試合
ブックマーク有難う御座います。
今後も頑張りますので、宜しくお願いします。
「この説明で、お主が婿候補から外された理由が理解出来たと考えて良いな?」
「勿論で御座います姫様。某の為に丁寧なご説明、感謝致します」
「坂本殿のご不安も取り除かれた様で何よりです」
桜花様に礼を言った坂本殿に、僕も問題解決した事に言葉を贈る。
「有難う御座います、八神殿。ご助力頂いた方にこういう事を言うのは大変申し訳ないのですが、今一つお願いが御座います」
理由もわかった事で問題が解決して、僕も一安心だと思ったのだが、坂本殿はもう一つ僕に頼みがある言う。
どんな願いかはわからないが、今までの話しぶりから真面目な坂本殿の事だからそれ程面倒な事でもないだろうと僕は快諾する。
「構いませんよ。僕に出来る事でしたら可能な限りお受け致します」
「かたじけない。それでは八神殿、某と試合って頂きたい」
え、試合って、坂本殿と戦うの? 何で?
今までの話で婿候補から外された理由は理解した筈なのに、今更試合をする意味がわからない。
「えっと、理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「はい、実は某と交友のある、候補を外された者達で相談致しました所、理由の確認以外にも、候補に残っている者達が姫様を守れるのか、本当に姫様を託して良いのか、という意見も多く、ならば実力を確かめてみれば良いとの結論に至ったのです。そしてその中から武力に自身のある者がそれぞれ残っている候補者に試合を申し込むという事となり、某は八神殿との試合を任された次第であります」
桜花様を守れる者、って気持ちはわからなくもないけど、残っている候補者が負けたとしても、候補者から外せるものなのかな?
僕はその疑問を率直に尋ねてみた。
「お気持ちは理解出来ますが、仮に僕や他の候補者が負けたとして、それでどうするお心算なのでしょうか? 候補から外された方がいくら騒いだとて、その程度の理由で僕達を候補者から外すのは難しいと思うのですが」
そう言いながら桜花様を見ると、桜花様からも指摘が入る。
「確かに無理じゃな。仮に負けた者を候補から外していたら、全員負けた場合には童の婿が居なくなってしまうのじゃ」
「仰る通りで御座います姫様」
「意味の無い事だとわかっているならば、何故に試合を臨む?」
桜花様は坂本殿を見据え、その本心を探ろうとする。
「一つは某らが納得する為であります。某らを負かす強さを持った者に、姫様を任せたいのであります」
桜花様はこの答えに納得したのか一つ頷くと更に問う。
「一つという事は、他にも在るのじゃろ? 申して見よ」
「はっ。この結果を姫様の婿選別の材料として頂きたいのです」
「やはり試合の結果を引き合いに出すのじゃな?」
やはり婿選別に横やりを入れるのかと、桜花様が坂本殿を軽く睨む。
「いえ、あくまでも姫様のご判断の材料の一つとして考えて頂ければ、それだけで十分に御座います」
「それでは結局、童が誰を選んでも、お主達は構わぬと申しておる様なものじゃ」
「当然で御座います。某らは姫様の幸福こそ第一と考えておりますゆえ」
そこで桜花様は少し微笑むと胸を張って答える。
「あいわかった。お主達の気持ちはしかと受け止めた。全力で四狼に挑むが良い」
「ありがたきお言葉、恐縮至極に存じます」
桜花様に鼓舞された坂本殿は、平伏しながら桜花様に感謝の言葉を返す。
そして、当事者の筈の僕は何の意見も話せずに、蚊帳の外から試合が決定してしまったのだった。
試合する事が決まってしまった以上、相手の能力を確認しない訳にはいかないだろうと思い、坂本殿を鑑定してみる。
名前:坂本 忠昭
生年月日:和富歴1035年4月19日 h11歳(17歳)
種族:人族
身長:6尺(約171センチ)
体重:17貫(約64キロ)
状態:良好
性交:無
霊格:h80
位階:h24
腕力:34
握力:40
脚力:41
知力:32
記憶力:28
体力:40
呪力:22
能力:筋力上昇2、剣術(刀)3、狩猟3
称号:
役職:第六位士族、和富王国軍小隊副長
位階が僕の倍もあり、その分身体能力も高く、本来の僕の位階や身体能力では全く歯が立たないだろう。
ただ、僕にも八神流の修行経験があるので多少はましな勝負に持ち込めるだろうが、それでも勝てない。というのが本来の結果の筈なのだが、覚醒した事で色々な能力の増えた僕は呪力を籠めた刀を振るっただけで山さえ切ってしまうのだから、本気で戦えばきっと余裕で勝てるのだろう。
