです。殺すのは良くて殺されるのは嫌だなんて、そんな我儘は通りません。反撃されたくないのなら、初めから攻撃しない事です」
僕はあまり好きではないが、俗に言う、撃って良いのは~という奴だ。
そして、僕の宣言を聞いた軍務卿をはじめ、銃を撃った四人が「ひぃっ!」っと怯えた顔をして後ずさる。
怪我をさせる事が前提なので、廊下に医療用の絡繰り二体を転移させてから始める。
僕は緋桜を振るい、四人の左袖を肩先で切り裂くと、四人の左袖がするりと滑り落ちた。
「全員左腕を真横に伸ばして下さい。しっかり伸ばさないと身体に当たって、もっと痛い思いをする事になりますよ」
そう注意して、無限倉庫から今朝回収した銃の中から、軍務卿が持っていたのと同じ型の拳銃を取り出して構えると、四人は注射を我慢する子供の様に顔を背けて恐る恐る腕を伸ばした。
【パン、パン、パン】
「ぐっ! ぎっ! うぎゃっ!」
軍務卿の仲間の三人の腕に弾丸が当たり、腕に穴を穿つ。
「戦場で見た物よりも、随分と威力が低い様だな」
「共和国兵の持っていた物より小さいのが原因ではないでしょうか?」
ライルさんとシャリエさんが冷静に威力を分析している。
「では三人は武器を置いて部屋の隅に移動して下さい。彼らの腕の治療を」
「畏まりました」
音も無く部屋の後ろに立っていた治療用絡繰りの一体に命令する。
何人かが「何時の間に」と驚いているが気にしない。
一人撃たれなかった軍務卿が少し戸惑っているが、彼へのお仕置きはこれからだ。
「軍務卿、貴方には貴方が撃った弾を僕が直接お返しします。しっかり腕を伸ばさないと、死にますよ」
「ひいぃぃっ!」
拳銃を無限倉庫に片付けた僕は、先程左手で掴み取った弾丸を右手に渡し、身体を仰け反る様に左腕を伸ばす軍務卿の腕に向けて弾いた。
【ドン!】といった感じの空気を突き破る音と共に弾かれた弾丸は、軍務卿の二の腕を【パン】と吹き飛ばした後【ドゴン】といった音と共に壁に減り込んで止まった。
「うぎゃあぁぁぁーーっ」
軍務卿は吹き飛んだ左腕を押さえながら、床をのた打ち回っている。
「これは、とんでもない威力だな」
「ええ、銃器を使うより指で弾いた方が威力が高いというのは、直接見ていても信じられん」
「これが、レベルの力なのでしょうか?」
結構な惨状になっているのだが、現在進行形で戦争中のライルさん達はこの程度では怯まず、冷静に僕の指弾の威力を検討していた。
僕はもう一体の医療用絡繰りに軍務卿の腕の治療を命じ、グラハイムさんの疑問に答える。
「レベルもありますが、能力で威力が上がっていますから」
「成程、レベルと能力を合わせたからこその威力なのですね」
グラハイムさんに説明していると、我関せずだった他の者達も意見を言い合っていた。
「共和国の武器より強い攻撃が出来るのなら、軍務卿の言う共和国兵を倒して貰うというのも有りなのでは?」
「しかし、それこそ対価が払えませんぞ」
「今は共和国よりも食糧の方が問題だ」
「移民したら、我らの身分や仕事はどうなるのだろう」
共和国を倒すのは論外だが、食糧や仕事は真面目に考えてくれていると感じられた。
なので、疑問には答えてあげる。
「食糧だけでなく、住居等も皆が有る程度自立できるまでは支援します。身分の方は身分制度自体がこの国とは異なるので、一応剥奪という扱いになりますし、当然同じ身分が無いので同じ立場には戻れません。しかし、財産までは奪わないのでそれなりの生活は出来るでしょうし、能力があれば能力なりの地位も約束致します。何度も言っていますが強要する心算は有りませんから、納得できた者だけ移民して頂ければと思っています」
「こ、これは丁寧なご説明、感謝致します」
僕が突然声を掛けた為、少し驚いている者も居たが、しっかりと答えてくれた。
半分程が少し挙動不審だが、先程軍務卿の腕を吹き飛ばしたばかりなのだから、多少怯えるのも致し方ない。軍務卿の様に若さで舐めた態度でこられるよりは余程真面だ。
「今後の人生を左右する事なので、時間は余り有りませんが、良く考えて結論を出して下さい」
僕はそう言ってその場を離れ、一纏めにされた治療を終えた軍務卿とその仲間達の元に向かう。
「治療は終わりましたね」
「千切れた腕が元に戻るなど信じられぬ。これが本物の魔術での治療なのか?」
「貴方様を撃った私共も治療して頂き、感謝致します」
軍務卿は綺麗に元通りになった腕を動かして試しながら首を傾げているし、その仲間が感謝の言葉を発するが、勿論善意から治した訳でも無い。
「これで僕達の戦力や魔術の一端が見れたでしょう? そして、死ななければ大抵の怪我も治せるという事がお分かりになったと思います」
僕が笑い掛けると、軍務卿達も意味を察した様で全員が声を揃えて「ひぃぃっ」と怯えた声を上げて小さくなる。
「グラハイムさん、彼らを閉じ込めて逃げれない様にできますか?」
「はい、鍵付きの部屋に見張り付きで監禁しておきましょう」
「では、後で色々話して貰いますから、それまでに話す事を纏めておいて下さい。勿論、此方の求める情報を提供して頂けなければ、此方もそれなりの対応をしますので、良く考えて答えて下さいね」
グラハイムさんに彼らの隔離をお願いし、彼らにも今後の扱いを説明する。
長くなると面倒なので、威圧を強度一で一瞬放って念を押しておいたら、軍務卿達は顔を青くして何度も頷いて答えてくれた。
そんな軍務卿達をマクシミリアンさんが先導して部屋から退去して行く。
一応、しないとは思うけど口封じとか自害を阻止する為に医療用絡繰り達も同行させた。
何かあっても治療できるし、医療用といっても元が通常型なので、この辺りの人には対抗できない程に強いからだ。
思ったより時間が掛かったが、これでようやく国中に移民計画を発表できる。
つまり、これからが本番なのだ。
気合を入れて頑張ろう。
読んで下さった方々、有難う御座います。
次も2~3週間後に更新出来る様、頑張りますので、読んで頂けると嬉しいです。
また、気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになります。
以前からタイトルの最後が物語に合わないと思っていたので、今回から変更させて頂きました。
改めて、今後とも宜しくお願致します。




