撤収
大変お待たせ致しました。
少しトラブルが有った為、遅くなりましたが、今回も楽しんで頂けたら幸いです。
灼熱熊を倒した直後、桜花様はその場で座り込んでしまった。
「疲れたのじゃー」
桜花様は呪力を強制的に引き出された為に、かなり消耗した様だ。
「お疲れ様です、桜花様。これを飲んで少し休んでいて下さい」
桜花様に貸していた刀を返して貰い、代わりに呪力回復の魔道薬を渡すと、僕は後始末を始めた。
まずは救助が完了した事を周囲に知らせる為に、合図の青い信号弾を打ち上げる。
これは、救助が終わった後にも駆けつける人が来るのを防ぐ為の処置だが、地図上を確認すると信号弾に気付いてくれたのか、こちらに向かっていた三つの集団の内、二つが引き返して行った。
次に倒した灼熱熊の首と身体を無限倉庫に収納し、五狼と三刃に回収した武器を返す。
二人は前線で戦っていただけあって、直撃は受けていないが弾かれた小石や砂で所々に小さな傷ができていた。
「二人もお疲れ様。まだ課題はあるけど難しい役目を良く果たした。後始末は僕がやるから、二人も治療をして休んでいなさい」
「「はいっ!」」
そう言って赤い魔道薬も渡すと二人は褒められたのが嬉しいのか、少し恥ずかしそうに桜花様の元に駆けて行った。
「伊吹さんもお疲れ様です。二人の治療が終わったら、皆でこれを飲んで少し休んでいて下さい」
「四狼殿、ありがとうで御座るよ」
伊吹さんに皆も灼熱熊の熱気で汗もかいてるだろうからと果汁水を四本渡すと、伊吹さんも皆の所に向かった。
灼熱熊を落とした穴を放置しておくのも危ないので、僕は術を使って落とし穴を埋めて地面を綺麗にし、ついでに残っている土壁や崩れた土壁の残骸も元に戻しておく。
最後に吹き飛ばされていた桜花様の防具も回収して僕も桜花様達の元に合流し、果実水を飲みながら皆で休憩する。
「外れただけで特に壊れてはいない様です」
「おお、四狼ありがとうなのじゃ」
桜花様は礼を言って僕から防具を受け取ると、文句を言いながら付け直す。
「簡単に外れるとは軟弱な防具なのじゃ」
どうやら桜花様は防具が外れた理由を勘違いしている様なので、訂正しておく。
「桜花様、防具が外れたのは作りが悪いのではなく、逆に安全の為の機能ですよ」
「そうなのか?」
「ええ、魔物は大概人より大きく力もありますからね、掴まれたり引っ掛けられたりした状態で振り回されると大変なことになりますから、力の掛かり具合によっては簡単に外れる様になっています」
僕達の話に興味を持ったのか、五狼と三刃も耳を傾けている。
「仮に止め紐が外れずに瞬間的に大きな力が加わった場合、位階が低いと止め紐が闘糸術の様に働いてしまい、ゆで卵切りの様に腕が輪切りになる可能性が有ります」
そう答えると、想像したのか皆が嫌な顔をする。
「良く分ったのじゃ。安全装置は大切なのじゃ」
桜花様の答えに三刃も肯いている。
そうして暫く話していると、信号弾を上げた後もこちらに向かっていた総勢十二人もの赤実の殻で出来た赤い鎧の集団が到着する。
「俺は赤実猟団団長の阿迦井寿々介だ。救援は無事に終えた様だが、要請した組はどうしたんだ?」
「ご丁寧にどうも、僕は八神四狼です。赤信号を上げた方達は怪我もしていましたし、知らない組と一緒では上手く連携が取れそうになかったので、先に帰って貰いました」
「成程、君が有名な八神四狼殿か、そして流石は八神門といった処か、良い判断だ」
男は僕達を一度見回すと頷いて答え、他の団員も「凄いな」とか「やるな」と称賛してくれたので、五狼と三刃は照れくさそうにし、桜花様は誇らしげに胸を張っている。
「僕が有名、ですか?」
