勝負あり!
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始めは刀で打ち合わずに様子を見るつもりだったので抜刀の構えで対峙していた僕に、八相の構えで迎えていた坂本殿が試合開始と同時に一瞬で僕の目の前に移動したかと思うと既に刀を振り上げており、突進の勢いのまま上段から刀を振り下ろしてくる。
流石に位階が三十を超える猛者だけ有ってかなりの速度だ。
覚醒前の僕では反応出来たかすら怪しいだろう。
しかし、今の僕にとっては大した速度では無いので抜刀の構えから辛うじて躱した様に見せながら、右に一歩分避ける。
坂本殿は振り下ろした刀を今度は逆に跳ね上げながら、逆袈裟に僕目掛けて切り上げてくる。
その刀を後ろに下がりながら躱し、更に頭を下げて刀の軌道からも避けると、頭の上を刀の先から飛ばされた呪力の刃が通り抜ける。
「ほほう、流石は八神将軍のご子息、この技を躱しますか」
「父上達に厳しく指導を受けましたので、なんとか躱せました」
そうは言うが呪力操作の熟練度が上がれば相手の呪力の動きも分かるので、今の技は本来もっと呪力を素早く収束させるか、上手く誤魔化すかしないと上段者には通じないだろう。
そんな事を考えていると坂本殿はその場で刀を真横に振り、横幅三メートル程の呪力の刃を飛ばしてくるが範囲を広げた分収束も甘く飛距離も短い。
僕は後ろに二メートル程飛び退き呪力の刃を躱すが、わざと少し遅らせ服の胸元を斬らせる。
「ああっ!」
僕の胸元を斬られたのを見た桜花様が声を上げているが、心配を掛けている様で申し訳なく思う。
「しかし、まだまだ甘い様ですな」
坂本殿は僕の見切りが甘いと指摘しながらも、またしても刀を上段に構えながら突進してきて振り下ろす。
今度は左後ろに躱すと坂本殿は刀を僅かに上昇させながら横に振り、呪力の刃を飛ばしてきた。
僕は更に後方へ高めに飛び退き、足元に呪力の刃を通り抜けさせる。
空中に居る僕に坂本殿は距離を詰め、刀を横に振るうが僕の後退速度が坂本殿の予想より早かった為にまたしても服の一部を切り裂いて終わる。
この斬撃で呪力の刃を飛ばしていたら僕も刀を抜いて迎撃するしか無かったのだが、先程の呪力の収束速度から考えると、坂本殿はどうやら連続で呪力の刃を飛ばせないのかもしれない。
そうと分かれば対応は更に楽になる。
坂本殿の動きや剣速はある程度分かったので、次は威力を見極めるんだったなと思い出し緋桜を抜く。
しっかり偽装は働いている様で普通の刀にしか見えない。
「ん? 四狼はあの様な刀を持っていたか?」
一狼兄上が呟くのを僕は聞き取ったが敢えて聞こえてない振りをしていると坂本殿が刀を抜いた事を指摘してくる。
「八神殿、抜刀の構えを崩して良いのですか?」
「はい、刀を抜かないと坂本殿の斬撃は止められませんから」
「なるほど、しかし刀を抜いたからといって、簡単には止めさせませんよ!」
キィン!
坂本殿の横薙ぎの斬撃を、僕は何も斬らないと念じながらも用心の為に緋桜の峰で受け止め、反対側に押し負けた様にみせながら一メートル程飛ばされる。
力任せに受け止めるのは簡単だが、それでは坂本殿に斬撃の反動が返ってしまい僕の腕力を誤魔化せなくなるので、力を逃がす為だ。
キキン!
