錬成治療
お待たせいたしました。
今回も一万文字を超えたので、途中で切らせて貰いました。
僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。
他の分体が盗賊回収をしているのと同時に、更に別の分体は緊急の治療が必要な者の治療をして周っていた。
隠形で姿を隠して地図で検索した患者の部屋に転移した後、寝ている患者の額に触れて毒素を無限倉庫に回収し、傷んだ身体を治す治癒や、周囲の魔素を取り込んで栄養に変換する活力の術を掛けるだけの簡単な仕事だ。
人数もそれほど多くない為、簡単に終わりそうだと思ったのだが最後の一人、白っぽい銀髪をした前世知識持ちの女性はそれだけでは回復しなかった。
『天照、どういう事?』
『他の病気も併発している様です』
『鑑定するのが手っ取り早いのですよ』
それもそうかと、月読に言われるままに鑑定してみた。
名前:フランシーヌ・シャリエ
生年月日:アルベール歴426年3月10日 h0E歳(14歳)
種族:人族
身長:147センチ
体重:36キロ
胸囲:72センチ
胴囲:52センチ
尻囲:74センチ
状態:胃癌、大腸癌
性交:無
霊格:h80
位階:h6
腕力:4
握力:3
脚力:3
知力:6
記憶力:8
体力:4
呪力:5
固有能力:前世知識
能力:生物鑑定3、異界収納2、嘘感知2、害意感知3、算術4、話術2、礼儀作法1
役職:領主の長女
本当に同時に複数の病気を患っていた。
『これも今までと同じ様に、癌化した部位を無限倉庫に回収して、掛けた部位を修復すれば良いのかな?』
『いえ、回収するのが体内の不要な中毒物質から、身体の一部になりますので、このまま回収するのは身体に負担が大きく、危険です』
『止血等をしながら取り除いた患部を正常な細胞で復元しないといけないのですよ』
そんな事を言われても、僕は能力の医術を持ってはいても前世で医者だった訳でも無いので実際の手術の経験は無いから、手術が必要となったらお手上げだ。
『ご主人様ならば問題ありません。錬成空間を使った錬成治療で、時間を止めて作業すれば容易い事です』
錬成空間はそんな事もできるのか。
『錬成治療を使うのでしたら今後の事も考慮して、患者に了承を得ておく方が良いのですよ』
『移民しましたら前世知識から病気が治った原因にも気付くでしょうし、衣服に違いがあっては不信感を持たれてしまいます。ならば先に説明して恩を売った方が良いでしょう』
『恩を売るってのはともかく、衣服って?』
『手術ですから、例え身体を切らなくても、汚れた服を着たままという訳にもいかないのですよ』
『衛生管理は必要ですし、服等余分な装飾が無い方が解析が正確になります。術後も清潔な衣服を着せた方が良いでしょう』
確かに、最近清浄な水が不足しているこの地域の人達は、服も身体も汚れている。
それだけなら浄化の術で誤魔化せそうだが、解析に影響が出るのでは仕方が無いし、新しい服を着せた方が手術が終わった事が伝わり易いかもしれない。
何より今後も同じ前世知識持ちとして付き合っていくなら、状況の説明はしておいた方が良いだろう。
そう考えた僕は隠形を解いて姿を見せるが、さて、どう話しかけようかと迷っていると女性の方から話し掛けられた。
「だれ?」
先程触れた時は寝ていたのだが、その時の感触で起こしてしまった様だ。
それに、痛みがあるのだろう、途切れ途切れに問い掛けてくる。
「ここ…金目の…無い……私…貧相……満足…出来な……多分…途…中……死ぬ」
言いたい事は分るが聞き辛いし、痛みに耐えている人を見て喜ぶ趣味もないので、痛覚遮断の術で一時的に痛みを麻痺させてやる。
「えっ? 痛みが、消えた?」
「話辛そうだったので、一時的に痛覚を麻痺させる術を掛けさせて貰いました」
「そうなの? ありがとう。一時的にでも、痛みが無くなるのは助かるから、一応お礼は言っておくけれど、声からして男性の方ですよね? 夜半に無断で女性の部屋に侵入した貴方は何処の何方なのかしら?」
