早とちり
お待たせ致しました。
楽しんで頂けたら幸いです。
連携訓練を終えた皆を連れて屋外修練場横の四阿に行き、何時もの様にお茶を飲みながら一息つく。
「最後の連携は上手くいくと思ったのじゃが、四狼には通じんかったのじゃ」
「多少意表は突かれましたが、逃げ道がありましたから問題にはなりませんでした。もう一人いて、後ろも塞いでいれば、十分有効な連携だったと思いますよ」
桜花様が残念そうに話していたので、僕は問題点を指摘し、改善策を伝える。
「そうじゃな、逃げ道を塞いでいなければ逃げられるか」
桜花様は僕の説明に納得してくれた様だ。
「後は桜花様は時々動きが止まる事があるのが良くありませんね、相手からは良い隙です」
「分かっておるのじゃが、考えていた攻撃を全て躱されたり逸らされたりすると、次の攻撃をどうしたら良いか考えてしまうのじゃ」
「でしたら常に次の行動を考えて動いて下さい。そうすれば隙は減りますよ」
「四狼は難しい事を言いおるが、理屈は分る。精進しよう」
桜花様のこの悪い癖が直れば、何時かは今の坂本殿以上に強くなれるだろう。
「三刃はもっと動きに緩急をつけて相手を翻弄するか、素早く相手の懐に入ったり、相手の死角に入るかしないと攻撃は通じないし、時間と共に徐々に速度も落ちていたから、もっと体力を付けないといけない」
「はい、四狼兄上、頑張ります!」
三刃は何時も前向きで頑張っているから、これで大丈夫だろう。
「五狼は少し槍の重さに身体が泳いでいる時があるから、重さに慣れる事だな」
「はい、四狼兄上、それでは筋力訓練をするのが良いのですか?」
「筋力を上げるのも大事だけど、型稽古をしていれば重さにも慣れて来るだろうから、まずは型稽古をした方が良いよ。間違った筋肉を鍛えても速度は逆に落ちるからね」
「分かりました、四狼兄上」
五狼も納得して皆の今後の方針が決まった。
「皆の修行内容が決まった処で、先程の連携訓練でやり残した連携があるのじゃが、折角なのじゃ最後に試させて貰えぬか?」
「やり残した連携ですか? どんな連携か僕も興味が有りますから良いですよ。試してみて下さい」
桜花様が試したいと連携があると言うので了承し、皆で修練場の中に戻って対峙する。
「では四狼、行くぞ!」
「いつでも掛かって来て下さい」
僕が答えると桜花様が此方に向かって走り出し、その後ろを五狼、三刃と一列に続いて突っ込んで来る。
桜花様の顔が少しにやけているので、何かのネタか裏が有りそうなのだが、行動が単純過ぎるので僕も簡単な対応で答える。
持っていた木刀を無限倉庫に仕舞い、代わりに五狼に渡した木槍と同じ物を取り出して構え、身体の後ろに呪力を纏う。
その呪力を後ろに引っ張る感じで伸ばしてから解放すると、ゴムの様に元に戻って僕の身体の後ろに当たり、僕の身体は前に押し出される。
一瞬で速度を上げて高速で行動出来る、瞬動という能力だ。
一瞬で桜花様の目の前に移動し、桜花様が反応するより早く木槍の軌道を左手で制御しつつ、右手で木槍の端を持って突き入れると、桜花様の身体を木槍が突き抜け、五狼、三刃と三人を串刺しにして僕の右手が桜花様のお腹に当たり「ぐふっ」「うぎゃっ」「きゃん」っと声を上げて皆がその場に倒れた。
「桜花様が何をしたかったのかは分りませんが、動きが単純過ぎて簡単に迎撃出来ますので、この連携に意味は無いと思うのですが」
「あいたたた」
「うーーー」
「動けないのですー」
皆が一本の槍に貫かれて団子状態になっているせいか、手足を動かしても起き上がれない様で、僕の疑問も聞こえていないみたいだ。
そんな様子を眺めていても仕方が無いと思った矢先、横から大きな声が聞こえて来る。
「ひっ、姫様ーっ!!」
「姫様っ!! 四狼、姫様に、なんて事を! 伊吹、直ぐに春菜母上を連れて来てくれ!」
「は、は、はい! 直にお連れするで御座る!」
突然現れた一狼兄上と伊吹さんが大声で叫んだ後、青い顔をした伊吹さんが急いで道場に戻って行った。
「四狼! 事と次第に寄っては四狼とて只では済まさぬぞっ!」
一狼兄上は持っていた木刀を僕に向け、真っ赤な顔で怒鳴り付けて来る。
僕はちらりと桜花様の状態を見て、三人が槍で串刺しになっている状態に、これは誤解するよねっと思った。
どう説明するか考えていると、桜花様から救援要請が来る。
「とりあえず槍を抜いてくれぬか、槍が邪魔で起き上がれんのじゃ」
「重いですー」
