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忠誠

お待たせいたしました。

ブックマークや評価をしてくださった方々、ありがとうございます。

厳密には違いますが、文字的に今日は四狼の誕生日なので頑張って仕上げました。

今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 058 忠誠


 ロザリーさんとはあまり話していないから、美味しい物好きな人という感じしかしていなかったが、こうして娘の幸せを素直に喜べる面もあったのだな、と感心しながら無限倉庫から取り出した手拭(てぬぐい)に軽い治癒術を付与して渡してあげる。

 ほんの数分しか効果は無いが、折角化粧も直したのに目元が僅かでも腫れたままというのもどうかと思ったからだ。


「シロウさん、お気遣いありがとうございます」

「どういたしまして」


 手拭を受け取ったロザリーさんが、礼を言いながら手拭で目元を抑える。


「皆が揃うまで余り時間はありませんが、席に着いて話されたら如何ですか?」

「そうさせて頂きます」


 ライルさんが了承してくれたので、上座の僕から見て、左側にライルさんとグラハイムさん、右側に侯爵家の皆さんに座って貰う。正面の少し離れた席はアニエスさん達だ。

 ライルさんと話したそうなフランシーヌさんには、皆が揃うまではとライルさんと席の近い僕の席を使う事を勧めると、二人は嬉しそうに話し始めた。


 無限倉庫から新たに二人掛けの卓と椅子を二組、下座の更に後ろに出し、侯爵の従者達にも勧めると、従者達が侯爵の顔を伺い、侯爵が頷くと従者達が席に着いた。

 給仕等は春美達に任せるし、ここには敵対する者も居ないのだから、一緒に食事を楽しめば良い。


「あの、私達も座ってしまって良かったのでしょうか?」

「侯爵様も、ここの主もそう言っておられるのだから、構わないでしょう。それに、異国の料理には私も興味が有ります」

「た、確かに、それは気になりますね」


 メイドと執事のひそひそ話が聞こえてくるが、興味を持って貰えてるなら、それはそれで良い傾向だと思う。


「春美、皆さんに飲み物を、林太はお付きの方に、此方は二人に任せます」

(かしこ)まりました」


 僕は絡繰り人形を二体残して、カトリーヌさん達を出迎える為に玄関に向かうと、丁度皆が到着した処の様で、玄関の敷物に驚いていた。

 しかし、何故か呼んでいないフィルマンさんとノエルさんも付いて来ている。


「フィルマンさん達はどうして此方に?」

「私は女性達の護衛、アニエス達の護衛をするのは当然」

「すみません、ノエルが何かやらかさないかと心配だったので、付いてきました」


 僕がフィルマンさんに尋ねると、ノエルさんが先に答え、フィルマンさんが補足する。


「あの、王子様意外にも貴族様がいらっしゃるんだろ? それが色々心配だったし、ノエルが付いて来ても良いって言うから、付いて来て貰ったんだけど、駄目だったかな?」


 平民のアニエスさんが王子様と食事を共になんて、通常は考えられない事態だろうし、心配する気持ちも分るので、少しでも安心できるならと許可する。

 それに、侯爵側が四人居るのに対し、ライルさん側の席は二人しか居ない。丁度二つ席が余っていたので同席しても構わないだろうと判断したのだ。


「王族の料理、楽しみ」


 ノエルさんの本音が出た処で、フィルマンさんの手套(しゅとう)がノエルさんの頭に炸裂する。


「痛っ!」

「みっともない真似はするなと、普段から言っているだろう!」

「…ごめんなさい……」


 ノエルさんが頭を押さえて謝罪してくるが、食事は宿の方と同じ物だと説明すると、ノエルさんは少し残念そうな顔で固まってしまった。

 しかし、ノエルさんの言い分も分らなくはないので、食後にまだ食べられる様なら特別に軽いおやつを用意すると言ったら、「シロウ様最高、暫く付いてく」と言い出した処で二度目の手套を食らっていた。

