お風呂
サブタイトル通り、今回はお風呂回です。
苦手な方は桜花視点の部分を読み飛ばす事をお勧めします。
今回も楽しんで頂けたら幸いです。
屋敷に戻る途中で複製世界の温泉が有ったこと思い出し、今日は久し振りにじっくりと修行を行ったので、明日の為にも皆にはしっかり疲れをとって貰おうと考え、分体に温泉のお湯を無限倉庫に収納して貰おうと思ったのだが、既に無限倉庫に収納されていた。
どういう事かと記憶統合してみると、温泉別荘を温泉毎に作っても全部は使い切れないと判断した様だ。
それならお湯だけ収納しておいて、入りたい温泉で湯船を満たせば好きな温泉に入れるという訳だ。
確かに複製世界は今の処僕以外が使う予定は無いし、別荘が何十と在っても使い切れないので無駄になる。
分体の判断に納得しながら僕は屋敷に入り、お風呂場に着くと早速お風呂掃除を始める。
桜花様も使われるのだから、何時もより念入りに掃除しないといけないのだが、屋敷のお風呂は家族も多い為に、日本のお風呂よりもかなり大きいので掃除も大変だ。
「掃除も術とかで簡単に終わらせられたら楽なのになー」
思わず声に出してしまったが、その声に天照達が返答した。
『ご主人様、清掃を簡単に終わらせる術でしたら、昨日も魔道具作成でご主人様の分体が使われておりましたが』
『主様、浄化の術をお風呂場全体に掛ければ良いのですよ』
そういえばそうだ、僕は浄化の術をすっかり身体や服等を綺麗にする術としてしか認識していなかったが、実際は術者の認識している汚れを落とす術だったのだ。
『二人ともありがとう。術の効果をすっかり勘違いしていたよ』
天照達に礼を言って僕は助言に従い、早速浄化の術を使って素早くお風呂掃除を終わらせると、何時もよりもかなり綺麗になった。
浄化の終わった湯船に無限倉庫から温泉のお湯を注ぎ、源泉では熱すぎるので術を使って温度を調節をした後、更に疲労回復促進や呪力回復促進の術をお湯に付与する。
温泉のお湯といっても魔導物では無く、少し混ざり物があるただのお湯でしかないので、軽く付与をした程度では四時間も経てば効果は消えるだろう。
浄化の術のおかげで予定より早くお風呂の準備が終わってしまったので、僕は他の分体とも記憶統合をして状況を確認する。
まずは一番遠くの分体のいる地域は既に夜になっているので、寝る直前の様だ。
昨日程数が多くは無いが、今日も主に盗賊狩りを行っていたらしい。
敗戦国の元兵士以外にも敗戦国側の元平民だったり、戦勝国側の兵士の略奪もあったりで、かなり混沌としている様だ。
戦勝国側の略奪は向こうにとっては合法かもしれないので対応に困った分体は、とりあえず国の反対側の人里離れた場所に転移させただけで終わらせた様だ。
いくら合法だったとしても、略奪は見てて気分の良い物じゃ無いのだから、とりあえずは無難な解決方法だろう。
次に観光担当の分体だが、特別な物は発見出来なかった様で、丁度夕食でそこそこ美味しい料理を楽しんでいるみたいだった。
まあ、そう毎日凄い発見はしないだろうから、気長に楽しめれば良いと思う。
それ以外の分体は何時もの様に、馬車が倒れた者、山で遭難した者、川で溺れていた者など、細々と色々な人助けと、魔物に襲われていたいくつかの村で魔物退治を手助けした様だ。
やはりこの世界は魔物の脅威は大きいらしい。
最後に消えた町の住人の生き残りは、未だ今後の展望が見えない様で困惑している。
子供達もようやく両親とはもう会えない事に気付いたのか、今日は部屋に籠っていた様だ。
辛いだろうが、頑張って乗り切って欲しいと願う事しか僕には出来ないのがもどかしい。
そうして分体の活動を確認していると、修行を終えた桜花様と三刃がやって来た。
「四狼、言われた訓練が終わったのじゃ」
「桜花様、お疲れ様です。お風呂の用意は出来ておりますので、ごゆっくり汗を流してきてください」
「うむ、ありがたく使わせてもらうのじゃ」
「姫様とお風呂~♪」
やたらと嬉しそうな三刃と一緒に、桜花様が脱衣所に入って行ったのを確認した僕は、脱衣所の一つ手前の部屋で待機する。
桜花様のお風呂を覗こうとする不埒者など、この屋敷にはいない筈なのだが、桜花様が入っているのを知らない者が来る可能性は有るので、一応の為だ。