「そりゃあそうだろう。十歳で姫様の剣術指南役に抜擢され、十二歳で言霊術を獲得した若き天才、郷の町で君の名を知らない狩人は、新人くらいだろう」
何か知らない内に大げさな事になっていた様だが。
「剣術指南は兎も角、言霊術ならここに居る全員が獲得していますから、大げさですよ」
「全員が言霊術持ちだとっ!」
団長の驚きが他の団員にも伝わったのか、「全員」「半端ねぇ」「流石」「あのちっこい嬢ちゃんもか?」「ちっこい言うなっ!」と三刃も交えて皆が騒ぎ出す。
皆が騒いだ事で話が逸れている事に気付いた団長が咳払いをして皆を止める。
「おほんっ! お前ら静かにしろっ! えっと、話が逸れてしまったな。それで、赤信号を上げた連中は何と戦っていたんだ?」
「僕達が着いた時には赤熊が二頭いました」
「赤熊が二頭だと! それを姫様を加えた八神の五人で倒したのか、凄まじいな」
他の団員も「赤熊が二頭!」っと驚いている。
「いえ、一頭目を倒すまでは初めに戦っていた方達も居ましたから、お互いに一頭を相手にして、片方を倒した後に先に撤退して貰いました」
「成程、お互いに別の獲物と相対していたのなら、連携できなくても問題はないな。実に上手い手だ」
「恐れ入ります」
そうして赤実猟団と軽く情報交換した後は、集合時間まで残り少ないので一緒に拠点に戻る事になった。
途中、槍猪が三頭の群れと遭遇したが、赤実猟団が一頭に三人ずつで対応し、大盾持ちの二人がそれぞれの槍猪の突進を受け止めると、残りの二人が槍で足を狙って動きを牽制する。実に危なげのない連携だ。
残りの一頭も三人で上手く囲んで助走を封じているので、槍猪は得意の突進ができずにやられ放題になっている。
「皆も本業の狩人集団の仕事をしっかり見ておくんだ。如何に怪我をせずに安全に狩るか、学べる箇所は多いと思う」
「「はい」」「うむ」
僕達が見学する中、赤実猟団の残りの三人は中央でそれぞれの戦いを見守っている。
「四狼、残った三人の内の団長は指揮官として、残りは術者なのかのう?」
「そうですね、ただの遊撃要員かもしれませんが、手古摺った組に支援するという意味では同じだと思います」
「姫様の言う通り、この二人は術者です。狩りの場合はただ倒しても素材に出来なきゃ意味が無いんで、術は緊急時や治療、水確保くらいにしか使いません」
桜花様が猟団の役割分担を推測し、僕がそれに答えていると団長が正解を教えてくれる。
「術で仕留めると素材にならぬのか?」
「毛皮も肉も黒焦げでは売れませんから」
「それなら直接攻撃せずとも、足止めや捕縛には使えば良いではないか?」
「そういった高度な術は使えないのです」
術者の一人が申し訳無さそうに答える。
鑑定してみたが、二人共言霊術の能力は持っていなかったので少し助言をしておく。
「苦手な術も練習しておいた方が良いです。五行の全てを使えたら術の連携もできるし、他にも良い事が有りますよ」
「そう言われましても、木の術とか良く分りませんから」
術の訓練は他人の術を見て模倣するのが一般的なのだが、その見本を見る機会も少ない平民では、術の訓練自体が難しい様だ。
「ならば四狼が手本を見せてやれば良かろう。我らも彼らの狩を見学させて貰ったのじゃ、次は我らの狩を見学して貰えば良い」
「姫様、宜しいのですか?」
阿迦井さんが確認してくるが桜花様が一度言った事を覆す筈も無いし、理由も無い。
「無論じゃ」
桜花様が勝手に決めてしまったから仕方が無いが、僕にも断る理由が無い。
猟団の人達が狩った槍猪の血抜きをしている間に、伊吹さんには地図で確認した獲物の位置をそれとなく伝え、確認して来て貰う。
暫く待つと猟団の準備が終わり、伊吹さんも帰って来たので僕達は獲物に向かった。
