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会食の準備

お待たせいたしました。

ブックマークをしてくださった方々、ありがとうございます。

予告ギリギリになりましたが、今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 57 会食の準備



 和富王国の四狼が武具の整備をしていた頃、アルベール王国の分体は早くも起きて活動を始めていた。

 此方(こちら)の時刻は時計の短針が真っ直ぐ右を差す午前四時頃、アルベール王国が山に囲まれていて日の出が遅いといっても、もう半時程で明るくなり始めてしまう。

 明るくなってしまうと面倒なので、その前に昨夜と同じ様に共和国の関係者を検索し、町毎に纏めて共和国の東に適当に転移させて排除する。

 次に此方も昨夜と同じ様に共和国兵に暴行等を受けていた者の保護をする為、七体の分体を分けて出し、其々の町で建物毎無限倉庫に収納して周って貰う。序でに共和国の武器や車両、食料等も回収しておいた。

 アルベールの人達が銃火器を手にするのも問題だし、食料を奪い合って争いが起こる可能性も高いと考えたからだ。

 そのまま続けて、分体にはアルベール王国軍の兵や騎士の遺体の回収もして貰った。

 昨夜の盗賊退治でも結構な数の遺体を回収したので思ったのだが、共和国との戦争ではそれ以上の被害が出ていた筈だ。

 例え負けたとはいっても、文字通り自国の為に命を懸けて戦った英雄達を、そのまま野晒にしたくは無かったのだ。

 先に済ませる事は多いが、一段落着いたらライルさんに相談して、この国の方法で弔ってあげよう。


 国内の安全を確保し、後始末がほぼ終わった時点で時刻は六時頃、皆が起きるにはまだ少し早いので、侯爵達と会食する為の温泉旅館風の別荘を此方にも複製して用意した。

 食堂は椅子に座る板張りの洋風にしたが、一応、隣には畳の物も用意しておく。

 ライルさんやフランシーヌさんは畳を懐かしがるだろうが、侯爵には畳が分からないだろうと思ったからだ。

 当然、温泉も男女別に二つ用意してあるが、この場所で露天風呂にする訳にもいかないので、窓の外を小さな日本庭園風にして、周りを高い塀で覆って外からは見えない様にしてある。

 食事の後はここで身嗜みを整えて貰う予定だ。

 その為に仮宿管理の絡繰り人形に付与した能力に加え、更に追加で接待・指圧・整体・化粧・調髪・言霊術・手加減、等の能力を付与した絡繰り人形も男女四体ずつ用意した。

 指圧をする時に硬い指でされるよりは良いかと考え、人に近い柔らかさを持つ精密型の絡繰り人形で用意してみたが、ここまで高性能の絡繰り人形になると、よく見ないと人との区別ができない程に精巧だ。

 僕も今まで見た事が無いなと思っていたら、天照が現在和富王国で稼働している絡繰り人形は全て簡易型で、通常型ですら既に失われた技術なのだと教えてくれた。

 そんな物まで入っている僕の無限倉庫って、一体何なんだろう。

 天照に聞いても「そういう能力です」の一言で終わられてしまったので深く考えるのを諦める。

 一応全員顔が違うのだが、個体の区別の為に何となく思いついた風林火山を元に男性型には、風太(ふうた)林太(りんた)火太(かた)山太(さんた)、女性型には春夏秋冬で、春美、夏美、秋美、冬美と間違えない様に単純な名前も付ける。

