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暦の違い

お待たせ致しました。

今回も僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

「つまり、シロウ殿は新しい国を作って、その国の王になると言うのだな?」

「ええ、正直不本意ですが、それが一番目標に近いらしいのと、その為に必要な物の大半が揃っている以上、使わないのも勿体ないですからね」

「それが明日起こるという事件なのですね。そしてライル様も協力者の一人として、シロウさんの国に移民するとおっしゃっているのですか?」


 フランシーヌさんは納得した、という顔で確認してくる。


「はい、ライルさんには町の管理、代官の様な仕事をして頂けるという事で了解を得ています。よろしければ侯爵も僕の作る国で、ライルさんと同じ様な仕事をする気は有りませんか?」

「儂にもシロウ殿の部下になれと言うのか?」

「間違ってはいませんが、正確にはライルさんの下で、ライルさんとは別の町の管理になりますから、今の仕事とそう変わらないと思います。勿論、無理にとは言いませんが、この地に残っても共和国の略取に苦しめられるだけでしょうし、食糧の問題も有ります」


 僕の説明に侯爵は「それはそうだが」と一応の納得はしているものの、乗り気ではない様だ。

 しかし、アルベール王国は四割近くが荒野だったのに加え、更に北から中央に掛けて水質汚染まで発生してしまっては、現在の国民を支えるだけの水が確保できないのだから、当然食糧の生産も儘ならない。