一狼兄上は槍が身体を貫通しているのに普通に話している桜花様に驚きながら、皆を凝視している。
二人の身体の一部が上に乗っかっている三刃も重そうなので、僕は槍を抜いて皆を解放してあげると、皆は立ち上がり、口々に感想を言い出す。
「踏み台にすらされぬとは、やはり実践では役に立たぬか、えらい目にあったのじゃ」
「前が見えないので、攻撃が分かりませんでした」
「ん、三刃も五狼兄上の背中しか見えなかったのです」
お腹を槍で貫通されていた筈の三人が普通に話しているのに対し、どう対応して良いのか分からない一狼兄上が桜花様に尋ねる。
「姫様、ご無事でしたか?」
「ああ、心配を掛けた様じゃが何も問題は無いのじゃ」
桜花様の槍が貫いていたお腹を見た一狼兄上は、薄く緑に輝くだけで血等も流れていない事を確認して安堵する。
そして今度は僕に詰問してくる。
「四狼! どういう状況なのか、説明しろ」
「どういうも何も、皆で修行していただけですよ」
「槍が腹を貫通していて、修行していただけの訳が無かろう! もっと詳しく説明しろ!」
一狼兄上の心配ももっともなので、木槍の能力や修行内容を説明し、実際に一狼兄上が桜花様の木刀に切られる事で渋々ながらも納得してくれた。
「今までも誰も此方に来られなかったので、まさか見学に来られるとは思いもしませんでしたし、今までも修行の説明はしていませんでしたから、今回もしていなかっただけです。何時もと同じですよ?」
「確かに今まで確認していなかったが、いきなり身体を槍で貫かれている状況を見て、驚かない筈がなかろう」
一狼兄上は疲れた顔で反論するが、そこに桜花様が援護してくれる。
「一狼、四狼はお主の弟ではないか、もっと信用してやるのじゃ。今日の午前の修行の成果だけでも相当の物じゃぞ」
「午前の修行、で御座いますか?」
「うむ、五狼、三刃、効果の分かり易い壁が良いじゃろう、午前の修行の成果を見せてやるのじゃ」
桜花様はにやりと笑いながら五狼達に指示を出す。
「「はい、姫様」」
二人は桜花様に返事をすると少し集中した後、術を発動させて二人の前に六十センチ程の高さの土壁を作り出す。
流石に能力として確定したおかげで、僕の補助の術が無くても術の発動が出来る様になっていた。
後は発動までの時間の短縮や強度を上げていけば、近い内に実戦でも使える様になるだろう。
そして、二人の術を始めてみた一狼兄上は驚いていた。
昨日までは術など使えなかった筈の弟妹が、突然目の前で土壁を作り出したのだから、当然だろう。
「いつの間に術が使える様になったのだ? 今まで隠していたのか?」
「いえ、一狼兄上、全て今日初めて使える様になったので、昨日までは僕は何の術も使えませんでしたよ」
「三刃もです」
一狼兄上は五狼と三刃の返答に唖然としながらも「俺は言霊術の獲得に一年程掛かったんだがな」っと少し黄昏始めたが、一度頭を振って気を取り直すと僕に話し掛けて来る。
「とりあえず姫様や五狼達に怪我が無いのなら今はそれで良い。それでその訓練用の武器とやらは他には無いのか? 複数あるのならば少し試させてくれ」
「武器の種類は皆の使っている三種類しか有りませんが、暫くお貸しする位でしたら問題ありませんよ」
僕はそう答えて、一応それぞれ八本ずつ作ってあった木刀と木槍と木の小太刀を四本ずつ貸す事にして無限倉庫から取り出し、一狼兄上に渡す。
「四狼、ありがとう。早速試してみる」
そう言って一狼兄上は僕の渡した練習用の武器を異界収納に仕舞い、道場に戻って行ったのだが、今度は入れ違いで伊吹さんと春菜母上がやって来た。
「四狼さんが、姫様達に大怪我をさせたと青い顔をして呼びに来たのだけれど、皆元気そうね」
そう言って春菜母上は皆の方を見ると、皆は元気に話している。
「姫様ー、お怪我の具合は? 立っていて大丈夫なので御座るか?」
「安心せい、童は無傷じゃ。もう少し良く見ておれば、誰も出血等もしていない事が分かった筈じゃぞ」
「そ、そう言えば、お腹を貫かれていた筈なのに、血だまりも無いのは変で御座るな」
伊吹さんは桜花様が倒れていた場所に顔を向けて確認しながら答えた。
「つまり、一狼さんと伊吹さんの早とちり、という事なのですね?」
「その様で御座る。春菜殿にはご迷惑をお掛けしたので御座るよ」
「皆が元気ならそれで良いのよ、気にしないで。それで、どうしてその様な勘違いが起きたのか、聞いても良いかしら?」