 そんな二人に呆れつつ、最後尾で縮こまる様にしていたコンスタンさんに目を向けると。


「俺もこっちに来て良かったんですか?」


 と困惑顔で訪ねて来たので、何か質問されれば答えるだけで、決まった事を宿の皆に伝えるのが主な役目だと説明すると、カトリーヌさんも含めた三人が安堵の表情を浮かべた。

 此方の女性陣は僕が用意したこの国の標準的な服を着ているが、化粧品までは渡していなかったので、当然カトリーヌさん達は化粧等をしていない。

 やはり貴族と食事を共にするには少しは化粧も必要だろう。侯爵家の女性と合わせる為にも僕の予定通り、彼女達にも軽く身嗜みを整えて貰う。


「夏美、秋美、彼女達の身嗜みを軽くで良い、整えてやってくれ」

「畏まりました」

「あの、シロウ様、この方達は?」


 カトリーヌさんは昨日は見かけなかった夏美達に疑問を持った様だ。


「僕の部下の様な者と考えて下さって構いません。皆さんの準備を手伝わせる為に用意しました」

「シロウ様の部下…いつの間に?」


 詳しく説明しても良いのだが、今はライルさん達を待たせているので、気にせず話を進めよう。


「アニエスさん達は彼女に付いて行って下さい」

「女性の皆様方は此方に」


 そう言って夏美が先導し、秋美が最後尾に付いて女性陣を更衣室に案内して行く。

 玄関には誰かが来た時の為に、火太と冬美を残して他は食堂に向かった。


 食堂に着くと、ライルさん達が何やら真剣な顔で話し合っていた。


「難しい顔をしていますが、何か問題でもありましたか?」

「おお、シロウ殿、たった今フラン達に聞いたのだが、フランの余命が二日を切っていたというのは、本当なのですか?」

「ええ、正確にはフランシーヌさんの余命は一日を切っていましたから、昨晩気付けなかったら明日になる前にはフランシーヌさんの命は尽きていたでしょう。本当に間に合って良かったです」


 実際の余命は更に短かったのだと知ると、皆は愕然とした顔をする。


「それでも、シロウ殿になら、死者の蘇生も可能だったのではないでしょうか?」

「流石に死者蘇生はできないと思いますよ」

「そうですか、シロウ殿でも、やはり死者の蘇生は無理なのですね」


 ライルさんも無理は承知で言っていた様だし、既に亡くなっている家族の事も考えていたのだろうが、流石に少し僕を買い被り過ぎだと思う。

 そもそも死者蘇生の方法なんて有るのかなと考えていると、天照達が教えてくれる。


『死者蘇生にはいくつもの条件があり、条件を満たしていないと実行できません。更に失敗すれば実行者も死ぬ可能性が有ります』

『仮に成功しても、実行者の支払う代償が大き過ぎるので、お勧めできないのですよ』


 一応死者蘇生の可能性は有るみたいだが、実行した人が死んだり、大きな代償を必要とするのなら、仮に間に合わずにフランシーヌさんが死んでいたとしても、それまでに話した事も無い人に僕が死者蘇生を試す事は無かっただろう。


 そんな事を考えていると、ライルさんが真面目な顔をして席を立ち、僕の前まで来ると跪いて宣言する。


「この度は、辛うじて生き残った騎士達のみならず、我が婚約者のフランまでも救って頂いた事に深く感謝すると共に、この恩をお返しする為に生涯を掛けてお仕えしたいと存じます。どうか我が忠誠をお受け取り下さい」


 そう言ってライルさんが(こうべ)を垂れた処でフランシーヌさんも横に並んで同じ様に跪き、更に後ろにグラハイムさんとフィルマンさんも続いて跪く。

 ライルさんの重い発言に、僕はどう返すのが正しいのか分らなかったので、天照達に相談する。


『元より彼らを部下にする予定でしたので、何の問題もありません。新しい国の為に尽力する様、命令なされば良いだけです』

『堅苦しいのがお嫌でしたら、公私の区別を付ける様に命令するのですよ』


 僕は天照達の助言に従い、少し偉そうになるのを意識しながら答える。


「君達の忠誠、ありがたく受け取ろう。今後は僕達の国(・・・・)の為に尽力してくれ。但し、公私の区別は付けて貰えると嬉しい」

「「「ははーーっ」」」


 こうしてライルさん達は、正式に僕の部下になった。


「はっはっはっ、参りましたな、まさか相談しようと思っておった事が、相談直前に目の前で決定してしまうとは。こうなっては致し方ありませんな、儂もシロウ様の配下の末席に加えて頂きたく存じます」


