新しい朝
少し修正しました
〇〇二 新しい朝
能力の選択を始めてから、どれだけの時間が経ったのだろう。
既に時間の感覚はなく、半ば惚けながら確認を続けている。
延々と能力の確認をしていると、残り僅かな所で同じ能力名が続きだした。
『能力未定』必要点0-能力が設定されていません。
『能力未定』必要点0-能力が設定されていません。
『能力未定』必要点0-能力が設定されていません。
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「何だこれ、同じ能力っていうか、未定が続いてる。遂にバグったのか?」
僕は壊れたんじゃないかと心配しながらも、次の能力を確認していく。
するとついに新しい能力が浮かばなくなり、最後は空白だった。
本気で故障が心配になって焦ったが、その最後の空白を暫く眺めていると、徐々に文字が浮かんできた。
『管理者権限』必要点255-全ての能力と、あらゆる道具を持った状態で覚醒する。所謂デバッグモードである。
「はぁ? デバッグモードって何? これはいくら何でもおかしいくないか?」
余りの大盤振る舞いな能力に、僕は頭を抱えてしまった。
チートってレベルの話じゃ無いだろう。
寧ろ何らかの罠なんじゃないかと疑ってしまう。
「珠ちゃんはどう思う?」
僕は思わず珠ちゃんに尋ねてしまった。
すると、珠ちゃんは激しく光りだし、僕の周りを回り始めた。
「もしかして、これが良いの?」
珠ちゃんはそうだ、と言わんばかりに激しく上下に動き出した。
「でもこれ、いくら何でもチート過ぎない? 返って怪しいんだけど。本当なら僕的には嬉しいけどさ」
やはり何処か、能力というには規格外過ぎて素直に選択できずにいたら、光の玉は僕の頭にポンポンっと触れると僕を後押しする様に押し付けてきた。
「そっか、珠ちゃんはこれで良いって言うんだね? うん、分かったよ。珠ちゃんを信じてこれにするよ」
僕は珠ちゃんのお勧めを信じる事にし、管理者権限の能力を選択すると、残りの転生点が0になった。
さて、能力選択も終わったし、このまま此処に居ても意味がないから、後はあの転生ボタンを押すだけなんだよな。
「珠ちゃん、寂しいけどお別れだね」
気のせいかもしれないが少し珠ちゃんの光が弱くなった気がしたが、珠ちゃんは一瞬ブルッと震えると、僕の背中を押してボタンの方へ歩かせる。
僕は最後に珠ちゃんを抱きしめ、別れの挨拶を交わす。
「ありがとう。珠ちゃん。珠ちゃんが一緒に居てくれ助かったよ。さようなら」
そして、珠ちゃんの気遣いに感謝し、右手を振りながら左手で転生ボタンを叩く様にして押した。
その瞬間、僕の意識は薄れていき、そのまま途切れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして時は流れ、十数年後
『おはようございます。ご主人様』
『やっと、お目覚めなのですよ、主様?』
眠っていた僕の左右からの、知らない声で目が覚める。
寝起きで少し惚けている僕の頭には、転生前の記憶が蘇っていた。
「そっか! 転生したんだった」
身体を起こし、少し懐かしく感じながら転生直前の出来事を思い出していく。
二つの記憶が入り混じった感じがして若干戸惑っていると、左右からまた声が聞こえてきた。
『ご主人様、能力の定着、覚醒が完了致しました』
『主様、お加減は如何なのです?』
左右に目を向けると、右には金色のイルカが、左には銀色の小鳥が宙に浮かんで話し掛けて来た。
少し驚いたが、これも転生関係の者だろうと、半ば諦めつつ納得する。
「僕の身体は多分問題無いと思う。それで、君達は誰?」
『はい、ご主人様、私はこの世界の案内役です』
『はい、主様、私は攻略の案内役なのですよ』
「うん、全然意味が分からない。もっと詳しく、説明してよ」
僕がそう答えるとイルカの方が自己紹介を始めた。
『私はこの世界の法則や術式等、この世界の理をご主人様にお伝えし、お手伝いをする権能で御座います』
んーこの世界の説明書的なものなのか?