地図を確認しておけば誰かが近付いても直ぐに分かるので、この時間を利用して今後の予定を考えよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 桜花視点 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
脱衣所に入り、服を脱ぎ始めた私は隅にある大きな姿見に気付き、少し気になったので下着姿のまま姿見の姿見の前に立つ。
「姫様は鏡などで確認せずとも、三刃はとてもお綺麗だと思いますよ」
三刃を見ると既に服を全部脱いでいて、お風呂に入る準備は完了していた。
「ふふ、三刃、ありがとうなのじゃ。三刃も可愛いぞ」
「えへへー、ありがとうございます。先に入っておりますので、姫様も早く来て下さいね」
三刃はそう言うと、お風呂場の引き戸を開けて中に入って行ったのを見届けた私は、もう一度姿見を確認する。
姿見に映る自分の身体を見てから、先程四狼に作って貰った石像を異界倉庫から一度取り出して姿勢を確認し、真似をしてみる。
やはり、実際に同じ姿勢をとった私を見ながら作ったとしか思えない程に、瓜二つだった。
特に、乳押え(ブラ)に包まれた胸の辺りの大きさが正確過ぎる気がするので、城に戻ったら詳しく確認しておこうと思う。
しかし、四狼はそんなにも私の事を見てくれていたのだろうか?
僅かに嬉しさを感じながらも、それ以上に恥ずかしさが沸き上がって来る。
だめだ、おかしな方向に考えが行ってしまいそうだ。
私は気を取り直して下着も脱ぎ去り、髪を整えてから三刃の待つお風呂に向かう。
中に入った私は以前入った時よりも明るい気がしたが、今は夏だからまだ明るく感じるのかなと思っていたら、先に入って身体を洗っていた三刃が話しかけてきた。
「姫様、何時もよりもお風呂が綺麗になっています。姫様がお使いになられるから、四狼兄上が頑張って掃除したのかもしれません。我が兄ながら良い心がけです」
「そうなのか? 確かに以前使わせて貰った時よりも明るい気はしたが、まだ日は高いからかと思ったのじゃが」
「はい、昨日よりかなり綺麗です」
「そうか、気を使って貰えたのなら、童も嬉しいのじゃ」
私はそう答えて三刃の隣に座り、蛇口の上部に呪力を流すと蛇口からお湯が流れ出す。
この国の上流家庭で、お風呂の在る家には大抵有るお湯の出る魔道具だが、勿論お城のお風呂にも有る。
流す呪力の強さで温度調節も出来るが、お風呂用なので二十度から四十八度程度までの範囲でしかお湯が出ない安全仕様の少し高級な物だ。
そのお湯を桶に溜めて身体に掛けると、また桶にお湯を溜め、手拭いをお湯に浸して石鹸を付けて身体を洗う。
「姫様、三刃は洗い終わったので、お背中をお流しします」
「良いのか?」
「勿論です」
「では、頼むのじゃ」
そう答えて三刃に手拭いを渡し、背中を洗って貰う。
「やはり姫様はお背中もお綺麗で腰も細くて、三刃は羨ましいのです」
「そうか? 三刃も十分綺麗な肌をしておると思うがのう」
「姫様にそう言って貰えると、三刃も嬉しいのです。はい、洗い終わりましたのでお湯でお流ししますね」
そう言って三刃は湯船のお湯を桶で汲み、私の背中にかけ流してくれる。
そのお湯はただのお湯とは違い、僅かに良い香りを漂わせていた。
「ん、この家では湯船のお湯に何か混ぜておるのか? 良い香りがするのう」
「そうですか? 何時もは特に何も入れていない筈ですが、四狼兄上が気を利かせて何か入れてくれたのかもしれませんね」
「成程、四狼なら有り得るか。では湯に浸かって四狼の気遣いを楽しもう」
「はい、姫様」
そうして二人は湯船に入り腰を下ろすと、同時に声を上げる。
「ふはぁーーーーっ」
「ふにゃーーっ」
三刃と並んで湯船に入ると、何処か優しくも暖かく包み込んでくれる妙に気持ちの良いお湯に力が抜け、変な声が漏れてしまった。
隣の三刃も同じ様な声を上げている処を見ると、同じ感覚を味わったのだろう。
「何か分らぬが、妙に気持ちの良い湯じゃなー」
「はいー、何だか力が抜けますーーそれに、お腹の辺りがぽかぽかしますーー」
「そうじゃなーぽかぽかじゃー」