部屋には窓から月明かりが入ってはいるが薄暗く、僕には暗視能力が有るので確り見えているのだが、彼女から僕は見えていない様だ。
このままでは話し辛いので、明かりの術を使って光の珠を作ると、その珠はふわりと浮き上がって四つに分裂し、螺旋を描く様に上昇しながら僕達を囲む位置で停止して辺りを照らす。
「明るくなった! それに凄く奇麗な光。貴方は魔術師なのね? それにその服、きも…いえ、見慣れない変わった服を着ている様子から、この国の者ではなさそうね」
フランシーヌは知らない男が何時の間にか部屋に居たという、普通なら恐怖を感じるであろう事態にも、僅かな緊張のみで冷静に質問しながら僕を観察しようとする。
「夜分遅くに許可も取らずに部屋に侵入した事は謝罪します。ご推察の通り、別の国からやって来ました。僕の名はシロウ、貴女と同じく前世知識を持つ者です」
僕の答えに目を見開いてフランシーヌが驚いている。
「驚いた、私以外の前世知識持ちなんて初めて見たわ。それに、どうやって私が前世知識を持っていると分かったのかしら?」
そう言って上体を起こそうとしたので「病気が治った訳じゃないから」と、そのまま寝ている様に言うと素直に従ってくれた。
そして、ライルさんにしたのと同じ様に鑑定の熟練度、つまりレベルが高いからだと説明した。
「そう、鑑定もレベルが上がると分からなかった事が分かるようになるのね。レベルが上がっても何が変わったのか分からなかったから良い事を聞いたけど、もう直ぐ死ぬ私には必要の無い知識ね」
「鑑定の初期ではレベルが上がると、鑑定に掛かる時間が短くなるのと、鑑定妨害の突破率が僅かに上がるそうですよ」
「そうなの? 全然実感はないし、鑑定の妨害なんて能力も初めて聞いたけど、未来の無い私には必要の無い情報だわ」
悲観的な感想を繰り返しているが、実際に僕が治療しないと明後日の朝には現実になる処だったのだから無理もない。
そして、このままでは生きてる時間がいくらか伸びただけだが、僕はその未来を覆す為に姿を見せたのだから、その説明をする。
「その事なのですが、僕がここに来た理由は貴女の病気を治す為なのです。治療の許可が頂ければ確実に治せますので、当分死ぬ事は無いと思いますよ」
僕の言葉に僅かに緊張していた彼女の表情に訝しさが混じる。
まあ、当然かもしれない。前世の僕なら寝込んでいる処に、突然知らない男が現れて「お前の病気を治してやる」とか言われても、何も答えずに警察に電話するだろう。
「不審に思う気持ちも理解できますが、前世知識を持っているのなら女神様の記憶も残っているのでしょう? 僕の目的は功績を積む事です」
フランシーヌは少し考えた素振りをした後、暫く僕を見つめてから口を開く。
「私と同じ歳で凄いレベルなのね。でも、それで本当に治せるの? どの医者も治療法どころか原因の毒も分らなかったのに」
僕を鑑定した様だが、フランシーヌさんの鑑定の熟練度では、名前・年齢・種族・位階・通常能力までしか見えない筈だが、治療に来た事を信じて貰う為に、今の僕は医術や治癒術に錬金術も開示情報に追加して、更に全ての熟練度を8にしているのだが、位階は元からこの国の平均の五倍近いので変えていない。
「少なくとも僕なら治せますし、毒物に関してもこの国の多くの人が患っているのはカドミウムや鉛や水銀等の中毒なのは分かっています。貴女の中毒の方は既に治療を終えているのですが、貴女の場合はもう一つ、胃と腸に癌を患っていたので治療には説明が必要だと思い、直接声を掛けました」
フランシーヌさんは僕があっさり原因を答えたので「中毒は治ってる?」と驚いていたが、直ぐに気を取り直して次の質問をしてくる。
「嘘は言っていない様ね。それで、私は対価に何を支払えば良いのかしら?」
「特に対価を要求する心算はありません。しいて言えばなるべく長生きして頂ければ、それが僕の功績に加算されるそうなので助かります」