 そう言って侯爵も僕から見てライルさんの反対側で跪くと、後ろにロザリーさんとジスレーヌさんも続く。


「勿論、歓迎しますよ、侯爵。いえ、シャリエさん」

「はっ、シロウ様の作る僕達の国(・・・・)に、儂らも全力で協力させて頂きます」


 思っていたよりあっさり話が纏まって良かった、と安堵していると廊下からひそひそと声が聞こえてくる。


「これが新しい国の始まり。わたくし達は今、歴史の転換点を目にしているのですね」

「ん? 学の無いあたしには歴史なんて分らないけど、これを伝えたら町の人達の説得に役立つんじゃない?」

「アニエスさん、学が無いだなんてとんでもない。とても良い案だと思いますわ」


 カトリーヌさん達も移民には積極的に考えてくれている様で安堵する。

 女性陣の準備が終わり食堂に到着した事で、今日の朝食会の参加者が全員揃った事になる。


「全員揃ったので、先ずは朝食にしましょう。皆さんも自分の席にお座り下さい」


 そう言って先程までフランシーヌさんに貸していた上座の席に僕が着くと、ライルさん達が左右の席に着き、対面には秋美に先導されたカトリーヌさん達が座る。

 全員が席に着いた処で、春美達が共有異界倉庫から盆に乗った朝食を出して配る。今日の朝食はご飯と野菜の味噌汁に鮭の白垂(しろだ)れ(ホワイトソース)掛けと、おかずは和洋どちら共取れる献立だ。

 ちなみにご飯は箸を使えないだろう、アルベールの人の為に皿に盛っており、箸以外にも(さじ)先割(さきわ)(ぐし)(フォーク)と食事包丁(しょくじぼうちょう)(ナイフ)も一緒に配ってある。

 全員に食事が行き渡った処で朝食を食べ始める。

 僕が「いただきます」と手を合わせると、ライルさんとフランシーヌさんも同じ様に手を合わせた。

 それを見たシャリエさんがライルさんに問い掛ける。


「王子、それは何の儀式でしょう?」

「ああ、これはシロウ様の国の食事作法だそうだ」


 聞かれたライルさんは華麗に矛先を僕に送って来たので、前世で聞いた話を答えた。


「僕達が食べている食事も突き詰めれば動物や植物の身体、動植物の命です。それら食材になった者達への感謝と贖罪の祈りだと、僕は聞いています」

「命への感謝、面白い発想ですな」

「まぁ、狩りに失敗すれば立場は入れ替わる訳ですからね。その辺りの事情も含まれていると思います」

「負ければ自分が食材ですか。厳しいですが、真理でもありますな。では儂も、いただきます」


 シャリエさんも納得してくれた様で、手を合わせて食事を食べ始めた。

 覚醒者以外はご飯を食べ慣れていないせいか、少し食べ難そうではあるが、味の方は好評だった。

 皆が食べ終えた処で食器と交換に、ノエルさんと約束していたおやつとして林檎(りんご)氷菓(ひょうか)と温かいお茶を配る。

 これは凍らせた林檎をかき氷機で砕いただけの単純なお菓子だが、僅かな酸味と程良い甘みが食後のおやつとして丁度良いと思ったのだ。なお、昨日馬にあげたソフトボールくらいの小さな品種とは違い、此方はビーチボール程もある。

 馬にあげた林檎も人が食べられない事は無いが、其方(そちら)はあまり人の口には合わないのだ。


「冷たくて美味しい。シロウ様最高」


 ノエルさんには気に入って貰えた様だが「あまり急いで食べると頭が痛くなりますよ」という忠告は少し遅かった様で、フランシーヌさん以外の女性と、シャリエ家護衛の騎士二人が頭を押さえていた。

 もっと早く言って欲しかったというロザリーさんの視線を受けて「少し我慢すれば直ぐに収まりますから」と答えておいたが、ロザリーさんもいい大人なんだから、夫のシャリエさんの様に落ち着いて味わって食べて欲しい。


 全員が氷菓を食べ終え、冷えた身体を少し温くなったお茶で温めながら会議が始まる。

 会議と言っても、僕が考えた今後の予定の問題点を指摘して貰い、修正する予定だったのだが、特別な変更点も無く、いくつか提案が出ただけで予定の変更は殆ど無く終わった。

 早速僕達は決まった予定通りに行動を開始する。


 先ずはライルさんとシャリエ家の皆を温泉に招待し、磨き上げる。

 本来は皆の健康促進の意味が強かったのだが、アルベール王国中に映像付きで移民計画を発表するのだ。少しでも見栄えが良い方が、国民の受けも良いだろうし一石二鳥だと考えたのだ。

