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異世界に別荘

読んでくださった方、評価してくださった方、有難う御座います。

一寸した手術やインフルエンザ等トラブルが続いて遅くなりましたが、また読んで頂けたら嬉しいです。

 〇〇三 異世界に別荘



 急いで身支度を整えて食卓に行くと、既に父以外の全員が揃っていた。


「遅いぞ! 四狼」


 一つ上の兄、三狼が少し声を抑えながら注意してきたので、適当に言い訳をしておく。


「申し訳御座いません兄上、少し考え事をしておりました」

「四狼兄上は朝から、何を考えていたのです?」


 適当に兄に答えたら、普段は余り深く考えない妹が、何故か喰い付いてきた。


「そうだな、四狼が朝から考え事等珍しい。寝ぼけていただけではないのか?」


 僕は謝罪しつつ誤魔化してみたが、妹と一番上の兄は信じていない様だ。


「いえ、僕だって考え事位はしますよ。来年には成人なのですから」

「そうか、四狼も将来の事を考える年になったか」

「そうですよ」


 僕はそれ以上何か言っても墓穴を掘りそうだと思い、更に適当に答えて自分の座布団に座って家族の事を考えてみる。

 前世の記憶が戻ったといっても前世の家族の記憶は殆ど無く、兄と妹がいたという程度で顔も名前も覚えていない。

 家族といえば今の家族が僕の家族なのだが、この国は所得額や資産によって一夫多妻が認められているので、僕には母が二人いる。

 兄弟は兄が三人と姉が二人、弟と妹が一人ずつ居るが、父上、上から一狼、二狼、三狼、四狼、五狼は安易過ぎると思う。

 そして姉と妹の一刃、二刃、三刃は女性の名前に付けて良い文字なのだろうか? 武家とはいえ物騒過ぎやしないか?

 今まで考えもしなかった事に、前世知識の影響からか違和感を感じる。

 慣れるまで暫く時間が掛かりそうだ。


 ちなみに上から、兄・姉・兄・姉・兄・自分・弟・妹で、二十三、二十、十八、十六、十五、十四、十二、十歳だ。

 母が二人いるとはいえ、よくも頑張ったものだ。

 父は軍に八人居る将軍の一人で、二狼も軍で小隊副長の位に付いている。

 三狼は今年警邏隊に入ったばかりなので、まだ見習い扱いの岡っ引きだが、家族の男衆の半数が城勤めで武力系の仕事をしている事になる。

 一狼は長男という事もあったのか、今は家の道場を継いで師範代として弟子の指導をしているが、やはり軍の予備役でもある。

 多分、父が引退する前には、軍に戻る事になるだろう。

 その隣には一狼のお嫁さんの冨月さんが座っている。

 現在妊娠二カ月らしい。少しお腹が膨らんでいる気がする。

 新しい家族が増えるのは、僕も楽しみだ。


 一応、道場主は祖父なのだが、今は武者修行とか言って何処かに出掛けた切り半年程帰ってきていない。

 しかし、馬鹿みたいに強いので死んではいないだろうと、家族の誰もが心配はしていない。

 弟の五狼は武芸より術に興味がある様で、武術訓練の時以外は大抵小難しい本を読んでいる。


 一番上の姉、一刃は既に結婚していて三年前にこの家から嫁いでいった。

 相手の家は中堅の商人で、色々手広くやっているらしい。

 最近は仕入れの護衛で付き合って旅に出ている事も多いので、偶にしか会えなくなってしまった。

 次女の二刃は、とあるお偉いさんの婚約者候補になったので、現在花嫁修業中。

 妹の三刃はまだ子供なせいか、好奇心旺盛過ぎて時々危なっかしいが、何故か姉妹の中では一番攻撃力は高かったりする。将来が少し心配だ。

 そんな事を考えていると父が入ってきて、朝食が始まる。

 朝食はご飯、焼き魚、味噌汁、きんぴらごぼう等、時代的にどうなのかなとも思ったが、前世の記憶的には普通の和食だ。

 今までは気にならなかったが、転生前の事を思い出した今となっては、この国を選んで良かったと思えてくる。

 朝食を堪能し最後にお茶を飲んでいると父が唐突に話しかけてきた。


「四狼、何か良い事でもあったのか?」

「ん!? 良い事とは何ですか?」


 いきなりの事に戸惑いながらも、質問の意味を尋ねてみる。


「何時もより美味そうに食事をしている様に見えたのでな、何か良い事でもあったのかと思ったのだ」

「食事は普通に美味しいですし、特に何も変わっていないと思うのですが……」


 嬉しさが顔に出ていたらしい、気を付けないといけないなと思いつつ誤魔化していると。


「そうなのです父様、四狼兄様は昨日より強くなっているのです」

「ほう」


 不味い、そういえば、三刃も生物鑑定を持っている。何か三刃にはバレているいるみたいだ。

 しかし、偽装で誤魔化している筈なのだが、何がバレた?


