表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/103

捕らわれている者達

大変長らくお待たせいたしました。

お約束通り前回よりは早く書けましたが、まだまだですね。精進いたします。

今回も僅かでも楽しんで頂ければ幸いです。

 少し黄昏ているライルさんに元気を出して貰おうと、僕は夕食の希望を尋ねる。


「気に入って貰えた様で何よりです。夕食にはパン以外にもご飯や麺類等も用意出来ますけど、何か希望はありますか?」

「なんと、シロウ殿の国には米が有るのですか?」


 おや、米が食べたいのなら、転生する時に女神様に米の有る国を希望しなかったのだろうか? 僕は少し疑問に思いながらもライルさんの質問に答える。


「はい、僕の産まれた国では米が主食だったのですが……この辺りには米は無いみたいですね」


 話ながら米を検索してみたが、ここからでは一番近くても東に四千キロ以上離れた場所にしか無かった。


「そうなのだ、この辺りはに米は無く、共和国の東端で作られているという噂でしか、米の存在を聞いた事がなかったのだ。問題が無ければ夕食にはご飯を希望しても構わないだろうか?」

「構いませんよ。それでは夕食は米を使った食事にしましょう」


 ライルさんは転生後初のご飯に嬉しそうだが、他の騎士達は意味が分かっていないらしく、少し心配顔だ。


「心配しなくても、夜の食事も昼と同等以上の物をお約束しますよ」


 そんな僕の一言で騎士達も安心して話を進める。


「本題の移民についてですが、国民の皆さんを説得するのはライルさんにお任せします」

「説得、ですか? 確かに私が国民に移民の話をするのは当然だろうが、シロウ殿は何人程移民を受け入れる心算なのですか?」

「基本的には来る者を拒む気は有りませんが、キンスの様に悪質な者は遠慮して貰います」


 明かな犯罪者は流石にお断りしたい。


「確かに、キンスの様に隣国と内通する様な者が居ては、また同じ事になる可能性が有るし、悪事を働く者も居ない方が良いのは道理だが、どうやって見分けるのだ?」

「移動時に害意の有無を識別出来る魔道具を使えば、何とかなる筈です」


 移動用の魔道具に、地図に使った様に悪意感知を付与すれば、弾くなり別の場所に転送するなりが簡単に出来る筈だ。


「シロウ様の国にはそのような便利な道具が有るのですね。興味深いです」


 ライルさんの質問に答えると、フィルマンさんが感心した顔で頷く。


「それでは害のある者云々はシロウ殿にお任せしますが、私が国民に話したとしても何人が移民に賛同してくれるかは分かりませんし、弱小とはいえアルベール王国の人口は二百万人近く居たのです。ここ最近で多くの国民が亡くなっておりますが、今だ百四十万を下回る事は無いでしょう。仮に半分が移民を希望したとしても、七十万もの人に本当に食糧や住処(すみか)を与える事は可能なのでしょうか? 新しく畑を作って、食糧が収穫出来る様になるまでに消費する分を用意出来るのでしょうか?」


 ライルさんの心配も分かるが、食糧については元から無限倉庫に収納されていた分も有るし、更に多くの食糧を複製世界で回収したから問題は無い。寧ろどうやって消費するかの方が問題だったので、食べて貰えた方が助かるくらいなのだ。

 畑についても複製世界で回収した物を移植すれば、簡単に収穫出来るので問題無い。


「先程も言った様に食糧は問題ありません。その十倍の人数でも数年間の食糧を支援出来ます。心配でしたら後で現物をお見せしますよ。土地についてはそれぞれの希望を聞いてからになりますけどね」

「にわかには信じられないのですが、本当にそれだけの食糧を援助して頂けるのでしたら、多くの命が助かります」


 食糧不足のアルベール王国としては食糧が一番の大事らしい。まあ、人間に限らず大半の生き物は食べないと生きていけないからね。無限倉庫に収納しておけば腐ったりはしないけど、折角なら美味しく食べてもらった方が良いと思う。

 食料に対する心配が消えると、次はどうやって移民先に移動するのかという話になったので、初めに天照達に聞いていた通りに答える。


「移動に関しては別の場所に瞬時に移動出来る魔道具を用意しますから、問題ありません」


 天照達の助言によると、直接転移させるのは鍵とか関係なく家や部屋に入れる能力なので、不要な警戒心を与えかねない為に、後で転移を付与した道具を作る事にしたのだ。大きな扉や門にしておけば制限があると勘違いさせる事も出来るからだそうだ。


