明日の準備
お待たせ致しました。
楽しんで頂けたら幸いです。
二人が納得して牛乳を飲み始めたので、三刃に明日の事を尋ねる。
「三刃は明日の準備はもう出来ているのか?」
「ん、はい、装備も万全ですから、他に必要な物はお弁当位だと思います」
三刃は口に含んでいた牛乳を飲み込んで、答えてくれた。
「一応、確認したいから、装備一式を夕食後にでも見せてくれるかな」
「分かりました。初めての狩りですから、確認して貰った方が三刃も安心です」
「そうだね、初めてだと知らない事もあったりするし、意外と必要な物は多いからね」
「忘れる前に準備しておきます。姫様、三刃は明日の準備が有るので失礼致します」
三刃はそう桜花様に告げると、牛乳を急いで飲んで自室に戻って行った。
そんな僕達の会話を、事情を知らない桜花様が聞いてきた。
「四狼、明日は何かあるの?」
僕と二人だけになったので、桜花様の言葉遣いが普通の物に変わる。
「ああ、桜花様には話していませんでしたか? 明日は三刃にせがまれて狩りに行く事になったのです。三刃は狩りに行くのは初めてなので、準備の確認を僕がするという話です」
「そうすると、四狼達は明日は屋敷に居ないの?」
一応、帰り際にでも話そうと思っていたので、今の内に明日は留守にする事を桜花様に説明する。
「そうですね、三刃と五狼を連れて、僕も狩人組合の狩りに参加する予定ですので、明日は此方に来られても僕達は居ませんね」
「んー、だったら私も参加したい!」
僕が答えると、桜花様は少し考える素振りをして参加を希望するが、流石に一国の姫様を勝手に外壁の外に連れ出すのは無理だろう。
外壁の外は魔物の跋扈する危険地帯なのだ。
そして、その魔物も含めての狩りなので、丁重にお断りする。
「えっと、申し訳ありませんが、流石に僕の一存で桜花様の参加を認める事は出来ません。最低でも王様に許可証位は書いて貰わないと町の外には連れて行けませんし、護衛も連れて行くとなると、皆の狩りの修行にならなくなりますから、別の機会にして頂けると助かります」
「むっ、四狼が意地悪だ」
やはり桜花様はこの程度の説明では引いてくれない。
「仕方がありませんよ、町の外は魔物が跋扈する危険地帯なのですから、桜花様の安全を保障する事は出来ませんし、最悪桜花様が死んしまっては責任の取り様がありませんから、桜花様に町の外での修行は行えません」
「だったら死んでも問題無いと、父上に一筆書いて貰えれば済む訳よね?」
この話の流れは今までの経験からすると、桜花様は僕が納得するまで諦めずに続ける心算なのだろう。
断れないのなら何か別の条件も付けた方が良さそうだ。
「理屈ではそうですが、護衛は伊吹さん位しか連れて行けませんし、本当に死なれても困ります。三刃も悲しみますよ」
実際、皆と同じ様に結界を張っておけば死ぬ事は無い筈だけど、それを説明する事は出来ないし、自分で身を守れないと修行にもならないから、結界には触れずにしっかり注意だけはしておく。
「あら、四狼は悲しんでくれないの?」
「勿論僕も悲しいですけど、桜花様が死んだ場合、間違い無く僕も死にますから、悲しいのは僅かな時間で済みますね」
「何で四狼迄死ぬのよ?」
「王様が許しても、父上が許してくれませんよ。だから死なない様に参加を見送って頂けると助かります」
僕は溜息と共に答える。
「分かってるわよ、死なない様に頑張るから大丈夫よ。とにかく父上に許可を貰えれば問題無いんでしょ?」
「王様の許可が頂ければ僕に拒否権は無くなるのでお連れする事は出来ますが、それよりも桜花様は今までに生き物を斬った事が有るのですか? 生き物を殺せますか? 狩りの途中で無理とか言われても引き返せませんよ」
僕は覚醒前に狩りの経験が出来たので問題無かったが、圧倒的に平和だった日本の知識を持ったまま、生き物を殺せるのかという質問に、桜花様は一瞬顔を顰めたが、直ぐに気を取り直して大丈夫だと答える。