むしろ本気を出したら坂本殿は跡形も残らないだろうから、どの程度の能力で戦えば良いかの加減が難しい。
問題はやり過ぎてしまわないかという事と、苦戦を演じつつどうやって上手く逆転を演出出来るかって事なんだが、この辺りは月詠に相談した方が良いかもしれない。
とにかく、まずは決まってしまったものは仕方が無いと諦め、準備に取り掛かる事にする。
「それでは僕は準備をしてきます。案内を寄こしますので坂本殿は暫しこの部屋でお待ち下さい」
「八神殿忝い。お頼み申す」
準備の為と僕と桜花様は部屋を出て、皆のいる食卓へと向かう。
食卓には五狼や三刃と一緒に伊吹さんがいて、何やら話している様子だ。
「五狼、歓談中悪いが少し頼みたい事が有るのだが、良いか?」
「はい、四狼兄上、構いませんが何の御用でしょうか?」
「客間に居る坂本殿を、午前の修行で使った屋外修練場に案内して差し上げてくれ」
「お客人を修練場にですか?」
五狼は客人を屋外修練場に案内する事に疑問を持った様なので、理由を説明する。
「何故か僕が坂本殿と試合をする事になった。僕は兄上達もお呼びしないといけないので、坂本殿の案内を頼みたい」
「わかりました四狼兄上。案内をした後は僕も試合を見学しても宜しいですか?」
「兄上達が許可したら、僕は構わないよ」
「四狼兄上、有難う御座います」
五狼はそう礼を言って食卓を出て、客間に向かった。
桜花様は何やら三刃と話していたが、二人で食卓を出て行ってしまう。
皆が居なくなったので、僕は兄上に報告する為に道場に向かおうとしたら、息吹さんが声を掛けて来る。
「四狼殿、どういう経緯かわからぬが、面白そうなので私も見学してよろしいでしょうか?」
「そうですね、本来なら兄上の許可が必要ですが、桜花様もいらっしゃいますので、多分問題無いでしょう」
「四狼殿、感謝致す。では早速試合会場へ参りましょう」
そう言って伊吹さんが先頭を切って食卓を出て行ったので、僕は急いで道場へ向かった。
道場に着くと、当然だが一狼兄上が門下生に修行を付けていた。
その後ろ、道場の隅には怪我人が出た時の為に、治癒術の得意な春菜母上も待機している。
僕はその二人の元に行き、試合をする事になった経緯を説明した。
「そういう訳でして、一狼兄上と春菜母上には試合の立ち合いと、治療をお願いします」
「いつの間にやら面白い事になっているな。わかった、屋外修練場に行けば良いのだな」
「はい、宜しくお願いします」
一狼兄上は何処か楽しそうに部下に席を外す事を告げ、立ち合いの準備をしてくれている。
「四狼さん、大丈夫なのですか?」
そして春菜母上は心配そうに僕に声を掛けてくれた。
「かなり厳しい相手ですが、頑張ってみます」
「そうですね、武家の者として恥じない試合をしなさい。出来れば怪我も程々にお願いしますね」
春菜母上はそう言うと、準備の為に離れて行った。
二人に用件を伝えた僕は坂本殿の待つ屋外修練場に向かう。
屋外修練場には既に坂本殿と五狼が待っていたが、桜花様や伊吹さんが居るのは当然として、何故か三刃も一緒にいた。
「三刃も来たのか」
「折角の四狼兄上の武勇、見ずに居られる訳がないではないですか」
三刃は少し笑いながら話していて、明らかに僕が困っているのを楽しんでいる。
「僕の武勇って言っても、僕が負ける確率の方が高いんだけどな」
僕は三刃のからかい交じりの言葉は現実交えて軽く受け流す。
「なんのなんの、四狼殿が姫様の前で無様を晒すなど、私には考えられませんよ。ご武運を」
伊吹さんは他人事なので観戦を楽しむ気満々の顔でそう言うと、四阿に向かって去っていく。
「その通りです四狼兄上、姫様の前で無様を晒すのだけは許しませんよ」
三刃も激励なのか良く分からない言葉を残して四阿に向かう。
「四狼兄上、ご武運を祈っております」
五狼は素直に激励してくれた。
「四狼が私との結婚に迷いが有るのは知っているわ。もし私のと結婚が嫌なら負けなさい、候補から外してあげるから。でも、嫌でないなら勝って欲しい。この試合で貴方の気持ちを示してちょうだい」
最後に桜花様が僕に耳打ちして四阿に去っていく。
困った事に、僕が桜花様との結婚に迷っている事がばれていた様だ。
迷いが有るのは功績の事や、僕の能力が問題になると言う月詠達の助言からきているので、決して桜花様を嫌っている訳ではないのだ。
むしろ好意は有る。しかし結婚を望む程かというと前世知識に引きずられている今の僕には、結婚は勿論、婚約すらまだ早いんじゃないかと思ってしまうのだ。