『異界収納が異界倉庫に変化しております。昨日も鑑定されていたのであれば、その違いに気付かれたのだと思います』

『主様、鑑定で解る変化は倉庫だけなのですよ。日頃の鍛錬とでも言っておけば、問題ないのですよ』

『ですが、本日の鍛錬は中止にしておく事をお勧め致します』

『昨日との差異を知らずに力を揮うと危ないのですよ』


 二人の案内人は頼りになるなと思いつつ、提案に乗って誤魔化してみる。


「僕には分らないけれど、強くなっているのなら日頃の鍛錬の成果じゃないのかな?」

「うむ、常に鍛錬を怠らないのは良い事だ! 今後も精進しなさい!」

「はい! 父上」


 どうやら父は誤魔化せた様だ。

 三刃は少し言い足りない様だが、父が納得したので、これ以上は何も言えないのだろう。

 今のうちに退席してしまおう。


「それでは僕は午前の座学をする事に致します」

「ああ、勉学も大事だ、精進しろ」

「はい、失礼します」


 父の励ましの言葉に頷き、不自然にならない程度に急いで部屋に戻った。

 しかし、勉強もしなければいけないけど、さっき作った複製世界も気になる。

 こんな時こそ天照だ。


「複製世界が気になってるんだけど、向こうに行ってる間にこの部屋に誰か近付いたら判る様にって出来ないかな?」

『それでしたら、両方を同時になさっては如何でしょうか?』

『分体を使えば勉強しながら確認もできるのですよ』

「分体って何? 分身みたいなもの?」


 何それ? なんだか便利そうなんだけど。


『はい、ご主人様は分体を同時に六万五千五百三十五体作る事が出来ます。更に多重思考を分け与える事で、完全に別々に行動をさせる事ができます』


 六万五千五百三十五体って多過ぎない? それに


「多重思考って?」


『はい、複数の事を同時に思考出来る能力です。分体はそのままですと命令に従って自動行動をするだけの人形ですが、思考力を分け与える事で、ご主人様と同様に自立行動が可能になります』

『主様と全く同じ能力と思考で自律行動してくれますよ』

「それって分体を作って、本体が乗っ取られたりしないの?」

『肉体は別ですが魂は一つですし、思考と身体を多重化しているだけなので、実際には全てご主人様なのです』

『右手や左足が本体を主張しない様なものなのですよ』

『多重思考を分割憑依させた分体は元の身体と全く違いがなく、能力も分けられた思考力以外には違いが有りませんので、正確には多重存在化していると考えて間違いありません。つまり、仮に本体認定している身体が死んだ場合でも、残っている身体が本体に成り代わり、同時に記憶も統合されます』

「いや、手足が無事でも頭が壊れたら普通は死ぬから!」


 確かゴキって頭を潰しても生きてるって説があった様な気が……不吉だ。


『この場合の本体とは、多重思考を一番多く所持している身体の識別でしか有りません。各分体の記憶は何時でもお互いに統合する事ができますので、問題ありません』


 例えがイマイチ良く判らないけど、記憶も共有されるのなら問題ないのかな?

 同時に色々と行動できるのは、できる事が増えた今となっては有難い事だ。


「で、やっぱり念じれば作れるのかな?」

『はい、細かな所は私が補助していますので、能力は念じるだけで使用できます』


 成程、色々と妙に簡単に出来ると思ったら、天照が補助してくれていたのか。


「天照、補助ありがとう」

『いえ、私自身、ご主人様の能力の一部で御座います。ご主人様を補助するのは当然の事ですので、お気になさらずご命令下さい』

「分かったよ。じゃあ分体作成! で良いのかな?」


 試しに分体を一体出して思考力を一つ与えてみた。

 自分が目の前に居るって凄く不思議な感覚だが、改めて客観的に自分を見ると、今生の僕は結構イケメンな気がする。

 多分だけど、取得した能力に魅力補正系の能力等もあったのだろう。

 今まで一度も結婚出来なかったらしいけど、これで結婚出来る確率が上がるなら嬉しい事だ。


「じゃあ本体?、僕はここで勉強してれば良いんだね?」

「ああ、その、任せた、分体?」


 僕達は若干戸惑いながら分体に後を任せて複製世界に転移した。



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 まずは家の中から確認してみたが、兄弟姉妹の部屋は入り辛いので後回しにして、まずは道場を覗いてみたが、完全に同じなので目新しい物も無く、他の部屋へと移動したが、やはり何処も元の部屋のままだった。

