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神刀

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 〇〇四 神刀


「後、こっちの世界でやっておいた方が良い事ってまだある?」


 解らない事だらけなので、素直に天照に聞いてみた。

 

『現在の身体能力、特に戦闘能力を確認しておいては如何でしょう? 昨日より大幅に強化されていますから、早めに手加減を覚えておいた方が宜しいかと思います』

「そんなに違うの? 正直良く判らないんだけど」

『戦闘能力を試すのでしたら、被害が出ても問題の少ない西の大陸の荒野をお勧めするのですよ』


 被害って、いくら何でも大袈裟過ぎじゃないかな?


「それで、その荒野って転移で行けるの?」


 二人の大袈裟な言い方に若干引きつつも移動の仕方を尋ねる。


『はい、地図上で位置を指定する事で、直接その場に転移する事が可能です』


 地図で確認しただけで直接転移出来るって事は、世界旅行も一瞬で行けるのか?

 この世界で何をするにしても、凄く便利そうな能力だ。

 今生でどうやって功績を積むのかは今後の課題として、まずは二人の言う戦闘能力の確認の為に、地図から西の大陸方面を検索して他の生き物も少ない岩の多い地域に転移する。


 此処なら多少暴れても大丈夫そうだ。

 まずは基本の走力をみる為に軽く走ってみたけれど、速度計も距離を測って時間を測定した訳でも無いので、どれだけ早くなっているのかは判らなかったが、景色の流れ具合から結構な速度が出ている事は判る。


「結構早くなっていると思うけれど、全く疲れないからどれだけ変わったのか判らないよ」

『感覚速度も上がっているので気付かれていない様ですが、とても早くなっています』

『普通の人では目の前でその速度で動かれると、認識すら出来ないのですよ』


 相変わらず二人の言ってる事が大げさすぎて、僕にはさっぱり理解出来ない。

 そこで、本当に強くなっているのならば今までも刀で岩を削ったり砕く事はできたのだ、今なら切る事もできるよねっと、今度は岩のある場所に移動して、朝に確認していた刀を無限倉庫から取り出し、試し切りしてみることした。


「普通に切りかかれば良いんだよね?」

『全力を試すなら呪力を刀に纏わせてから切ると良いのですが、呪力を籠め過ぎるとその刀では持ちません。ご注意下さい』

『刀が振るえる手前まで呪力を籠めると良いのですよ』


 刀に呪力を纏わせ切れ味を増加させる技、つまり呪力刃を使えって事なんだろうけど、その位なら今までも使えたので問題ない。

 そう思って刀に呪力を籠めると、刀が薄っすらと光を帯び始めて直ぐに引っかかりを感じたので呪力を籠めるのを止め、目の前の高さが五メートル程ありそうな岩を横薙ぎに切り付ける。

 すると【ゴバッ】という音と共に岩の上の方、四分の三程が消滅して、周りの岩等も刀の軌道に合わせて吹き飛んでしまった。


「ええっ?」


 僕が惚けていると更に視界が少し明るくなり、前方から【ガッゴーン】という音が響いた。

 音のした辺りを見ると結構高そうな山の四合目から八号目辺りが消えて、頂上付近が空中に浮いていたが、直ぐに落下し始めて残っていた山の土台部分に落ちて粉塵を巻き上げている。

 一拍おいて【ドッガーーン】といった感じの音が遅れて届く。

 僕は威力に耐え切れずに柄だけになっていた刀にも気付かず、ただ呆然とするしかなかった。

 暫く惚けていると天照が早速対策案を伝えてくる。


『ご主人様、封印や隠蔽の能力等を使って戦闘力を段階的に制御しては如何でしょう?』

「あ、うん、良きに計らえ」


 混乱しすぎて口調が変になっている事にも気付かず、僕は問題を天照に丸投げした。

 そのまま黄昏ていると天照から調整終了の知らせと、制御の説明が始まる。


『ご主人様、調整が終了致しました。今後は通常状態と戦闘状態を能力を封印する事で約三十二万段階で制御出来る様に致しました。一段階上げる毎に想定位階が今の二割程ずつ上がります』