「この世界で生きるにはいつか通る道だもの、その位の覚悟は覚醒した直後からしているから大丈夫よ。それで出発は何時なの?」
一応の覚悟はしているみたいだから、後は本当に経験してみるしかないかと、僕も納得する。
「一応、朝の八時で狩人組合の受付終了ですから、七時まではお待ちします。遅れたら間に合わなくなるので、時間までに来なかったら不参加としますからね」
「了解よ」
「それと、桜花様の装備なども朝に確認致しますが、準備が不足していた場合もそのままお帰り願いますよ」
「大丈夫よ。私の装備は前から城に用意してあるから、問題無いわよ」
一応確認はするが、王族の用意する装備なのだから、三刃の物よりは余程しっかりした防具を準備しているだろう。
結局はいつもの様に桜花様の頼みを断る事が出来ずに、明日の狩りに参加する事が決まってしまった。
最後の頼みは王様が許可を出さない事だけど、桜花様なら王様の許可証も何とかしてしまうだろう。
「さて、そうと決まれば早速城に帰って準備をしないといけないわね。それじゃあ四狼、また明日、宜しくね」
桜花様はそう言うと、僕が心変わりする時間を与えない為なのか、さっさと帰って行った。
夕食まではもう少し時間が有るので、僕もお風呂で汗を流しながら、桜花様と伊吹さんも含んだ作戦を考える事にしてお風呂に入る。
桜花様は何も言わなかったので期待していなかったが、温泉のお湯を使ったお風呂はとても気持ちが良かった。
王族ともなると普段からああいったお風呂を使っているのだろうか。
まったりとお湯に浸かりながら、明日の作戦を考える。
基本的には僕が地図を見ながら獲物の場所を確認して、追い込むのが一番手っ取り早く多くの獲物が狩れて、しかも奇襲も防げて安全なのだが、余りやり過ぎると的確過ぎて疑われそうだし、皆の修行にもならないだろうから、獲物の探索は皆に任せて、僕は奇襲などに気を付けて安全第一で行くのが一番だろう。
『天照、明日の狩りの予定地に桜花様達にとって危険な魔物とか居ないよね?』
『はい、町から北方面はご主人様のお父上の部隊が中型以上の魔物を狩りながら北上しておりますので、小型の魔物以外は殆ど居ません。脅威度は低いと思われます』
『主様がご一緒なら、たとえ龍種が居ても問題無いのですよ』
いや、流石に龍が出る所は避けるよ。
『寧ろ中型の魔物が減った分、小型の魔物が数多く残っている箇所がいくつか有る位です』
『そっか、小型を捕食している中型が減れば、小型が多く生き残ってしまう訳だけど、中型の脅威が無い状態で狩りが出来る反面、数に対応出来なければ返って危険って事か』
『本当に危険になったら、皆の周りに土壁でも出して保護してから主様が片付けてしまえば済むのですよ』
出来ればそれは避けたいし、鼠は魔物では無いし、兎は精々数匹での行動が基本だから問題無いと思うけど、一応覚えておこう。
そうして僕は夕食の時間になるまでお風呂に入りながら、天照達の意見も聞きつつ明日の事を考えた。
お風呂を堪能した後、僕は夕食を食べに食堂に向かうと、食堂には既に五狼と三刃が話しながら夕食を待っていた。
「四狼兄上、三刃の装備は部屋に並べてありますので、夕食の後に見て下さい」
「ああ、分かったよ」
「四狼兄上、僕の装備も一応確認して欲しいのですが」
「分かったよ、三刃の装備を確認したら、五狼のも確認してあげるよ」
「はい、ありがとうございます」
五狼も三刃と一緒で狩りに行くのは初めてだ。
元から五狼は三刃と違ってあまり外に出たがらない性格だったので、三刃より二つ年上にも拘らず、今まで狩りに行っていなかったのだが、流石に初めての狩りが妹より後では武家の男として問題だと、父上達に強要されたのだ。
一応、僕の初めての狩りも三刃と同じで十歳の時だったので、五狼は兄弟で一番遅い初狩りになる。
父上も強要する筈だ。
