サウベル
お待たせいたしました。
ブックマークをしてくださった方々、ありがとうございます。
今回、少し短めですが、僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。
059 サウベル
昨日は転移能力を誤魔化す為に襖を使っていたのだが、それを知った分体一号が本当に転移門の能力を付与した襖を用意してくれていた。
僕は早速その襖を使ってサウベルの町の、入り口からは死角になる外壁に空間を繋げて移動すると、続いて通常型絡繰り、男性陣、女性陣、最後に医療用と全員が転移を終えたのを確認してから襖を片付け、町の入り口を目指して歩き出す。
距離も短いし、転移前から地図で周辺の安全は確認していたのだが、皆を安心させる為に僕が先頭を歩き、最後尾に通常型絡繰りを配置しての移動だ。
町を囲う外壁は二メートル半程しかないブロック塀の様な物で、槍猪の突進でも簡単に崩れそうだが、この国には凶暴な大型動物すら少ないので、これで十分だったのだろう。
そんな壁沿いに二分程歩いて町の入り口が見えて来た処で【カーン、カーン、カーン】と鐘の音が鳴り響く。
「これは警戒の鐘です。恐らく町の見張りがわたくし達に気付いたのでしょう」
カトリーヌさんの説明を聞きながら更に進み、入り口前に辿り着くと、入り口の門がしっかりと閉じられていた。
「普段、昼間は門を開けていたのですが、今回の襲撃が有って警戒しているのでしょう」
更に説明を重ねてくれるのを聞いていると、門横の見張り台から声が掛けられる。
「お前達は何者だ!? この町に何の用だ!?」
「この町の住民を保護したので連れてきました! 門を開けて下さい!」
「オーギュストさん、あたしよーっ! アニエスですーっ!」
僕が声を上げると、追従してアニエスさんも声を上げ「あの人、あたしの常連さんなの」と説明してくれた後「生きてて良かった」と呟いていた。
「え、アニエスッ! おいっ! 門を開けろーっ! 攫われた連中が帰って来たぞーっ!」
オーギュストさんの声の後、暫くするとゆっくり門が開き始めた。
こんなに簡単に門を開けるのは防衛上問題なのだが、僕としては助かるので今は文句を言わず、素直に中に入る事にする。
「オーギュストさん、足、大丈夫なの?」
アニエスさんが心配そうに話し掛けるが、オーギュストさんの左脚には血の滲む包帯が巻かれていて、杖を突きながなら辛うじて立っているといった感じだ。
「痛みはあるが生きてるんだ、問題無い」
凄く大雑把な答えに不安になった僕が彼の状態を鑑定してみると案の定、多少の化膿程度なら想定の範囲内だったのだが、脚に弾が残ったままなのは予想の範囲外だ。
共和国の弾丸は威力を高める為に鉛を鉄で包んだ一手間掛けた物で、当たった衝撃で潰れて中の鉛が露出する。つまり弾丸を摘出しないと、鉛の毒素が体内に残るのだ。
殺傷武器としては正しいのだろうが、使われる側としては堪ったものではない。
「他にも撃たれた人は居ますか?」
「ああ、歩けない怪我人は病院で穴を塞いで療養中だが、それがどうかしたのか?」
「大問題です。このままだと死人が出る可能性が有ります」
僕はこの攻撃には毒が仕込まれていると説明し、医療用の絡繰り達に指示を出してオーギュストさんが文句を言う間も与えずに異界から取り出した担架に乗せさせ、他にも怪我人が居るという病院に搬送させて怪我人の治療を命じる。
「オーギュストさん、やっぱり大丈夫じゃなかったの?」
「ええ、最悪ほっとくと死にますから治療を指示しました。治療自体は簡単なので、もう心配は有りません」
「大変な怪我だったのね、助けてくれてありがとう。あたしも様子を見に行くわ」
心配そうに尋ねるアニエスさんに答えると、アニエスさんは礼を言って頭を下げ、彼女に付けた絡繰り二体を引き連れてオーギュストさんを追っていく。
後で聞いたのだが、オーギュストさんはアニエスさん達が攫われた時に抵抗して撃たれた兵士の一人だったそうだ。そういう良い兵士には長生きして貰いたいものだ。
そして、適切な治療がされていなかった理由を残っていた町の兵士に確認すると、彼らは銃の仕組みを知らず、大きな音と共に身体に穴の開く魔術だと思っていたそうだ。