確認した獲物は足狩り兎が三羽と、少し離れた位置に槍猪が一頭だったので、足狩り兎は年少組に任せる事にする。
「それじゃあ一瞬だけ動きを止めるから、後は各々今日学んだ事を見せてやれ」
「「はい!」」「任せるのじゃ」
三人はそれぞれに狙いを付けた足狩り兎に向かって走っていき、距離が近付いた時点で僕も術を使う。
今回使うのは草縛りの下位の術で草輪だ。
文字通り草で輪を作って足を引っかけるという初歩の罠を作る術だが、足狩り兎一羽に八つずつ配置してやると、全ての足狩り兎が足を引っかけて一瞬動きが止まった。
その隙を見逃さずに皆が攻撃する。
桜花様は足狩り兎の右横に走り、左耳の足元を狙った攻撃を刀で下から跳ね上げると、返す刀で身体を捻りながら足狩り兎の首の七割程を切り裂くと、足狩り兎はそのまま地面を転がって行き、止まった時には息絶えていた。
五狼は一瞬止まった足狩り兎の顎を槍を縦回転させながら石突でかち上げ、そのまま回転させて勢いを乗せた槍を無防備に曝した喉に突き立てると、足狩り兎は数秒びくびくと動いていたが、動きが止まるのを待って槍を引き抜いた。
三刃は正面から足狩り兎に対応する。耳を左右から挟み込む様に振るって来た足狩り兎の攻撃を飛び上がって躱し、足狩り兎の頭が三刃の下を通り抜ける寸前に身体を捻って首裏に左手の小太刀を突き立てると、小太刀を起点に身体を横に反転させ、その勢いのまま今度は右の小太刀を振るって延髄を切り裂いて止めを刺し、足狩り兎の身体を蹴った勢いで小太刀を抜きながら飛び退く。
足狩り兎はその勢いのまま地面を滑って行った。
「おおっ!」「凄いな」「流石だ」「一瞬で?!」
桜花様達の狩りを見学していた赤実猟団の団員達は、一対一での相対でありながら僅かな時間で足狩り兎を全滅させた皆に驚いたり、褒めたりしていた。
「流石は八神門だな。成人前にも関わらず全員が足狩り兎を一瞬で倒すとは、末恐ろしいものだ」
「熟練の狩人にそう言って頂けると皆も喜びます」
そんな会話をしている間に残っていた槍猪が桜花様達の方へ突進して来るのが見えると、阿迦井さんは僕の方を見て目でどうすると訴えて来る。
どうやら僕の実力も見せてみろと言っている様なので、ある程度近付くのを待って槍猪の前に弱めの土壁を作り、槍猪の突進を受け止める。
土壁に槍猪の槍が突き刺さると同時に土壁に土壁を重ねて密度を上げて槍部を固定させ、更に草縛りで胴体も拘束してしまう。
「術の使い方も上手い。流石だな、噂以上の実力、しかと見せて頂いた」
「恐縮です。伊吹さん、動けなくしたので止めの方はお願いします」
僕は阿迦井さんに礼を言うと、伊吹さんに槍猪の後始末を頼む。
「私が止めを刺して良いので御座るか?」
「僕は桜花様達の倒した獲物を回収して来ますから、そちらはお任せします」
「ふむ、分ったで御座るよ」
今日の目的は皆の修行だし、天照によると今更僕が兎や猪を狩った処で何の経験にもならないそうなので、止めは伊吹さんに任せて僕は桜花様達の倒した足狩り兎を回収に向かう。
「皆、お疲れ様。今日の修行の成果は出ている様だね。赤実猟団の皆さんも褒めていましたよ」
「当然なのじゃ」
「当然です」
「ありがとうございます」
桜花様と三刃は誇らしげに、五狼は恥ずかしそうに答えた。
桜花様には調子に乗らない様に注意しつつ、狩った足狩り兎を無限倉庫に収納し、伊吹さんが止めを刺した槍猪も回収していると。
「うちの倉庫持ちは容量が少ないから俺達の食糧や消耗品で精一杯だから、容量の多い倉庫持ちは急いで血抜きをしなくて良いのは羨ましいな」
阿加井さんが獲物を収納している僕に羨ましそうに話し掛けて来た。