飛ばされた僕を追って放たれる坂本殿の左右の袈裟斬り二連撃を更に緋桜の峰で受け止めるが今度は半ば打ち下ろしの為、飛ばされたりは出来ないので腕や膝を使って力を逃がしつつ後退する。
そうして何度か坂本殿の攻撃を躱し、受け止め、逸らしたりしていると、受けてばかりの僕に疑問を持ったのか、坂本殿は僕が攻めない理由を尋ねて来る。
「八神殿も受けてばかりでなく、攻めてこねば某には勝てぬが良いのですか?」
「格上相手に無駄に攻めては隙を作るだけですので、まずは負けない様に頑張っております」
「成程、しかし、それが何時まで持ちますかな」
そう言うと坂本殿は今まで以上の速度と密度で次々と刀を振るってきた。
坂本殿の斬撃に度々服を斬らせながらも僕は粘り強く躱し、受け止め、逸らしていく。
そんな時間が二十分近く続いた辺りで坂本殿の攻撃に僅かに雑なものが含まれ始める。
そろそろ頃合いかと狙いを付けていると、坂本殿の得意な打ち下ろしが今までより僅かに大振りに振るわれる。
僕はその打ち下ろしを受け止めるより更に半歩前に出て坂本殿の刀では無く、腕を目掛けて緋桜の峰で打ち上げる。
するとゴキッ! っという音と共に坂本殿の両腕が折れ曲がり、坂本殿の刀は手から抜けて飛んで行った。
「勝負あり! 勝者、四狼!」
そこに一狼兄上の試合終了の合図が響く。
僕がどうやら上手く苦戦を演じながら勝てた様だと安心していたら、桜花様が伊吹さんと五狼を引き連れて近寄ってきた。
三刃は一狼兄上の方へ、春菜母上は坂本殿の治療に向かう様だ。
「四狼、良くやったのじゃ! しかし服がぼろぼろじゃが怪我は大丈夫なのか?」
桜花様が心配しながらも祝福してくれる。
「ありがとう御座います桜花様。斬られたのは服だけなので大丈夫ですよ」
「そうか、それはそれで凄いのじゃが、勝ったという事は童との婚姻に前向きになってくれたものと考えて良いのじゃな?」
「そうですね、まだ決定では無いですし、完全に無くなるよりは現状維持にしたかったというのが本音ですが、僕なりに前向きに考えたいと思います」
「なんだか煮え切らない答えじゃが、その方が四狼らしいか……」
桜花様は少し呆れ顔で納得する。
「いや、四狼殿お見事で御座った。四狼殿の位階で坂本殿の速度に対応出来るとは思っておりませんでしたが良く躱せましたな」
「とても素直な斬撃でしたから、何とかなりました」
「流石四狼殿、坂本殿の欠点を見抜いていたで御座るか」
流石桜花様の近衛というべきか、伊吹さんも坂本殿の欠点に気付いていた様だ。
「四狼兄上、おめでとうございます。凄かったです」
五狼は素直に祝ってくれた。
「四狼兄上はやはり強くなられています」
「確かに四狼は強くなっている様だな。坂本殿のあの速い攻撃を上手く捌いていた。何はともあれ見事な試合だった。皆にも良い刺激になっただろう」
三刃は相変わらず訝しそうに、一狼兄上は上機嫌で讃えてくれた。
そして門下生の皆も僕の躱し方が凄かった、坂本殿の連撃も素晴らしい、最後の狙いが上手かったと色々な感想を繰り広げている。
そこへ春菜母上の治療を終えた坂本殿がやって来る。
「素晴らしい粘りでしたな。最後にはしてやられました」
「いえ、坂本殿こそ凄まじい連撃で、最後の大振りが無ければ負けていたのは僕の方でしょう」
「しかし、八神殿はそれを狙っていたのでしょう? 正に完敗です」
負けた筈の坂本殿は何処か嬉しそうに僕を称賛する。
「そう言って頂けると恐縮です」
「何はともあれ、八神殿は某に勝った。もし本当に決まったのなら姫様の事、宜しくお願い致します」
「まあ、決まったら、僕に出来る事はやる心算です」
そう答えると、坂本殿もうんうんと頷いてから桜花様にも声を掛ける。
「姫様、某の試合、参考にして頂ければ幸いに御座います」
「良い試合じゃった。候補から外れた事は残念かもしれぬが、今後も精進して我が国の為に働いて貰える事を期待する」
「ははーっ」
坂本殿は上半身を直角に曲げて桜花様に平伏する。
そんな二人を残して僕は春菜母上にお礼を言いに行く。
「春菜母上、坂本殿の治療有難う御座います」
「気にしなくて良いのよ、治療は私の仕事だもの。それよりも四狼さんの怪我の方も治療しないと」
心配そうに僕の怪我の具合を確認しようとする春菜母上に問題無い事を伝える。
