罠
評価やブックマーク、ありがとうございました。
今回は短めですが、楽しんで頂けたら幸いです。
暫く歩くと小高い丘に差し掛かった。
「伊吹さん、丘の向こうの偵察をお願いします」
「了解したで御座るよ」
そう言って伊吹さんは一人で丘の上に進みながら隠形を使ったのだろう、気配が薄くなる。
それを見ていた五狼が目を擦ったり、三刃が辺りを見回したりしていたので、伊吹さんが隠形を使ったのだと教えたら三刃は目を輝かせていた。
「丘の向こうはこちらからは見えないから、伊吹さんに先行して貰って先の確認を頼んだんだ。三刃もその内に出来る様に頑張らないとな」
「はい、三刃は頑張ります」
三刃は頷いて周囲を警戒し始めるが、直ぐに伊吹さんが戻って来て報告する。
「丘の向こうに五十から六十程の大鹿の群れが居るで御座るよ」
「伊吹さん、ありがとうございます」
僕は地図を見て丘の向こうに大鹿が居るのを知っていたが、見えていない獲物の存在を説明出来ないし、皆にも丘の先に居る獲物の存在を知らせて準備しておかなければ逃げられてしまうだけなので、伊吹さんに確認して来て貰ったのだ。
「それじゃあ皆、丘の向こうには五十以上の大鹿が居るそうなので、罠を使って狩ろうと思う」
「直接狩らぬのか?」
「はい、身体の大きい大鹿の体当たりは強力ですし、足も速いので僕達の足では追いつけません。なので罠を張って狩ります」
「なるほど、具体的にはどんな罠じゃ?」
桜花様は罠に興味津々の様だが、そんなに難しい事はしない。
「単純に壁と落とし穴を作るだけですよ」
僕はそう答えて丘の中程に高さ二メートル位の土壁を横にいくつも作り出すと、驚いた顔で桜花様が尋ねて来る。
「四狼、どうやって連続で壁を作ったのじゃ?」
「最近の四狼殿は凄いで御座るな」
驚く桜花様と伊吹さんに、そういえば術の連続使用は説明していなかったと思い説明する。
「呪印に籠めた呪力を全部使わずに一割程残して術を発動させる事で、呪印を残したまま術が使えます。残した呪印に再度呪力を補充して術を使用するのを繰り返す事で、同じ術なら連続して使用する事が出来るのです」
「「おおおーーーーっ」」
「なるほど、四狼は本当に凄いのじゃな」
五狼と三刃は驚き、感心している桜花様に「呪力操作が使える様になると出来ますよ」と答えておく。
「それじゃあ役割分担だけど、伊吹さんには追い込みをお願いします」
「了解したで御座る。こちら側に追い込めば良いで御座るな?」
「ええ、こちら側に追い込んで下さい」
伊吹さんは頷くと先程と同じ様に気配を消して、今度は丘を回り込むように移動しながら駆けて行った。
「皆は壁の向こうで待機して、大鹿が壁を越えて落とし穴に嵌ったら術で拘束するので止めを刺してくれ。狩り過ぎても良くないので罠に掛かった大鹿だけで良いですから、無理はしない事」
僕達に攻撃的な肉食動物や魔物ならともかく、人を襲わない草食動物を狩り過ぎるのも良くないだろうと思ったのだ。
皆が壁の裏で待機した処で僕は更に丘の下に戻り、壁のこちら側の地面下の土を操作して空間を作り出して落とし穴にした物を十個設置する。
丘から更に少し離れてから自分の下の土を盛り上げて太い柱を作り、その上にしゃがむ。
その柱の上、丘の方に覗き穴を開けた土壁を作って僕の姿を丘側から見えない様にして、丘を監視する物見台を作って僕も待機する。
やがて丘の上に大鹿が姿を現してこちらに駆けて来たので、壁から手を出して桜花様達に合図すると皆が武器を抜いて待ち構える。
そして壁を飛び越えたり、避けて来た大鹿が僕の仕掛けた落とし穴に次々に落ちると、僕は物見台の横を駆け抜けて行く大鹿に気を付けながら、草縛りの術を使って落とし穴に嵌って暴れている大鹿を脱出出来ない様に次々拘束する。
落とし穴を運良く避けた大鹿が駆けて行った後、皆が拘束された大鹿に順番に止めを刺して行くと、全部で六頭の大鹿を狩る事に成功した。
「大きくて良い大鹿じゃのう」
「はい、その分重いので異界が無いと運ぶのも大変ですね」
馬より一回りは大きい大鹿を沢山狩れて、桜花様も嬉しそうだ。
僕は仕留めた大鹿を無限倉庫に収納し、掛からなかった落とし穴も含めて全ての穴を塞ぎ、壁や物見台も崩して元に戻した。
僕が後始末を終えた処で伊吹さんが戻って来て、桜花様に成果を尋ねていた。
「上手く狩れた用で御座るな」
「はい、伊吹さんが上手く誘導してくれたお蔭です」
僕達はお互いの役割を称え合い、新たな獲物を求めて更に進む。
その後も狩りは順調に進み、更に一角鼠を二十四頭、足狩り兎を十八羽、槍猪を六頭、草原蜥蜴を五匹狩る事に成功した。