既に魔術は使えるのに、前世の知識が疼くのか、術式とか凄く興味が湧く単語が出てきて、少しワクワクしてしまった。
続けて小鳥の方も自己紹介をする。
『私は主様の目標達成を補佐する権能なのですよ。各種目標を指示して頂ければ、対策等を考えるお手伝をするのですよ』
つまり、この二人も僕の能力の一つらしい。
流石デバッグモード、攻略本まで付いているなんて、至れり尽くせりだ。
冗談はさておき、能力やこの案内役とやらについて、詳しく聞いておかないといけない。
「とりあえず、君達は僕の能力で、僕を助けてくれるって事で良いのかな?」
『『はい、勿論です』なのですよ』
「それで、君達はずっと僕の近くで浮いてるの? 他の人に見られると変に思われるから、隠れる事とかできないのかな?」
『大丈夫で御座います。私共はご主人様以外には姿が見えませんし、声も聞こえません』
『声に出さなくても、私達に伝えたいと思いながら考えれば伝わるのですよ』
そっか、他の人には見えないのなら、大丈夫なのかな?
「それで、君たちの名前は? 何って呼べば良い?」
『私達に個別の名称は御座いません。ご主人様のお好きな様にお呼び下さい』
「つまり、僕が名付けて良いって事?」
『はい、むしろ主様からお名前を頂けるのであれば、とっても嬉しいのですよ』
名前はまだ無いのか。名付けには余り自信が無いんだけど、期待されてるみたいだし、頑張ってみよう。
「イルカと小鳥の名前かー」
『この姿に特に意味は有りません。ご主人様の前世の記憶に補佐や案内はイルカや小鳥が多いとの情報から、この姿を選択してみました』
「え、じゃあ人型とか無機物とかにもなれるの?」
『無機物にもなれますが、主様が人族ですので、人型の方が違和感は少ないかもしれません。人型をご希望なさいますか?』
「うん、じゃあ、試しに人型になって貰っても良いかな?」
『『はい、了解です』なのですよ』
僕はどんな姿になるのか、少し楽しみになっていた。
イルカと小鳥は一瞬煙に包まれると、イルカはゆるふわ金髪の女の子に、小鳥は銀髪ロングストレートの女の子に変身していた。
ただし、その姿は身長三十センチ程で、更に三頭身半位しかなかった。
「少し予想と違ったけど、これはこれで可愛いか」
『『ありがとうございます』なのですよ』
「僕としては会話をするにはこっちの方がし易いけど、このままで大丈夫?」
『問題ありません』
「じゃあ、基本その姿でお願いね」
『はい』
さて、名前はどうしようかな?
単純に金ちゃん銀ちゃんは何か違うよな。
ならば金色と銀色から連想できる物。
んー金銀パールは違うし。
貴金属、宝石、光物、太陽と月?
太陽と月から連想出来る名前といえば。
「よし、金髪の方が天照で銀髪の方が月詠ってどうかな? 前世の世界の太陽と月の神様の名前だったと思うんだけど」
『神様のお名前を頂いても宜しいのでしょうか?』
『少し恐れ多い気がするのですよ』
少したじろぎながら二人の案内人が聞いてきたので、僕は大丈夫だと説明する。
「多分大丈夫だよ。色んな創作物や、星なんかにも付けられてる名前だし、問題ないと思うよ」
『ご主人様に問題が無いのでしたら、それで構いません。素敵なお名前を有難う御座います。今から私は天照です」
『有難う御座います。今から私は月詠なのですよ』
月詠はふわふわと漂いながら、僕の周りを回り出した。
そんな反応から、少し珠ちゃんを思い出して、寂しさと共に懐かしさを感じる。
二人とも、一応は気に入って貰えたみたいだし、良かった。
「ところで、記憶が戻るのって十歳位の筈じゃなかったっけ? 僕、もう十四歳なんだけど」
『はい、ご主人様の転生能力、管理者権限は能力の容量が大きく、魂に馴染むまでに時間が掛かったのが原因です』
『通常の百万倍以上の能力数なのですよ。容量的には寧ろ、早く終わった位なのですよ』
成程、確かに桁違いの能力数だから、時間が掛かるのも納得だ。
そうと分かれば早速試してみたいのが人というもの、どんな事が出来るんだろう。
「それで、新しい能力って何が有って、どうやって使うの?」
『はい、既に能力は幾つか使った事がある筈ですが、能力には自動的に常に作用しているものと、特定の行動によって自動発動するもの、直接能力を指定して使用するものがあります。使いたい能力を使いたいと念じるだけなのですが、慣れない内は口に出してみた方が確実です。また、自分を鑑定するか、能力一覧と念じれば全ての能力が浮かびますが、数が多いのでお勧め出来ません。戦闘系、技能系、感覚系、耐性系、等、種類別で検索するのをお勧めします。後は使用頻度が多くなりそうな、生物鑑定、無限倉庫、検索、地図、辺りからお試ししては如何でしょうか?』
そっか千六百万だもんね。
生物鑑定は前から持っていたけど、天照のお勧めだし、何が変わったのか確認の為に鑑定からやってみよう。
「自分を鑑定っと」
名前:八神 四狼 (やがみ しろう)
生年月日:和富歴1038年4月14日 E歳(14歳) 男
身長:5尺3寸 体重:12貫80両
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今まで余り気にしていなかったが、この国は基本10進数だけど、所々16進数や8進数が混ざっているんだよね。
今までは分からなかった身長や体重も分かる様になったが、寸法や重さは尺貫法なのは、これがこの国の単位だからだ。
えっと、センチ・キロだと1尺30センチ位だから、身長は159センチで、1貫は約3.75キロだから体重は48キロ位かな。
更に寸法系が胸囲、胴囲、尻囲とあるけど、男のスリーサイズって必要なのかな?
