貨幣価値
お待たせ致しました。
宣言通り年内に更新できてホッとしております。
今回少しややこしい話かもしれないので短めですが
僅かでも楽しんで頂ければ幸いです。
「数が多いにしても、一頭当たりの平均が一両とは随分高いのじゃな」
「それは単純に大きさが原因ですね。狩りの対象になる動物や魔物は大きい物が多く、今日狩った獲物で一番小さな一角鼠ですら、桜花様より体重が重くて十一貫(約40キロ)近くありますから」
「何故、四狼が童の体重を知っておるのじゃ!?」
僕が桜花様の体重をほぼ正確に指摘した事に桜花様が慌てているが、今は無視して説明を続ける。口が滑ってしまったがこれ以上の深入りは危険だ。
「その体重から三割以上が食肉として採れますから四貫(約14キロ)近い肉が売れますし、毛皮も採れます。更に魔石や角も売ると一角鼠一頭の売却で十六分程になりますから、今回の三十四頭の買取で約八両半になります」
「ほー、鼠だけで八両を超えるのじゃな」
「はい、更に槍猪は八十貫(約300キロ)、草原蜥蜴は百六十貫(約600キロ)もありますから、採れる肉の量も膨大になります。これが売却価格が高くなる理由です」
「大きかっただけあって、猪や蜥蜴は重いのじゃな」
「実は肉って単純に獲物の身体が大きく、量が取れるから買い取り額が上がるだけで、一食当たりの消費量でみると結構安いんですよ」
「四狼兄上、三刃は肉を直接買った事が無いのですが、そんなに安いのですか?」
普段台所に立たない三刃や桜花様は肉の値段を知らない様だ。
まず、一角鼠の肉は売値が一貫(約3.75キロ)で百二十文にしかならない。
店に並ぶ頃には解体業者の取り分や小売りの利益等で倍程になるが、それでも一食で百グラム強食べても八文程度だ。
その安い肉でも量が多いので、それなりの金額になるという事を説明して聞かせると、桜花様も概ね納得してくれた。
「やはり狩りは儲かるのじゃな」
「今回はたまたまです。まず異界持ちでないとこの量を一度に運べませんから、通常はこの二%も稼げません。運べる量を狩る度に拠点に戻る事になりますし、草原蜥蜴の様に重さがあると運ぶのも大変です」
異界が無いと草原蜥蜴の様な大きな獲物は例え狩れても、一人が周囲を警戒しながら他の者達が担いで一度拠点に戻る事になるし、その分狩りの時間も減ってしまう。
更に人数が少ないと、持ち帰れない分を端から切り捨てる事になる。
それでも小物を狩るよりは儲けが大きいのだが、戻る途中で他の魔物に襲われる事も有るので、運搬中の襲撃で蜥蜴を喰われてしまう事も有る。
なので結局、異界収納系の能力か異界鞄等の道具を持っていると有利だという結論に辿り着く。
一部に折り畳める小型の荷車を使って運搬速度を上げる者達もいるが、連続で狩れる異界持ちには到底敵わない。
狩人は勿論、商人や軍人にしても多くの物資を個人で殆ど負担なく運べるのだから、異界持ちは職に困らないと言われているのも当然の事だろう。
「童達は全員が異界持ちじゃからな。自分の能力とはいえ、四狼の言う通り運が良かったのじゃろう」
「適度にばらけて次々と新しい獲物が向こうから現れてくれたのも大きな要素ですが、異界の運搬力と、それらを倒せた皆の戦闘力が加わった結果ですから、そこは誇っても良いと思いますよ」
「そうなのか?」
「ええ、気付いていない様ですが、狩った灰色狼の数と掛った時間を計算すると、二分に三頭の勢いで灰色狼を狩っていた計算になりますから、軍にも劣らない殲滅速度だと思います」
僕が同時に対峙する数を調整していたから軍での戦闘とはかなり違うだろうが、掛った時間と出した成果は同等になる筈だ。
「そうか、童達は軍にも劣らぬか。ならばもっと修行をして、更なる高みを目指さねばならぬな」
「三刃も頑張ります!」
桜花様は拳を握り、現状で満足せず更なる高みを目指すと宣言し、三刃も感化されたのか手を上げて賛同する。
強くなって位階を上げるのは功績を積む事にもなるので、僕も協力を惜しまない心算だ。ただし…。
「強くなるのは良い事だとは思いますが、桜花様も玉座を目指すのなら勉学を疎かにしてはいけません」
「わ、分かっておるのじゃ、四狼まで母上の様な事を言うで無い」
