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狩場に到着

お待たせいたしました。

今回も楽しんで頂けたら幸いです。

 自走車が走り出すと直ぐに、桜花様は異界倉庫から王様の書いた許可状を取り出して渡してきた。


「しっかり一筆書いて貰ったのじゃ。これで文句は無かろう? 今後もよろしく頼むのじゃ」


 今後? っと思いながら渡された許可状を開いて読むと、今日だけでなく今後も自由に連れまわして良いとの事で、しかも外泊すら連絡するだけで良いらしい。

 流石に外泊は不味いのでは? っと桜花様に尋ねると「数日掛かる狩りもあるじゃろ」っと逆に正論で返されてしまった。

 確かに今回の狩りは町から比較的に近い場所で行うが、もう少し離れると移動に時間が掛かってしまい、日帰りでは大した成果が期待出来なくなるので、泊まり掛けの狩りの方が実は多い。

 色々面倒そうなので、なるべく泊まり掛けの狩りには参加しない事にしようと僕は思った。


「約束ですから仕方が有りませんね。安全第一でお願いしますよ」

「分っておるのじゃ。童も痛い思いなどしたい訳では無いからのう」


 許可を確認した僕は半ば諦めながら、後ろの座席で興味津々に窓の外を眺める五狼達に習って、何となく自走車の窓から町並みを眺める。

 郷の町は第二の壁迄は小道以外の道路は大半が石で舗装されているので、自走車の走行は安定していて快適だが、中央区の建物の見た目は時代劇っぽいし、商業区は明治か大正っぽい建物が多いので何処かちぐはぐで不思議な気分だ。

 実際にその時代を知っている訳では無いからそう感じるだけなのだが、そんな街中を金属や石で出来た絡繰り人形が荷車を引いていたり、稀に獣人族(けものひとぞく)半獣人族(はんけものひとぞく)空人族(そらひとぞく)山人族(やまひとぞく)などの亜人族などが歩いていたりと、やはり日本とは違うのだと実感する。

 そうして窓の外を眺めている内に自走車は狩人組合に到着した。

 僕達は夕方迎えに来ると言う自走車を見送ってから、狩人組合の建物に入る。

 建物の中は役所や銀行の様にいくつもの受付が有り、大勢の人達が自分の順番を待って並んでいる。

 僕達はその中の狩りの参加受付の一つに向かい、最後尾に並ぶ。

 やはり桜花様が一緒にいるせいか、僕達を盗み見る周りの視線が少し痛いが、桜花様本人は何時もの事なのか全く気にした素振りが無い。

 その視線を極力無視しながら待っていると、僕達の順番が来たので予め書いておいた参加申請書を受付嬢に渡して確認して貰う。


「はい、皆様の中で一番位階の低い三刃様も武芸補正で参加の基準を超えていますので、問題ありませんね。追加情報は…全員異界持ち? しかも、倉庫持ちが二人も!?」


 参加資格は位階が十六以上だが、武芸技術のある者は三から五割位階に加算される為、位階十二の三刃も四割加算で無事十六になり、参加基準を満たす事が出来たのだが、流石に異界収納持ちが町全体で二万人以上いるとはいえ、複数人が一緒に行動するのは珍しい様だ。

 更に町に三百人といない筈の倉庫持ちが二人もいる事に、受付のお姉さんが驚いて声を上げてしまった。

 それを聞いていた周りの人からは「流石八神門」とか「姫様もすげーんだな」といった声が聞こえたが、八神流の修行をしても異界収納は獲得出来ないと思うので八神門は関係ないよ。