二人でまったり湯に浸かっていると、今日の修行の疲れが湯に溶けて身体から流れ出て行くような気がする。
暫く湯に浸かっていただけなのに、妙に身体が軽く感じ、疲れがいつの間にか完全に消えていた。
ここまで効果が有るとすると、四狼が何かをしたのは間違い無いだろう。
以前の四狼も強く優しい良い男だったが、覚醒後のこの数日は私の予想を遥かに超えた行動をするようになった。
本人は色々隠しているというが、十分規格外の事を平気でするので、本気で隠す気は無いのだろうと思う。
「それにしても、姫様のお背中を流した時には腰の細さに驚きましたが、前から見てもお胸の大きさが分かって、とてもお綺麗なのです」
私が四狼の事を考察している間に、三刃は私の身体を観察していたみたいで、少し恥ずかしい。
「童の年齢なら、この位の胸の大きさは普通の筈じゃが?」
「三刃も最近になって少しは膨らみ始めた気がしますが、姫様のお年でそこまで大きくなる自信は有りません」
「自信云々で変わる物でも無いのじゃが、童と三刃は三つも年が離れておるし、童が三刃の年の頃はぺったんこじゃったぞ」
この国の平均は分らないので、うろ覚えの日本の年齢別バストサイズを思い出してみたが、それほど差は無かったと思うし、たぶん私のサイズはBカップ位の筈だが、あらためて自分の胸を眺めてみると、確かに僅かに大きい気もしてきた。
しかし、数字的には変わりが無い筈なのだから、ならば他が違うのだろうかと考えていると、一つの可能性に気付いた。
胸の数字は同じでも、身長の数字が違うのだから、相対的に胸が大きく見えるだけで、実際はやはり平均的な大きさなのだろうと結論付けていると。
「ですが、姫様の三つ年上の二刃姉上も、姫様と同じ位のお胸でしたよ?」
「うーむ、そこらは個人差じゃろう? 三刃の母上方も今の童より胸は有った筈じゃ。希望を持って良く食べ、良く動き、健康的に過ごす事が大事じゃな」
「分かりました姫様、三刃はいっぱい食べて、いっぱい修行をします」
「そうじゃな、今はそれで良いと思うのじゃ。心配事を溜め込むのが一番良くない筈じゃ、今はこの気持ちの良い湯を満喫するのじゃ」
「はい、姫様」
そうして私と三刃はお風呂に浸かり、髪を洗い合ってから、もう一度湯に浸かってお風呂を出ると、手前の部屋で四狼が待っていた。
お風呂上りを見られるのは少し恥ずかしかったが、手渡してきた魔道具を見てその考えも吹き飛んだ。
やはり、私には全く隠す気は無いのかもしれないと思った。
それが信用ならとても嬉しいのだが、四狼の事だから迂闊なだけの可能性も否定出来ないのがもどかしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 四狼視点 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
桜花様達を見送った僕は、この後の事を考えていると、ふと思いついたことが有った。
風呂上りと言えば、冷えた牛乳だ。
もとい、ドライヤーも必要だなっと思ったので、この時間に作ってしまおう。
何故かこの国にはドライヤーが無いのだが、お風呂の蛇口の方が余程作るのが難しそうなので不思議だ。
もしかしたら、蛇口を作った人は髪が無かったのかもしれない。
などという意味の無い推理は止めて、さっさと作ってしまおう。
素材にはただの軽銀(アルミ)では強度が低過ぎるので、聖銀一パーセントの軽聖銀合金で直径五センチ程の円柱を作り、片方を平たく潰して送風口にし、反対側の少し手前に取っ手も付ける。
本体中央に聖銀の玉を固定して加熱と風の術を付与し、取っ手側に聖銀の玉から呪力を流す線として銀の糸を伸ばして、呪力を取っ手から供給出来る様にした。
これで取っ手から呪力を流す事で温風や風を出す事が出来る筈だ。
最後に送風口の反対側を丸く閉じてから、小さな穴を複数開けて吸入口にしたら完成だ。
試してみたが、温度も問題無い様なので、お風呂から上がったら桜花様達に使って貰おう。
一応の為にこれも複製を七つ作っておく。
これで工作の方は完了したので、明日の作戦を考えよう。
重要なのは皆が大きな怪我をせずに無事に帰って来る事だから、防御を固めれば良いかな?