 更に国を守る騎士の大半が戦死しているので、主要な町を占拠している共和国兵を倒したり、追い出したりする事もできない。

 つまり、国としては既に詰んでいるのだ。


「私は、ライル様と一緒に行きたいと思います」


 フランシーヌさんはライルさんと共に居たい一心で、移民を受け入れてくれる様だ。


「その、シロウさんの国には領民も全員、移民させて貰えるのでしょうか?」


 今まで話を聞いているだけだったロザリーさんが質問してきた。


「一応、犯罪者や他国の間者の様な、国に不利益をもたらす者や、法を守る気の無い者は許可できませんが、基本的に希望者は全員受け入れる予定です」

「犯罪者を排除するのは理解できるが、シロウ殿の国の法が分からなければ守る事すらできんぞ」


 侯爵の言う事は尤もだが、まだ法律は考えていない。


「法律については僕の故郷とアルベール王国の文化や法律も考慮して、今後ライルさんとも相談して作る予定です。良かったら侯爵も参加なさいますか?」


 法の作成に自分も加わって欲しいと言われて侯爵は驚いているが、僕は政治に関しては素人だから、経験者に手伝って貰う方が良い法になるのは間違い無いと思う。


「お父様、これは好機です。新しい国の建国に加われれば、我が家は今後も安泰です」

「そうね、あなた、このままこの地に残っていても良くて共和国の植民地、最悪国民全員が奴隷にされる可能性もあります。何よりここには美味しい食事も有りませんのよ」


 侯爵は即物的な女性陣に少し残念そうな顔をするが、じり貧なのも承知しているのだろう。


「まずは王子に会ってからだな。それまで返事は待って欲しい」

「ええ、それで構いません。明日の昼過ぎに移民計画を国中に発表しますから、朝食の時にでもご一緒しますか?」

「明日の朝に会えるという事は、ライル様は既にこの町に来ていらっしゃるのですか?」


 フランシーヌさんは、明日の朝にライルさんに会えるという事で誤解を与えてしまった様だが、ライルさんはこの町から数十キロ離れた荒野に居る。

 今回も転移の偽魔道具で誤魔化そうと思ったのだが、地図上を動いていた反応のいくつかがこの部屋に近付いて来ているのに気が付いたので、食堂の扉を見つめて尋ねる。


「その説明の前に、この部屋に複数の人が近付いてきていますが、この邸には他にも大勢の身内の方が居るのでしょうか?」

「いや、使用人共は既に休ませておるから、儂が自ら妻達を呼びに行ったのだ。他には入口を護る兵士しか居らぬ筈だが、まさか! 共和国の者が侵入したのか!?」


 侯爵が慌てて立ち上がるのと同時に扉が叩かれ、声が掛けられる。


「侯爵、こちらに居られますか? 共和国の者が火急の用が有ると…」

「退け。邪魔するぞ、侯爵」


 警備兵の言葉を遮って扉が開かれ、六人の男が雪崩れ込んで来た。


「貴様、勝手な事を…」


 廊下から、警備兵が声を上げるが、共和国兵に銃を向けられては抵抗も難しそうだ。


「良い! お前は廊下で待機しておれ」

「はっ! 失礼いたします」


 侯爵に命じられた警備兵は、自分が居ても盾にもならないことを知っているので、素直に従って廊下に残る。


「して、何用だ! 貴様達にこの邸に立ち入る許可は出しておらぬぞ!」

「侯爵、確かご家族は病気で臥せっているとの話だったが、これはどういう事かな?」


 侯爵の言葉を無視して、共和国兵がフランシーヌさんやロザリーさんを見て詰問してくる。


「病人でも食事はする! 貴様達の国では病人に食事を与えないのか? 理解したなら早々に立ち去れ!」


 侯爵は勢いで誤魔化す心算の様だが、共和国兵は気にせず続ける。


「我が国では食堂に移動できる程元気な者を、病人扱いはしない。病人は寝床で食事するものだ」

「くっ」


 共和国兵の正論に、侯爵も次の言葉が出てこない。


「なんか旨そうな匂いがするぞ。こんな匂いは初めてだ。食い物も隠してたのか?」


 共和国兵の一人が鼻をならしながら匂いの元を探す。


「へへっ、邸を見張っていたら変な光が見えたんで、怪しいと思ったんだ」


 どうやら僕達が食堂に移動した時の明かりを見られていたらしい。


「侯爵、汚染されていない食料の半分と、若い元気な女が居るのなら引き渡す約束だった筈だ。連れて行くぞ」


 そう言って共和国兵が更に食堂の奥に進み、食卓に近付く。

 共和国兵の態度にジスレーヌさんはロザリーさんにしがみついて怖がっており、フランシーヌさんは気丈にも共和国兵を睨んでいるが、若干身体が震えていた。

 折角綺麗に話が纏まりそうだったのに、彼らのおかげで台無しだ。


『天照、彼らの銃器の威力は分かる?』