そこで、銃で負った怪我を放置すると危険だと説明して、他の怪我人も病院に集める様にお願いすると、カトリーヌさんも名乗って援護してくれた。
町長の名を出された兵士達は僕達の話を信じてくれて、直ぐに仲間に指示を出してくれる。
そんなやり取りの間にも、町に連れ帰った者達は予定通りに移民の準備や、家族に帰還の報告や説得の為に各自家に帰って行く。
そして、その場に色の濃い茶髪の男が息を切らせて現れ、此方に駆け寄って来た。
「カトリーヌ!」
「お父様!」
どうやらカトリーヌさんの父親が到着した様だ。
「カトリーヌが帰って来たと報告を受けて急いで駆け付けたのだが、本当に、良く無事に帰って来てくれた。共和国の奴隷狩りに連れ去られたと聞いて、儂は、儂は……」
「お父様。不幸中の幸いと申しましょうか、此方の方々がわたくし達を助けてくれたのです」
そう言ってカトリーヌさんは僕を父親に紹介してくれる。
「そうですか、儂はボドワン・ベランジェ、この町の代官、町長をしております。貴方がカトリーヌ達を助けてくれたそうで、本当にありがとう、ありがとう」
男は僕の手を握ると、手を上下に動かしながら何度もお礼を言ってくれる。
そして、一通りお礼の言葉が終わった処で、カトリーヌさんが予定通りに話を切り出す。
「それで、彼がお父様にお願いがあるというので、お話を聞いてあげて欲しいのです」
「お願い? まさかカトリーヌを嫁に欲しいというのか? いかん! カトリーヌを嫁にやるにはまだ早い!」
「違いますっ!」
カトリーヌさんは恥ずかしそうに否定しているが、シャリエさんもそうだったけど、この国では女性を助けたら嫁に差し出す習慣でもあるのだろうか?
僕がそんな事を考えている間にもカトリーヌさんは父親に、先ずは家に帰って落ち着いて話そうと勧めていた。
カトリーヌさんは五狼と同じ十二歳と若いのにも関わらず、昨晩僕達に提案してきた時にも思ったが、とても優秀な様で将来が楽しみな娘さんだ。
そうしてカトリーヌさんの先導の元、僕はノエルさんを伴ってベランジェ家の屋敷に招待され、移民計画を説明した。
ちなみに他の女性騎士はアニエスさんとマルティーヌさんに付いて貰っていて、後で食事の配給を手伝って貰う為にコンスタンさんも含め、其々に通常型絡繰りを二体ずつ同行させている。
「とても魅力的な話ですが、代官でしかない儂では領主様に進言する事しかできないのです」
ベランジェさんは残念そうに答える。
「問題無い。この計画には第三王子が協力しているから領主の意見は問題にならない。移民を希望するかどうかは個人の裁量に任される」
「王子が生きておられるのですか!?」
ノエルさんの説明にベランジェさんが驚いて問い掛ける。
そこで、ノエルさんを含む敗走中の王子達がキンスを足止めしてくれたおかげで、カトリーヌさんを助ける事が出来たのだと説明する。
「貴女様もカトリーヌの恩人だったのですね、ありがとうございます。しかし、その様な大事になっているとは知りませんでした。それに、やはり出兵した兵達も大半が戦死したのですね」
ベランジェさんの確認にノエルさんは頷きで答えた。
この町から兵が出兵した後にキンス達が町を襲った事で、共和国の武器の威力を知ったベランジェさんは、この国の兵ではあの武器には勝てない事を知って、国からの要請とはいえ出兵した事を悔やんでいたそうだ。
「兵士達がその命を懸けて稼いだ時間で救助が間に合った者もいます。彼らは無駄死にでは無かったのだから、ベランジェさんが気に病む必要は無いと思います」
僕が兵士達はその命を懸けて職務を全うした英雄なのだと説明すると、ベランジェさんも「そうですな」と一応の納得を示してくれた。
暗い話ばかりしていても仕方がないので、町の人達に移民先の食事の試食を兼ねた、食事の配布をしたいと説明する。
「確かに食糧が不足しているので、そうして頂けると助かりますが、減ったとはいえこの町には今も三万を超える住民が居るのですが、宜しいのですか?」
「ええ、その程度の人数なら問題ありません。美味しい食事で移民を釣る計画ですので、お気になさらないで下さい」
