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和富王国

 時間は少し戻って、元世界に残った分体一号は真面目に勉強していた。


 本体が複製世界1に行っている間に僕は前世の記憶との齟齬を解消する為に、この世界の事を復習することにした。


 まず、この星の大きさは一般には知られていない。


 僕も前世知識に覚醒して思い出した位なのだが、そもそも自分の立っている地面が球形の星だと認識しているのは前世知識を継承した者とその知識を受け継いだ者位しかいないのだろう。


 秘密にしているという訳もでもない様だが、知識レベル的にも理解が及ばない者が大半なのだ。


 よくいう、地面が球体なら反対側の人が落ちないのはおかしい。というやつである。


 更にこの星は地球よりかなり大きいらしいのも判り辛くしている原因なのだろう。


「天照、この星ってどの位の大きさがあるの?」


『はい、ご主人様、赤道周囲で約8380万キロ程です』


「八千万キロ!?」


『はい、そして約半分が地表で残りが海や湖等になります』


「赤道で地球の二千倍以上……どんだけ広いんだよこの星は」


『大きいという事はその分自転にも時間が掛かりますので、ご主人様も知っての通り一日は32時間あります。一秒の長さは地球とほぼ同じ考えて頂いて問題有りませんが、一分と一時間は64区切りですので一時間も数分長くなります。代わりという訳ではありませんが一年は256日と短いです。一日が長いのでその分、仕事や睡眠時間も長く取っている国が多いようです』


「仕事時間が長いのか、それはそれで少し嫌な感じだな」


『一日での割合は余り変わりませんし、この星の人にはそれが普通なのですよ』


 確かに、今まで気にもしていなかったし、この世界で産まれて育っている命なのだから、この世界の時間に対応した身体に生まれているのだろう。


『多少一日が長くても、それ以上に大きさが有りますから自転速度もそれなりに早くなる為、赤道周辺と極地では重力に差が有ります。この辺りは北緯50度位なので、平均より少し高めの場所になりますが、北方向に大きく移動する場合は更に重力が増えるので気を付けて下さい』


『逆に南に移動すると重力が軽くなるので、逆の注意が必要なのですよ』


 地球でも赤道直下は僅かに重力が低くなるという話は聞いた事が有るけど、かなり高度な計測機器を使わないと分からなかった気がする。


 当然、人には感じられない差だった筈だ。


「僕はこの街の周囲位しか出た事が無いけど、そんなに違うの?」


『赤道直下の重力を1とした場合、極地の重力は3.2になり、この辺りの重力は2.4程になります』


『赤道直下を地球とした場合、この辺りは木星と同じ位なのですよ』


 そんなに違うと僕が赤道周辺の国に行ったら真面に歩けないんじゃないかな? それに。


「つまり赤道直下の国からこの国に移動した場合、地球から木星に移動するのと同じ重力を感じるって事だけど、耐えられるの?」


『まず通常の手段では移動が出来ませんが、仮に移動出来た場合は移動中に徐々に身体が慣れていきますし、途中の戦闘で位階も上がりますので問題は無いかと思われます』


『その距離の移動や、途中の魔物との戦闘で生き残る方が難しいのですよ』


 何とも危険な世界だけど、赤道からここまでの距離は一千万キロ位ある筈だから、実際の移動は難しいだろうし、低重力の地域から来た人がこの辺りの人の脅威になる可能性も低いだろうから、深く考える必要はないのかもしれない。


 折角の新しい世界だから別の国にも行ってみたかったんだけどね。


 そしてこの国、和富わふう王国は人口約三千万で、このきょうの街には約二百万人が住んでいる。 何故和風でなく和富にしたり、江戸や京等でなく、ときょうにしていたり、天皇制等じゃなく王国にしたのかも疑問だけど、この国や町の名前からして、おそらくこの国を作った人は前世知識保持者なのだろう。しかし千年以上も前の事だから考えるだけ無駄な話だ。


 興味が湧いたら知っていそうな人にでも聞けば良い。


 そして、この国の形は北東から南西に掛けてが長めの楕円形に、北から西南西が欠けている感じだろうか。


 その欠けた部分には大きめの島が2つと、いくつもの小さな島が有る。


 イメージとしては日本の本州を肉厚にしてもっと反らせ、反った内側に形は全然違うが四国と九州が入っている様な感じだ。


 そして、本島の北東の端から南西の端の距離は1800キロ程あるみたいだから、日本より大きいのだろう。


 ちなみに郷の位置は本島の中心には高い山が有るので、中心より100キロほど南西になる。


 今は山を迂回している綺麗な道が有る為、北東に向かうのも昔の様に山を越える苦労はしなくてよくなっている。


 山を越えていた頃には僕まだは生まれていないけどね。

 

 しかし、そんな地理よりも気になる事が有る。

 

 女神様が言っていた話と少し違っている箇所があるのだ。

 

 この世界は地球に比べて最低でも200年遅れているって話だったのだが、何故かこの国では自動車が走っているしロボットみたいな絡繰り人形なんて物まである。

 

 自動車は正確には自走車というのだが、動力は呪力なので排気ガス等も出ず、環境に優しいのは地球より進んでる感が有るし、ロボットなんて更に未来的だ。

 

「天照、転生前に女神様からこの世界は地球より200年以上文明が遅れているって聞いていたんだけど、なんで自走車なんて物が走っているの? それに絡繰り人形に至ってはまるで人型ロボットみたいだし」


『はい、ご主人様、単純に自走車が発表されたのが8年前で、ご主人様が転生のお話をお聞きになっていた頃にはまだ発明されていなかったのです』


 なるほど、僕が転生した時にはまだ無かったのなら説明出来る筈も無いな。


 そして、こんな短時間で車を発明するいう事は、やっぱりこの発明者も前世知識保持者なのだろう。


 しかし、そうすると少し疑問が出てくる。


 現在の前世知識保持者の人数と、過去の前世知識保持者が自走車を発明した人以外はそれ程の成果を出していない事だ。

 

「転生自体は全ての人がしているって話だったけど、前世の知識を持った人って結構いるのかな?」


『そうですね、現在は世界全体では400万人程で、この街には20人程居ます』


 んーと、20万人に一人位なのかな?