『ご主人さまの常時結界は龍皇の攻撃すら防ぎます。何の問題もありません』

『彼らの豆鉄砲など、生身で受けても主様には銀玉鉄砲程にも感じないのですよ』


 それはそれで威力が弱いのか、僕が異常なのか分からないけど、問題が無いのなら邪魔者にはさっさと退場して貰った方が良い事に変わりない。

 天照達のお墨付きを貰った僕は、念の為にフランシーヌさん達を囲む見えない防御結界を張り、更に食堂を包む結界を張って、これ以上共和国兵が増えない様に音も遮断する。

 準備ができた処で、僕は椅子から立ち上がり、近付いて来る共和国兵の前に立ちはだかって挑発する。


「止まれ! 侯爵家の者は僕の庇護下に入る事になった。残念だけど君達の要望には応えられない。さっさと国に帰るのなら、見逃してあげるよ」

「シ、シロウ殿、無茶はいかん!」


 僕の強気な言葉に侯爵が心配してくれるが「この程度の相手は問題にならないです」と答える。


「なんだこのクソガキは! ガキに用はねぇんだよ!」


 共和国兵の一人が怒鳴りながら【パン!】と小銃を僕に向かって撃つ。


【キン!】


 小銃の弾は思っていた程の速度も無く、坂本殿の斬撃の方が早く感じる程度だったので、素早く緋桜を抜いて弾を床に弾く。


「小銃の弾って、思っていたより遅いんだな」

「シロウ殿、いつの間に剣を…?」


 共和国兵だけでなく、侯爵達も僕が緋桜を抜くのが見えなかったらしく、暫く何が起こったのか理解できなかった様だ。


「ふっ、ふざけるな!」

【パン!】


 更に別の男が小銃を撃ったので、今度は左手で受け止めてみせる。


「やっぱり、威力も大した事無いか」

「ばっ、馬鹿な!」

「化け物か!?」


 誰が化け物だ! 受け止めた弾を指で弾いて化け物呼ばわりした共和国兵の耳朶を撃つと、弾は耳の下半分を吹き飛ばして結界に当たり、そのまま床に落ちる。


「うぎゃーっ! 俺の、耳がっ、耳がーっ!」


 片耳の半分を失った男が、耳を抑えながら跪く。

 加減が足りなかったのか、予想より損傷が大きくて驚いたが、僕以上に皆が驚いて固まっている。


「単純に君達の鍛え方が足りないだけで、この程度の攻撃なら僕の父や兄も簡単に防ぐぞ」


 僕の答えに共和国兵達は「化け物の一家なのか?」と相変わらず失礼な反応だが、侯爵家の皆も似た様な顔をしている。。


「単発では効かん! ありったけの弾丸をぶち込んでやれ!」

「オラーーッ!」

「死ね! 化け物ーっ!」

【パパパパパパッ!!】


 隊長らしき男の号令に共和国兵が小銃を連射してくるが、食堂や調度品に被害が出ない様に僕は全ての弾丸を見切り、無限倉庫に収納していく。

 やがて弾倉が空になり、銃撃が止むが、僕は勿論、何処にも被害は無い。


「あ、あり得ない……」


 共和国兵が絶望的な顔で僕を見ている。


「次は僕の番ですね」


 そう言って笑いかけると共和国兵は「ひぃっ」っと顔を引き攣らせて一歩下がる。

 僕は構わず、月読が言っていた痛みだけを与える斬撃で男達の意識を次々に刈り取って行く。


「うぎゃっ!」

「ぐわっ!」

「あがっ!」


 全員を昏倒させると、ライルさんに見せた襖を使って共和国北東の山に空間を繋ぎ、男達を投げ入れて共和国兵の排除をする。

 その後は床に散らばっている銃や空薬莢を無限倉庫に収納して片付け、更に耳朶を吹き飛ばした際の血の跡も浄化の術で掃除した。


「ふうっ」


 共和国の銃器は僕が予想していた程の脅威じゃ無かったとはいえ、初めての銃撃には流石に緊張した。

 共和国兵を放り出して安全になったので、結界を解いて僕は再び席に着く。


「あの、シロウさん? 銃弾を手で受け止めていた様ですが、大丈夫なのですか?」


 逸早(いちはや)く正気を取り戻したフランシーヌさんが心配そうに僕に尋ねて来る。


「思った程の威力では有りませんでしたから、問題ありません」


 そう言って掌を見せるが、後すら残っていない手を見てフランシーヌさんも安心した様だ。


「シロウ殿はとんでもなく強いのだな。動きがまるで見えなかっただけでなく、まさか銃弾を素手で受け止めるなど、直に見ても信じられん」


 銃弾が効かないとか地球では有り得ないだろうけど、この世界では位階さえ上げれば誰にでもできるらしいので、侯爵にはそう答える。


「そうか、シロウ殿の国には大勢の強者が居るのだな。羨ましい限りだ」


 侯爵は自国の兵の弱さに悔しい思いをしていたのだろう。


「その分、強力な魔物が多いので、必然的に強くならざるを得なかったのです。それに、強い魔物の方が美味しいですから。修行にも興味が有るのでしたら、希望者には指導もしますよ」


