表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/103

弱さの原因

お待たせ致しました。

今回も楽しんで頂ければ幸いです。

「先程から皆さんが何度も言っていますが、そもそもアルベール王国の食糧難の原因は分かっているのですか?」

「原因は分からぬ。しかし三年程前から国のいたる所で水が異臭を放つようになったそうだ。そしてその水を畑に撒くと作物が枯れるようになったらしい」

「当然、直接飲んで体調を崩す者も多かったそうです」


 僕の質問にライルさんが答え、グラハイムさんが補足してくれる。


「その被害は国全体に及んだのですか?」

「いえ、主に国の北に被害が大きく、西は全く被害は無かったのですが、北には我が国一番の穀倉地帯でしたので被害が大きくなったのです」

「当時北に調査に行った兄上達によると、魚や鳥なども大量に死んでいたそうだ」

「東には被害が無かったのですか?」

「東は元から荒野ですから、農業処か人もあまり住んでいません」


 話を聞いた限りでは水が原因の様だけど、被害が東ではなくて北だったという事は共和国が仕組んだ可能性は低いのかな?

 アルベール王国は平均標高は六百メートル程で南北と西に三千メートル級の山があり、共和国のある東から南東に掛けては千二百メートル級の山と周りの大半を山に囲まれた地形だ。

 共和国の人間がわざわざ高い山に登って何かをするとは考え難いが、その辺りも移民が一段落着いてから共和国の事と一緒に調べた方が良さそうだ。


 結局理由は分からないので移民の話しに戻ったが特に反対する者も出ず、ほぼ全員が賛成だった為にすんなり進んだ結果、明日の午前中に僕が王都を占拠している共和国軍を一時撤退させて、占領軍の居なくなった隙に僕の術を使って国中に告知して、明後日には移動を開始する事になった。

 撤退させる方法を説明するのは色々面倒なので、軍事機密で誤魔化している。


「では、明日の昼過ぎに各町や村にライルさんの姿と声を飛ばして民に連絡する、という事でよろしいですね?」

「ええ、それで構いませんが、シロウ殿は本当に色々便利な術が使えるのですね。羨ましい限りです」


 これは術だけでなく、色々な能力の組み合わせなのだが細かく説明する必要も無いだろう。実際、ライルさんは前世知識でテレビ中継なども知っているので、僕が何をしたいのかも理解しているのだから。

 そして放送の次の日から王都から順番に移動を始めて、数日掛けて希望者を移動させる予定だが、まぁその辺りは経過を見ながら判断する事になるだろう。


「術は訓練次第である程度は使える様になりますから、興味が有るのでしたら今度資料をお貸ししますし、希望者には指導者も用意しますよ」

「はい、この移民が一段落着いたら是非お願いします」


 今後の予定も決まった処で時刻も夕方の八時を過ぎている。まだ暗くなるまで多少の時間は有るが、そろそろ寝床の準備もした方が良いかなと考えていると月詠達から提案がされる。


『ついでに少し主様の刀の力を見せつけるのですよ』

『交渉は済んだし、今更必要無いんじゃない? 逆に怖がられるだけだと思うけど』

『いえ、修行次第でこの位は出来るという程度の力を見せて、向上心を煽っておくべきだと思います。それほどに今の彼らは弱いのです』


 確かにここに居るアルベール騎士の中で一番レベルの高いグラハイムさんですら二十八歳にしてレベル十一しかない。十歳の三刃の位階が十二だという事を考えるとかなり低い。

 ここに居ない者も気になったので検索してみたが、アルベール王国民のレベルの中央値は四で、騎士や兵士でも七、最高でも十三しかない。しかしそれ以上に身体能力が低いのは何故だ?


『この辺りは魔物も弱くて少ない為、身体能力が上がり難いのも弱さの原因なのですよ』

『強い魔物の肉は身体能力向上の効果が有りますから、和富王国の様に強い魔物のいない地域では危険も少ない代わりに身体能力が下がります』


 なるほど、和富王国は魔物が多く、位階が十を超えないと町の外には出られない。そう考えるとアルベール王国民の大半が和富王国では町から出られる半分程度の強さ、つまり和富王国の幼児並の強さしかない訳だ。

 国を作るなら魔物の少ない安全な国を作れないかとも思っていたが、それでは国から出られなくなってしまいそうだし、勿論国に閉じ込める気も無い。

 更に功績も詰めないのでは、皆にも功績を積んで欲しいという僕の希望にも合わなくなってしまう。

 なので月詠の提案に乗って少し僕の力を見せつける事で、皆の修行不足を示して今後の努力に繋げて貰えるなら、それも良いと思った。


「術だけに限らず、アルベール王国の騎士が弱い理由が分かりました。この辺りは強い魔物が居ないせいで能力が上がらなかったのですね」

「確かにシロウ殿に比べれば我々は弱いかもしれないが、我々にも共和国の様に強力な武器が有れば少しは…」


 突然のお前たちは弱いという僕の言葉にグラハイムさんは納得しつつ、武器の性能差だと言うので僕はそれを否定しておく。


「それは違います。強力な武器で強くなった気になっても、武器が無なればほぼ無力になる程度の強さでは、本質的な強さを持った者には勝てません。なので本当に強くなりたい者には移民がある程度落ち着いたら修行法を教えます。興味のある方は参加して下さい。頑張ればこの位はできる様になりますから」