「分っているのなら良いのです。ここ数日は毎日修行をしていましたし、今日も一日で三つも位階が上がったのですから、明日は身体を休める為にもお城で座学を頑張って下さい」
「うう、分ったのじゃ」
桜花様は嫌そうな顔をしつつも、明日は勉学に勤しむ事を了承してくれた。
「五狼と三刃も明日は屋敷で座学だ。異論は認めない」
「分かりました、四狼兄上」
「四狼兄上、そ、そんなご無体な…」
五狼は元から座学の方が好きなので喜んでいるが、三刃はじっとしているのが苦手なので座学も苦痛の様だが、身体を休めるのも大切だと言って納得させる。
「それよりも、今日の稼ぎの中から三刃はいくら頂けると四狼兄上はお考えですか?」
「それは母上が決める事だから断定はできないけど、おそらく八分くらいになると思う」
「八分、ええと、一両が六十四分だから小玉銀が八枚で……全部のどのくらい?」
「三刃、八分は丁銀で一枚だから、八×四十で三百二十分の一だよ」
三刃が誤魔化す為か、あからさまに話を変え、指を曲げながら計算を始めたが、中々答えが出ないのを見た五狼が答えを教える。
「んーっと、随分少なくなっていませんか?」
「この程度の計算を戸惑っている内は大金を渡せぬだろう?」
「ううーーっ」
三刃は悔しそうな顔をしているが、そもそも四十両は相当な大金だ。
平均的な農民一人辺りの一月の収入が税を徴収した後で二両前後と聞けば、その価値が分かるだろう。
尤も実際の農業は家族で行っている為、一家の収入としてはその数倍になるのだが。
そして平均的な狩人の収入も一人辺り一月で六から八両と、農民よりは多くなるが命も掛かっているし装備にもお金が掛かるのだから当然だろう。
中には赤実猟団の様に、複数の組が集まって会社の様に組織化した団等は、一月に十両以上稼ぐ者達もいる。
それでも三十両を超える事は滅多にないのだから、四十両という大金は十歳の子供が持つ様な金額ではないと言われれば頷くしかない。
「今日は何故か灰色狼が大量に狩れたからの稼ぎで、半分以上が灰色狼を売ったお金だ。普通はこんな事は有り得ないのだから、次に狩りに行ってもこんなには稼げないって事は覚えておいてくれ」
「当然で御座るよ。今日の稼ぎだけで私の半年分の給金を超えているで御座る」
以前に聞いた事があるが、伊吹さんの月給は十両程だそうだが、僕の桜花様への指導料は月二両だったりするので、時給では僕の方がかなり貰っている事になるが、王族の教師としては少ないくらいなのだそうだ。
「意外と近衛は給金が少ないのですね」
「いえ、近衛と一括りにいっても人其々で御座るし、装備等の必需品は別途補助が有るで御座るから、他の職よりは多いので御座るよ」
「城勤めは士族位で基本給が変わるそうだから、伊吹さんは同じ士族位では高い方らしいよ」
「そうなのですね」
五狼は近衛の給金を知らなかった様だが、僕の答えに伊吹さんも頷くと納得した様だ。
ちなみに見習い扱いの三狼の給金は一月二両で、僕と同じだったりする。
「んー、八分ですと何が買えるのでしょう?」
三刃は既に割り切っていたのか、僕達の話を聞かずに稼いだお金の使い道を検討し始めていたらしい。
「武器や防具、衣服を買うには足りないから、日用品か食料辺りが無難だと思うけど、無理に使わなくても良いんじゃないかな?」
「三刃が初めて自分で稼いだお金ですから、何か買い物をしてみたいのです」
どうやら初任給で何か記念の買い物がしたい、という気持ちらしい。
「そういう事なら好きに使えば良い。今決めなくても今度街の方に直接行って探してみたら良いんじゃないか?」
「はい、そうしてみます」
「僕は新しい本が買えれば嬉しいな」
三刃も納得した様で、今度は何処のお店を見るか五狼と伊吹さんを巻き込んで検討し始めた。
「四狼、お金の話が出たので聞くが、童も直接買い物をする事があまり無いので上手く判断できんのじゃが、物語で良くある異世界と日本の貨幣価値についてどう考える? 覚醒者で新たな同士が集まると必ず話題になる定番なのじゃが」
そんな事をしていたのかと、僕は半分呆れながらも答える。
「あまり意味が無いと思うのですが、そもそも何を基準に物価を判断するかによりますよ」
「そこがこの議論の醍醐味なのじゃ。四狼は何を基準にすると良いと思う?」
桜花様は含みの有りそうな顔で聞いてくる。
何かの問答なのだろうか?