 負けた方が食料になるのだと説明すると、侯爵は顔を引き攣らせて訪ねてくる。


「移民先にもその様な強力な魔物達は居るのだろうか? もし居るのであれば、我らには厳し過ぎる環境なのだが、その修行で我々でも戦える様になるのだろうか?」


 侯爵の心配は(もっと)もだ。今より危険な場所への移民など、心配の種でしか無い。


「御心配には及びません。町の中は安全ですし全員が戦える必要もありません。戦力は十分に有りますし、無理に戦わなくても他にも仕事はありますから」

「ああ、それもそうだな。戦うだけが仕事ではないな」


 どうやら侯爵も安心してくれた様だ。


「あの、シロウさん、最後の板の様な物は何なのでしょう? 動かした後に外の景色が見えたのですが」

「これは先程説明しそびれた、離れた場所に繋げて移動出来る魔道具です」


 ロザリーさんが襖を疑問に思った様なので、偽の転移の魔道具を説明すると、やはり皆が驚いていたが。


「どこでも……襖?」


 フランシーヌさんだけは意外と冷静なのかもしれない。


「この遠くの場所に空間を繋ぐ魔道具でライルさんの居る場所には簡単に行けますから、明日の朝八時頃に迎えに来ます。その後、一緒に朝食を食べながら話しましょう」

「八時から集まるとなると、王子達も朝食が遅くなるが構わないのだろうか?」

「そうですか? 僕の故郷では九時頃に朝食を食べていたのですが、この国の朝食は何時くらいに食べているのでしょう?」

「八時から仕事の者も多い。それまでに職場に着かねばならんから、六時から七時辺りが一般的だと思う」

「八時から仕事だと、冬場は太陽も出ていないのではないですか?」


 東にも小高い山があるアルベール王国では、日の出の時間も遅くなると思うのだが。


「いや、流石に冬場でも八時には太陽も出ておる」


 何か話が噛み合っていない気がするので、天照に聞いてみた。


『この地方の時刻は地球と同じで、一日二十四時間制を使っています』


 成程、そういう事だったのか。しかし、一日二十四時間だと一時間が結構長くなるのだが、どっちが良いのだろう?

 しかし、今はその議論は必要ない。違いが分かっただけで十分だ。


「もしかして、この国ではこの形の時計を使っていませんか?」


 そう言って僕は無限倉庫から十二時間表示の時計を取り出して侯爵に渡す。


「ああ、儂らが使っている時計との違いは見られないな」

「やはりそうですか。僕の故郷で使っている時計はこちらになります」


 今度は十六時間表示の時計を出して渡すと、侯爵も納得してくれた。


「シロウ殿の国の時計は、随分数字が細かいのだな」

「こちらの方が文字盤も作り易く、時間の管理も楽らしいのですが、そちらは慣れだと思います」


 他にも月の単位等、暦の違いを確認していくと、アルベール王国では七日で一週間、三週間で一ヶ月、十二ヶ月で一年になり、端数を年末一日と年始の三日で別にしてお祝いなのだそうだ。

 お互いの認識の違いを確認した後は、時刻を合わせる為に二つの時計を並べてテーブルに置く。


「それでは、これらの時計の短針が真下に来る頃にお迎えに来ようと思いますが、それで構いませんか?」

「短針が真下で八時というのも不思議な感じだが、短針の位置だけ見ておれば問題なかろう」


 侯爵は不思議そうに僕の出した時計を眺めるが、どちらにしてもこの時計を見れば時刻は分かるので、今は気にしなくて良いかと気持ちを切り替えた様だ。


「それより先程の共和国兵の仲間がまだ町には大勢残っている。仲間が戻ってこないとなると探しに来る筈だ。今夜の内に移動した方が良いのではないだろうか?」


 侯爵の心配は当然だろう。ならば元から朝方には共和国兵を排除する予定だったのだから、この町は先に始末してしまおう。


「御心配には及びません。今夜の内にこの町の共和国の者には全員、国に帰って貰います」

「成程、先程の移動の魔道具を使うのだな? しかし、シロウ殿一人で全員を始末するのは大変では無いのか?」

「他にも協力者が居ますから、大丈夫です」

「そうか、何から何まで便り切りですまないが、宜しく頼む」


 そう言って侯爵は頭を下げる。


「フランシーヌさんが元気になって、色々話したい事も有るかと思いますが、話す時間は今後いくらでも有りますから、今日は明日に備えて早めに休んで下さい」

「シロウさん、ありがとうございます」


 そうして襖の実践も兼ねてフランシーヌさんの部屋に繋いで移動し、侯爵家の皆に見送られて僕はそのまま襖を開きなおして町の外に転移する。

 そこで町に居る共和国の者を地図で検索して、纏めて共和国の東端付近の草原に転移させる。

 更に共和国兵に捕らわれていた者を検索し、いくつかの建物ごと無限倉庫に収納しておいた。

 やはり治療の必要な者が多かったからだが、この地方は拷問好きが多いのだろうか?

 移民は意外と少なくなりそうだと思いながら、僕は荒野の宿に戻った。



読んで下さった方々、有難う御座います。

次回も今回と同じ位の日数で更新できる様、頑張ります。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価等もして頂けると、とても励みになります。

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