「そんな不思議な道具までシロウ殿の国には有るのですか。本当に我々の国とは色々違うのですね」


 グラハイムさんは驚いて答えるが、度重なる彼の常識から外れた出来事に段々と麻痺してきているので普通に答えている。


「僕の国とアルベール王国は距離が離れすぎているので、歩いて移動するのはほぼ不可能ですからね。体調の悪い方も多い様ですから無理はさせられません」

「お心遣いに感謝致します」


 グラハイムさんが頭を下げて感謝を示してくれた。


「タン、タン、タン、ターン」


 グラハイムさんが頭を上げた処で、東の壁の向こうから破裂音が複数回聞こえて来た。

 その音の正体を知っている騎士達が、一斉に頭を押さえて地面に伏せだした。


「この音は機銃の発射音です」


 頭を庇って卓に突っ伏したライルさんが、音の正体を告げる。


「大丈夫です!機銃程度ではこの壁は貫けません。精々弾の先が埋まるだけです」


 僕の説明に皆は恐々と顔を上げる。


「隣の商人達が壁を壊そうとしているのでしょう。隣を見張っている者に状況を確認してみます。少し席を外しますから、その間に皆さんは僕が一緒に居ては話せない相談でもしていて下さい」

「お気遣い感謝致します。他の者の意見も聞いてみよう」


 ライルさんが頭を下げて答えてくれる。

 早速僕は壁の南側から外側の壁の上に飛び上がり、そのまま反対側に飛び降りた。


「あの高さを軽く跳びあがるか、流石だな」

「あの壁、王都の外壁より高いですよね?」

「はい、シロウ殿には王都の外壁が意味をなさないですね」


 ライルハイト、フィルマン、グラハイムと順に感想を言い合っているが、他の騎士は吃驚して固まっていた。

 そんな皆を残して僕は壁の外に飛び降りながら、派遣していた分体と記憶統合した。分体の記憶によると予想通り、暫く途方に暮れていたキンス達は壁を壊そうと機銃を撃ったのだが、壁に当たった弾は軽く埋まった後、直ぐに抜け落ちたみたいだ。

 他にも壁のこちら側には九十九人の人が居る様だが、その内七十二人が後ろの二台のトラックに乗せられたままになっているらしい。


『キンスって盗賊だったっけ? あれってやっぱり攫われた人とかだよね?』

『いいえ、人も商品になりますから商人で間違いありません。トラックに残っているのはキンスの部下に攫われた者達です』

『助けてあげれば功績にもなりますし、助けた人とライルさんにも恩を売れるので一石三鳥なのですよ』


 人まで売買する商人って、本当にアルベール王国にとって害でしかない。ライルさんが怒る理由が増えた気がする。そんな事を考えいると、キンスが喚き出す。


「なんなのだ突然現れた、この壁は?」

「分りやせんボス」

「アルベールの連中も驚いてたから、奴らの仕業じゃねぇみてぇだけど、さっぱりでさぁ」


 キンスの疑問に、左右を固めていた側近らしき二人は答えるが、結論は出ない。


「なんとか壊してさっさとずらかるぞ!」

「「へいっ」」


 側近の二人に指示を出したキンスは一人、自分の乗っていた箱馬車の様に綺麗に整えられたトラックの荷台に乗り込み、柔らかな座席に座り愚痴(ぐち)る。


「余り時間が掛かると商品が傷んでしまうではないか、アルベールの亡霊どもめ、忌々(いまいま)しい」


 キンスの指示を受けた側近達は更に他の部下に命じてハンマーやスコップ、金属の棒などを使ってどうにか壁を壊そうと四苦八苦している。


『今はキンスなどより、捕まっている人達を早く助けてあげた方が良いのですよ』


 月詠の言う通り、少し急いだ方が良いのだが、助けた人達への説明が面倒そうなので、一旦戻って説明はアルベール王国の人に任せよう。そう結論付けて僕はライルさん達の元へ戻る。