結局一狼兄上にしたのと同じ説明を再度行い、実際に効果を見せると二人は驚きながらも納得してくれたけど、僕は皆の修行よりも、何度も同じ説明をした事に疲れを感じていた。
「あははは、面白いで御座るな。斬られた箇所が少し痛む程度で刃がすり抜けるで御座るよ」
伊吹さんは僕が渡した練習用の小太刀で、自分の腕を斬ったり、桜花様に木刀で胴を斬って貰って効果を試している。
その横では暇になっていたのか、五狼と三刃の二人が試合稽古を始めていた。
長柄の武器に慣れていない五狼と、手数の多い三刃は結構良い勝負の様だったので、そのまま続けさせていると、今度は桜花様と伊吹さんも試合稽古をし始めたので、僕はのんびり皆の稽古を見守る事にした。
そして丁度ここに来ていた春菜母上に、五狼の事を相談する。
「春菜母上、五狼は治癒術を学びたいそうなのですが、まずは医術書でも読ませた方が良いのでしょうか?」
「五狼さんが治癒術ですか? そうですね、医術書を読みながら、並行して術の訓練も同時にさせるのが良いと思いますよ。たとえ術が使えなくても、医者なれる可能性は残りますから、無駄にはならないでしょう」
そうだった、春菜母上は五狼が言霊術を獲得した事は知らないので、それも説明しておく。
「術の方は大丈夫です。午前の修行で五狼と三刃は言霊術を獲得していますから、術は使える様になりました」
「そうなのですか? 五狼さんは前から術には興味があった様ですが、三刃まで使える様になるとは思いませんでした」
「皆一緒に修行しましたからね、桜花様も一緒に皆獲得していますよ」
「術の獲得は頑張っても獲得出来ない者も多いし、それなりに時間が掛かる筈なのですが、皆さん凄いですね」
春菜母上は凄いの一言で済ませて深くは追及してこなかったが、追及されても答えられないので助かった。
他の皆も見習ってくれると楽なのだが、普通はそう簡単に能力を獲得出来ない事を知っているのだから、気になるのも当然だろう。
少しは自重するべきなのだが、この魔物が蔓延る危険な世界で、弟妹や知人の生存率を少しでも上げておきたいと考えるのも、僕にとっては当たり前の事だから、その辺りは止める気持ちはない。
保身で必要以上に自重した結果、家族に不幸が起きるよりは良いと思うのだ。
そんな事を考えながら皆が自主的に稽古を続けているのを眺めていると、春菜母上が感心した様に話しかけて来る。
「皆さん先週より動きが良いですね。やはり昨日の試合が良い刺激になったのでしょうか?」
「どうでしょうか? 皆も前から頑張っていますから、昨日の試合に良い効果が有ったのなら、僕も嬉しいです」
その後も暫く皆の修行を眺めていた春菜母上と、桜花様の相手をしていた伊吹さんが道場に戻って行ったので、僕は皆を集めて今日の最後の修行内容を説明する。
「最後に各々の個別指導をするけど、まず三刃」
「はい、四狼兄上」
「体力不足の三刃は走って体力の強化だ。敷地内を十六周したら今日の修行は終了だ」
「むー、十六周も走るのですか?」
「先程も言った様に三刃は試合稽古中も段々と速度が落ちていたからね。まずは体力を上げないと長い時間の修行も出来ないし、多数の敵が現れた時にも対応出来ないぞ」
「分かりました、走って来ます」
「屋敷の風呂を用意しておくから、終わったら桜花様と入って、明日の為に疲れを取っておきなさい」
「姫様とお風呂! 直に終わらせてきます!」
三刃はそう言うと、張り切って走って行った。
やる気もあるみたいだし、三刃の方はこれで良いだろう。
「次に五狼も先程言った様に槍にもっと慣れる事が大事だから、覚えている型稽古を全て八回ずつやる事」
「八回もですか?」
「槍はまだ不慣れの様だから速度も行動も遅い。動きは悪くないのだから、慣れれば今よりも強くなれるよ」
「はい、頑張ります!」
五狼も修行内容を聞くと早速型稽古を始め出す。
「最後に桜花様ですが、初めは僕と組み稽古です。僕の攻撃を上手く捌きながら攻撃もして下さい。桜花様の攻撃が少ない分、僕の攻撃が増えますので頑張って下さい」
「うむ、よろしく頼む」
「それが終わったら桜花様も型稽古です。覚えている型を四回ずつやって貰います」
「わ、分かったのじゃ」
そうして僕は組み稽古で桜花様を数十回切り刻んだ後、五狼の型稽古が半分を終えた処で組み稽古を終え、桜花様にも型稽古に入って貰い、僕はお風呂の準備の為、屋敷に戻った。
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