国王の苦悩
お待たせ致しました。
楽しんで頂けたら幸いです。
久しぶりの家族全員が揃った団欒を楽しんだ後、僕は部屋に戻って分体達の記憶を統合した。
昨日の夜に助けた人達の内、旅行や移動中だった者や狩りの途中だった者達は問題無く目的地や家に送り届けた様だが、例の町が無くなっていた人達はまだ仮の宿に留まっている。
彼らが今後どうするのかは本人にも希望を聞いて、出来る事ならその希望をかなえてあげたいものだ。
しかし家で寝ていたところを海に流されていた二人の子供達の内、姉の方は十一歳になっているのが問題だ。
和富王国の孤児院は十歳までなので孤児院にも入れないし、かといって妹だけを孤児院に入れて離れ離れにするのも可哀そうな気がするので、結局こちらも今は保留するしかなさそうだ。
そして救助活動や観光の為に出ている分体達も十分活躍している様だった。
流石に昨日の夜と違い、此方が昼の間の大半の時間を救助に充てていたおかげでかなりの人を助ける事が出来た様だ。
中でも和富王国から一番遠くに行った分体は東に二千万キロ程離れた地域、つまりこの惑星を和富王国から四分の一回転程東に移動した地域で盗賊が大量発生していたのが大きかった。
当然昨日と同じ様に速やかに電撃の術で自由を奪ってやったので、後はその土地の法に則って裁かれるだろう。
担当した分体も盗賊が増えていた理由が気になったので調べてみたところ、どうもこの辺りで起きていた戦争で負けた国の兵士等が勝った国で盗賊行為をしていたのが盗賊が増えた原因だった様だ。
負けた国が再起を図って勝った国で地下活動をするというのなら僕も納得出来たのだが、やってる事が盗賊行為で、しかも一般の人達を襲っているのでは只の犯罪者なので話にならない。
結局のその国では二十二組もの盗賊団を無力化する事になったが、被害にあっていた村や町もこれで多少は平和になれば良いと思う。
大きな事件はこれ位で、後は魔物に襲われている旅人や商人、引き際や魔物の数を間違えた狩人等を助けた位で特に変わった問題は無かった様だ。
最後に観光を優先させている分体が二体いるが片方は自然を、もう片方は町を楽しんでいた様だ。
高原の湖や山の山頂を飛びながら眺める景色は前世で見たドローンの映像の中に入った様で楽しかったし、異国の町並みも僕が知らなかっただけかもしれないが、前世でも見た事のない変わった様式の建物や服装が面白かったが、逆に僕の服装も向こうの人には珍しかったみたいで少し目立ってしまった。
そして一つ残念なのは食べ物がいまいちだった事だけど、和富王国は無駄に食には拘ってるから仕方が無いのかもしれない。
一応無限倉庫にも同じ物があったのだが不味くは無くても美味しくも無いので、今後はわざわざ食べたいとは思えなかった。
次は美味しい食べ物に出会えると良いなと思いながら、僕は寝間着に着替えて布団に入る。
明日も頑張ろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
丁度その頃、和富王国のお城の一室で昨日と同じ様に桜花から和富王国国王、徳田神紅郎に今日の出来事の報告が行われていた。
「伊吹から既に聞いておられると思うのじゃが、四狼はやはり剣術の腕もかなりのものだったのじゃ」
「ああ、聞いておるよ。まだ成人前にも拘らず、あの坂本忠昭に勝ったというではないか」
神紅郎は四狼が坂本に勝ったという事に流石は龍牙の息子だと、面白そうに笑いながら答える。
「坂本は父上があの、という程の男なのですか?」
「ああ、軍の十代では四狼の兄の二狼と二人しかいない隊長職にある。つまり四狼は成人前にして軍の四割に勝てるという事になる」
「ほほう。流石は四狼じゃな」
そう答える桜花は何処か嬉しそうだ。
「その様子では試合内容も桜花が納得のいく程ものだったのじゃな?」