「お待たせしました」

「おお、シロウ殿、戻られましたか。皆と話し合った結果、全員移民の方向で考えていますが、いくつか疑問も有るので結論は今しばらく待って頂きたい」

「それは構いませんが、疑問とは何でしょう?」

「一番気になるのが、シロウ殿の作る国の社会形態、主に我々の身分などについてです」

「身分ですか?」

「はい、貴族や奴隷などの身分制度はどの様になるのか、移民した者の身分は平民として扱って頂けるのか、という事です」


 なるほど、移民の心算で外国に行ったら奴隷にされたという被害が昔の日本人にも有ったらしいから、ライルさんはそれを警戒しているのだろう。


「多少の身分制度は作りますが、それほど厳しいものにする予定はありませんし、奴隷も必要が無いので奴隷制度を取り入れる予定もありません」

「奴隷が必要無い?」

「労働力は十分有りますから必要ありませんし、労働力より消費者の方が重要ですから」


 和富王国には労働力になる絡繰り人形が有るので奴隷は必要無かったのだ。そして僕の無限倉庫には大量の絡繰り人形が収納されているので僕にも必要が無い。なので寧ろ必要なのは作った生産物を消費する者達なのだ。何を作ろうと、売れなければ商売にならないからね。そしてライルさん達が奴隷を気にするという事は。


「アルベール王国には奴隷制度が有ったのですか?」

「はい、現在は廃止しておりますが、百年と少し前までは有ったそうです」


 僕の質問にグラハイムさんが答えてくれる。


「今は奴隷を扱っていないのは分かりました。その辺りの詳しい事は今度お話します。それよりもキンス達に捕らわれている者達が居るのですが、共和国には奴隷制度が有るのですが? 無かったとしても一応助けた方が良いと思うのですが、こちらに合流させても構いませんか?」

「「捕らわれている者!」」


 フィルマンさんとマクシミリアンさんが驚いて声を上げ、ライルさんとグラハイムさんが顔を顰める。


「共和国でも奴隷は禁止されているらしいが、中央から離れた地域では隠れて人々を奴隷の様に使っている貴族はまだ居るそうです」

「アルベール王国から攫われた者が居るのなら助けたいのは当然だが、我々にはキンスの持つ武器に抵抗出来ません。先程も相打ち覚悟で一矢報いれれば良いとういう気持ちで立ち向かっただけなのです。我々には玉砕覚悟の突撃位しか出来ないので、人質を助ける力は有りません。もしシロウ殿が助けて頂けるのならお願いしたいです」


 グラハイムさんが共和国の奴隷事情を説明し、ライルさんが自力救出が不可能だと答えてくれる。


「心配なしなくても見付からない様に助けるので、戦闘にはなりません。ライルさん達には助けた人にアルベール王国からの救助だと説明をお願いします」

「勿論説明は引き受けますが、説明だけで良いのですか?」

「はい、僕が見方だと説明するより、アルベール王国の者が助けに来たと言った方が簡単に納得して貰えると思いますから」

「分かりました、よろしくお願いします」

「「「お願いします」」」


 ライルさんだけでなく、他の三人も頭を下げる。

 僕は皆に頷くと、壁の向こうのトラックの位置を地図で確認して、その周りに遮音と進入禁止の結界を張って外からの侵入と中からの音漏れを防ぐと、能力を誤魔化す為に無限倉庫からただの(ふすま)を取り出して西の土壁に当て、横にずらすと同時に空間魔術でトラックの荷台と繋ぐ、すると壁の向こうに薄暗い部屋が現れ、中には三十人以上の女性が座り込んでいた。

 金属で覆われた荷台の中には前と左右の上側の壁に小さな窓が開いているだけの薄暗い箱の中の様で、トラックが止まって中の空気が流れないせいか、人数も多い荷台の中は熱と臭いが籠っている。

 突然開かれた空間から現れた僕に何人かは反応したが、大半の者は反応も出来ない程にぐったりしていて、中には呼吸の荒い者も居た。


「何? まだ夜じゃないわよ。それともボスに隠れてこっそり楽しもうってんなら、後で告げ口するわよ」


 肩まである波打つ赤毛をした女性が立ち上がり話し掛けてきた。彼女は僕の事をキンスの部下と勘違いしている様だが、まずは車内の環境を改善しないと何人かが熱中症を起こしそうだ。

