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抉れた町

ブックマーク有難う御座います。

楽しんで頂けたなら幸いです。

 朝、何時もより二時間近く早く起きてしまった僕は、起きた直後にも関わらず少し疲れていた。

 理由の一つは昨日複製世界に展開させていた分体だ。調子に乗って四〇九六体もの分体を出して行動させていたのだが、その分体一人一人の記憶が寝ている間に統合されたのだ。つまり、分体を出したのが朝からだから昨日の一日で四〇九六日の三分の二程、約十年の記憶が纏めて流れてきたので、とても疲れた気分になっているのだ。まさか分体を大量に出す弊害があるとは思っていなかった。

 更にもう一つ、起きたら下着が汚れていた。昨日の寝る前に月詠の策略であんなものを見せられたせいだ。

 このままにする訳にもいかないので直ぐに複製世界の家の庭に転移し、魔術で身体や服の汚れを落とし乾燥させると、こちらの世界に残した分体に確認する。


「分体、自分の事だから、要件は分かっているよね」

「うん、分かっているよ本体、この人数の記憶は辛いね」


 どちらも自分なので相談の必要も無かった。既に数人を残して統合済みだったので、今後こちらで活動する分体は必要な時以外は十数体程度に抑える事にした。

 複製世界の開発状況は記憶統合時に認識済みなのでわざわざ聞くまでも無く、用件が済んだので自室を確認してから転移で戻った。

 ちなみに複製世界の開発状況は、六つの温泉地と二つの海辺と三つの湖畔に別荘建築を計画中らしい。今後は減らすけど流石に分体が四千人もいると作業が早い。

 温泉が多いけど全部泉質が違うようだ。確か温泉を泉質で分けると九種類になるとか聞いた事があるから、今の作業が終わったら残りを探すもの良いかもしれない。


 早く起きたついでに昨日の夜に助けた人達の様子を地図で確認してみたが、既に大半が起きている様だったので、朝食を用意する為、着替えてから仮の宿に転移する。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「皆さん、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「おはようございます」

「昨日はありがとうございました」


 皆それなりに元気そうで安心した。早速、無限倉庫から調理済みの食料を朝食として提供する。貴族っぽい人もいるので白パンと肉入りスープ、果物を提供したら、皆に驚かれた。この辺りでは上級貴族位しか白パンは食べないらしい。食文化も調べてから提供するべきだったか。


 そしてやはり家で寝ていたのに海に流されてた二人の子供と、こちらも家で寝ていたら放り出されたという八人は知り合いだったらしく、家も近所だったそうだ。更に漁師達も知らない人ではあったが、同じ町に住んでいたらしい。なのでこの場所を中心に半径百キロ程の周辺地図を床に幻術で映写して見せると、精密な地図に驚いていた。


「ここが現在位置で、昨日皆さんを見つけたのがこの辺りになります」

「ここにある村がタムリタ村だから、俺達の住んでたイクスの町はこの辺りにある筈なんだが」

「海になっていますね」


 現在位置や昨日の救助現場を教えると、此処から南東に六十キロ程、昨日の救助した場所から一キロも離れていない場所に住んでいた町が在ったらしいが、地図では抉れて海になっている。危険が残っているかもしれないので、皆にはそのまま朝食を食べていて貰い、その間に町の在った場所を確認する為、町のあった場所の上空に転移する。


 転移した場所から眺めてみると、町が有ったらしい場所は深く抉れて海と同化していた。

 抉れた場所の直ぐ横には建物の土台らしき物が在り、建物自体はバラバラに散乱した残骸位しか残っていなかった。何処か見た事のある残骸の状態を眺めていると思い出した。昨日回収した船の残骸と似ているのだ。やはり原因は同じなのだろうか。

 そして何人かの遺体も発見したが、吹き飛ばされた衝撃のせいか傷だらけで、中には数百メートル離れた場所に落ちている腕等の身体の一部もあった。遺体の損傷の激しさに少し嫌な気分になったが、今更何か出来る訳でも無いと無理矢理納得させる。一応危険は無さそうなので、遺体や残っている身体の一部と、残骸の中からまだ使えそうな物を見繕って無限倉庫に収納し、皆のいる場所に戻ると、何人かいる子供以外は食事が終わっている様だった。


「一応、危険は無さそうでしたが、町も無くなっていました」

「それは、どういう意味ですか?」


 地上で助けた男の一人が立ち上がり、問い掛けて来る。


「残っているのは建物の残骸位でした。一応まだ使えそうな物は回収して来ましたから、二階の手前の部屋に置いておきますので後で確認しておいて下さい。それと町の状態を直接確認したいのなら、近くまでお連れしますよ」