「そうじゃな、試合後には服がぼろになっておったが、身体には届かせなかったのじゃから実質無傷での勝利じゃ。見切りがもう少し上手く出来ておれば服も破れずに完璧だったのじゃろうが、童では二人の動きすら僅かしか見えんかったのじゃから、それ以上を望むのは二人に失礼じゃろう」
「坂本忠昭に無傷で勝つか、剣術の腕も末恐ろしい物が有るようじゃな」
「いや父上、確かに四狼の剣術も素晴らしいが、四狼の本質は剣術では無いと童は考えるておる」
神紅郎は溜息と共に答えるが桜花の考えは少し違う様だ。
「今日はいくつもの魔道具を四狼から頂いてきたのじゃが、中でも特別なのがこれじゃ」
桜花はそう言うと異界倉庫から銀色の八角柱を数個取り出して神紅郎に見せる。
「これが特別な魔道具なのか? ただの小さな銀柱にしか見えぬが…」
「これは魔石柱というらしい」
「何? これは魔石なのか? それにしては銀で覆ってしまっては使えぬのではないか?」
そこで桜花は更に異界倉庫から設置装置を取り出し説明を続ける。
「そのままでは使えぬので、これに入れて魔石の供給装置に繋げて使うのじゃが、その効果を聞けば父上も驚くじゃろう」
「何を勿体付けておる、さっさと結論を答えよ」
「ふふん、この魔石柱は同じ大きさの魔石に対して百倍以上の性能を持っておるそうじゃ」
「何!? 百倍じゃと! その様な大言、流石に聞いただけでは信じられんぞ」
「分かっておるのじゃ、今、城の魔道具技師に試させておる。結果が出るには数日掛かるじゃろうが、童はそれだけの性能が有ると信じておる」
「その根拠を聞いても良いか?」
「簡単じゃ、四狼が童を謀る筈が無かろう?」
「桜花に聞いた儂が馬鹿なのか、判断に困る返答じゃな」
神紅郎は溜息と共に肩を落としながら答えた。
まあ、普段から見ていて分かる位お互いに惹かれ合っておるのだし、そういう年頃なのだろうと神紅郎は納得する。
「本題はそこでは無いのじゃ。四狼は魔石の問題を聞いたその日の内に対策を考え、更に新しい魔道具を開発して見せたのじゃぞ。その開発力こそが、四狼の一番の能力なのではないかと童は思っておる」
確かに新しい魔道具を開発したのは有力な能力なのだが、しかし神紅郎は桜花の説明に半信半疑で答える。
「確かに本当に四狼が作ったのなら魔道具作りの才も有るのやも知れぬが、しかし四狼本人は貰い物だと言っておるのじゃろう? ならば直接結果を見せておる術や剣術の方こそ重視すべきではないのか? むしろそちらも含めて多方面の能力を持っておると考えた方が良さそうじゃが」
「それは当然じゃろう。元から数多の能力を持っていると四狼も言っておったのじゃ。今言っておるのは一番有力な能力の話なのじゃ。確かに術や剣術も相当なものじゃが、それでも前世ですら最新の道具を術で再現など、平田にも出来ぬ事なのじゃぞ」
「そういえば、平田の作った自走車は絡繰り人形を基にしておるのじゃったな」
神紅郎は自走車を作ったという覚醒者の平田を思い出しながら答える。
動力に絡繰り人形の仕組みを組み込んで動かしているらしいが、神紅郎は魔道具技師では無いので何が違うのかは分からないのだ。
「そうなのじゃ、自走車の動力は絡繰り人形の心臓、絡繰り魂を使っておるにすぎんのじゃ。後は上手く車輪に動力を伝えて回転させ、進む方向と停止を操作出来れば良いのじゃから、車という物を知っておれば既存の道具で比較的に簡単に作れるのじゃろうが、四狼の魔道焜炉は前世世界の略最新の技術を使っておるのが違っておるし、原理を知っているだけでは術で再現は出来ぬじゃろうから、おそらく前世ではその手の技術者だったのかもしれん」
「うむ、その可能性は否定せぬが、何も結論を急ぐ必要もあるまい。今は信頼出来るのかと和富王国の利益となるのかの方が重要じゃ」