後は基礎能力系の枠が腕力、握力、脚力、知力、記憶力、体力、呪力、っと続き、神格、霊格、位階、等の格の枠で、その後の能力の枠内はずっとスクロールし続けている。
最後に称号の項目があったが、称号は何も持っていない様だ。
能力は流石に数が多過ぎて訳が分からない。
今までより分かる情報が格段に増えているが、でもこれって。
「これ、他の鑑定持ってる人に僕の能力とか見られるんじゃないかな?」
『はい、そのままだと鑑定の熟練度次第で色々見られてしまいます。隠したいのであれば、隠蔽の能力で隠せます。能力を隠蔽しますか?』
『称号と能力を全て一旦隠蔽して、見せる能力も熟練度を下げて偽装するのを、お勧めするのですよ』
成程、隠蔽や偽装も能力で出来るんだ。早速隠蔽を試してみよう。
言われた通りに一旦全部を隠蔽しておいて、見せても良い能力はどれにしようかな?
「ああ、そうしよう。でも、どれを見せれば良い?」
『前から持っていた能力を、そのまま公開するのが一番無難だと思います』
『昨日より凄く増えていたり、逆に減っていたりすると怪しまれるのですよ』
『他には、今後人前でも使いそうな能力は、前もって公開しておいた方が良いでしょう』
『無限倉庫は異界倉庫として公開するのをお勧めするのですよ』
『無限倉庫は異界収納の最上位ですので、ご主人様以外に持っている者は現在この星に居ません。下位の能力で誤魔化すのがよろしいかと思います』
二人の提案を参考に、結局公開するのは僕が元から持っていた、算術4、太刀術2、槍術2,狩猟1、言霊術1と、異界収納は無限倉庫に変わったが、異界倉庫として公開する事を勧められたので言う通りにした。
今世の僕の家は武家で、道場も開いている程なので、武術は幼い頃からやってたし、狩りも何度か家族について行って経験があるので、自力で習得した能力だからどんな能力かは分かっているが、この新しく変わった無限倉庫の機能も聞いておかないといけない。
「この無限倉庫って本当に無限に入るの?」
『無限倉庫の無限の意味は機能制限が無いという意味なので、実際には容量の限界は一応有りますが、理論上限界には達しないので気にする必要はありません』
「限界があるのに?」
『はい、ご主人様の現在の保有異空間は、この世界の宇宙と同じ広さがあります』
「え?」
『その内、倉庫用に二百五十六分の一を使い、時間凍結等の機能制限解除の影響で八分の一に縮小されていますが、倉庫の広さは宇宙の二千四十八分の一あります。つまり、全世界の物質を全て詰めても埋まり切らなので、実質無限で問題ありません』
うん、宇宙とか規模が大き過ぎて意味が解んない。
解らない事は後回しにして、気になる事から確認しよう。
「確か、あらゆる道具が貰えるんだったよね? 今は何が入ってるの?」
『ご主人様の仰る通り、多種多様な武器、防具、道具、魔道具、本、薬、食料等、あらゆる物が揃っております。詳細は無限倉庫内で検索能力をお使い下さい。検索結果が頭に浮かんできます。後は今までの異界収納と同じ様に、取り出したいと思うだけで取り出せます』
何が有るのか分からないんだけど、まずはこの国を選んだ理由の1つ、米でも出してみよう。
「無限倉庫、検索、米」
すると、米の品種がずらっと頭に浮かんできた。
そっか、米だけでも何種類も有るんだ。しかも各千六百七十七万トン、何故か量がトンのままなのは謎だ。
消耗品は駄目だ。量が多すぎるし、そのまま部屋の中で出したら家毎埋まってしまう。
仕方がない、食料は今直ぐ必要な物でもないし後にして、興味のあった武器類、刀で一番弱い物を一本出してみる。
鑑定してみた処、一番弱い物でもそれなりに技物だった。
店売りの量産品の中でも、そこそこの高級品と同等の性能があるみたいだ。これが千六百万本……。
倉庫の中身は多すぎるので後で、後でゆっくり考えよう。
それに気になる事も言ってたしね。
「さっきの説明で保有異空間って言ってたけど、倉庫以外にも空間が在るの?」
『はい、異界創造の能力で、保有空間を使って別世界に新しい土地や星を作る事が出来ます』
やっぱり出鱈目な能力だ。
「それって個人の能力超えてない?」
「珍しい能力ですが、百から二百年に一人は使える者が現れる程度の能力です。自ら公開しなければバレませんので、問題無いと思われます』
「公開なんてしないよ!」
そんな規格外の能力、公開したら大変な事になる。
『先ずお試しに、この星を複製してみては如何ですか? 全く新しく作るより簡単なので、練習には最適です』
そうだな、出来る事が多過ぎるので、試せる物は思い付いた時に試しておこうと思い、天照の提案に乗ってみる。
でも、自分達の住んでいるのが星という概念が一般人にはまだ無いから、この星には名前が無いんだよな。そもそも地球でも地動説とかって何時頃定着した発想なんだろう? 人類の長い歴史からすると、結構最近だった気がする。
「まぁ、良いか。異界創造。この星を複製!」
ん? 何となく手応えはあったけど、どうやって確認するんだ?