「獲物は小型の動物や魔物程度だから、あまり気負わずに修行の成果を出せば問題無いよ」
「はい、頑張ります」
「五狼兄上は緊張し過ぎです。三刃は楽しみで仕方が無いのです」
確かに五狼は緊張している様だが、逆に三刃は気楽過ぎる気がする。
二人の態度を足して割ったら丁度良いのにと考えていると、秋穂母上と二刃姉上がやって来て、異界倉庫から夕食の乗った膳を出して並べていく。
今日の夕食はご飯に魚の煮付け、豆腐に大根や人参などの野菜の味噌汁にきんぴらごぼうだ。
「「「いただきます」」」
僕達未成年組は夕食が前に並べられると、早速手を合わせてから食べ始める。
今日は皆良く身体を動かしたので、いつも以上に食が進む気がする。
やはり秋穂母上の料理は美味しい。
そうして夕食を食べていると、一狼兄上と春菜母上や冨月さんに三琅兄上もやって来て、秋穂母上が皆の食事を並べると、母上達や二刃姉上も一緒に夕食を食べ始める。
先に食べ始めていた僕の食事が終わり、お茶を飲んでいると一狼兄上が話し掛けてきた。
「四狼、先程借りた練習用の武器とやらだが、もっと痛みを強く出来ないだろうか? 何度か斬られると皆が痛みに慣れてしまって、避けたり防いだりが疎かになる者が出てきた。痛みが少ないままでは悪い癖が付きそうなのだ」
そうか、使うのが桜花様や三刃の予定だったので、痛みは結構軽めに設定していたのだ。
大人が使うには、慣れれば気にならなくなる程度だったのかもしれない。
「一応、使い方は一通り説明を受けていますので、痛みの調節位なら僕でも出来る筈です。どの位の痛みにしますか?」
「そうか、四狼が調整出来るのなら助かる。普通に痛みが有っても構わないが、死なない程度に抑えていなければ意味がない。難しいかもしれないが頼めるか?」
「お安い御用です。痛みの限度は骨折程度で宜しいですか?」
「ああ、それで構わない」
「では、明日の朝までには調整しておきます」
「頼む」
一狼兄上はそう言うと、異界収納から練習用の武器を取り出し、僕に差し出す。
僕はそれを受け取って無限倉庫に収納し、三刃達の食事が終わるのを待ちながら秋穂母上に明日の準備を頼む。
「秋穂母上、明日のお昼用のお弁当を五人分お願いします」
「四狼さんは明日は五狼さん達を連れて狩りでしたね。五人という事は姫様も来られるのですか?」
「はい、一応王様の許可が頂ければ、参加を認める事になりました」
「そうですか、お弁当は了解しました。狩りの成果も期待していますが、それ以上に怪我の無い様くれぐれも気を付けるのですよ」
「勿論です。三刃はいっぱい狩って帰って来るのです」
「僕も怪我をしない様に、頑張ります」
秋穂母上の激励に三刃が嬉しそうに、五狼は緊張気味に答える。
「四狼、姫様をお連れするのなら、しっかりお護りするのだぞ」
僕達の会話を聞いていた三琅兄上が桜花様も参加と聞いて、声を挟む。
「死なない様には気を付けますが、過保護過ぎては桜花様の修行になりませんよ」
「む、まあ、それはそうだが、とにかく、程々にお護りしろ!」
「分っております」
そう答えると、三琅兄上は不承不承といった顔で夕食を再開した。
「やっぱり姫様もご参加なさるのですね、三刃は嬉しいです」
三刃は単純に桜花様と一緒に行動出来るのが嬉しい様だ。
「三刃、狩りは何時もの修行と違って危険なんだ。浮かれていては大怪我をするぞ」
「う、申し訳ありません。気を付けます」
「分れば良いんだ」
浮かれている三刃を窘め、皆の夕食が終わると、三刃と五狼の装備を確認して、問題が無い事を確かめる。
その後は部屋に戻って一狼兄上に頼まれた練習用の武器を調整し、やる事が終わった僕は明日に備えて今日は早めに寝る事にした。
明日は問題無く狩りが終わる事を願いながら、僕は眠りにつく。
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