「えーと、倉庫の広さは空間把握力で左右されるという説があります。僕達は普段から広い道場等を見ているのが良かったのかもしれません」
「広い場所なら、こうして草原とかじゃ駄目なのか?」
「必要なのは、正確な広さを認識する事だと思います。草原では正確な広さかは分からないでしょ?」
「成程、確かに区切りが無いと広さを表現できんな。八神殿、勉強になった」
阿加井さんも納得した様なので、どういたしましてと答え、撤収する。
その後は特に獲物とも遭遇する事無く僕達が拠点に辿り着くと、先程赤熊から助けた組が走り寄って来たので赤実猟団と別れて相対する。
「八神殿! ご無事で何よりです」
「そちらも無事に戻られた様で安心しました」
「八神殿に助けられたおかげです。申し遅れましたが俺は田辺組の組長、田辺旬作と言います。改めて助けて頂いた事に感謝申し上げます」
「「「ありがとうございました!」」」
組長が頭を下げると、田辺組の皆も礼を言って頭を下げる。
「元々集団狩猟は狩りの安全性を高める為のものですから、当然の事をした迄です。可能でしたら次は助けを必要としている組を助けてあげて下さい」
無理はしない様にと注意しながら、助け合いですよと促しておく。
「ああ、助けられたこの命、無駄にしないと約束する」
そう言って田辺組の皆は手を振って去って行った。
僕達は使わなかった信号弾を職員に返すと、運搬する獲物の集めてある場所に案内され、他組の獲物を無限倉庫に収納していく。
獲物は組毎に足等を縄で数珠つなぎにしており、その両端に組名を書いた札を付けて、どの組の獲物か分かるようにしてあった。
粗方収納し終わった処で、出発前に組合で見かけた知った顔、立花熊之助の姿が見えない事に気付いた。
彼は桜花様の剣術指南役を争った仲だが、先日の婚約者候補で唯一試合に負けたらしいので、少し気になっていたのだ。
無茶しなきゃ良いのだが、万が一があるかもと地図で検索してみると案の定、西南西三キロ程の位置でどうやら狼の群れに一人で囲まれている様だ。
状態も確認してみると、怪我・重症になっているので詳細を調べると、最も大きな怪我は左腕欠損十四%となっていた。
熊之助は頑張って耐えている様だが、これでは力尽きるのも時間の問題だ。急いで助けないと死んでしまうだろう。
「伊吹さん、少し用を足してきます。皆の事をお願いします」
「分ったで御座るよ」
僕は息吹さんに理ると、急いで走り出す。
「四狼殿、あんなに急いで、漏れそうだったで御座るか?」
不名誉な言葉が聞こえるが、今は時間に余裕が無いので気にしない。
僕は拠点が見えない位置まで走ると熊之助の位置を確認し、熊之助の三十メートル程後ろに転移する。
熊之助の周りを六頭の灰色狼が取り囲んでいるので、この位置から全部を倒すのは面倒そうだ。
『ご主人様、威圧で追い払うのをお勧めします』
『威圧強度は二以下にしないと、熊之助の心臓が持たないのですよ』
二人の助言を受けて、僕は威圧の能力を灰色狼に向けて放つと、灰色狼はびくっっと反応した後、一斉に僕と反対の方に逃げて行った。
灰色狼が逃げ出した事で緊張の糸が切れたのか、熊之助はそのまま意識を失って倒れた。
僕は熊之助の元に駆け寄ると状態を再確認する。身体中に傷があるが、特に酷いのが半ばまで噛み千切られた左腕で、骨が露出していた。
その次が右太腿の引っ掻き傷だろう。こちらもそれなりに出血していて危険な状態だ。
傷口に浄化の術を掛けて綺麗にし、治癒術上位の再生術で欠損した部位を再生させ傷を癒す。
状態が昏倒に変わったのを確認すると、熊之介を肩に担いでその場を後にした。
間に合って良かったよ。
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