確かにその通りだと桜花も考えたが、この数年の付き合いで四狼がそこまで器用で無い事は十分理解しているので、信頼しないという選択は出来そうになかったし、その証拠ともいえる物を貰っているのでそれを神紅郎に見せつける。
「少なくとも四狼が童を裏切る事はないじゃろう。もしその心算があるなら初めからこの様な高価な魔道具を童に寄こしたりせぬわ」
桜花はそう言い四狼に貰った左腕の少し華美な腕輪を神紅郎に見せる。
「それも四狼から貰ったのか?」
「そうじゃ、耐毒の腕輪と言うらしいが実際に鑑定させた結果は毒耐性だけでなく、精神攻撃耐性も鑑定出来る最大迄は引き上げられるそうじゃ。つまり現在分っておる毒物は全て無効化出来るという訳じゃし、呪術の類も殆ど無効化出来るじゃろうからな、普通なら国宝級の魔道具じゃ」
流石に神紅郎もその腕輪の価値がどれだけ高いのかが分かったので驚いてしまう。
神紅郎の様に身分が高くなればそれだけ敵も増えるのだが、常に護衛等が側にいる為に直接の武力行使は難しい。なので最も気を付けなければいけない物の一つが毒物なのだが、その毒を無効化出来るとなればその価値は途轍もなく高くなるだろう。
既知の毒は全て防げるのであれば確かに国宝級といって良い程の魔道具だ。
売れば平民程度の生活ならば一生分を賄える位の金額になって不思議では無いのだから、余程の大切な者にでもない限り無償で与える筈が無いだろう。
しかし神紅郎は桜花の勝ち誇っている顔を見ていると、ついこう答えてしまう。
「そうか、桜花は四狼に愛されておるのじゃなぁ」
「なっ、何を言っておられるのですか父上! 確かに婚約が成立したら受けてくれるとは言っていたが、それだけなのじゃ!」
桜花は頬を赤く染めながら反論するが、動揺し過ぎだった。
神紅郎は少し意地悪をし過ぎたと反省しつつも、その初々しい反応を楽しんでいた。
「そうか、既に婚姻の申し込みまで済ませておったのか、候補とか言わず決定で良いのではないか?」
「いや、まだ駄目じゃ! 四狼の方が童を求めて来るまでは簡単に認められぬ!」
「桜花も難儀な性格よのう」
神紅郎は桜花の負けず嫌いな所も悪くは無いと思いながらも、それで失敗しない事を祈るのみだった。
「四狼に関しては最後に一つ、童も他の覚醒者も誕生日に覚醒したというのに、何故か四狼だけは十四歳の誕生日に覚醒せずに一月遅れたのか、四狼が嘘をついていなければそこが不思議なのじゃ。只の偶然なのか、何か意味が有るのか、一応記憶に留めておくべきじゃと童は考える。その他には試合をした候補者の中から一人、立花家三男の熊之助が負けた以外は全員勝った様じゃ」
「そうか、四狼は覚醒も尋常ではなかったか。報告ご苦労。下がって良い」
「はい、父上、失礼いたします」
そう言って桜花が退室した後、神紅郎は昨日と同じ様に誰も居ない空間に向かって話しかける。
「さて、桜花はああ言っておるが伊吹はどう思う?」
「はい、昨日も言った通り、四狼殿が姫様を裏切る事はありえません」
部屋の隅から返事と共に伊吹が現れ答える。
「そうか、そうだと良いのだが」
「姫様の報告に一つ漏れが御座いますので追加いたしますが、耐毒の腕輪は四狼殿のご家族全員分ご用意されていた様です」
「なんと! あの様な高度な魔道具を大量生産出来るというのか?」
あれ程の魔道具を大量に生産し、更に新し技術を使用した魔道具の開発や魔石の効率化等、どれ一つとっても何人もの技術者を擁して何年も掛けて研究したところで達成出来るかどうかという偉業。
それを僅か一晩で、更に日常生活を普通にこなしながら達成してしまう能力、確かに桜花の言う通り、四狼の一番の能力と考えても良いのかもしれないと神紅郎は考えを改める。
間違っても以前に桜花から聞いていた町すら吹き飛ばすという前世世界の爆弾等を開発させぬよう、警戒は必要かもしれない。