「あれ? 全体の割合に対してこの街に居る前世知識保持者の数が多くない?」


『初代国王が前世知識保持者らしいので、国として前世知識保持者の存在を知っているのでしょう。国によっては発見した場合、強制連行される可能性も有りますが、和富王国では問題を起こしたり、本人が希望しない限り関与はしていない様です』


「つまり、僕もバレても問題無いのかな?」


『問題は無いと思いますが、本格的に活動する前はなるべく知られない方が良いでしょう。仮に何らかの強制や強要があっても、ご主人には勝てないので、どうとでもなるかと思います』


『強制するなら潰してしまえば良いのですよ。国を滅ぼすのも功績になるのですよ』


「国を滅ぼすとか、そんな怖い事はしないよ! やるのもやった後も面倒臭いし、軍には家族だって居るんだからね!」


『面倒だったら他国に引っ越せば良いのですよ』


「いや、折角米食和風の国を選んで転生したんだから、引っ越しちゃったら意味が無いよ。理想はこの国でのんびり過ごすことだから」


『のんびりしていても功績は積めませんよ』


 そうだった、功績か、それこそ面倒臭い事だが、何もしない訳にもいかないから、何か考えないと。


『そう結論を急がなくても、強制の可能性はかなり低いと思われます。現に自走車を発明した方は国の開発部門に雇われてはいますが、普通に生活していて奥さんや子供もいるようです。この街に前世知識保持者が多いのは、ご主人様と同じ様に元日本人が転生先に和風の国を選択した可能性が高いかと思います』


 なるほど、そっちの方が納得がいく。


 やっぱり元日本人なら米・味噌・醤油は欠かせないよね。


 そんな感じで脱線しつつ現状把握をしていたのだが、突然バン!っと部屋の障子を開いて乱入者が現れた。


「四狼、居るか!今日も修行の相手をせい!」


「姫様! 今日は修行の予定は入れていなかった筈ですが」


 突然乱入してきたのはこの国の第一王女の桜花様だ。


 4年程前に突然刀の修行がしたいと言い出した事から、歳の近い僕に指導役が押し付けられたのだ。


「何となく今日は面白い事が有りそうな予感がしたのじゃよ」


 鋭いというべきか、今日は加減が分からないから修行の相手は出来ないので、運が悪いというべきか、どちらにしても僕が不運だってのは確実な気がする。


 このまま修行の相手をさせられても困るので話をそらしつつ、先程の疑問を聞いてみよう。


「姫様、今日は座学の時間にしているので、修業のお相手は出来ません」


「座学など詰まらぬのじゃ!」


「姫様も王を目指すのでしたら座学も大切ですよ」


「それはしっかり学んでおる。無学の王など誰も幸せになれぬからな」


「でしたら、今日は僕にこの国の事を教えて頂けませんか?」


「ほほう、今日はわらわが四狼に指導するという事か? それはそれで面白そうなのじゃ」


「はい、姫様、よろしくお願いします」


「うむ、それで、四狼は何が聞きたいのじゃ?」


「自走車についてで御座います。ほんの数年前に突然世に出た素晴らしい魔道具ですが、一体どの様な天才が発明したのかと思いまして」


「詳しくはわらわも知らぬが発明したのは平田幻奉ひらたげんぶという者で、自走車以外にも魔動機械や絡繰り人形等を多数作っておる様じゃ」


 絡繰り人形というのはロボットみたいな奴だが、魔動機械というのは人型以外の絡繰りの事だ。


 この国にはそれなりに値は張るが、ある程度お金のある人には買える値段で呪力で動く絡繰り人形や魔動機械が買える。


 人型とはいっても言葉は話せないし、簡単な命令しか聞けないが、力は有るので荷運び等には重宝するらしく、一刃姉上の家にも数体有るし、時々街中でも歩いているのを見る事もある。


「絡繰り人形も同じ人の発明だったのですね」


 自走車だけでなく、絡繰り人形とか他にも作っているなんて、その人はやっぱり前世知識保持者なのだろう。


「いや、絡繰り人形自体はもっと昔からあったのじゃが、生産が難しくて性能も力が多少強いだけだったのじゃが、性能の向上とある程度の量産化に成功したのが奴じゃ」


 元が有ったとしても短期間でそれだけの発明をしたのだ。


 かなりの天才か、余程良い能力を選択してきたのだろう。


 少し羨ましく感じていたのだが、よく考えれば自分は全部の能力を持っている筈なので、能力的には同じ事も出来る筈なのだ。


 まぁ、他人は他人、僕は僕の速度で、進んで行くのが大事だよね。


 焦って失敗した方が面倒だ。


 そんな感じで慎重に行動しようと思っていた矢先に、本体の方がやらかした。


 突然、僕と姫様の目の前に現れたのだ。


 さて、どうやって誤魔化そう。


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