『おめでとう御座います。保有空間に複製世界1が追加されました。名前は何時でも変更可能です。そして【異世界の創造神】の称号を獲得いたしました』
「え、称号って?」
『功績の一種と考えて頂いて問題ありません。称号を集めるのが功績を積む近道にもなります。また、各種称号を得る事で能力の向上や追加もされます』
「そっか、称号を集めるのを目的にするのも有りなんだね。でも、創造神とかって大仰すぎるけど、何が変わるの?」
「はい、我が儘が少し通り易くなります」
「我が儘って、お子様かよ!」
いや、そういえば地球の神様にも結構我儘なのが何柱も居た気がする。
我が儘って、神様の基本仕様なのかな? そっかぁ、つまり神様って幾つになってもお子様なんだなぁ。
少し神様に対して残念な気持ちになったので、この話は気にしない事にしよう。
「それで、複製世界ってどうやって確認するの?」
『はい、基本的にどの能力も意識するだけで頭に浮かんできます。今回の場合は保有空間・創造世界で確認できます。転移能力で転移する事で、何時でも移動が可能です』
成程、さっそく創造世界と考えると、確かに複製世界1と頭に浮かんで来る。
折角なので一度見学に行ってみよう。
「よし、転移! 複製世界1!」
だが、一瞬視界がブレただけで、何も変わった様子が無い。
「あれ? 何も変わらないけど?」
『はい、複製ですから元の世界の部屋と見分けが付きませんが、問題無く複製世界のご主人様の部屋に転移致しました』
そっか、複製だから見た目は同じなんだな。
「全く区別が付かないけど、どうやって区別したら良いのかな?」
『拡張視界の能力で別視界を追加し、地図等の各種情報を掲示してみては如何でしょう?』
言われた通りに拡張視界の能力を試すと、頭の中にもう一つ目の前の光景が見えてきた。
なんとなく二画面のPCかゲームみたいだ。
そこに地図っと念じると周辺の地図が現れ、地図の上には複製世界1の表示があった。
地図が何時でも見れるのは凄く便利だけど、これってどんな能力なんだろ?
頭の中に地図アプリが入ってる気分だ。
しかし、拡張視界は通常の視界が縮んだり塞いだりしないのでかなり便利だし、このまま常駐させても問題なさそうだ。
今後、他にも便利な能力が有ったら視覚を追加していこう。
何を掲示すると便利かも考えないといけないな。
「それで、この世界って何処まで複製してるんだ? まさか人まで複製してないよね?」
『はい、流石に異界創造で知的生命体までは複製出来ません。ですが普通の動植物は問題無く、複製出来ております』
「生き物まで複製出来るのか……」
『当然です。植物等を複製しなかった場合、星は岩や土と海しか有りませんし、動物が居ないと大抵の植物も育ちません』
確かに、人が住める星にするには必要だろうけど、家まで複製されていても、人が居ないんじゃ廃墟みたいだよ。
折角なので複製された世界を観察がてら、他の部屋も覗いてみる。
幾つか部屋を覗いていると、食卓に朝ご飯が並んでいた。
「しまった、もう朝ご飯の時間だ!」
我が家の朝ご飯は、家に居る全員で揃って食べるのが決まりだ。
食卓に着くのが父上より遅いと、凄く怒られる。
急いで元の世界の自分の部屋に転移する。
こうして、僕の新しい朝は騒々しく始まったのだった。