分かり易いのは多くの物語の様に貨幣から算出する方法だが、そもそも金属の価値が違うだろうから実は意味が無い。
そして何故か基準が銅貨だったりするのも読者に貨幣を伝える為で、実態は必要無いのだからそれで良いのだろう。
あくまで最小貨幣を日本の十円や百円に置き換えた方が読者が理解し易いという考えだから、深く考えると破綻している場合も多々ある。なので桜花様がこの答えを望んでいるとも思えない。
次に生活費から算出する場合だが、日本でも東京と地方では結構な差があったし、僕達が住んでいるのが王都だから東京を基準にすると、郷の生活費はとんでもなく安くなる気がする。
先程桜花様に説明した農民の収入が日本の農家と同等だと考えると、税を抜く前が三両程だから一両は六万円程になる。
逆に生活費から考えれば、米は自作だから四人家族でも一月の食費は一両以下、日本の様に贅沢品も無いので収入の半分が食費でもそれなりの生活は可能だ。
実際には農家は家族でやっているのが普通だから、家での収入は数倍になるので不自由が無い処か、余裕のある生活ができるだろう。
そもそも現代日本の一般人の生活と比べても文化や文明のレベルが違い、テレビや携帯は勿論、電気すらここでは普通に使えないのだから、日本の一般人はこの国の王族や高位の士族でも真似できない程の贅沢をしている事になるのだ。
辛うじて実用化されている自走車も安くて百五十両、高い物だと二百両を超える。
寧ろ文化レベルが上がると返って出費が増え、逆に生活レベルが下がっているというのが現代の日本の様な気がして悲しくなってきたので、これ以上考えるのを止める。
結局、収入から考えるとこの国は日本に比べて衣服は高く、食料は安く、家賃はピンキリで、贅沢品はとんでもなく高価なのだと結論付ける。
なので今度は貨幣そのもので考えると、意味は無いが仮に一文を十円とすると一両が四万円強になる。
次に金属の価値で考えたが、僕にはその価値が分らなかったので天照達に聞いてみると、一文が二十グラム程だから日本の銅貨である十円玉の四倍以上、四十円強にまで上がるので、一両は十六万円を超えてしまうそうだ。
逆に一両を基準に金相場で考えると、価値は半分に下がるらしい。
僕は銅相場よりは金相場の方が納得できる気がしたので、金一グラムを五千百二十円で計算すると、一文が二十円になって丁度良いかなという事だった。
尤も、日本と交易できないのだから、貨幣を比べる意味も本来無い筈なのだ。
これらの考察を桜花様に話してみると、桜花様は笑いながら答えてくれた。
「そうか、四狼は初めに農民の生活を基準に考え、最後は金相場に辿り着いたか、実に面白いのじゃ」
桜花様も実に楽しそうに続ける。
「この問答はその者が何を大事に考えておるかが分かるのじゃ。四狼は農民の生活を第一に考え、次いで金属相場と来て最後は比べる意味の無さに気付くとは、実に童好みの良い答えなのじゃ」
成程、貨幣そのものでなく、価値感の詮索が目的なのか?
「問答の理由は分かりましたが、それを僕に教えてしまって良いのですか?」
「構わぬ、四狼は既に自分の答えを示しておるのじゃから、答え合わせも必要じゃろ?」
まあ、桜花様が納得してくれたのならそれで良いかと、僕は深く考えるのを止めた。
読んで下さった方々、有難う御座います。
前回の鑑定結果に種族が抜けていたので追加しました。
また、剣術(刀)のように能力に()を付けるのは文字通りカッコ悪いかなと思い、刀剣術等に変更いたしました。
本年は本作品にお付き合い頂きありがとうございました。
来年も読んで頂ける様頑張ります。
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