 そう判断した僕は術で風を送り、僕の後ろから外の空気を入れ換気をすると同時に軽く冷却の術も使う。


「何? 外から風が入って来て涼しくなった?」

「涼しい…」


 僕に話し掛けてきた女性が術の効果に戸惑い、うずくまっていた女性の呼吸が少し落ち着き、何人かは体を起こして僕を見る。その間に隣のトラックも換気をしてから赤毛の女性に話し掛ける。


「僕はキンスの部下ではありません」

「ボスの部下じゃないって、あんた何者だい?」

「僕は通りすがりの偽善者です」


 我ながら怪しい説明だけど、目的の為の手段として人助けをしているだけで、僕にはヒーロー願望なんかないからね。先程からやたらと感謝されてるのが少し恥ずかしかった為、その反動が出てしまったのだ。


「自分から不審者を名乗るなんて、何を考えているんだい?」


 僕の後ろから「その通りだ」という溜息交じりの声が聞こえる。

 そんな僕を不審者扱いした女性は身を屈めながら一歩後ずさるが、僕は構わず話し掛ける。


「貴女達はキンスに捕らわれている、と考えて間違いありませんか?」

「はんっ!、私たちの町から何人も攫っておいて、何を今更白々しい事を言ってるのっ!」


 僕と話していた女性は苛立ちを隠そうともせずに声を上げる。やはり僕の思った通り、彼女達はキンスに攫われた人達だった。


「先程も言った様に僕は偽善者です。貴女達が望むならお助けしますよ」

「あんた、本当に何を企んでいるの? ボスに逆らっても、あの共和国の武器を手に入れたボス達に敵う訳がないじゃない。町の男達みたいに無駄死にするだけよ」


 当然抵抗した者も居た様だが、こちらでも近距離武器では飛び道具には敵わなかったわけだ。位階も低いしね。


「見つからなければ問題ありませんよ、詳しくは彼に聞いて下さい」


 僕はそう言って後ろに下がり、外の空間を見せるとグラハイムさんを連れたライルさんが現れる。


「私はアルベール王国第三王子だったライルハイト・アルベールだ。キンスに君達が捕まっているとシロウ殿に聞き、君達の救出を依頼した。安心して出て来て欲しい」

「お、王子様っ!」


 突然現れた王子を名乗る男に赤毛の女性も慌てて跪く。


「詳しい話は後で聞くので、まずはキンス達に見つかる前にそこから出て来てくれないか」

「はっ、はい」


 ライルさんの言葉に従って赤毛の女性を先頭に、自力で動けない者を手伝いながら皆がすぐさま出て来る。僕は全員が出て来たのを確認してから襖を一旦閉じ、もう一度開くと別の荷台に繋げ、今度は男性が三十人以上居る部屋が現れた。今度は無駄な事を言わずに直ぐに出て来て貰う。


「助けに来ました。直ぐに出て来てください」

「出られるのか?」


 僕は答えず直ぐにライルさんと交代して説明して貰うと、男達は恐る恐る出て来てくれた。

 襖を閉じて無限倉庫に収納すると、そこには土壁があるだけだったので捕まっていた者達が驚いていたが、僕は気にせず全員に体力回復の魔術薬の小瓶と栄養剤入りの果汁水の中瓶を騎士達に手伝って貰いながら配り、飲んで貰うと全員が自力で動ける程度には回復したので詳細を話し合う。

 先程赤毛の女性が言っていた通り、町にキンスが現れて警備兵をあっさり倒して見せた為、抵抗を諦めて連れ去られたのだそうだ。そのキンスを隣に隔離している事を説明して安心して貰い、更に移民の話もすると意外と乗り気だった。


「キンスが居なくなっても共和国兵や同じ武器を持った者が現れたら、また同じ事の繰り返しだからね。それこそ共和国も無くならない限り、町に平和は来ないから、だったら皆で逃げた方が良いんじゃないかな?家と食事もくれるって言うんだし」

「そうだな、どうせ食糧もあまり残っていないし、食糧を分けて貰えるならそれだけでも助かる」


 先程から話している赤毛の女性、アニエスさんは残った場合の問題点を語り、茶髪男性のコンスタンさんはやはり食糧問題を取り上げ、他の者達も頷いている。今は夏だが既に今年の収穫は絶望的らしいので、次の冬を越す処か冬まで持つかも難しいらしい。移民計画を急いだ方が良いかもしれない。



読んで下さった方々、有難う御座います。

気に入って頂けたら、ブックマークや評価等もして頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