 僕はそう言うと緋桜を抜いて南側の土壁に向かい、壁の向こうに現在の土壁で囲われた二つの範囲と同じ位の範囲を囲う土壁を作って安全地帯を広げた。そして間にある南の壁に向かって緋桜を振るう。

 八神流刀剣術、八重桜。この技は呪力の刃を速度を上げなら八つ連続で放ち、標的に同時に到達させる事で斬撃を重ねて衝撃に変え、硬い標的を桜の花びらの様に細かく砕く技だ。本来は岩男や山男といった、もっと硬い魔物を倒す為の技なのだが、刀で土壁を斬るよりは簡単なのでこの技を見せてみた。開示位階に合わせて威力を抑えた結果、土壁の攻撃が当たった場所は粉々に砕けて直径三メートル程の穴が開いていた。


「シロウ様はこんな凄い技を我々に使えるようになれと、言われるのですか?」

「少なくとも僕の故郷の兵士なら、威力の差は有りますが似た技を使えます。この種の技が使えないと倒せない魔物が居るのですよ」

「シロウ殿の国は恐ろしい魔物が跋扈(ばっこ)しているのだな」

「そんな危険な国で我々は無事に生活できるのでしょうか?」


 グラハイムさんは技の威力に驚愕し、ライルさんは魔物の脅威を心配しているが、それを気にしない騎士も居た。


「シロウ様、修行すればわたくし達にも、今見せていただいた技が使える様になるのですか?」


 三十人以上居る騎士の中で僅か三人の女性騎士の内の一人、明るい金髪を三つ編みにした女性が手を上げて尋ねてきた。


「勿論です。僕の弟も威力は落ちますが、似た技を使えます」


 五狼に三メートルの穴は無理だが、強化されていないただの土壁ならばこの半分位の穴は空けられる。


「ならばわたくしにも、その技の伝授をお願いします」

「やる気のある者は歓迎しますから、しっかり修行をして強くなって下さい」

「はい、わたくしはノエル・ティロルと言います。そこのフィルマン・ティロルの妹です。ご指導よろしくお願いします」


 ノエルさんはそう言って頭を下げた。


「そこのは無いだろう。シロウ様、妹が失礼いたしました」


 今度はフィルマンさんが頭を下げるが僕が答える前に、肩より少し長い濃い緑色の髪をした女性騎士が、ノエルさんの肩にのしかかりながら会話に割り込んでくる。


「ノエルばかり狡いですわ。わたくしはミュリエル・オービニエ。そちらはヴィクトワール・カンブリーヴと申します。よろしければわたくし達も一緒に修行を希望いたします」


 ノエルさん以外の女性騎士も修行を希望してくる。


「もちろん構いませんが移民が一段落ついてからですよ。それに今日の処はもう直ぐ日が暮れますから寝床の準備をします。丁度良いので貴女達に仕事を頼みたいのですが問題ありませんか?」

「仕事で御座いますか? わたくし共に出来る事でしたなんなりと」


 ミュリエルさんはニコリ微笑むと仕事内容を確認してくる。


「難しい事ではありません。女性は女性同士の方が良いでしょうから、助けた女性達の護衛兼まとめ役をお願いしたいのです」

「なるほど、承知いたしましたわ。わたくし達にお任せ下さい」


 先に声を掛かて来たノエルさんではなくミュリエルさんに頼んだのは、ノエルさんは十六歳でミュリエルさんは十九歳と年上だったから年齢的に上司か先輩だろうと思ったからだ。

 仕事を任されたミュリエルさんは二人の女性騎士を伴って助けた女性達が集まっている場所に向かい、代わりの様にライルさんが近付いて来たので勝手に仕事を振った事を詫びる。


「ライルさん、勝手に部下に仕事振って申し訳ない」

「いや、今は他にする事も無いし、今後は私を含めて全員シロウ殿に仕えるのですから問題ありません。それよりもシロウ殿は術だけでなく、やはり刀も使われるのですね」

「どちらかというと刀が本業ですね。術は転生特典が大きいですから」


 覚醒前から言霊術は使えたが、今ほど自由でも無かったのに比べると、刀は元から桜花様に教えれる程度には使えてたからね。今見せた八重桜も覚醒前の僕と同じ程度の威力にしている。


「なるほど、私も術系の特典を貰っておくべきだったのかもしれませんね。それにシロウ殿は服装だけでなく刀も持っているという事は、やはりシロウ殿の国は昔の日本に似た国なのでしょうか?」

「まぁ、近いとは思いますが色々混じってますから日本というよりは、間違った和風といった感じですね」

「おおーー、凄く興味深いです。機会があれば詳しく教えて欲しいものです」


 ライルさんの興味が尽きない様なので「機会があったら」と今は言葉を濁しておいて宿の準備を始める。


「それでは硬い土の上では疲れは取れませんから、今から宿を用意します」

「宿ですか?」


 言葉での説明より実際に見せた方が早いだろうと壁に開けた穴を潜った向こう側に、前に本体がやった様に複製世界で回収した宿を無限倉庫から三棟取り出して並べ、回収したままの状態だった宿の風呂やベッドは綺麗にする為に中をこっそり浄化しておいた。