 そして当然此方(こちら)の絡繰り人形も裸のままにする訳にもいかないので、旅館風の建物と其々の名前にも合わせた柄の着物と袴に前掛けを着せる。


 会食の準備が終わった処で時刻は丁度長針が十五を指す八時に四分前、そろそろ侯爵を迎えに行く時間だ。

 僕は旅館別荘を出ると、壁に偽装の襖を当てて侯爵家の食堂に空間を繋げる。

 中に入ると既に侯爵家の皆が揃っていて、更に執事らしい初老の男性やメイドと、護衛と思われる騎士が二名も居たが、転移を始めて見る騎士達が剣に手を掛けて僕を警戒する。


「よい、その方が待っていた迎えの者だ、警戒を解け」

「はっ!」


 侯爵の説明に騎士達は一度侯爵を見て、侯爵が頷くと返事と共に剣から手を放した。


「シロウ殿、悪かったな」

「いえ、知らない者が突然部屋に現れれば、護衛が警戒するのも当然の事、気にしていませんよ」


 侯爵の謝罪を受け入れると、フランシーヌさんが立ち上がり、挨拶してくる。


「シロウさん、おはようございます」

「はい、フランシーヌさん、おはようございます。すっかり元気になられた様で、昨日よりお綺麗ですよ」

「まぁ、シロウさんったら、お上手ですわね」


 昨日と違い、少し着飾って化粧をしたフランシーヌさんを褒めると、フランシーヌさんはコロコロ笑うが、何か違和感を感じる。


『ご主人様、フランシーヌさんの化粧を鑑定してみて下さい』


 天照の助言に従い鑑定してみると、フランシーヌさんの使っている化粧品に鉛が混入している事が分かった。

 化粧品が鉛中毒の原因だったのだと判明すると、そういえば地球でも昔そんな化粧品が出回っていた時期が有った気がした。

 そして分った事をフランシーヌさん達に伝えると。


「まさか、あの化粧品が身体に悪かっただなんて……」

「困りました、化粧を落とすには時間が掛かりますし、他の化粧品も持っていません」


 ロザリーさんまで困り顔でオロオロし始めたので、僕が解決策を提案する。


「それならば、食事の後にエステ的な物も楽しんで頂く予定でしたので、先に化粧直しを致しましょう」


 すると、フランシーヌさんは直ぐさまエステの言葉に反応した。


「シロウさんの国にはエステまであるのですか?!」

「いえ、僕は本物のエステを知らないので、長く身体を動かしていないフランシーヌさんの身体を(ほぐ)す為に、あくまで似た物を用意しただけです」

「私の身体を想って、そこまでして頂けるなんて、本当に頭が下がります」

「折角できた新しい友人ですからね。この程度の事は何でもありませんよ」

「ご厚意に甘えさせて頂きます」


 自分で言った友人という言葉で思いついた事が有ったので、フランシーヌさんに確認してみる。


「友人と言えば、他の知識仲間にフランシーヌさんを紹介しても問題ありませんか?」

「そうですね、他の同類の方を知らないでの、シロウさんが信用できる方ならお会いしてみたいと思います」

「分りました、近々機会をみて紹介しますね」

「はい、お願いします」


 さて、フランシーヌさんに了解を得たので次はライルさんだが、二人が同類だと知ったらどんな反応を見せるか、今から楽しみだ。

 少し意地悪かなとも思ったが、恐らく二人ならより仲良くなるだろうと、僕は確信していた。


「話が纏まったのなら早く移動しないか。向こうに行けばロザリー達の毒も落とせるのだろう?」


 侯爵は化粧の有害物質を早く落したいのか待ち切れずに急かすが、つい昨日まで中毒で家族が苦しんでいるのを見ていたのだから、致し方ないだろう。


「その前に、彼らも同行者で宜しいのですか?」


 そう言って執事や騎士に目を向けると、侯爵は頷いた。


「ならば彼らの中毒も解除しておきましょう」

「そうだな、宜しく頼む」


 侯爵の許可を貰うと、彼らの手を取って体内の有害物質を無限倉庫に収納する。

 今回も何時もの様に喜んでくれた。

 思わず時間が掛かってしまったが、準備が整ったので侯爵家の四人とお供の四人を連れて繋げた空間を通り、荒野の別荘前に移動する。


 襖を片付けて別荘に入ると、玄関口には浄化を付与した敷物が敷いてあるので、足を乗せるだけで履物の土や砂等の汚れを落としてくれる。

 足元が淡く光った事に侯爵が驚いていたが、履き物を綺麗にする魔道具だと説明すると「シロウ殿の国には便利な物が多いのだな」と感心していた。

 玄関で履物を脱ぐことを説明し、玄関を上がって内草履(うちぞうり)(スリッパ)に履き替えると、絡繰り人形達が出迎えてくれる。

 男性型の絡繰り人形二体に男性陣を食堂に案内する様に指示を出し、女性型絡繰り人形二体に女性陣を脱衣所兼、指圧室に案内させる。

 脱衣所には浄化装置も設置してあるし、大きな姿見もあるので、此処で化粧直しをする様に指示も出す。


 侯爵達を案内し終わった処でそろそろ皆も起きる時間だろうと、ライルさんも招待する序でに各宿舎に皆の朝食も配りに行く。

 騎士宿舎に入ると、既にライルさん達は起きており、一階の食堂で話をしていた。


「おはようございます。昨日はゆっくり休めましたか?」

「ああ、シロウ殿、おはようございます。シロウ殿のお陰で久方振りにゆっくりベッドで眠れました」

「おはようございます。シロウ様、私もとても快適に眠れました」

「寧ろ自宅で使っているベッドより快適でしたよ」

「俺も、快適過ぎてベッドから出るのに一苦労でした」


 どうやらライルさん達は気持ち良く休めた様だし、グラハイムさんにも気に入って貰えた様だ。