「えーと、通常状態だとどの位の位階になるの?」

『はい、通常状態ですと位階で六十四程です』


 通常状態でも本来の三倍以上と十分に強力だけど、今までだって戦いといっても狩り位で小型の獣や魔物としか戦った事が無かったし、無理に戦闘をする必要も無い筈なのだが、この二人は僕に何と戦わせたいのだろう?


「えっと確か、和富王国の武士の平均位階が三十位だった気がするんだけど、十分に強いよね?」

『適度に手を抜けば問題無いかと思います』

『お父上の様な人類最強系の方には勝てないのですよ。但し、向こうの攻撃も主様には効かないので、負けもしないのですよ』


 国内最強の大隊長の一人である父上と何で戦う必要があるのか分からないし、どうしてそれで負けないのかも分からない。


「それは位階が九十六もある父上は特別だし、なんで負けないって言えるの? それに戦闘状態になって封印をいくつか解けば位階も上回ると思うんだけど」

『攻撃系を抑制しただけで耐性系は変えていませんから、ご主人様にお父上の攻撃は効きません。お父上相手に戦闘状態になる必要も、お父上に勝つ必要も無いので、通常戦闘のまま戦えば良いかと思います』

「まぁ、確かに父上と戦うって事自体が有得ない話だから、それは考えなくて良いのか」

『後は自動戦闘に頼るというのもありかと思うのですよ』


 また新しい単語が出てきたので、詳しく説明をして貰う。


『自動戦闘技能に、どの様に戦い、どの様に決着させるかを登録しておけば、登録された戦闘内容で自動的に処理する事も可能です』

『瞬殺、滅殺、怪我をさせずに意識を刈ったり、怪我をさせずに痛みを与えたり、自由自在なのですよ』

「どれも怖いよ!」


 結局、自分でやって勢いで殺しちゃうよりはマシかと思い、非殺傷系の自動戦闘登録はして貰った。

 殺す事が必要になるとは思えなかったけど、その時が来たら自分の意志で殺すという覚悟の元で殺さないと駄目な気もしたからだ。


「これで戦闘の手加減は十分なのかな?」

『後は、ご主人様専用の刀をご用意された方が宜しいかと思います』

『普通の刀だと、主様が呪力を籠めると壊れてしまうのですよ』

「いや、呪力を籠めなければ良いと思うんだけど」

『ご主人様、僭越ながら申し上げさせて頂きますが、制限はあくまで不要な被害を抑える為で有るべきです。ご主人様ご自身や、守りたい者や物を守る為に、本来使える力を使えないままにするのは本末転倒かと思います。和富王国は兵達も強く、比較的平和なので分からないかもしれませんが、この世界はご主人様の考えている以上に危険に満ちているのです。準備を怠っていては、後で後悔する可能性が有ります。』

『和富王国は島国で、大陸からも少し離れていますから判り辛いかと思いますが、この世界では毎日の様に災害や魔物被害、病気や戦争等で幾つもの国が滅んでいるのですよ』

『そして、その後の混乱による強奪や盗賊類の跋扈、国が滅んだ地に新しい国を興そうとする争い等も毎日何処かで起きています』

『勿論、平和的に興される国も多く、毎日の様に誕生していますが、争い事も多いのですよ』

『何より破滅級の超大型魔獣に通常の武器ではほぼ効果が有りません』

『ちょとした島位の大きさがあるのですよ』


 毎日何処かで戦争中なのは地球でも変わらなかった気がするけど、そういえばこの世界は魔物が居る分、地球より危険だって女神様も言っていたな。

 でも、破滅級の超大型ってのは聞いてないよ。

 そんな化け物に刀が通用するとは思えないけど、さっきの山を切った威力なら意味は有るのかな?