『天照、明日の狩りだけど、三刃達の防御を固めるにはどうしたら良いかな?』
『はい、皆様に結界を張れば傷一つ付ける事無く、お守り出来ます』
流石に攻撃を受けても痛み処か衝撃なども、全て無効になってしまっては修行にならないし、色々説明も出来ないから無理だ。
『んー完全防御だと修行にならないし、皆に説明も出来ないんじゃないかな?』
『でしたら、凄く弱く結界を張れば良いのですよ』
『そうですね、結界に骨折迄は素通りし、それ以上の攻撃は減衰させる等の条件を付ければ問題無いかと思われます』
『そんないい加減な条件の結界も張れるの?』
『問題ありません』
『主様の結界は条件すらも変幻自在なのですよ』
何時も思うけど、僕の能力って何かがおかしいよね。
まあ、そのおかげで防御については問題無いみたいだけど、素直に喜んで良いのか迷ってしまう。
後は出現する獲物についての対策位だから、僕の経験から教えておけば大丈夫だろう。
狩りに行くのなら足の防具は必須だけど、三刃は持っていたかな?
一応、皆の装備は後で確認しておいて、足りない物が有れば僕が用意すれば良いか。
意外と早く対策も出来てしまった。
時間が空いたので、何か本でもと思った矢先に、桜花様と三刃がお風呂から上がって来た。
「桜花様、湯加減は大丈夫でしたでしょうか?」
「う、うむ、とても良い湯加減じゃった」
「お気に召したのでしたら、何よりです。これで髪を乾かして下さい」
そう言って僕は先程作ったドライヤーもどきを桜花様に渡す。
「こ、これは、もしかしてドライヤーなのか?」
「桜花様にはそれで通じると思いますが、名前はまだ決まっていないそうです。こちら風に言うならば、髪乾燥具か髪乾かし具でしょうか? 取っ手に呪力を強く流すと温風が、弱く流すと冷風が出てきますので、お風呂の蛇口と同じ仕様ですね」
僕の説明を受けて桜花様は呪力流すと、ごーっという音と共に送風口から暖かい風が流れて来る。
桜花様はその風を左手で受けて納得したのか、「おーーっ」っと声を上げた。
「良し、三刃、此方に来い。髪を乾かしてやるのじゃ」
「髪をですか? 姫様」
桜花様は三刃に声を掛け、自分の前に座らせると、温風を出して三刃の髪を乾かし始めた。
「うわっ! 何か暖かい風が当たっているのです」
「心配はいらぬ、この風で髪を乾かしておるのじゃ。三刃の髪が乾いたら、童の髪も乾かして欲しいのじゃ」
「はい、使い方を教えて頂ければ、喜んでお手伝いいたします」
そうやってお互いの髪を乾かした二人は、新しい魔道具を見た後、僕の方をじっと見て来る。
「あー欲しいのでしたら、そのままお持ち頂いても構いませんよ」
「ありがとう四狼。しかし、最近色々と貰ってばかりで申し訳ないのじゃ」
「これは大した物では無いそうので、気にしないで下さい」
「そういう訳にもいかんのじゃが、何時か礼はさせて貰うのじゃ」
「はい」
「三刃も欲しいのです」
僕と桜花様が話していると、三刃が手を上げて強請って来たので、専用にする必要も無いだろうと提案する。
「お風呂に同じ物を置いておくから、皆で使えば良いんじゃないかな」
「それもそうですね、お風呂の後位しか使わないので、それが良いです」
三刃も納得した処で、二人に湯呑に冷えた牛乳を注いで渡してあげた。
お風呂上りの牛乳はお約束だよね。
しかし、渡した牛乳を見た二人は僕を見て問い掛けて来る。
「四狼、まさかお風呂での童達の会話を聞いていたりしていないじゃろうな?」
「四狼兄上、女の子のお風呂での会話は男子禁制なのですよ」
なんだろう、お風呂で牛乳の話してもしていたのだろうか?
「何を怒っているのか分かりませんが、お風呂上りで牛乳を飲むのは、汗で流れた栄養を補給出来て身体に良いと聞きましたから、ご用意しただけなのですが、何か問題が有りましたか?」
「そ、そうか、聞いていないのなら問題無いのじゃ」
本当に意味が分かっていない事を察してくれたのか、桜花様は直ぐに矛を収めてくれた。
少し気になるが、女性の秘密に迂闊に近づくのは危険だと思い、気にしない事にする。
危うきに近寄らずだ。
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