 そしてフィルマンさんとマクシミリアンさんも冗談交じりで答えてくれる。


「気に入って貰えた様で何よりです。朝食の前に、今後ライルさん達を補佐する者を用意したので、紹介します。入って来てくれ」

「はい、主様」


 そう答えて宿に入って来たのは、仮町の管理に用意した通常型の絡繰り人形が男女三体ずつ六体だ。

 その姿を見たライルさん達は当然驚いていたが、僕は構わず説明する。


「彼らは人を模した魔道具で、絡繰り人形と言います。仮宿の管理等をさせる為に僕が用意したのですが、紹介の序でにこちらでの作業を手伝わせる為に連れて来ました」

「驚きました。シロウ殿の国には、これ程までに高度な魔道具が在るのですね。昨日言っておられた「奴隷が必要無い」という意味が理解できました」

「これが魔道具ですか? 私の理解を超えています」


 ロボットの概念を知っているライルさんは素直に驚き、それを知らないグラハイムさんは人型の魔道具が理解できないと言う。

 そして、他の者達は驚きを通り越して言葉も出ない。


「それ程深く考えなくても基本的に人に出来る事は大抵はできますから、少し変わった者、程度に考えて貰えれば十分です。」

「これが少し変わった者、ですか?」

「これが新しい国の常識なのだ、慣れるしかなかろう」


 未だ困惑しているグラハイムさんを、ライルさんは諦めろといった感じで慰める。


「時間が無いので話を進めますが、ライルさんとグラハイムさんには朝食を新しい協力者と共にして欲しいのです」

「今度は新しい協力者ですか」

「ええ、先方が僕に協力する前に、ライルさんと相談したいそうなのです。午後には国民に移民計画を宣言する予定でしたので、朝から会食になってしまい申し訳ないのですが、勝手ながら朝食にご招待しました」

「いや、食事はシロウ殿に頼り切りなのだから構わないのだが、私に相談となると、私も知っている者、という事だろうか?」

「はい、ライルさんのお知り合いだそうですが、誰かは会ってのお楽しみです」


 僕が含み笑いを浮かべながら答えると、ライルさんは溜息交じりに「分かりました」と答えた。

 ライルさんに了解の返事を貰うと、僕は二体の絡繰り人形にこの宿舎の朝食の指示を出し、残りの絡繰り人形には他の宿舎に朝食を配りに行って貰う。

 当然絡繰り人形だけで行かせると騒動になるので、フィルマンさんとマクシミリアンさんにも其々の宿舎に付いて行って貰った。

 序でに、アニエスさんとカトリーヌさん、コンスタンさんも会食に参加する様、頼んでおく。

 向こうは侯爵以外は女性なので、此方にも女性が居た方が良いだろうと思ったのと、折角なのでここに居る勢力の代表を集める事にしたのだ。


 騎士宿舎を出て旅館別荘に移動すると、ライルさんは嬉しそうに眺める。


「これがシロウ殿の国の建物ですか、どこか懐かしい物を感じますな」

「懐かしい、ですか? 私には分りませんが、とても綺麗な建物ですね」


 ライルさんは前世の知識から懐かしさを感じているそうだが、グラハイムさんには当然分らない。


「外で眺めていても仕方がありません、中に入りましょう」


 僕はそう言って旅館別荘に入った。

 ライルさん達も淡く光る敷物に驚きながらもついて来て、履き物を脱いで玄関を上がると、待機していた絡繰り人形達が出迎える。

 一体の絡繰り人形に先導を頼み、残りの絡繰り人形には後から来る者を案内する様に指示を出すと、僕達は食堂に向かった。

 食堂には横長のコの字型の卓と、少し間を開けて長机の様な一字型の卓が隙間のあるロの字型に並んでいる。

 中が空いているのは、お店のカウンターの様に前から給仕ができる様にするためだ。

 そしてライルさんは新しい協力者を見て驚く。


「シャリエ侯爵!」

「王子、御久し振りで御座います。お元気そうで何よりです」


 侯爵は立ち上がってライルさんに挨拶する。

 ライルさんは少し戸惑いながらも返答する。


「あ、ああ、シャリエ侯爵もお元気そうで何よりだ」

「ええ、儂らもシロウ殿に助けて頂いたのじゃ」

「シロウ殿に?」


 そこで僕は経緯を説明する。

 ライルさんに出会った事で、他にも体調を崩していて危険な者が居ないか探した結果、フランシーヌさんを見つけて治療したのだと。


「それでは、フランは生きていると……」


 ライルさんが恐る恐る尋ねた処で廊下をパタパタ歩く音が聞こえてきた。


「ライル様!」


 そう言ってフランシーヌさんはライルさんに駆け寄り、抱きついて話す。


「また、生きてお会いできるとは思ってもいませんでした。ご無事で何よりです」

「あ、ああ、本当にフランなのか? ベッドから起き上がる事も出来なかったのに……」

「はい、シロウさんが治してくれましたから、今は完全に健康な身体だそうです」

「そうか、治ったのか、良かった、本当に良かった」


 ライルさんも目尻に涙を浮かべながら喜んでいる。

 僕はそんな二人を見ながら映画のワンシーンを実際に見ている様な気分で少し感動していると、廊下でロザリーさんが二人を見つめて「良かった」を繰り返し口にしながら泣いていた。




読んで下さった方々、有難う御座います。

次も2~3週間後に更新出来る様、頑張りますので、よろしくお願いします。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになります。

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