「四狼は引き続き更に要注意として、他の者の反応はどうだ?」
「はい、四狼の兄の三琅等大半の者は普通に喜んでおりますが、試合に負けた立花家は選考に残れた事を喜びつつも負けた事に戦々恐々といった所です」
立花家は試合に負けた以上、順位を下げるのは仕方が無いだろう。
問題は選考に残れなかった者達だが、何か仕出かす前に抑えねばならない。
「選考から外れた者の動向で気になる者は居るか?」
「はい、何名かおりますが、まず辻本家が人を集めている様なのと、吉本家が一族総出で町を出た様です。例の草薙からの魔石供給も前日から僅かに減っているとの事です」
「ふむ、草薙は予想通りの行動だが、他の者は今はまだ何を企んでおるのか分らぬか、引き続き警戒するしかあるまい。下がれ」
「はっ」
伊吹はそう返答すると部屋から音も無く消え、部屋に一人残った神紅郎は考える。
まさか桜花の婿候補から覚醒者が現れるとは思わなんだが、しかもそれが八神家からとは下手をすると和富王国が亡ぶかもしれぬ。なんとか敵対だけはされたくないものだ。
和富王国国王の苦悩はしばらく続きそうだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして今まさに神紅郎が話していた草薙は自室で桜花の婿候補から外された事で感情を昂らせていた。
「おのれ! まさかこんなにも早く候補を絞って来るとは想定外だっ!」
魔石の供給を完全に止める訳にもいかず、まだ絞り始めたばかりだというのに成果が出る前に候補から外されては、草薙に出来る事はそう多くは無いだろう。
後経済的に締め上げようにも候補に残っている家は簡単には傾かない位の財産を持っている家ばかりなのだ。
後は数を集めて残っている候補者を襲撃する位しか案は浮かばないが、残っている家の大半は武家の者なのだから、並の者を集めても返り討ちに会うのは確実だ。
正に万策尽きた思いだが、ここは計画の前倒しも検討する必要が有るだろう。
草薙は部下を呼び指令を伝える。
「薬の量産は進んでいるな?」
「はい、予定通りに進んでおります」
「計画を前倒しする必要が有るかもしれん、出来るだけ量産を急がせろ!」
「はっ、可能な限り急がせます」
部下はそう答えると直ぐに部屋を出て行った。
もう少しで計画は最終段階に入れたものを、あの八神の小僧と会ってから何かがおかしくなっている。
一応四狼を始め、残っている候補者の動向を探らせておくべく、他の部下を呼び指示を出す。
「桜花の婿候補でまだ残っている者や、外された者の中でも何か動きのある者に監視を回しておけ」
「はっ! 了解いたしました」
後は王子を再洗脳する機会を伺いつつ、他にも駒に出来そうな者を探すとしよう。
そうやって今はまず出来る事をしようと、心を落ち着かせる為の努力しながら草薙の悪だくみは夜が更けてもまだ続く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、試合に負けた立花熊之助は庭で一心不乱に刀を振っていた。
折角姫様の婿候補として残れたというのに、試合で負けて恥を晒してしまった。
何かしらのお咎めが有るかもしれないし、最悪、残れた婿候補から外される可能性も否定出来ないだろう。
そんな考えから逃避する為に、熊之助はひたすら刀を振り続ける。
思えば四年前、姫様の剣術指南の選考で八神家の四狼に負けて以来、負け癖が付いているのではないかと考えてしまう程、負けが増えている気がする。
実際にはそれほど勝率に変わりは無いのだが、負けている気持ちこそが更に負けを増やしている原因の一つで有る事に熊之助は気付いていない。
そうして熊之助もまた夜が更けるまで刀を振り続けるのだった。
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