「日本でも言っていたでしょ? タダより高い物はないのよ」
それはそうだし、実際に後から要求されたり、何度も恩を着せられると面倒なんだよね。
「でしたら、前世の事を気にせず話せる友人は少ないですから、僕の友人になって下さい」
「それは、私も願ってもない申し出だけど、そんな事で宜しいの?」
「勿論ですよ。それで可能な範囲でお互いに協力とかできたら、この危険な世界でも少しは楽しく生活できると思いませんか?」
僕の提案に、フランシーヌさんは申し訳なさそうに答える。
「協力は私の方が一方的にお願いする事になりそうですが、本当にそれだけで宜しいのですか?」
「協力もできる範囲で、ですし、今は詳しく説明できませんが明日、大きな事件が起きます。強制はしませんが、できれば参加して下さい。損はさせませんよ」
「大きな事件なら既に共和国が起こしてるわ。これ以上何が有るのよ」
フランシーヌさんはそう言って困惑顔だが、今は時間に余裕が無いので早速手術の概要を説明する。
「それは貴女が健康になってからの話なので、まずは手術について説明します」
「本当に治せるのよね?」
「勿論です。しかし、手術と言っても地球とは違って魔術や能力を使うので傷も残りませんし、フランシーヌさんからは一瞬で終わってしまいます。許可して頂きたいのは、治療そのものの許可と、服を脱がせる事、そのせいで僕がフランシーヌさんの裸を見てしまう事位です」
「え、それだけですの? 確かに男性に裸を見られるのは恥ずかしいですが、胃や腸の手術をするのなら仕方が無いですし、私の貧相な体を見ても、楽しくは無いでしょう?」
実際、フランシーヌさんの身体は病気と栄養不足でかなり痩せていて起伏に乏しいし、別に楽しむ為に服を脱がせる訳じゃないけど、そう聞かれて答えに困ってしまい。
「なるべく見ない様にします」
と答えるのが精いっぱいだった。
「あと、手術に使えるレベルの魔術というのも興味が有ります。無事に手術が成功したら、お話を聞かせて頂けますか?」
「その位なら容易い事です。練習すれば貴女も多少の魔術は使える様になれますから、今は治療に専念して下さい」
「はい、それは後の楽しみが増えました。それで、いつ手術をなさるのですか? その場所までの移動の事も考えないといけませんし、他に必要な物はありますか?」
まあ、普通は手術をするのは病院の手術室だから、そう考えるのも当然だ。僕の説明不足でもあるのだが。
「場所はここで、今直ぐに始めます」
「え、でもこの部屋、お世辞にも手術ができる程に清潔ではないわよ」
確かに領主の令嬢の私室だけあって、それなりに清潔さを保ってはいても、当然手術室とは比べ物にならないのだが、錬成空間を使うので問題は無い。
「魔術を使いますから問題ありません。目を瞑っていれば一瞬で終わりますし、元気になったら魔術書をお貸ししますから、ご自分で覚えて練習してみて下さい」
「それは楽しみな提案ね、折角魔術のある世界に生まれたんだもの、魔術に憧れは有ったのよ。もっと生きて魔術を使いたくなってくるわ。それじゃあ、宜しくお願いします」
フランシーヌさんはおどけながらも最後には真剣な顔でそう答えて僕を見つめると、そっと目を閉じた。
僕はフランシーヌさんの身体を掛け布団ごと無限倉庫に収納し、服と一緒に分離しておく。
その後は天照の指示に従いながら、身体の汚れと一緒に胃や腸の中の物も分離してフランシーヌさんの準備は完了だ。
次にベッドの上に内部の時間を停止させた錬成空間を展開し、中にフランシーヌさんの身体を送って手術を開始する。
手術と言ってもやる事は前とそう変わらない、錬成空間の能力でより精密に解析する事で癌化した細胞を完全に把握し、その全てを直接無限倉庫に収納して、最後に欠損した部位を修復させるだけだ。
時間が止まっているので多少強引な事をしても問題が無いのは気楽だが、これを手術と言っても良いのだろうか?