 やがて食卓のあった部屋に辿り着くと、そこには手付かずの朝ご飯が残ったままだった。


「複製した時間が失敗だったかな」

『このままだとネズミやゴキブリが大繁殖なのですよ』


 月詠の台詞に朝ご飯の一食位で大袈裟なと思ったが、そこに天照の補足が入る。


『この町の人口だけでも二百万人程ですから、全家庭の朝食が放置されていた場合、相当な量になります』

「ど、どうしよう?」

『繁殖を回避する心算ならば、食料を回収するしかないでしょう』

『無限倉庫に入れておけば再利用出来ますし、タダで食糧確保出来たと考えるのですよ』

「月詠は前向きだよねー」


 実際、放置する訳にもいかないので、僕は家の前に出て町中の食料を回収させる為、分体を数人ずつ出して、それぞれに多めに思考力を持たる。ある程度ばらけた後、更に分体を出させてそれぞれの方向に向かわせた。

 人口は二百万でも戸数では四十万程なので、合計四〇九六体の分体を出して後は任せた。ノルマは一人百件だ。

 他の町までは手が回せないので、そっちは今後の課題にしよう。

 今出してる分体にそのまま任せても良いかもしれない。

 何にしても、この世界をどう扱うかも考えないといけないのか。

 色々試そうとして、逆にやる事が増えてるのは気のせいじゃないよね。

 等と考えていると、天照から待ったが掛かる。


『ご主人様、手当たり次第に探しても時間が掛かるだけかと思います』

『全部纏めて収納した方が楽なのですよ』

「えっと、他にもっと良い方法があるの? 何度も聞いてるけど、どうしたら良かったのかな?」

『はい、地図に対して検索をかけて、検索結果を全部倉庫に収納してしまえば一瞬です』


 何それ? 泥棒し放題じゃないのか?


「それって、この方法を使えば泥棒し放題って事になるんじゃないの?」

『いえ、この世界はご主人様が作られた物ですから、元から全てご主人様の所有物なので、泥棒にはなりません』

『直接無限倉庫に入れられるのは主様の所有物か、視界内に入っている物等、主様が認識出来ている物までなのですよ』

「それって他人の物でも見えてれば収納出来るって事だよね?」

『無限倉庫が使えない人でも泥棒は出来ますし、能力はどう使うかが問題だと思います。仮に泥棒をしても私達はご主人様の選択に異論は御座いませんし、ここは前世の世界とは違います。盗むのが必要な場面も、この世界では有るかと思います』

「そっか、どんな能力も結局は使う人次第って事なんだね。それに此処は日本じゃないから、日本の常識も然程必要ないのか」


 僕は相変わらずの無茶苦茶な能力に驚きながらも、結局は心の持ち様なのだと言いきかせて、能力は慎重に使わないといけないなと思った。


「それで、地図で食料を検索して収納すれば良いのかな?」

『折角ですので世界中の町や村ごと収納するともっと楽ですよ。人の住んでいない建物は痛みますし、後で好きな場所に出せば楽に引っ越せます。跡地は時間が経てばそのまま地域の自然に還ってくれますから、建物を残すより綺麗になって良いと思いますよ』


 町ごとって、やることは無茶苦茶だけど、成程、とても合理的だ。

 確かにそこら中に廃墟の町があっても不気味だしね。

 しかし、そういう方法があるのなら分体を出す前に言って欲しかったよ。

 覚えたばかりの能力で使えそうと先走ったのがいけなかったのかな?

 まだまだ知らない能力も沢山あるのだから、今後はもう少し慣れるまでは天照達に相談してから行動した方が良さそうだ。


「そうなると、折角出した分体が我ながら哀れな気がするなぁ」

『でしたらそのままこの星の管理を任されては如何でしょう? 他に人も居ないですし、資源を集めたり、別荘を建てて保養地にする等、色々出来る事は沢山あると思います』


 確かに、この世界を放置するのも勿体ないし、それが良いのかもしれない。

 自分の別荘というのも心が惹かれるものがあるしね。

 山と海、どっちにするにしても異世界に別荘となれば温泉は欠かせないし、両方というか、色んな場所に作っておいて周るのも面白そうだ。土地も資材も有り余っているのだから。

 作るのが自分の分体なら好みも同じだし、安心して任せられる。

 さっそく分体を呼び戻して記憶や身体の融合をして後を任せる。

 勿論、この町の食料と、それ以外の町や村を丸ごと倉庫に収納しておくのも忘れない。

 おかげで倉庫の中身が更にとんでもない量になっているが、今は素直に儲かったと思って、余り気にしない事にしよう。

 深く考えるだけ無駄だ。



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