「いえ、斬られたのは服だけですので、僕自身には傷は有りません」
「それはまた、随分と余裕だったのですね」
春菜母上が少し呆れ顔だ。
「いえ、辛うじて身体には当たらなかっただけで、もっと上手く躱せていれば服も傷付けずに済んだのですが……」
「身体に損傷が無いのはそれだけで十分に強さです。四狼さん、強くなりましたね」
「そんな、僕などまだまだで、恐縮です」
「そんな事は有りませんよ、戦闘で怪我をしない事はとても重要な事。怪我をすれば動きも鈍くなり、攻撃も防御も逃走も全て難しくなります。全く怪我をせず隙を狙い、最後には勝利した。それ以上の成果など有りません。完全な勝利では有りませんか」
「はい、有難う御座います」
実際にはかなり手を抜いての勝利なだけに、春菜母上の称賛が少し恥ずかしいのだがまだ続く様だ。
「それに最後の打ち上げの攻撃も、坂本殿の腕はとても綺麗に折られていましたから、治療も簡単にすます事が出来ました。上手く折らないとこう楽には治せません。それでも不満が有るのなら、今まで以上に今後も精進なさい」
「はい、今後も精進致します」
散々僕を称賛した後、春菜母上は僕の腕が上がっていた事に上機嫌で道場に戻って行った。
その後ろを一狼兄上や、道場に戻る二人に気付いた門下生が慌てて付いて行く。
僕はまだ屋外修練場に残っている桜花様の方へ行くと、改めて坂本殿と一緒に称賛してくれた。
「童には二人の動きが早過ぎて殆ど見えんかったが、本当に二人とも良い試合じゃった」
「「お褒め頂き有難う御座います」」
僕と坂本殿は桜花様の称賛に畏まって答えた。
「僕でも四狼兄上の動きは多少見えましたが、坂本殿の斬撃はまるで見えませんでした」
「ん、坂本殿の斬撃は早くて余り見えない。それを躱す四狼兄上の回避は少し異常だった」
五狼は坂本殿の攻撃速度を絶賛して喜んでいる様だが、三刃はどうやら納得出来ていない様子だ。
「三刃、頑張って勝ったのに異常は無いと思うよ」
僕が三刃の言葉を窘めていると坂本殿も同調してくれた。
「そうですぞ、某が負けたという事は八神殿にはお互いの位階差を覆す何かが有ったのか、または某に問題が有ったかのどちらか、あるいはその両方なのだろう」
坂本殿は自分が負けた事には納得している様だが理由は分かっていない様子だ。
理由は今坂本殿が言った通りに位階差を覆すだけの能力が僕には有ったというだけの話なのだ。
更にその能力で坂本殿の欠点も分かったから、僕は能力を晒さずに勝てたのだ。
努力では無く、転生時に貰った能力なので少しズルをしている気分になっていると天照達が慰めてくれた。
『ご主人様、転生時の能力取得は過去の転生で使っていなかったから取得できたものです。他の者もその都度使っているので本来の条件は同じです。気に病む必要は有りません』
『そうなのですよ。今の能力は全転生点を貯めた主様の忍耐から出来ているのですよ』
『そっか、皆は転生点を時々使ってるから条件は同じか。そう言われると少し気が楽になったよ。二人ともありがとう』
結局は今まで時々消費していたか、最後まで貯めまくったかの違いでしかないのだから気に病んでも仕方が無いんだな。
ならばそれを気付かせてくれた坂本殿にお礼として僕が突いた欠点を伝えてあげよう。
「確かに坂本殿の位階は僕よりかなり高い様ですが、速度重視の真っ直ぐな攻撃ばかりで、誘いや誤魔化し等の駆け引きが殆ど無かったので、僕でも何とか躱せたのです。そうでなければ僕等一分も持たずに打ちのめされていたでしょう」
「誘いや誤魔化しですか?」
「はい、坂本殿の真っ直ぐな性格は好感が持てますが、武術の中には相手を騙す嘘も必要だと思います」
「成程」
「その辺りは二狼兄上が得意なので、同じ軍に所属していますから、機会が有ったら手合わせしてみると良いと思いますよ」
「負けた某に貴重なご助言感謝致す。それでは用件も全て済みましたので、某はこれにて失礼致します」
僕の説明に一応の納得がいったのか坂本殿は僕に礼を言って頭を下げ、あっさりと帰って行った。
「本当に真っ直ぐ過ぎて猪の突進みたいな奴じゃったな」
桜花様が的確な感想を言ったので残った皆が頷いていた。
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