そう考えながら薄い胸の下、胃の辺りから順に解析し、癌細胞の位置を把握していく。
全身の癌細胞を把握すると、その全てを無限倉庫に収納し、欠損部位に治癒と活力の術を掛けるとあっさり手術は終わる。
服を脱がせて全身を解析したついでに、長いベッド生活で出来た身体の歪みや床ずれを含め、細かい傷も治療しておいた。
女性の身体に傷は無い方が良いとだろう思ったからだ
全ての治療を終えたので一応鑑定してみたが、状態はやはり栄養失調になっていた。
これなら食事さえきちんと取れば直ぐに健康になるだろう。
『おめでとうございます、ご主人様。今回の治療で異界治療師、治癒術の極み、死神を狩る者の称号を獲得致しました』
相変わらず称号って変なのが多いなと思いながら、遂に死神迄狩っちゃったのかと少し唖然とした。
しかし、何時までもフランシーヌさんを裸のままにはしておけないので気を取り直し、彼女に新しい服を着せる。
そして和富王国の褌や紐下着は慣れていないと抵抗があるだろうと考え、この国の一般的な下着と同じ物を無限倉庫から取り出して不可視の手を使って穿かせ、服は上下別だと面倒なので旅館の浴衣の様な上下一体の簡単な服を着せてあげる。
作業が終わったのでベッドに浄化の術を掛けて清潔にし、錬成空間を解除しながら、ゆっくりとフランシーヌさんの身体をベッドに下ろし、汚れを分離した掛け布団を掛けてあげた。
「んっ」
フランシーヌさんがベッドに戻った感触に声を上げる。
「終わりましたよ。手術は成功です。明日には歩けるようになると思います」
「えっ、もう? って、明日には歩けるの?」
「まあ、手術と言っても切り取った部位は直ぐに魔術で修復させましたから、本来なら筋力が落ちていなければ直ぐにでも歩ける筈でなんですよ」
フランシーヌさんは何度目か分からない驚きに固まっていたが、暫くすると再起動して上体を起こし、頭を下げる。
「シロウさん、ありがとうございました。まさか私の病気が治るとは思ってもいなかったので未だに実感が薄くて、少し混乱しています」
「どういたしまして。今はまだ少し栄養失調気味なので、しっかり栄養を取れば直ぐに走ったりも出来る様になりますよ」
僕の診断にフランシーヌさんはため息をつきながら答える。
「その、恥ずかしい事なのですが、現在この国では栄養のある食事はおろか、普通の食事ですら困難な状態なのです」
「ええ、事情は他の人にも聞いていますから、食事も僕が用意しましょう」
「そんな、まだ何もお返しできていないのに、病気を治して頂いただけでなく、食事までお願いしては申し訳が無さ過ぎます」
「いえ、寧ろ折角病気を治したのですから、しっかり健康にならないと無駄になってしまいます」
「それは、そうかもしれませんが…」
フランシーヌさんはまだ納得していない様なので、僕から対価を提案する。
「それでは健康になったら前世知識を使った頭脳労働で返して下さると、とても助かります。勿論、出来る範囲で構いませんし、それ以外の事でも構いません」
「そうですね、私は体力が有りませんから、頭を使う方がお役に立てるかもしれません」
フランシーヌさんも納得してくれた処で、ベッドを跨ぐ形のテーブルを無限倉庫から出して設置し、ライルさん達に出した夕食の、本来お店で出されている完成品の雑炊を提供した。
「これは、雑炊?」
「はい、僕の故郷では米が主食ですし、少しでも消化に良い物をと思って、雑炊にしました」
「シロウさんの異界には色んな物が入っているのね。しかも温かいなんて」
この辺りでは異界倉庫は珍しいのだろうかと思いながら、異界収納の上位版は内部時間が止まっている事を説明しながら、薄めた果汁水を湯呑に注いで出してあげる。
「異界収納に上位版があったなんて」
少し残念そうに言っていたので「運が良ければ上位版に変わる事もあるそうですよ」と答えながら話し易い様に椅子を出して座り、自分の湯呑にも果汁水を注ぐ。
「さあ、冷めてしまうと味が落ちますから、火傷しない様に気を付けて食べて下さい」
「そうね、折角だから、ありがたく頂きます」
フランシーヌさんは一口食べると気に入ったのか、黙々と食べ始めた。
僕はここでも気に入って貰えた様で良かったと思いながら、果汁水を啜る。
やがてフランシーヌさんが雑炊を食べ終え、更に果汁水を半分程飲んで落ち着くと、僕に尋ねて来る。
「シロウさんの国には米が有るんですね。こんなに美味しい食事はこの世界に生まれて初めてです」
「この雑炊は僕の故郷に在るお店の人気の物なのですが、気に入って頂けたなら何よりです」
「私もシロウさんの故郷に生まれてたらこれが…でもそれだと…でも既に…」
フランシーヌさんが何やらブツブツと呟いた後、申し訳なさそうにお願いをしてくる。
「あの、散々お世話になっていて申し訳ないのですが、この食事を私の家族にも分けて貰えないでしょうか?」
「それは構いませんが、この状況をどう説明しましょう?」
僕の質問にフランシーヌさんは黙ってしまったが、顔には考えていなかったと書かれていた。
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