「ああ、是非頼むよ、何が有ったのか分からないままじゃ安心出来ないし、出来れば帰りたいんだ」


 漁師や他の人も住んでいた町の現状が気になる様なので、抉れた町の近くに連れて行く事にした。死体は回収済みなので子供を連れて行っても大丈夫だろう。

 海で助けた人の中にも手伝える事があるかもと協力を申し出てくれる人もいたので、一緒に連れて行く事にした。

 子供達の食事が終わるまで待つ間に回収してきた物を確認してもらったが、自分の物は無かったようだ。

 抉れた町の近くに、町の住民以外も含めた希望者を転移で連れて行き、この場所で今やれる事の無い僕は海での回収物をどうするかを考える。大半が船の残骸なので中には大量の海水が残っているのだ。


『昨日海で回収した物だけど、海水に浸かったままだからそのまま出すと周りが海水塗れになるんだけど、何か良い方法は無いかな?』

『それでしたら、無限倉庫内は範囲を指定して検索を掛け、検索に掛かった物を別の区画に分ける事が出来ます。この方法を使い昨日海で回収した物から、海水だけを別区画に分ければ海水を排除する事が出来ます』

『この方法で狩った獲物等の解体も出来るのですよ』

『え? 解体?』

『はい、目標の獲物に対し、可食肉、可食内臓、魔石、毛皮等、目的の部位を検索に掛けて別区画に移動させる事で、綺麗に素材を取る事も可能です』

『胃や腸等の中を指定して取り除く事で、清潔な胃や腸を取る事が出来るので、腸詰め用の素材も簡単に採れるのですよ』


 何それ、凄く便利なんだけど。倉庫内解体、少し試してみたい好奇心に駆られたが今は獲物を持っていない。いや、複製世界で回収した家畜は沢山居るのだが、家畜は解体しなくても肉なら大量にあるので必要が無いのだ。それよりも今はこの方法で海での回収物から海水を除去して持ち主がいる物は返してあげようと思い、回収物から海水を分けておく。


 さて、町の残骸を確認している人達は当分終わりそうにないので、この場は分体に任せて僕は朝の救助活動をする事にしよう。

 しかし、昨日のやり方では時間の無駄なので、八体の分体に各自十六の多重思考を分けて、救助活動とこの世界の探索専門にする。

 そして今後は救助活動をしながら世界各地を回って貰う事にした。これでこの町みたいに僕が確認した時間以外に発生した事にも多少は対応出来るだろうし、色々な情報も集まる。何より異世界の異国を堪能出来るので一石三鳥だろう。

 後で記憶統合されるのだから、結局自分でやってるのと変わらないのだし問題はない。そう自分を納得させてから家に帰る事にした。まだ時間は有るけど朝食に遅れる訳にはいかないし、その前に五狼の為の魔術書を探さないといけないからだ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 部屋に戻ると早速、天照にお願いする。


『天照、五狼に見せても良い魔術書と、僕が読んでおいた方が良い魔術書を教えて欲しいんだけど』

『はい、無限倉庫にある魔術書は入門書から禁書まで、全部で三百万冊程収納されております。まずは初級の物から順に千冊程ずつ、目を通してみるのをお勧めします』

『千冊も読むの!?』


 収納されている数も多いけど、いくら本好きの僕でも、いきなり千冊も読むのは大変そうだ。


『今の主様の記憶力なら目を通すだけで全部記憶出来るのですよ』

『記憶した魔術は全て使用可能になります。数が多くなりますので魔術専用の拡張視覚を一つ追加し、使用したい魔術を選択する事も出来るように致します。系統や効果等で検索する事で、使った事の無い魔術も素早く使用出来る様になりますし、勿論今まで同様、効果をご自身で創造する事も可能です』


 つまり、魔術書を読むだけで書いてある術が使える様になるらしい。しかも選択式なので、僕は指定するだけで使いたい魔術が発動するという。

 相変わらず天照は便利だが、全能力が使えるなら初めから使えても良いじゃないかと天照に言ったら、この世界の魔術は想像なので、その想像は人それぞれ多少の違いがあって、効果を複製するのは難しくないが、想像過程が人毎に違うという事らしい。


 魔術書の魔術を簡単に使える様になるのは、その過程を天照が模倣するからなので、普通の人には当然それなりに訓練が必要なのだそうだ。

 それに持っているのは能力であって、記憶ではないのだから、使えないのも当然だった。

 少し面倒だったが無限倉庫内の書物は検索の応用で取り出さずに読む事が出来るそうなので、時間節約の為に多重思考の4つを専任にして読み続けて貰う事にした。何日か掛かるだろうけど、元から僕も読書は好きだし、これで魔術書や魔道具等の実用知識が半自動で増えるのだから贅沢な悩みなのだろう。

 

 丁度良いので、この無限倉庫内の書物を取り出さずに読む能力を付与した魔道具を作ってみた。材質は軽銀に聖銀を少し混ぜた物で、大きさは7寸×5寸(21センチ×15センチ)のタブレットの様な物だ。これで天照に選んで貰った魔術書を五狼に読ませる事が簡単に出来る。

 これを作ったのは特定の人以外には読めない様にする為だ。今は使用者を五狼限定にして、登録した本も今の所数冊の初級の魔術書だけにしてある。後で使用者や読める本を変える事も可能なので、今後も色々使い道があるだろう。




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