 ちなみにこの宿は魔道具の発達した国から回収した建物で、和富王国の宿にしなかったのは洋式の生活をしているアルベール王国の人に和風の旅館は使い難いと思ったからだ。


「それぞれ女性用、騎士用、男性用に分けて使って下さい」


 全員が使える程大きな建物もあったのだが、身分や性別で分けた方がお互いに気分が楽だと思ったのだ。


「こんな大きな建物まで、シロウ殿の異界にはどれ程の物資が入っているのか、まるで前世の漫画みたいで何でも出て来るポケットの様ですな。私の想像を何度も超えてきます」


 僕もその意見には賛成するけど、ある物は使わないと勿体ないし、硬い荒野の地面で寝るよりは良いと思う。それに偶然だけど無限倉庫を使った時に良い物も発見した。


「一応宿の一階には風呂も有りますが、皆の鎧や服なども汚れている様なので、今回はこれを使います」


 無限倉庫から浄化装置を取り出して使い方を説明するが、一般人をはじめ魔道具を使えない者が何人もいたので僕が外から呪力を流す事で、全員が装置を使って服や身体の汚れを落とした。


「この魔道具は素直に羨ましい」


 ノエルさんが物欲しそうに眺めているけど、まだ一つしか作ってないからあげられないし、そもそも異界が無いと持ち運びできない。なのでノエルさんの事は気にせず全員の使用が終わった時点でさっさと無限倉庫に収納した。

 全員が綺麗になった処で各棟の代表に宿の説明を始める。


「一階は風呂と食堂、二階は一人部屋、三階は二人部屋、四階は四人部屋になっていますから、部屋はそれぞれで相談して決めて下さい。また、各階に便所があるので風呂と合わせて使い方を説明します」


 各棟の代表にライルさん、グラハイムさん、男性棟のまとめ役をお願いしたフィルマンさん、コンスタンさん、ミュリエルさん、アニエスさんの六人を連れて宿の中に入る。

 まずは便所の使い方からだが、各階に公衆便所の様に大きめの部屋に手洗い場と、男女共用なので六つの個室だけがある。

 個室の扉には表側にだけ取っ手が有り、内側にはスライド式の鍵があるだけなのだが、中から開ける時は押せば開くので問題無い。そして便器は普通の洋式で水洗だ。


「シロウ殿の国には自動の水洗トイレが有るのですね。素晴らしい」


 ライルさんが喜んでいるという事は、アルベール王国は便所は手動の水洗なのだろうか。ちなみに和富王国では洋式もあるが和式の方が多いし、水洗もまだ一部の家にしか無いので、僕の国では全世帯に付けたいと思う。

 その後、紙タオルの様な装置に入った便所紙の説明をして便所の説明を終え、次は風呂に向かう。

 風呂は男女で分けられている為に各棟二つあるが、今回は棟で男女が分かれているので一つしか使わない。中に入って直ぐに靴を脱ぐ場所があり、その奥は脱衣所で後は日本の銭湯そのものだった。おそらくこの宿のあった国でも過去に覚醒者が広めたのだろう。


「固形の物が身体用の石鹸で、黄色が洗顔料、青が洗髪料、緑が調髪料です」


 そう言って無限倉庫から取り出して並べながら詳しい使い方を説明するが、これは和富王国で普通に使われている物だ。


「シロウ殿の国ではシャンプーやコンディショナーまで再現しているのだな。素晴らしい」


 ライルさんはここでも上機嫌だが、和富王国は建物や電化製品を除けば、シャンプーの様に昭和後期に近い程度に発達している物も多いのだが、昭和文化は3Cを代表に電化製品こそが重要だと僕は思うのでまだまだ色々足りないし、結局は電気の供給が難しいので魔道具で極一部しか再現できていないのが現状なのだ。


「シロウ様、先程のトイレでも思ったのですが、ここの水は何処から来ているのでしょうか?」


 グラハイムさんは水の出所が気になる様なので答える。


「屋根裏に水を生成する魔道具が有るのです。お湯の方は隣に湯沸かしの魔道具が有ります」

「水の生成ですか、それもまた凄いですね。我が国にもその魔道具が有れば或いは…」


 グラハイムさんが何か考え込んでいるが、アルベール王国で水生成の魔道具を使って農業をするには魔物が少ないので魔石も取れないし、レベルが上がらないから魔力も上がらない。なのでここに居る騎士で一番高レベルのグラハイムさんの全魔力を使っても、便所一回分の水が限界だと伝えると、残念そうにしながらも納得してくれた。

 ちなみに僕だとどの位の水が作れるかも聞かれたが笑って誤魔化した。天照に聞けば答えてくれるだろうけど、都市を水没させられるとか言われる気がしたので控えたのだ。



読んで下さった方々、有難う御座います。

気に入って頂けたら、ブックマークや評価等もして頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