 その間にカトリーヌさん達には、宿の皆に今後の予定を伝えて準備をして貰い、僕は仮町の通常型絡繰り人形を更に男女四体ずつ呼び出して、男女の一体ずつに旅館別荘の玄関待機を交代させ、精密型には全員温泉の手伝いに向かわせる。

 更に二体には食堂待機を命じ、残りはカトリーヌさん達の手伝いに行って貰った。

 序でに複製世界の分体一号には騎士達の装備も頼んでおく。彼らの武具も相当傷んでいたので、此方も見栄えを良くしようと思ったのだ。


 前向きな準備が終わったので、次は気が進まないが悪い方の後始末を考える。そう、共和国兵に捕らわれていた者達の事だ。

 無限倉庫内では時間が凍結しているから今は苦痛を感じていない筈だし、ほぼ無傷な者が最も多いのだが、それでも肉体的暴行を受けた者、性的暴行を受けた者、その両方の被害を受けた者もそれなりに居て、既に亡くなっている者も数名確認した。

 割合としては、十二対三対二対一程で、全体の三分の一が被害を受けている計算になる。

 無傷な者は発表前に開放しても問題無いとして、怪我人も単純骨折程度の怪我なら治癒術を付与した絡繰りに任せても大丈夫だろうと、一緒に開放する事にした。

 問題は大怪我をしている者と、性暴行を受けた者だが、前者は時間を見て治せば問題無いとしても、後者は盗賊に捕らわれていた者と一緒で、専門家に確認が必要だろう。暫く保留にするしかない。

 盗賊に捕らわれていた者達も同じ対応で良いと思うが、此方のほぼ無傷な者の大半が女性で、全体の二割程度でしかなく、此方は怪我人も多過ぎるし、どの町で開放するかも問題だ。

 此方もライルさんに相談する必要があるなと考えながら被害者の詳細を確認していると、ほぼ無傷な女性の中で、似た様な上等な服を着た集団の所属がクロスベル女学院になっている事に気付いた。どうやらシャリエさんとフランシーヌさんにも話を聞く必要がありそうだ。


 そうして解放や治療、保留と被害者を分類し終えた処で、温泉と指圧を堪能したライルさん達が戻って来た。


「やはり温泉は良い物だ」

「ああ、王子の言う通り、温泉は良かった。そして指圧というのも初めは痛みが勝ったが、終わってみればとても心地良い物だったな」

「はい、それに、この畳というのも独特の香りが有って、気分が落ち着きますね」


 今は女性陣を待ちながら、食堂と続きになっている隣の和室で横になって寛いでいる。

 暫く待つとやがて男性陣に遅れる事半時、女性陣も準備を終えてやって来る。


「あなた、床に寝そべるなど不作法ですわよ」

「いや、この部屋は履き物を履かずに床に直に座る為の部屋だそうだ。横になっても問題ない。それよりも近くに来て、温泉で磨き上げてより綺麗になった姿を見せておくれ」

「もう、あなたったら、調子が良いんだから」


 シャリエさんがそう誤魔化しながら身体を起こすと、ロザリーさんも満更でも無い顔で廊下で履き物を脱いでシャリエさんの横に座る。


「シロウさん、この化粧水、凄いですね。あれだけ傷んでいた私の肌がぷるぷるです」

「喜んで頂けて良かったです。僕の故郷の高品質の化粧水は魔道薬でもあるので、多少の染みや皺等は治してくれるそうですよ」

「シロウさんの故郷は凄い物が沢山有るんですね」


 感心するフランシーヌさんに、「後半時程したら移動しますから、それまではライルさんと寛いでいて下さい」と言って進めると、フランシーヌさんもそそくさとライルさんの隣に座り、フィルマンさんは二人の邪魔をしない様、そっと離れた。


「私もお風呂をご一緒して良かったのでしょうか?」

「皆さんが良いと言っているのですから、問題ありませんよ。ジスレーヌ様も、お風呂は楽しかったですか?」

「はい、すっごく大きなお風呂で、気持ち良かった」

「そうなんですよ。お風呂って普通は樽で身体をちぢこませてお湯に漬かるのが精々なのに、此処のお風呂は皆が入っても手足が伸ばせるくらいに広いんですよ。新しいお湯も流れ込み続けているし、色々あり得ません」


 メイドさんが執事に愚痴っている様だが、アルベール王国は水事情が悪いせいか、風呂に入るのも大変だったみたいだ。

 そんな女性陣にも春美達が蜂蜜入りの冷えた牛乳を配り、暫しの休息を楽しんで貰う。


 ライルさんとシャリエ家の準備が終わったので、次はカトリーヌさん達、女性の代表三人と女性騎士達も温泉で磨いて貰う為、向こうの型絡繰りに念話で此方に案内する様に指示を出す。