「分かったよ刀を作れば良いんだよね? でも僕は鍛冶とかしたことが無いんだけど?」

『ご主人様はほぼ全ての能力を既に持っております。当然鍛冶の技能も持っておりますが、他にも錬金術と魔術の能力が一定の熟練度に達していますので鍛冶魔術が使えますし、更にと空間制御の能力を連動させる事で錬成空間も使用できます』


 また新しい単語だが、覚えるだけでも大変なのに、どれも規格外だから精神的負担が大きいんだよね。

 そのせいか、少し投げやりな感じで聞いてしまう。


「それで、今度は何を念じたら良いの?」

『錬成空間を使用し、その空間内で鍛冶を行います』

『材料には、魔術や能力を添付出来る魔導金属を使用すると良いのですよ』

「えっと、普通の金属には魔術は一時的にしか付与出来ず、能力は付与自体出来ないんじゃなかったかな?」

『その通りですが、主様でしたら通常素材でも年単位で付与出来ますけど、それでも複数の魔術を何度も付与するのは面倒なのですよ』

『一応、金や銀も魔導金属の一種になりますが、脆いので通常は武器には使用しません。強化して使う事も出来ますが、わざわざ強化してまで使わなくても、他に適した素材が無限倉庫内に潤沢に在りますし、そちらの方が性能は上がりますので、今回は日緋色金と神金を使用致します』


 そうして僕は天照の指示に従って、日緋色金を大量に消費し錬成空間内で鍛えていく。

 使った量に応じて付与の質や数が増えるとの事で、無限倉庫内に大量にある日緋色金や神金を遠慮せずに使用するが、それでも全体量からすれば微妙たるものだ。

 

『錬成空間内は温度や重力等の様々な環境をご主人様の意志で制御出来ますので、炉等も必要とせずに鍛冶が行えます』

『錬成空間は鍛冶以外にも色々な素材を簡単に加工出来るので、一般の道具や薬、魔道具や魔道薬等の制作にも使えて便利なのですよ』


 確かに、特別な工作機械を使わずに色んな物を作れるのなら、とても便利な能力だ。

 そんな事を考えながらも僕は錬成空間内に超重力をかけて日緋色金を圧縮しながら更に鍛える。

 天照の説明によると、本来の折り返し鍛錬とは違い、ここでは呪力を練り込んだ層を作るのが目的だそうだ。

 呪力が十分に練り込めたら、圧縮され小さくなった日緋色金に重力操作で重さを軽くし、刃金用に形成していく。

 次に芯や皮金等を日緋色金に神金を混ぜて刃金と同じ様に鍛えていき、此方も重さを調整したら合わせて一本の刀に造り込む。

 出来た刀に不懐属性や空間魔術の次元斬等を付与し、僕の意志で切りたい物だけを切れる便利な刀が出来上がった。


 天照達の説明によると、他人の手に渡るととても危険なので、一応、僕以外には使えない様に封印もしておく。

 これで僕以外がこの刀を持っていると、重量軽減の重力制御が反転し徐々に重くなっていき、その内重くて持てなくなる。

 更に帰還も付与しておいたので、僕が呼べば手元に転移してくるから盗難対策も完璧だろう。

 しかしこの刀、刃の部分が日緋色金の赤みを帯びた色で、側面は神金を混ぜた為に濃い桜色になっており、刃から側面にかけて色が薄くなるグラデーションが掛かっているのだが、何だか使う前から血が滴っているみたいだ。

 

「なんか見た目が物騒な色をしているんだけど、これ見ただけで引かれない?」

『大丈夫です。刀を抜く時点で相手は既に敵対しています』

『寧ろ威圧出来て良いと思うのですよ』


 物騒な見た目は想定内みたいだが。


「第三者が居たらどうするの?」

『見えない速度で切り伏せれば問題無いのですよ』


 月詠はずいぶん簡単に言ってくれてるけど、本当に大丈夫なんだろうか?