負けてしまえばこの問題は解決するが、僕が桜花様と結婚する未来は完全に無くなるのだろう。
それはそれで嫌だと思うのは僕の我儘でしかないのはわかっている。
結局僕は結論を出す事から逃げているだけなのだ。
ただ、桜花様の去り際の寂しそうな顔を見てしまうと、答えないのは男じゃないよな、っと感じてしまった。
だから、僕はこの試合に勝たなくてはいけない。
仮に桜花様との結婚が決まったとしても、その事で発生する問題は月詠なら何とでもしてくれる気がするから、今は試合の事だけを考えよう。
『月詠、とりあえず勝つ方向で考えているんだけど、問題ある?』
『桜花様個人は主様の第一夫人としては最良の人物であると同時に、王位を求めていらっしゃるのが問題でも有るのですが、そこは主様が複数の嫁を娶って頂ければ解決可能なのですよ。なので、勝つ心算なのでしたら今は試合に集中して欲しいのですよ』
『複数の嫁で解決って理由がわからないけど、今は試合に集中ってのはわかったよ。それで具体的な対策は有るの? 上手く手古摺りながらも辛うじて勝つのが理想だと思うんだけど、どうかな?』
『その方向で問題無いのですよ。拡張視界を使い複数の角度から相手の観察をするのですよ』
拡張視覚で色々な角度からの観察って、ゲームみたいに横や斜め後方から見れば良いかな。
『初めは相手の攻撃を躱しつつ相手の動く速度や剣速を観察して、主様は相手の四分の三程度の速度で動いて見える様に調整すのですよ。次に攻撃を受け止めたり逸らしたりしつつ、相手の攻撃の威力を見極めるのですよ。最後に上手く腕か足を斬るか折っての勝利が理想なのですよ。身体本体を斬るのは加減が難しく危険なので避けた方が良いのですよ』
確かに手足は切り飛ばしても繋ぐ事が出来るけど、身体を真っ二つにしてしまっては繋いでも助からないだろう。
『言葉にすると簡単だけど、実際に上手くいくの?』
『万が一主様に相手の攻撃が当たっても主様の防御を突破出来ないので、逆に傷を負わない事が問題なのですよ。主様には攻撃先読みの能力も有りますので、躱すのは余裕なので絶対に攻撃は受けないで欲しいのですが、早く動き過ぎて公開能力を超え過ぎない様気を付けるのと、試合時間を上手く伸ばす事で、時間を掛けて何とか勝った事を演出するのが良いと思うのですよ』
刀で切られても平気って、僕の身体はどれだけ頑丈なんだ?
深く考えると怖いので今は試合に集中しよう。
『痛くないのは助かるけど、確かに誤魔化すのが難しいね。頑張って躱すよ』
『逆に服だけを上手く切らせると苦戦を演出出来るのですよ』
『少し勿体ないけど、服だけなら仕方が無いか。上手く狙ってみるよ』
『はい主様、ご武運をなのですよ』
そんな事を相談している内に、一狼兄上が後ろに大勢の門下生を連れて到着した。
「一狼兄上、その後ろの方達は何なのでしょう?」
「当然、四狼の試合の見学だ。生の真剣勝負なぞ滅多に見れないからな、良い見取り稽古になるだろう」
一狼兄上が爽やかに答えてくれるが、当事者の僕の心配もして欲しいものだ。
そうこうしているうちに春菜母上も到着し、試合の関係者が出そろった。
春菜母上と見学の皆が四阿に入った所で四阿に設置してある魔道具を起動させ、屋外修練場の周囲に障壁を張る。
これで万が一攻撃が反れても外に被害は及ばない。
試合会場の準備が整った事で、一狼兄上は屋外修練場に残った僕と坂本殿に試合規定の宣言をした。
「試合の規定だが、殺傷と直接攻撃系の術の使用禁止以外に追加する項目はあるか?」
今回は試合であって死合ではないので殺傷禁止と、当たれば死ぬ確率が低くない攻撃系の術を禁止にするのが、八神流道場の試合規定の基礎なのだが、一狼兄上はそれに追加規定は必要が無いかを確認をする。
「武器はお互いに刀の様ですし、僕の方は特にありません。坂本殿は何か要望は有りますか?」
「某も特に必要は有りません」
「では、この規定で試合を始めたいと思う。両者、規定の位置についてくれ」
一狼兄上の言葉に従って僕達は屋外修練場の中央に二間(3.6メートル)程離れて向かい合う。
僕達の準備が整ったのを確認した一狼兄上が、試合開始の号令をかける。
「双方準備は良いな。では尋常の試合を、始めっ!」
こうして僕の未来の一端が決定する試合の火蓋が切られた。
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