 周りが騒がしくなった事で自分の失言に気付いた受付嬢が頭を下げる。


「し、失礼いたしました。本日の担当者に伝えておきますので、担当者から要請があれば獲物の運搬にご協力をお願いします」


 受付の謝罪に、協力すれば知られる事だから気にしなくて良いと言ってから、改めて協力にも要請が有れば受けると答える。

 異界収納や異界倉庫で運搬を手伝うと運搬手数料が貰えるし、倉庫だと素材が痛まないから手数料が更に増えるので、僕達に断る理由が無い。


「こちらが皆様の班の参加証になります。本日はご参加ありがとうございます。お気をつけて、無事のご帰還をお待ちしております」

「ありがとう」


 参加証を差し出し頭を下げる受付嬢から参加証を受け取り、受付嬢に礼を言って待機場所に向かう。

 暫く待っていると、一瞬見知った顔が見えたので確認しようと近付こうとした処で参加締め切りの時間になり、担当者が説明を始めたので諦める。


「今日の狩場は募集要項を読んでいるなら分かっていると思うが、町から北東の白狼山との中間辺りだ。主な獲物は一角鼠と灰色狼などの動物と、槍猪や足狩り兎などの小型だが突進系の魔物になるので、周囲警戒を怠るなよ」


 そんな担当者の説明に聞きなれた狩人達は当然と言った顔で頷いて、気を引き締める。


「それでは、参加証に書いてある番号に従って荷車に乗ってくれ」


 担当者の乗車指示に従い、皆が狩場迄移動する為の荷車に乗り込むが、ただの荷車の内側両端に板が突き出しているだけの簡単な座席しかない。

 そのまま座ているとお尻が痛くなりそうなので、小さな座布団を無限倉庫から出して桜花様達に配って座る。


「ありがとう。流石は四狼、準備が良いのじゃ」

「そうですね、四狼殿は準備が良いで御座るな」

「「ありがとうございます、四狼兄上」」

「どういたしまして」


 そんな僕達のやり取りを見ていた隣の荷車に乗った人達の会話が聞こえてくる。


「あんなんで大丈夫なのか?」

「お貴族様は余裕だねぇ」

「お前らの方こそ大丈夫なのか? 龍の子が鼠や兎如きにやられる訳が無かろう」

「だよなー」


 龍の子って言うのは父の名前の龍牙からきているのだろうが、この手の反応は何時もの事なので気せずに出発を待つ。

 全員の乗車が確認されると、順番に荷車を引く絡繰り人形に指示が出されて荷車が動き出した。


「思っていた程には揺れないのじゃな」

「桜花様の自走車とは比べ物になりませんが、簡単な衝撃吸収機構が付いていますから、この程度の速度では気にならないでしょう」


 町中であまり速度を上げては危険だし五月蝿いので、人の小走り程度の速度に抑えているのだ。


「なるほど、意外と良い荷車を使っておるのじゃな」

「町の外に出れば速度を上げますから、振動をそのまま受けていたら荷車も痛みますし、乗っている人が酷い事になりますからね。下手に喋ると舌を噛みますから気を付けて下さい」


 町の外に出ると道の状態が悪くなるが、騒音の問題無くなるし、接触する可能性のある他車や他者がいないので速度を上げる。

 そのままででは中の振動が酷い事になるから、多少の衝撃吸収は必須だ。

 狩場に着いても体調不良で動けなければ、死にに行く様なものだからだ。

 僕の説明に「確かにそうじゃな」っと桜花様も納得して頷く。

 後は町の外に出るまでは何もする事が無いので、時々桜花様の質問に答えつつ、先程と同じ様にぼんやり町並みを眺めていると、第二の壁を越えて農業地区に入った。

 この辺りは田畑が広がる中に点在する様に農家の家が在るだけなので見る物も殆ど無く、大通り以外は舗装も疎らだ。

 所々で畑仕事をする人を見かけるだけなので、先程まで楽しそうに眺めていた三刃も暇になって来たのかうつらうつらしている。

 何時もより早起きだったからね。

 しかし、そんなのんびり出来るのも第三の壁迄だ、ここから先は魔物の生息する外の世界なので周囲警戒を怠っていたら命がいくつあっても足りない。

 僕は昨日天照達と相談していた弱結界を皆にこっそり張って、大怪我をしない様にしてから声を掛ける。


「桜花様、五狼も、もう直ぐ町の外に出るから兜の装着と警戒を。ほら、三刃も起きなさい」


 僕の言葉に桜花様と五狼が頷き、僕達は少し和風の兜に似ているが、人との戦いに使う訳では無い為か立物や附物の無い簡単な兜をかぶって固定する。

 起きた三刃も頬をぺちぺちと叩いて気合を入れているが、昨日父上達が通った後の街道は平和そのもので獣すら殆ど見かけなかった。

 僕も地図の範囲を広げて警戒していたのだが魔物が近付く事も無く、速度を上げた荷車はやがて父上達が向かったものとは別の、舗装されていない道に入ると次第に獣も姿を現す様になり、そこからは一時間と掛からずに今日の狩場に到着する。