『ご主人様、折角ですのでその刀に命名をお願いします』

「え、名前まで付けるの?」

『刀等の武器に限らず物は名前を持つ事で存在が固定・強化されるのですよ』

「その理論は解らないけれど、名前を付ければ良いんだね?」


 僕は名付けとか得意じゃないんだけどなぁ。

 見た目で言えば血桜って感じだけど、流石に物騒すぎるので緋桜としておこう。


「それじゃあ緋桜で良いかな?」

『良い名前だと思うのですよ』

『名前が固定されました。鑑定で確認してみて下さい』


 もう名前が確定したのか。

 早いなと思いながら緋桜を鑑定してみる。


 名前:神刀-緋桜

 刃長:2尺2寸(66cm)

 重量:22両(825g)可変

 所有者:四狼

 能力

  不懐

  重力制御

  次元斬

  疎通

  識別

 

 空き:11998725

 

 

「天照、この刀が何故か神刀になってるんだけど、どういう事?」

『日緋色金と神金を大量に使用致しましたし、ご主人様の鍛冶魔術は最高熟練度ですので、最高の刀が出来た結果です』


 そんなに簡単に神刀が作れるってどうなの?

 鍛冶魔術凄すぎないか?

 色々納得出来ないが他にも気になる処は有る。


「それじゃあ、この空きっていうは何なの?」

『能力等の負荷余地です。空きが無くなるまで能力を追加する事が出来ます』

『まだまだ強く出来るのですよ』

「もう十分強いと思うんだけどね!」


 本当に二人はこれ以上僕を強くしてどうする心算なんだろう?


『今回の鍛冶魔術の行使によって「錬金の魔術師」「鍛冶の魔術師」「付与の魔術師」「神刀の鍛冶師」の称号を獲得致しました』

「少し物騒なのもあるけど、称号って功績になるんだったよね?」

『はい、順調に功績を積んでいるのですよ』


 天照の指示通りにやっているだけなのだが、それで功績が積めるのなら今世は何とかなる様な気がする。

 頑張ってゴキは回避したいものだ。


「それで、今回は真面な特典があるの?」

『簡潔に申しますと、次に武器等を制作した時に負担が減り性能が上がります』

『道具や薬を作る時にも有効なのですよ』


 そっか、刀だけでなくて制作系の技能が上がる称号なら今後も有効そうだ。

 早速、世界樹の木材や日緋色金を使って、錬成空間で拵えも作ったが、称号の助けもあったのか簡単に作る事が出来た。

 調子に乗って朱鞘の少し派手な意匠になったので、色を濃くして赤みを帯びた黒に近い色の物を作り直した。


『刀を使った戦闘は緋桜を使う事で加減がし易くなりましたが、素手での格闘時は殺す心算がない場合は自動戦闘を使用するか、手加減技能を意識して攻撃する事をお勧め致します』

『手加減技能は致命傷を与えずに攻撃したり、怪我をさせずに痛みを与えたり出来るのですよ』

「痛みだけってのも酷い気がするし、さっきも言っていたけど月詠って痛みを与えるのが好きなの?」


 月詠の台詞に若干引きつつ一応聞いてみた。


『そんな事無いのですよ! 怪我をさせなくても痛みで手を引かせる事が出来ると言いたいのですよ!』


 月詠が手を左右に振りながら慌てた様子で否定する。

 否定してくれた事に少し安堵しながらも、痛みだけ与える状況って、相手は人って事だよね?

 そんな状況はなるべく来て欲しくないなと思った。


「まぁ、不必要な殺生をしなくて済むのなら助かるけどね」


 殺すのも功績だって女神様は言っていたけど、前世の知識が戻ったせいで少し前世の価値観に引きずられている今となっては、なるべく無駄な殺生はしたくないと思ったからだ。




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