「お気遣いありがとうございます。食事が頂けるだけで希望する者は多いと思います。それ程にこの町には食料の残りが少ないのですよ」
やはりこの町でも食糧不足は深刻だったそうで、既に販売はしておらず、配給制に変えていたそうだ。そうしないと裕福な家が食料を独占してしまうのだから、致し方ないだろう。
早速、確認の為にベランジェさんとその家族にも先に試食して貰う事になったので、此処に居ない家族をベランジェ家のメイドさんに呼んで来て貰うと、三刃と同じ年頃の男の子と、更に幼い女の子がやって来た。
「姉さん、無事で良かった」
「姉様、お帰りなさい」
「ええ、ただいま。此方の皆さんのおかげで無事に帰って来る事ができました。貴方達も無事で良かった」
カトリーヌさんはそう言って弟妹を抱きしめ、そうしてお互いの無事を確かめあった後で、二人を僕達に紹介してくれた。
「弟のナルシスと妹のクリスティーヌです。姉は一年半程前に隣町に嫁ぎ、母は半年前に亡くなりましたから、この家に住む私の家族はこの三人になります」
「姉さんを助けてくれて、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。今は訳あって名乗れない事をお許しください」
カトリーヌさん達には先に伝えていたのだが、僕が名乗らないのはこの町に共和国の間者が残っていた場合、僕の名前が共和国に伝わってしまうと、移民が一段落ついた後に共和国を調べる時に不都合だと思ったからだ。
偽装すれば誤魔化せるとはいえ、この世界には鑑定能力というものがあるので、一応の用心の為だ。
「事情が有るのなら致し方ありません。恩人を困らせる心算もないのでどうかお気になさらずに。しかし、恩人の名前を知らないのも礼を失するというもの、問題が無くなったあかつきには教えて頂けると助かります」
僕は色々察してくれているベランジェさんに「その時は必ず」と答え、皆で食堂に移動して絡繰り達に雑炊を異界から出して配らせる。
今回も雑炊にしたのは、やはり初めは消化に良い物が良いと思ったのと、町で配る時も椀一つで済むので楽だと思ったからだ。
更にこの家の使用人達にも鍋ごと渡して、其々に食べて貰う事にした。
「これは、味が濃くて美味しいですな」
「美味しい」
「……」
ベランジェさんによると、この町は調味料も少なく、味が薄めだったそうで、ただの雑炊でも十分濃く感じるらしい。
ちなみに今回の雑炊は昨晩カトリーヌさん達に出した複製世界で回収した和富王国の物とは違い、無限倉庫に初めから入っていた初期配布の物だったりする。
流石に複製した物は全国民に配れる程の量が無かったのだ。
皆が雑炊を食べている間、ただ眺めているのも何なので僕とカトリーヌさんは焼菓子(クッキー)を食べながらお茶をする。
「これもとても甘くて美味しいですね」
「気に入って貰えたなら良かったです」
そんな僕達をカトリーヌさんの弟妹が興味深そうに見ていたので「此方も後でさしあげますから、今は食事を優先して下さい」と答えると、恥ずかしそうに食事を再開した。
やがて食事を終えたベランジェさん達と相談し、普段配給をしている広場で食事の配布をする事が決まった。
当然、僕はわざわざ名前を隠す位なので表には出ず、食事の配布をベランジェさん達に任せ、連れてきている絡繰り達もカトリーヌさんに預ける。
「彼らの異界に食料を入れてありますので、後はお任せします」
「はい、食事の提供、ありがとうございます」
こうしてサウベルで今できる事を一通り終わらせた僕は、転移の襖を使ってライルさん達の居る城に繋ぐと、それを見たカトリーヌさん以外のベランジェさん親子が驚いていたが、何時もの事と気にせずに転移する。
さあ、次はよいよ移民計画の発表だ。
読んで下さった方々、有難う御座います。
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なお、次回からタイトルが「最後の転生 後が無いので限界まで貯めた能力交換点全振りの最大能力で頑張ります」に変更する予定ですので、ご了承ください。
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