野生の獣といっても位階が低いので、武術をしっかり学んでいる皆は大きな怪我もせずに無事に狩れている。
そのお陰で普通の狩人に比べても既に十分な成果を上げているのだが、今日の一番の目的は修行で狩りは副次的なものに過ぎないし、集合時間まではまだまだあるのだから狩りは続ける予定だ。
とはいっても連続の狩りに流石の桜花様や三刃も疲れが出て来ている様なので、少し早いがそろそろお昼にしようと思う。
「少し早いですが、疲れも溜まってきている様ですので、早めにお弁当にしましょう」
「そうじゃな、流石に童も疲れたのじゃ」
「やっと、休めます」
「確かに、少し腹も空いてきたで御座るな」
僕は左手に見えていた少し小高い場所に移動し、刀を抜いて呪力の刃を数回飛ばして草を刈り、休む場所を作った。
その中央に土の術で腰位の高さの石の壁を作り、更に壁の上を広げて断面がT字になる形にし、その四隅の下に石柱を作って上の石壁を支えて卓を作る。
最後に直径三十センチ位の石の円柱を人数分作って椅子も完成だ。
「そのまま座ると固いから、座布団を敷いて座ると良いよ」
そう言うと早速三刃が座布団を敷いて座り、卓に倒れ込む。
「三刃は疲れたのです」
「術で食卓を作るとは器用じゃな」
桜花様は卓に触りながら感心している。
「幕を張りますから少し離れて下さい」
僕は卓の周りに先端に穴の開いた高さ一メートル程の石柱を四つ作り、四隅に紐の付いた布を縛る。
「手伝うで御座るよ」
「ありがとうございます」
伊吹さんに手伝って貰いながら布の四隅を石柱に固定した後、南側の石柱を一メートル、北側の石柱を二メートル更に伸ばして日除けを作った。
「布でお日様が隠れて涼しくなりました」
三刃はまた卓に身体を預けてくつろぎ始めた。
夏の日差しの下で食事しても、あまり体力回復にならないからね。
更に幕の横に無限倉庫から分体に頼んでおいた浄化装置を取り出すと、桜花様が「電話ボックス?」と呟くのが聞こえた。
「これは汚れを落とす魔道具だそうです。お風呂の様に疲れまでは取れませんが、これで身体に付いた血や土を落としてから昼食にしましょう」
そう言って使い方を説明し、皆が戸惑いながらも順番に汚れを落としている間に、次の準備をする。
僕は卓から十メートル以上離れた場所に移動すると振り返り、幅百二十センチ奥行き百六十センチの土壁をコの字型に作り、それを覆う様に反対向きのコの字型の土壁を作る。
内側の囲いの中央に深さ一メートル程の穴を空け、穴の底から更に斜めに穴を伸ばす。
次にソフトボール程の石球を作って浄化と分解と消臭の術を付与して穴に転がし、崩れない様に地面や穴の壁を強化して便所の完成だ。
一応上から見えない様に内側の壁の上に位置をずらした格子を互い違いに三つ作り、入り口側には扉代わりに浄化を付与した布を垂らしてカーテンの様にしておいた。
これで出る時に布を捲るだけで手が綺麗になるので、普通の便所より衛生的だと思う。
最後に右奥に便所紙を置き、左奥に流す為の水の入った桶と柄杓を置いて外に出る。
僕も浄化装置で汚れを落として卓に着くと、桜花様が話しかけて来る。
「今度は何を作っておったのじゃ?」
「一応、便所を作っておきました」
そう答えると桜花様は呆れ顔で僕を見ていたので「桜花様は草むらで良かったですか?」と聞くと素直に感謝された。
休憩の準備が終わり、皆におにぎりと箸を配ると、卓の中央に猪汁の入った鍋とお椀を置く。
異界が倉庫になって時間経過が無くなったからと秋穂母上に鍋のまま渡されたのだが、夏の日差しの中で熱々の汁物はどうなんだろう?
伊吹さんが全員に猪汁を配り終わると皆で手を合わせる。
「「「「「いただきます」」」」」
昼食が始まると三刃も少し元気になり、おにぎりに齧り付いている。
ちなみにおにぎりの具は基本の、梅干し、昆布、鮭の三種だった。
「外で食べる食事も美味しいのじゃが、夏の昼に汁物は少し暑いのじゃ」
「そうで御座るな、先におにぎりを食べて、少し冷めるのを待つで御座るよ」
「暑いけど、美味しい」
桜花様と伊吹さんは冷めるのを待つ様だが、五狼は気にせず食べている。
僕も暑いとは思うけど食べれない程じゃないし、冷え過ぎるよりは良いかと猪汁を啜り、おにぎりを齧る。
日本の夏程湿度が高くないのか、猪汁に火照った顔に丘を吹き抜ける風が気持ち良い。
そうして僕達は食事が終わった後も用を足したりしつつ、皆でお茶や果実水を飲みながら食休みをしていたのだが、残念な事にそんなゆっくりとした時間は長くは続かなかった。
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