 彼女達にも温泉を利用して貰うのは、移民を受け入れれば使用した化粧品と美容方法が手に入りますよ、という彼女達の町での宣伝も兼ねている。

 移民に誘う餌は多い方が良いし、やはりここでも人間、見栄えの良い人の話の方が真面目に聞くからだ。

 しかし全員に化粧を施すのは問題が有る。先ず時間が足りないし、仮に攫われた女性達が全員、攫われる前より綺麗になって帰ってきたら、町の住民からは同情よりも反発を招きかねないからだ。

 当然、他の女性達にもこの事は説明してあるし、此処に居る希望する女性には移民後に優先的に体験できる事も伝えてある。こんな事で仲間割れされても困るからね。

 そしてカトリーヌさん達が温泉に入っている間に、ライルさん達に風太達男性の精密型を護衛に付け、更に全員に防護の結界を張って安全を確保してから、大半の男性騎士と共にお城に転移させて状況の確認や、協力者を募って人員確保をお願いした。現状、町の管理者も不足しているのだ。

 序でに通常型絡繰りを四体付けて、お城から持って行く荷物の回収もして貰う。

 それらが終わると、ライルさんとシャリエさんにはこの国の正装に着替えて貰い、彼らは発表の時間を待つだけだ。


 その間に僕は通常型絡繰り人形を新たに六十四体用意し、共有倉庫と生物鑑定や医術、治癒術等の医療系能力を付与した通常型医療用として、九体の分体を出してこれらの絡繰りを連れてクロスベルと王都アベル、その間にある二つの町の計四つの町、十ヶ所の収容所で共和国兵に捕らわれていた者を解放し、その場所での治療を任せる。

 解放した者達は「なんで外に?」「いきなり明るくなった?」等、混乱している者も居るが、僕は構わず拡声と遠声の能力を使って状況を説明する。


「皆さん安心して下さい、共和国の者は町から追放しました。怪我人は治療いたしますので此方に来て下さい。動けない者は近くの者が手を上げて教えて頂けると其方に向かいますので、ご協力をお願いします。なお、怪我の無い方は家に帰って頂いても構いませんが、お昼頃に重大な発表が有りますので、外で待機して下さい」


 僕の説明に少し遅れて理解した者達が次々と声を上げながら走り去って行く。

 やがて半数近くが走り去ると、何か所かで手が上がり始め、そこに絡繰りを送り出して治療をする。

 中には治療を拒む者も居たが、理由が治療費を払えないという事だったので、代金の代わりに昼の発表をしっかり聞く様に頼んだ。

 他にも仲間や知人が居ないと聞いて来る者も居たが、此処に居ない者は会話ができない程の怪我人で別の場所で治療中か、数は少ないが既に亡くなっているかの何方(どちら)かなので、身元の確認ができないと答えると、肩を落として去って行った。


 やがて解放した者の治療を終えた処で旅館別荘に戻ると、カトリーヌさん達の準備も終わっていたので、彼女達もサウベルの町の外に送る。いきなり町中に移動したら返って説明が面倒だからだ。

 この時、カトリーヌさん達の護衛に付く女性騎士には、分体一号に頼んでおいた鎧一式も装備して貰っている。

 性能は保護を付与する為に僅かに聖銀を混ぜただけの軽銀製なので、共和国の小銃や機銃程度なら傷も付かないが、大砲の直撃を受けるとへこむ程度の強度しかない。

 これは大砲に耐えられる鎧を用意しても、アルベールの騎士では吹き飛ばされた衝撃に耐えきれず、関節部分で手足が千切れるだろうから、これ以上強度を上げても意味が無いのだ。

 そう説明するが、小銃に耐えられるだけでも凄いと喜ばれ、そんな新品の鎧を此方に残っていた男性騎士が羨ましそうに見ていた。

 男性騎士にも必要になったら用意すると説明し、カトリーヌさん達と宿に派遣していた通常型絡繰り八体と医療用八体をサウベルの町に転移させて、説得や炊き出し、治療を行って貰う。

 さあ、移民計画の始まりだ。

 

 

読んで下さった方々、有難う御座います。

次も2~3週間後に更新出来る様、頑張りますので、宜しくお願いします。

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