 軍が通った道から外れた為、この奥には結構な数の獣や魔物が潜んでいるが、居ないと狩りにならないので組合は上手く良い場所を選んだ様だ。

 荷車から降りた僕達は他の荷車が到着して、担当する方角の割り振りをされれるのを待つ。


「まだ少し身体が揺れているのです」

「そうじゃな、少し地面が固い気がするのじゃ」


 三刃と桜花様は荷車の振動の影響が未だ身体から抜けていない様で、時々身体が揺れている。


「三刃殿は何度も跳ねていたで御座るからな。座布団が無ければお尻が大変な事になっていたで御座るよ」

「そうかもしれません、四狼兄上、ありがとうございました」

「どういたしまして、帰りも使うから、各自異界に収納しておいてくれ」


 未舗装の道ではかなりの振動が有ったので、体重の軽い三刃は何度も跳ねてお尻を打っていた様だ。


「もう少し掛かりそうなので、今の内に水分補給をしておいて下さい」


 荷車の到着状況を見て、僕はそう言って皆に金属製の水筒を配る。

 中身は夏蜜柑の果汁を水で薄めて、砂糖と塩を少し溶かして糖分と塩分の補給も出来る様にした物だ。


「さっぱりしていて美味しいのじゃ」

「四狼兄上、美味しいです」

「気に入って頂けたのなら何よりです。喉が乾いたら適度に喉を湿らせる様にして飲んで下さい」


 一応飲み過ぎには注意して各自異界に収納しておいて貰い、更に非常食を渡す。


「一応、町の外では何は有るか分からないので、非常食も持っておいて下さい」


 そう言って無限倉庫からこの国では一般的な保存食を二日分ずつ皆に配ると、今日の作戦を皆に話す。


「今日の作戦だけど、隊列は先頭が伊吹さんで索敵をお願いします。その少し後ろに三刃が付いて遊撃、左右に五狼と桜花様が付いて左右の警戒と迎撃、そして最後尾に僕が付いて術を主体に皆の補助を行います。三刃は伊吹さんの動きもしっかり見て学ぶ事も忘れるな」


 僕は伊吹さんを先頭にした菱型の陣形を指示する。


「四狼兄上、三刃の遊撃というのは何をすれば良いのですか?」

「簡単に言うと不意打ちだ。桜花様や五狼が戦っている獲物の横や後ろから攻撃して、援護したり止めを刺すのが三刃の仕事だ」

「おおー何か、恰好良いのです」

「それと、この辺りは鼠や兎の様に突進系が多いので、皆も僕が跳べって言ったらその場で身長分くらい飛び上がってくれ。特に兎は攻撃範囲が広いので、左右に躱そうとしても躱しきれない可能性が有るから要注意だ」

「「「はい」」」


 皆獲物の事はしっかり勉強してきた様で、僕の言葉にしっかり頷いて返事を返す。


「後はなるべく少ない傷で倒すと、毛皮や肉を傷めずに高く売れるので、出来るだけで良いから狙ってみて欲しい。但し魔物の心臓を壊すと魔石を取れなくなるので、そこは特に注意してくれ」

「当然じゃ」

「三刃も頑張ります」

「気を付けます」


 作戦会議も終わり、やがて全ての荷車が到着した事で、担当の方角を割り振らられる。


「八神門は今回新人が多い様だが、中央の護衛か近場の方が良いか?」

「お気遣いありがとうございます。しかし獲物の数が少ないと修行になりませんので、遠方を希望します」


 僕がそう答えると「流石武家の者は違うねぇ」っと納得してくれて、僕達は南東の奥を担当する事になった。


「それじゃあ皆、気を付けて狩りを始めよう」

「「「はい」」」


 こうして桜花様や三刃達の初めての狩りが始まった。



読んで下さった方々、有難う御座います。

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